第66話〜判明〜
あれから俺達はエンキドゥと別れ、(イヅナは別れ際に何か話していた)連れだって歩いていた。今目指している場所はこの大陸の首都だ。イヅナに聞くとこいつの家族、アヅナは人間に変化し首都を守護する兵として働いているらしい。
それを聞いて俺は疑問を持った。
「え、でもそいつは大丈夫なのか?だってこの大陸は人間じゃなければ追い出すんだろ」
「うん。アヅナは特別なんだって。光属性の魔法が使えるから」
どうやら大丈夫らしい。
「そうなのか。俺の印象としてはこの大陸の奴らは人以外は全て追い出すだろうと思ってたからな」
「うん・・・でもあたしが居なくなって心配してるだろうから早く会いにいかなきゃ」
イヅナは心配そうな口調で言った。人間の少女の姿で。(エンキドゥと別れてからこいつはまた変化した)
「ふむふむ・・・」
「なあリシナ?前々から気になってたんだけどそのでかい本はなんだ?」
「ふぇっ?・・・・・・・す、すいません」
俺はリシナが何やら頷いているらしい姿を見て前々から気になっていたことを尋ねた。何せこいつは鬼ヶ島や闇の大陸に行ったときも肌身離さずその本を持っていた。今もそれを歩きながら見て何やら頷いていた。その顔が妙に赤いのは俺が急に話を振ったせいで変な声が出たからだろう。なんか悪いことをした。
「これは退魔術がまだ妖術と呼ばれていた時代から存在するものです。私もその内容を全て把握しているわけではありませんが中には興味深い記述もありますよ」
「ふうん。例えばどんな?」
「そうですね・・・例えば変化する術などですか。先程そのイヅナさんが実際に目の前で変化していたので技としては実在することを確信しました・・・もっとも私は使えませんが。あとは治癒術などですね。他にも様々な術が記されています」
俺はその話を聞きながら成程、と頷いていた。横を見ればガロウも同じように頷いていた。
「・・・トゴウよ、私も前々から聞きたかったのだが、退魔術というのは魔導と通ずるものがあるのではないか?」
ミシルもここぞとばかりにリシナへ自身の疑問をぶつけていた。
「ええ、それは私も思ってました。特に治癒をする術、結界を張る術等はほぼ同じように思えます」
「互いの源流、のようなものがあるのだろうか?」
「それは何とも。退魔術は私にとって物心ついたときから身近にあったものではありますが、魔導となるとそこまで詳しいことはよく分かりませんので」
「さっき、本を見ながら納得してるふうだったがあれは何か新しい発見でもあったのか?」
本に結構没頭してるような感じだったので俺は聞いてみた。
「そうですね。先程エンキドゥさんがミシルさんを自身の知り合いと勘違いした理由・・・あれは魔力なるものとオーラをミシルさんも光の戦士もお持ちになっていたからでしたよね?」
「そうだな」
「そこです、私が気になったのは」
「?どういうことだ?」
「つまり、かつてこの光の大陸にいらっしゃった光の戦士・・・その方はいったい何故、オーラも魔力もお持ちになっていたのでしょうか?」
そのことについて関連のある記述が本に記されています、とリシナは言った。
▽▽▽
・・・自分は幼い頃から人とは違う特殊な力を持っていた。それを気にしすぎてあまり積極的に外へは出なかったが、それでもある日気づいたことがある。それは山中を闊歩する妖魔の類いもまた特殊な力を持っていることだ。自分は自らの力、そして妖魔が持つ力を総称して妖力と名付けた。厳密に言えば細かい相違点はあるこの力。だが、ある特定の場所に行けば妖魔が増殖すると言われていることも鑑みると・・・
自分は妖魔の類いと変わらないのではないだろうか?
