第65話〜交錯〜
ラゴスが言うには、その大司教なる人間が持つ杖は色こそ金色で異なるが形といい太さや長さといい、私の持つこの嘆きの杖と同じように見えるらしい。
だが私はバランには何も聞いていない。嘆きの杖に比するものががもう一本あるということは。
あの闇の大陸の鍛冶師をしてそのことを知らない、ということはラゴスが言うことが誤りなのか、もしくは光の大陸にのみ伝わる杖なのか、あるいはその存在が表立つものではなかったのか、それは定かではない。そんなことよりも私にとっての当面の問題は、
「あと1つ聞きたいのだけれど。貴方達はここ最近で獣を一匹捕らえなかったかしら?」
「ちっ、亜人め!それが目的か」
私が言うと、ラゴスは舌打ちしながらそう言った。
「目的ね・・・まあそうね。それで?何処の大陸へ連れていったのかしら。それも」
何のために、と聞くと、
「・・・私は知らん」
「私は?じゃあ、現在の当主あたりならば知っているのかしら?」
「当主、だと?何のだ」
「勿論この城のよ。王が居るのでしょう、人間の」
何を当然の事を聞き返してくるのかと思った。が、
「・・・居ない」
「居ない?」
思いもしなかった答えが返ってきた。
「居なければ誰が統治をするというの?」
「統治、だと?・・・貴様はどうやら知らないらしいな」
?
どうもラゴスの言っていることはおかしい。私は至極当たり前の事を尋ねているだけなのだが・・・
「いくら知能が高いとはいえ亜人にはこの国の情勢は知り得ない、か。・・・教えてやろう、現在この光の大陸はーーーーーー」
ラゴスは光の大陸の政治の変容を一頻り語った。要は国を治める人物が居ないらしい。私がかつて光の大陸で少々事を起こした時にもやはり居なかったのだろう。その当時そんなことに興味も無かったのでよくは分からない。もっとも完全に誰も居ないという訳ではなく、(仮に居なければ国が国としての体裁を保てないだろう)王に準ずる位の高い人物は居るらしい。しかもかなり前から。それが、
「大司教とやらなのね・・・」
しかし現在光の大陸、その首都にある此処ラズマ城には人間の王族等は存在せず、このラゴスは言ってみればこの城の番人でその取り纏めのような立場らしい。
「それでなのね・・・」
この城の設備が最新式である理由はそういうことだったのか、と納得ができた。つまり、城に異変が起きないように少人数で監視を可能にするためだということだろう。どうやって此処に取り入れたのかは知らないが、水の大陸でいう最新式科学技術を城の至るところに投入しているのは、つまりはそういうことだった。
「だが、不毛なことだと思わないでもない・・・」
それはそうだろう。端から見れば国家の代表ぐらい今居る者の中から選べば良いと思うがこの国ではどうもそれを良しとはしないらしい。
話が逸れた・・・王自体は存在しないが、それならば次いで立場が高い、
「その大司教・・・ジズと言ったかしら?その人間なら獣を何処に何をさせに行ったかは知っているでしょう?その人間はいつ頃帰ってくるのかしら?」
「知らん。あのお方は剣聖様と行動を共にされている。我々下っ端には行く先は伝えられん。だから何処へ行かれいつ帰ってくるかは他の誰も知らん」
「そう・・・」
それでは行く先に見当すらつけられない。剣聖?という人間も共に居るらしいがそれはどちらでも良い。どちらにせよしょうがないので此処で気長に待つしかないかしら・・・
「・・・私もあの方に理由を問い質したい。奇跡を起こした」
と、考えていると、ラゴスがそう言った。自分の父親を何故魔法を使って蘇らせたか、そのことを聞きたいのだろう。どうやら私から話を聞いてその真意を確かめたくなったらしい。だから私がこの城に留まるのを許可するとか何とか偉そうに宣った。そんな許可がなくとも此処に居座る気でいたのだが・・・
しかし、と私は腑に落ちないことを改めて考えた。
話を聞く限りではその大司教なる人物はかなり強力な魔力の持ち主らしい。何せ莫大な魔力を消費するロストマジックらしきものが扱えるのだから。だから私が疑問に思ったのは、その人間はまさか魔石を使ったのではないか?ということだった。
「それにしても・・・魔法を扱える、か。貴様は単なるオーガではないのか?」
私が思考に耽っているとラゴスは手持ちぶさたなのか話しかけてきた。
「貴方の言うそれは本当の鬼と呼ばれる種族ね。・・・そうね、私や私達は貴方の思っているオーガとは違うわ」
私も見たわけではないがお伽噺や絵巻等に出てくるその鬼は多少の知識はある。それとは種族を異にするのが私が産み出した火喰い島の鬼族たちだ。
「私、達?何処に住み処があるかは知らんがやはりそうか・・・」
