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第63話〜その為に〜

イヅナが話していた内容を聞くと、俺が以前書物で見た光の百年戦争の内容にあったものとはどうも食い違いがある。

それは序章の部分だったか戦争に突入する契機の部分だったかはうろ覚えだが、それでも光の戦士のそいつが戦いを挑んだという荒れ狂う獣、その両者はどう読んでも敵同士の記述だったのだが・・・



「ほんとだよ!あいつは長年自分の友達だった人間を何で自分で殺したのか分かってなかったんだって。だから、せめてその人間の物を・・・」


護っていた、とイヅナは言う。



「そうなのか。まあ書物とかは記していくうちに事実が捻じ曲がって伝わることもあるからな。本人が言うならそっちが正しいのかもな」

俺はその本人 (獣)であるだろう荒れ狂う獣、エンキドゥを見ながら呟いた。


『ブルルル』


にしてももう何百年も経つのに律儀な奴だ、と俺はその長い体毛を見ながら思った。その行動から考えれば余程光の戦士に友情を感じていたのだろう。いや、むしろそんな大事な奴を自分の手にかけたという後悔からそんな行動を続けてたのか?光の戦士のギル何とかって奴が遺した鎧を護るという行動を・・・



「とにかくだイヅナ」


「なに?」



俺はイヅナにあいつの体毛を触っていいかどうか聞いてくれ、と頼んだ。

すると何故かイヅナが膨れた顔をした?



「どうしたお前?」急にイヅナが不機嫌になったのでわけが分からない俺はイヅナに尋ねた。


「つーん。言わない。それにあいつにも伝えない」



いや何でだ。今のやりとりのどこにこいつの機嫌が悪くなる要素がある?


「おいイヅナ」


「うるさいな。トウヤなんて知らない!」


何かした覚えはないんだけどな・・・

ぶつぶつと何か文句らしきことを言っているイヅナを尻目に俺はエンキドゥのほうを見た。


こいつは厳ついな。つい長い毛だけに目がいっていたけど改めて見てみるとこいつの見た目は、何というか・・・・・・やはり厳つい、の一言に尽きるな。

エンキドゥは牛馬や犬猫みたいな四足歩行の体勢をとっておりその胴体や四肢はどれもこれも太い。普通に体当たりとかされたら吹き飛ばされそうだ。そんなでかい身体に反して体毛は繊細で柔らかそうな黒いものを長く伸ばしている。

・・・撫でてみたいが。


「はあ」


俺が期待を込めて再度イヅナのほうを見ると、何やらそんな溜め息が聞こえた。

「イヅナ?」


「・・・分かったよ。あたしが聞いてあげるから待ってて」


「ほんとか!」


それを聞いて素直に喜んだ俺はついイヅナの頭を撫でた。毛の量こそ多くはないがこいつはこいつで手触りのいい体毛をしているな。

と、俺が思わぬ発見を楽しんでいると、


「えへへぇ」


イヅナが今度は何故か嬉しそうにしていた。いや、というよりはむしろ恍惚としている?


「イヅナ・・・?」


「はっ!つい気持ちよくて!」


どうやらこいつは人に撫でられるのが好きなようだ。それでさっき怒ってたのか。あたしを差し置いて!みたいな感じで。

ん?ということは、



「なあ、前にお前を名付けた人間ってのは、光の大陸じゃないのか?」


もしそうならイヅナが光の大陸の人間を嫌うわけがないし、撫でられる感触も知らないだろうからな。



「うん。あたしに名前をくれたのは、」


「!?」


これは?


イヅナが喋っている途中だったが俺はそれを制した。

何故なら、



「トウヤ?」


「俺を探しに来たっぽいな」



龍巣に見知ったオーラを感じたからだ。

これは・・・ミシルとリシナ、それとガロウってやつか?


3人のオーラを感じた俺は今から知り合いが此処に来ることをイヅナに説明した。




〜〜〜





あの大きな獣の魔力は・・・?しかしトウヤと敵対している様子もない?

私達は龍巣を使って光の大陸に来た。来て早々、近い場所にトウヤのオーラを感じて来たが。


抽象的な占い結果だったが・・・どうやら内容自体は当りだったようだな。

レヴィアスの祈祷師とやらも大したものだ。

と、私はかつての祖国の隣国の特殊な技術を内心で褒めそやした。



「曖昧な表現だったが実際に居るとは・・・レヴィアスの祈祷師というのは大したものだな」



火の大陸の剣士サイハ・・・とか言ったか。その男が私が感じたようなことを口に出した。



「リシナ・トゴウ、貴女の退魔術とやらも占いのようなことはできるのか?」


そしてサイハはもう1人の連れ、リシナ・トゴウへとそんなことを尋ねていた。


「いえ、退魔術はあまりそういったことは・・・」


少し困った様子でリシナ・トゴウは答えた。

そして、




「よおっ!悪いな」


私達の来訪に気づいたトウヤが此方に駆け寄ってきた。

あれは?