と長年思っていたのだが、大陸を制覇した際、新たな発見があった。それは共に戦う仲間のチカラについてだ。ここでは一応その名は伏せるが、(大陸では有名な話なので意味はないかもしれないが)その内の1人はあらゆる物の声を聞くことができ、もう1人は体内から特殊な力を発現させ、さらにもう1人はそれこそ妖魔と同じ力を持っていた。自分は幼い頃から人ではない力を持ち孤独な存在だ・・・と思っていたがその仲間、友の存在によりそうではないことが分かった。
これを読むのは我が子孫ではあるだろうが門戸を開く時にはその点に留意するといい。
著者 斗剛一弥
退魔の書より抜粋
△△△
リシナがそこの部分を一頻り音読した。一弥っていうのは俺の先祖や神人との仲間だったって人でトゴウ流退魔術を確立した人のことだろう。(闇の大陸に墓碑があり俺も其処で手を合わせたから知っている)
「・・・つまり、だ。その書物で言うところの妖力というのが魔力と等しいものと考えて良いのか?」
ミシルは自信がなさそうに言うが、俺もそこの部分はいまいち理解できていない。
「おそらくはそうですね。精気と同じく大気中に浮遊している何らかの物質・・・それを体内に取り入れ身体で精製、それから放出することで魔力や妖力足り得るのではないかと思われます。闇の大陸に行った時は、ええと障気でしたか?その物質が大気に充ちていたとフェンさんが仰ってましたし、」
「そう言えばフェンは?あいつの性格なら此処に一緒に来ててもおかしくはないけどな」
リシナの話を聞きながらふと同い年の奴の存在を思い出した。
「クレアスは置いてきた・・・」
「何で?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
そう言ったミシルと一緒にリシナとガロウが顔を見合わせた。みんなどこかしら気まずいような表情をしている?
「どうしたんだ?何かあったのか?」
その態度が気になって尋ねてみると、
「貴様のためだ・・・」
「貴方のためです」
「君のためだ」
と3人は口を揃えて言う。
「いや本当に何があったんだよっ!?」
怖いぐらい真面目な顔で俺を諭す3人を見て、これはよっぽどのことが起きたのだと俺は思った。しかも俺のため?
「・・・」
「・・・」
「・・・こういう場でもやはりわたしなのか・・・」
他の2人に無言で見つめられ、ガロウが何かを諦めたような顔で呟いた。
「ガロウ?あんたが説明してくれるのか?」
「ああ・・・何というか君は、」
果報者らしい、と俺を見ながら話し始めた。
▽▽▽
『我はどうやら其処には行かぬほうが良いらしい・・・そのことも考えて一度火の大陸へ戻ろうと思うのだ』
少年から青年へとその姿を変えた人物はそう言った。
「・・・サラマンドラもそう言っているし、あたしも一度カグツチへ帰ろうと思うの。もし良かったら皆も一緒に城に来る?」
どうやら我が主のシエル姫も火の大陸へと帰られるらしい。皆、というのは、
「えっ、でもトウヤは?・・・それにわたしたちは、」
トウヤ・ヒノカの行方を最も心配しているネク・カナワとその連れの少女たちだろう。
『娘よ、あの人間のことならばこ奴らにまかせておけ。それに以前龍巣の使用を何者かに止められた、ということを心配しておるならそれは無用じゃ』
「どういうことサラマンドラ?」
『汝らを止めた、というのは』
『私ね。精確に言えば私が龍巣に刻んだ術式ね』
金髪の女性が口を挟んだ。
「レヴィアタンが?何のために?」
『1つにはこの大陸にある・・・あった小国ウォルスの人間に龍巣を悪用させないため。その存在を知っている者が限られているとはいえ、もし何かの拍子に知られてひょいひょい使用をされると私達にとっては都合が悪いの・・・力が足りなければそれを使用する本人にも』
「成程・・・じゃあ貴女がそれを無くせばわたしたちでも使えるということなの」
そう言ってネク・カナワは連れの双子の少女を見た。
「そうなの?じゃああたしたちも師匠と一緒に行ける、」
「・・・一緒に、」
「だめよアリナちゃんユリナちゃん」
双子が先程の人選に不満だったのか、我々と同じところに行きたがった様子を見せたがリシナ・トゴウがそれを制した。
「えー、なんで師匠?」
「・・・理由があるの?」
「貴女達は姫様と共に居なさい。聞くところによると今の事態はかなり切迫感があります。なので退魔術が役に立つ局面が来るかもしれません。私が不在の場合でも貴女達が居ればできることがあるはずですから」
師匠であるリシナ・トゴウが諭すと双子は納得したのか、それ以上は何も言わなかった。
だが、
「でも・・・わたしはじゃあミシルさん達に付いていきます」
「ネクが行くなら俺も行くぞ!」
ネク・カナワに追従するように風の大陸の少年はそう言った。
「そもそも俺がミシルさん達に付いていかないのは、それが火の大陸の姫様の決定だったからだ。それを覆すのはさすがにできなかったけど、それを変更してネクがトウヤを探しに行くって言うなら俺も行く」
「へえ・・・貴方はもしかしてネクのことを心配して?」
我が主がにやにやしながら少年をからかうような口調で言った。
姫・・・他人事よりもご自分のことを・・・
否、それは言うまい・・・
「えっ、違う違う」
しかし少年はあっさりと姫の言を否定した。
「それはそれで物足りないけど、じゃあ何でそんなに一緒に行きたいの?」
「勿論トウヤに会うためだ!」
「・・・?」
朗らかに言う少年とは裏腹に我が主の表情はしかめっ面で、何かを考えている。
『我はどちらでも良いぞ。こむす、火の王も其処の娘達も首都にある城とやらに送り届けてやろう』
と言うサラマンドラは力を取り戻したおかげで竜の姿に戻れるらしい。龍巣を使って火の大陸に戻れば竜の姿になるのでその背に乗れ、と先程言っていた。
『でも貴女は何故そこまであの預言の人間に会いたいの?』
「えっ?な何故って言われても・・・」
金髪の女性レヴィアタンに尋ねられフェン少年は何やら慌てていた。預言の人間、というのはトウヤ君のことだろう。今の段階では納得しておこう・・・
『ああ・・・もしかして恋人ってやつかしら?』
「!?」
!?