「その本当の鬼を超えた存在とでも言えばいいかしら?・・・あと厳密に言うと私は今は鬼族だけれど昔は人間だったのよ」
「なにっ!」
「ある事を行って私は人間から鬼族へと・・・・・・どうかしたかしら?」
私が自らの生い立ちについて説明しているとラゴスは目を見開き何事かを考えている様子だった。
「それではまるで、教典に載っていた・・・」
「教典?ライトニング教のかしら?」
「あ、ああ・・・力の差があった亜人に対抗すべく元は人間、であった人物を」
人外にした話と同じだ、とラゴスは言った。
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災厄を引き起こす・・・その存在が復活し世界が闇に覆われようとしている、とジズは言う。
だが、
「そう言われてもね、私には何のことだかさっぱりなんだけど?」
「そうですね・・・私も不老の身になってからそのような事態を聞いたのは初めてです」
不老?それがこの女性の身に起こっているのだろうか?
しかしそこは大して問題ではない。
「いったいその存在とは何なの?」
「災厄の王・・・アンリ・マユと呼ばれる存在です。その存在はーーーーーー」
・・・それが事実ならば多少の犠牲を払ってでもそれを止めるべく動く、という心情は理解できる。
私はジズの話を聞いて納得した。
自分で確認したわけではないが既にそれが動いているのならば、下手をすれば私は研究どころではなく帰ることすらできなくなるだろう・・・
何せその話の中でその存在は大陸を消滅させてもおかしくない規模のことをやってしまうらしい。
光の王とやらを復活させそれを阻止できる一助にでもなるならば、私の主義には反するが・・・
「しょうがないな。教えてあげるよ、君達が探しているあの獣は、」
この2人が探し求めている獣の行く先を教えることにした。
「貴様!?」
「五月蝿いな君は。別にいいじゃない。教えたほうが安全らしいし」
私がジズへ獣の行く先を教えると、タウラ・ミノスが怒鳴った。そういえばこの牛顔は先程頑なに言おうとはしていなかったな、と思いだした。
「光の大陸、ですか。まさか入れ違いになるとは・・・」
確証はないものの其処に行くと言っていた少年、トウヤ・ヒノカの言葉を伝えるとジズは落ち込んだように呟いた。
「行く、って言ってただけだから実際に居るかどうかは保証しないよ」
「いえ。確信を持って言っていたそうですし、何となく聞いたことはあります。その龍族特有の移動方法は。それに、先程あの地下に転送してきた際にその少年も貂も姿が見えなかったのでおそらくそれは実在するのでしょう。・・・剣聖殿」
「わかっている」
と、私の言葉に納得したジズがハンスを呼び寄せた。
「お主と剣を交えてみたかったが、次に会った時に取っておくとしよう」
「ふんっ!人間風情が・・・我は鉄島の覇者、タウラ・ミノス。いずれ貴様と出会ったとき我が斧技を披露してやる!」
ハンスとタウラが何か言っている。武人というのはよく分からないものだ・・・
そしてジズが、
「マガハラ殿、ありがとうございました」
「別にお礼を言われる筋合いはないけどね。もう行くのかな?」
「はい。急がなければ・・・では」
そう言うと急に生暖かい風が吹いた。
「・・・魔法、か」
突然目の前から2人の姿が消えたのを見た私は、魔法を重点的に研究しようと心に決めた。
〜〜〜
失われた魔法、ロストマジックを扱える、という存在は私の知る限り三名しか居ない筈だ。いや、その内の一名・・・一匹の悪魔は既に存在していないから私を合わせて二名ということになる。
だから、
「早く会ってみたいものね。その大司教なる人間に」
私はロストマジックらしきものを扱うというその人間に会って、聞いてみたいことがある。ルーの妹のイヅナの行方は勿論のこと、
「それは貴様と境遇が似ているからなのか?・・・だが私の知る限りではあの方にはそのようなものは生えていなかった」
どのようにして魔法を扱えるようになったのかその経緯を聞きたい。
しかし?ラゴスが言うことが事実だとすればそれもおかしい話だ。ラゴスは私の額に生えた角を見ながらそのようなことを言うが、私のように魔石に願ってチカラを手に入れたのならばその証が身体の何処かに発現していなければ・・・
と、そこまで考えたところで1つ思い出した。私が造った魔石でチカラを手に入れたあの人間には証が発現していなかった、という事実を・・・あの時は、その威圧感や強さ、それに私が造ったものとそうでないものの相違に心を奪われておりそのことについて考える暇はなかったが、今のラゴスの指摘によりそのことが想起された。何か理由が・・・?