「なに、気にするな。私も前に1人で行方を眩ました。その時に貴様が探しに来た借りを返しただけだ。それにトウヤの場合は自らの意思で此処に来たわけではあるまい」


「まあそうなんだけどな。あのことを借りだと思ってたとはお前も律儀な奴だなミシル?」


「そうでもないさ。真偽を確かめたかった、という考えもあったしな」


「真偽?いやそれよりも俺が光の大陸に来てたってよく分かったな。あいつ・・・デュカストテレス本人に聞いたとか?」


「いや・・・そのことも含めて貴様に話しておかなければならないことがある」

「?」


「ただその前に聞きたいのだが、」


「何だ?」


「貴様が持つその槍はいったい何だ?それとあの者達は?」



私は彼方から様子を窺っている鼬と、体毛の長い大きな獣を指し示した。





〜〜〜





聞かれるまま俺はミシル達へと此処に至るまでの経緯を話した。イヅナとの出会いを含めてこいつらを紹介した。またそれと一緒に何故俺が光の大陸に居るのかが分かった理由も聞いた。祈祷師による占いとは・・・それを聞いてレヴィアスには便利な職業の奴が居るんだな、と感心した。その上聞くところによればその占いは俺が鉄島へ最初に行ったことまでも示していたとか。こいつらが入れ違いであっちに行かなくてよかったな、と他人の事ながら勝手に思った。



「ドワーフに伝わる神々の武具か・・・それに鼬、ではなく貂か。その者は何故そんな場所に居たのだろうな?」


「うん、それは考えてもイヅナに聞いても分からなかったからな。イヅナの家族を探すついでにその大司教って奴を探して直接聞いたほうが早いだろ。だから光の大陸を探検・・・調査しようと思ってたんだが」


「大陸に辿り着いた矢先にあの鎧に気を取られてあの巨大な獣がやって来た、というわけか」


「そういうことだ」



俺がふんぞり返って言うと、ミシルだけでなくリシナやガロウが溜め息を吐いた。



「心配して態々来る必要はなかったのでは?」

「いや、一応念を入れて実際に来てみないことには」「それに預かり物もありますし」



3人は何やらひそひそと話している。



「何だ?」


「いや貴様に渡しておきたい物が、」



『ブルルル・・・』


「エンキドゥ?」


いつの間にか俺達にエンキドゥが近づいていた。

そして、



「あいつはどうしたんだ?何で・・・?」



俺はエンキドゥが足元にすりよるのを見てイヅナに尋ねた。それもミシルの足元に。


『ブルル・・・』


「えっ?あんたそれ本当なの?」


イヅナがエンキドゥに話しかけて何やら驚いていた。

「どうしたんだ?」


俺が尋ねるとイヅナは、


「うん・・・その大きな人間はねエンキドゥの」

友達なんだって。

と、イヅナはミシルを指してそう言った。





〜〜〜





「交差板斧!」


ガキィン!と鈍い音がした。


「・・・ハイジョスル」


しかしボロボはその攻撃を受け止めて、相手に突進した。



「ぬおっ!」


ドンッ!


ボロボの重たい身体が相手・・・牛の顔を持つ亜人に当たった。



「な、なんという頑丈な・・・」


牛が喋るというのは違和感があるな。

と、私はその戦いを見ながら思っていた。



「タウラ!てめえは武器に振り回されすぎなんだ!本気でやりやがれ!」



と、牛顔の連れのドワーフが怒鳴った。



「貴様に言われるまでもない、テツジンめ覚悟しろ!」


そう言った途端タウラという牛の皮膚の色がみるみる変化していった?まるで、鉄のような・・・



「サクテキ・・・エラー」


と、不思議な現象を見ながら分析しているとボロボがそんなことを言った?


あっ。あの牛の変化はもしかして・・・



「食らえ!鉄牛の斧!」


タウラが二丁の斧を振り上げ上段に構えたままボロボに向かって突進した。

鉄牛、ということはあの牛はおそらく、



ズダーンッ!



タウラがボロボに突進した衝撃でボロボは床に倒れた。


「エラー・・・」



倒れたまま繰り返すボロボはさておき、



「君はタウラ・ミノスだっけ?どういう身体の仕組みなのかな?」



私は自身の性質を変化させた亜人に尋ねた。



「ぬっ?仕組みだと、我に聞いているのか?」


「てめえ以外に誰が居るんだ!・・・それよりもアサエだったか、お前は気づいたらしいな?タウラの特性に」


ドワーフのミスミ・デンタは訳知り顔で言う。


「そうだね。気づいた、というかボロボの言動から判断したというか」


「ふうん。つまりあのテツジンがお前の命令を聞かなかったのがおかしいということか?」



中々どうして理解が早い。ドワーフ、というものは職人気質で自分の興味ある事柄にしか頭を使わないと思っていたが考えを改める必要がありそうだ。


「そうだね。見て分かるとおりこの建物は鉄で出来ているでしょ。だからボロボには金属以外の異物が自身に近づけば排除を、建物の外に弾くようにプログラムを組んでいるの。で、距離が近いにも関わらずシステムが急に不具合いを起こしたということを考えるとそこの君はおそらく金属のようなものへと性質変化した、と推測できるというわけ」