なんだ、と?
い、いやそういう性質の者が居るというのは話に聞いて知っている。
だがこのような身近に?
同姓を・・・
「な、な、な、何をい言っているか、わわかりゃないにゃ」
この慌てよう?そして噛みよう・・・・・・どうやら図星だったらしい・・・
だが、それならば先程あのように主張していたのも頷ける。しかし本当に?
「フェン・・・あなた」
我が主が少年を信じられない物を見たような目で見ている。
「フェン・・・そういうことだったの・・・」
ネク・カナワも同じような目で見ている。
「ええい!行くなら行く、行かないなら行かないで早くしろ!私は早く闘神を送り届けて火喰い島へ戻りたいのだっ!」
「まあ落ち着きなさいよジン・ガトウ。貴方もサラマンドラが送ってくれるから。船よりは遥かに早いという話よ?」
『うむ。汝にも魔力を貰ったのでな。我はその借りは返すぞ』
「・・・ぬう」
鬼族の大男がそのやりとりを見ていて業を煮やしたのか何やら主張していたが、我が主がそれを説得している。
『それはそうと貴女達は何を驚いているの?』
「何って?レヴィアタン」
『いえ、私がその少女に話してから貴女達の態度がおかしくなったものだから・・・私が何か変なことを言ったのかと思って』
「そりゃあ変でしょ!恋人って!?い、いや確かにそういった性質の人は居るかもしれないけど、やっぱり恋愛は男と女がやるものでしょ!」
なっ!?
我が主が年相応の乙女らしいことを言った、だと・・・?
数年来の付き合いになるがそのような事を言われたのは初めてだ・・・!
まさかそんな知識、(恋愛の知識)をお持ちになっていたとは・・・?
ただのお転婆な姫ではなかった、ということなの、か・・・?
我が主のそのような部分を知らなかったとは、このガロウ・サイハ一生の不覚・・・
「なにガロウ?人の顔をじろじろと見て?」
「い、いえ何でもありません・・・」
そう、何でもないことなのだ。むしろ年頃を考えるとそれが当たり前なのだ。そのようなことに興味をお持ちになることは。
よし!元服もされていることではあるし、このガロウ・サイハ身命を賭して姫の婚姻相手を探すことにしよう・・・!そうすれば今よりも多少落ちつかれる、筈だ・・・!