「だから、貴様がどのようにして人ではなくなったのかは知らんがあの方にそれを聞かないことだな・・・」
「へえ、それは何故かしら?」
「・・・あの方は自分が人間扱いされないことを嫌う。例えそれが人間より上だろうと下だろうと、な」
それを聞いて私は益々自分と境遇が似ているなと思った。だが私はあの日あの時に人の身を捨てたことは後悔していない・・・ようやく我が子に巡り会えたから。そしてあの・・・
そこまで考えていた時、あたりに生暖かい風が吹いた。
「・・・とりあえず城に帰ったはいいが、偽情報ではなかったのか?」
転送魔法らしきもので突然目の前に現れた人間はそう言った。壮年の大きな剣を持った男性だ。
「おかしいですね?少年の筈が少女に、貂の筈が犬になっているとは?」
もう1人、年若い女性は首を傾げて私とロランを見た。
「貴女は・・・!?」
そしてその女性は、
「何かしら?」
私の顔をまじまじと見つめていた、かと思えば驚いたようにそう言った。
「嘘でしょう・・・?」
?この女性は何をそんなに驚いているのだろうか?
そして、おそらくだがこの女性が
「どうした大司教?」
「ジズ様?」
知り合いらしい壮年の剣士、そしてラゴスもまた女性の態度を訝しんでいる。 思った通りこの女性が大司教なる人間らしい。
が、
「死んだと思っていたのに、そう思っていたのに・・・だから私は・・・いえ違うわ、そんなはずはない・・・あの子が生きているわけはない。姿も変わらずに、あれから何十年経っていると・・・」
「貴女は先程から何を言っているのかしら?」
私の顔を見つめて意味の分からないことを言う態度に我慢できず再度私は尋ねた。
「よく見れば角が?・・・・・・!まさか生け贄の技法を!?」
そして私の額に生えた角を見ながらまたさらに驚いている。
「○○ちゃん、お姉ちゃんよ!貴女のお姉ちゃんよ!」
!?
終いには呆けたように言い出したその女性、大司教ジズの言葉にその場に居る全員が驚きの表情で女性のほうを見た。
・・・私以外は。
何故なら、
「聞き覚えのある名前ね・・・」
その女性が私を見ながら呼んだ名前、それはかつて私が一度だけ呼ばれた名前だったからだ。
そう、かつて100年程前にこの少女の肉体に転生してすぐに呼ばれたあの名前を・・・
〜〜〜
闇の大陸にはある村が存在することが調べで判った・・・その村では魔物を寄せ付けない特殊な磁場のようなものが発生しているらしい・・・そのおかげかどうかその村の人間には生まれつき魔に近い性質を備えた者が多く居ると聞く・・・だからもしその村の人間を手に入れることができれば・・・そう考えると、あの建前だけのお題目にも沿った者を産み出せるのではないか・・・?人のまま人を超える・・・だが、この思いつきは私の一存では決められない・・・しかし亜人に対抗をせねば我々は・・・
光の大陸とある人物の記録より抜粋