「レヴィアタン?貴女さっきおかしなことを言わなかった?」
『おかしなこと?』
「そう。フェンのことを、」
少女だ、と我が主は言った。
『何がおかしいのかしら?だってその人間は女性でしょう?』
「いや、フェンは」
「・・・・・・最初は隠す気はなかったんだけどな。何か勘違いしてるみたいだったし、まあいいやと思って、」
と、風の大陸の少年・・・いや少女フェン・クレアスは苦笑しながら言った。
△△△
その後に一悶着あり、(主にネク・カナワとフェン・クレアスが何かを言い合っていた)結局、平等にという意味で2人とも姫に付いていった。
「フェンは女だったのかー。ん・・・?あいつやネクが来ないのが何で俺のためになるんだ?」
だが私がその一連の会話を伝えてもトウヤ君は何故あの2人共が来なかったのか、理由を分かっていなかった。
他の者は・・・私ですらネク・カナワとフェン・クレアスの感情は汲み取れたのだが・・・
すなわち、
いや、私が言うことでもあるまい。
それに今は、
「そんなことよりも早くそのイヅナとやらを家に送り届けなければな?」
「そうだな。でもイヅナを拐って閉じ込めた理由が分からないからそれを本人に問い質さないとまた同じことをされないとも限らないだろ?だから俺がそいつに直接言ってやろうと思って一緒に付いていってるんだ」
と、朴念じ・・・トウヤ君は言った。そのあたりの気遣いはできるのだな、と私は感心した。
「どうしたんだガロウ?」
そう思いトウヤ君の顔をまじまじと見ていたら怪訝な顔で言われた。
〜〜〜
イルちゃん、と目の前の人間は言った。それも自分がその姉だと。
100年前・・・あの悪魔の光で止めを刺され肉体が消滅した、と思った瞬間その私の想いに体内の魔石が反応したのか私はその場所から闇の大陸にある村、さらにそのうちの一軒の家の中にいた人間へと生まれ変わっていた。いえ、精確に言うのならばその人間の身体を乗っ取った、と言うべきか・・・まるで息子の身体を乗っ取ったあの龍のように・・・
そして、それから100年の月日が経ち、少し前に私への復讐心を持つ騎士にその肉体ごと消滅させられた。あの騎士の剣・・・あの相手の肉体、そして魔力を根こそぎ消滅させる技を受け私は今度こそ消滅するのだ、と思っていた。いくら火ノ鳥の生き血を飲んだとはいえ、体内の魔力が全て無くなればその形を保てずに消滅するからだ。それにあの時は以前のように魔石に願うということもしなかった。最後の最期で我が子に出会えたから私は満足していた・・・
だが、私は蘇った・・・それも何故か幼い姿で・・・
それは考えてみるとおかしな話だ・・・私は永い偽りの生に満足していたのに・・・私は・・・
「貴女を失ったがために私は、私は・・・」
「残念だけれど私は違うわ、貴女の妹ではないの・・・」
私は目の前で悲痛な声を上げるジズへと話しかけた。
「違う・・・?その眼、その髪、その肌どこをどう見ても私の妹よ!イルちゃんなんでしょう!?」
「いいえ・・・私の名はデュカ・リーナ、貴女達光の人間が忌み嫌う亜人の鬼族よ・・・」
ジズがそう思うのは無理もないだろう。私がこの身体を乗っ取ったときからこの身体は1部を除いてほとんど変わってはいない。しかし、それが解るということはこのジズという女性は少なくとも100年以上は生きているのだろう。先程ラゴスが言っていた人外になったというこの人間、まさかこの身体の血縁者だとは思わなかったが・・・
「デュカ・リーナ・・・?話に聞く使役者と同じ名前?私が居ない時に此の大陸で暴れた、あの・・・な、何故貴女は私の妹と同じ姿をしている、の・・・?」
「それは・・・・・・」
私は言い淀んだ。何と説明するべきだろうか?まさか100年も経てこの身体の持ち主の関係者に巡り合うとは思ってもいなかった。
だがおかしい?以前の私ならばそのようなことは思いもしなかったのだが・・・この、目の前の人間を傷つけるような言動をしたくないなどとは・・・
「過去に何がお主にあったかは知らん。しかし今は王を復活させることこそが先決ではないのか?・・・それに、その鬼の亜人が持っている物はもしや」
と、もう一人この場に突然現れた人間が私の杖を見ながら言った。
「ええ・・・それは確かにそうですが・・・・・・!剣聖殿」
「どうかしたかしら?」
私の持つ嘆きの杖を見ながらジズがさらに驚いたような顔をした。
「あ、貴女は闇の大陸に居たことが・・・?」
「ええ、そうね。でも何故それが分かったのかしら・・・?」
「それは嘆きの杖・・・かつて此の大陸に存在されていた光の戦士が使っておられた物です。その方とエンキドゥとの戦いの後に、闇の大陸の鍛冶師の手に渡ったと聞いてます。ですが闇の大陸の何処を探しても・・・」
「それは・・・?」
ジズが言いながら自身の持つ杖を私へ見せた。これがラゴスの言っていた私の物に似ている杖とやらだろう、色以外はそっくりだ。
「これは喜びの杖・・・それがあればようやく本懐を果たせます」
「いったいどういうことかしら・・・?」
「・・・協力してくれますか?妹にそっくりな貴女・・・」
いったい私はどうしたのだろうか・・・?
・・・ジズを悲しませたくない、その上彼女の願いならば叶えてやりたい、そんな感情が私の体内を駆け巡った・・・