「?」

「・・・なるほどな」



今の私の説明を理解したのだろう、ミスミは感心したように呟いた。タウラは何を言っているか分からないといった様子だけど。



「でも何でなんだ?お前がこの建物に居る理由は」


「言ったよね、研究のためだって」


先ほど島の周囲を塞ぐ鉄の壁が消えた際にこの2人は此処までやって来た。もう1人居た人物に会いに来たらしいがその人物は何処かに行ってしまった、にも関わらず何故か私に興味を持ったらしいこの2人と色々話をした。

そして私が研究のためにこの鉄の建物に閉じこもっている、と話したら前にテツジンにやられた云々、と言い出したのでテツジン、つまりボロボと再戦をさせてあげたのだが。



「でもテツジンを造るためならもう完成してるじゃないか?この建物に何の意味がある?」


ものづくりに一家言もつドワーフらしい感想だ。が、


「動くし命令も可能だからボロボ自体はこのまま使えるわ。でも、この鉄島にある金属は特殊な効力を発揮するものが多いんだよ。だからその理由や特性を研究しないことには」



此処を出る気はない、と言った。



「君もそうでしょ?武器を造るためにはこの島が都合がいい、という意味では」

「確かにな。私もあの壁が無くなったから別にお前に文句を言いたいわけじゃない。ただ聞きたかっただけだ」


「そう」

やはり職人らしいな、と私は思った。小さな齟齬を見落とせば後々失敗に繋がるということを経験で知っているのだろう。



カチャリ



そんなふうに来訪者と話していた時、扉が開く音がした。

この建物には入口から入ってすぐに3つの扉が見渡せる。

1つは鉄人の間、つまりボロボが控えている場所。

1つは私の研究室兼寝室。そしてもう1つは、地下へと続く道がある部屋。


その地下へと続く道がある部屋の扉が開いた。


その瞬間私は、前に此処を訪れたあの人間がまた来たのだろうと信じて疑わなかった。一匹の獣を連れて何処かへと行ったあのトウヤとかいう少年だと。



「鉄球を破壊したのはお主か?」



しかし扉から出てきた者はあの少年ではなかった。しかも複数居る。



「貴方達は誰かな?」



私は扉から出てきたその壮年の男性へと尋ねた。

「お主は人間か?珍しい。ふむ・・・・・・可能性としてはそこの牛の亜人が考えられるな」


「そんなことはいいではないですか剣聖殿。それよりも私の計画が台無しになるので早く探さなければ」


「下手人は気になるが・・・まあ良いか。女、それに亜人ども!お主等に尋ねたいことがある!」



壮年の男性は後から出てきたもう1人の白いローブを着た女性と何やら話し、私達に怒鳴ってきた。



「何かな?私も君達に興味があるね。其処から出てきたということは君達も龍巣とやらを使ったのかな?」


あの少年はその竜族特有の通り道のことは有名ではないが知っている奴は知っている、と言っていた。だから私は聞いた。



「龍巣?知らんな。移動手段かなにかか?・・・それよりも我々はある目的のためにここの地下にあの獣を入れておいた。お主等に聞きたいのはその獣の行く先だ。何か知らんか?」


「獣?・・・ああ」


「その様子だと知っているな。奴は何処へ行った。この島からは出れんからそうは遠くへは行ってはなかろう」


・・・何故かその甲冑を身に付けた男性は鉄島を取り巻く状況について知っていた。



「知っているけどね。君達は何者?・・・あと言っておくけどあの壁はもう無いよ?」


「なにっ!むう・・・」


私がそう言うと男性は何やら考え込んだ。


「あのぅ剣聖殿、私は言いましたよね?あれはもう止めると」


「そう言えばそうだったか。必要なぶんだけ集まった時点で解いたとお主は言っていたな」


「そうです。膨大な力を使うものですから・・・頃合いだと思って・・・やはりすぐに引き取るべきでしたね」


「言っても栓の無いことだ。それに見つければ目的は達せられるのだろう?」


「まあ・・・」



私は2人の話の内容から考えてもしやと思った。



「もしかして君達があの鉄の壁を?」



私が聞くと白いローブを着た女性は僅かに目を伏せて、


「ええ・・・目的を果たせばすぐに消そうとは思っていましたが」


と言った。


「さっきから目的とか言ってるけど何なの?」



我慢しきれずについ尋ねると、



「王の復活です」



と、女性は手に持っている金色の棒のような物を掲げてそう言った。





〜〜〜






「うっ・・・」



どうやら目を覚ましたようだ。

私は気絶していた人間が覚醒するのを待った。



「私は・・・・・・亜人!」


起きてすぐ私達の姿を認めた人間、ラゴス・サイモンはいきなり叫んだ。


「ご挨拶ね。貴方の寝首をかかないだけでも感謝してほしいものだわ」


「・・・何が目的だ」


「そうね。いくつか聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」



私は疑問に思っていたことを尋ねた。



「バカなっ!父上が?」



というのは私がさっき城に来る前に起こった出来事について話したときだ。



「と言われてもね・・・実際に本人が名乗っていたのだから」



すなわち、ジェノス・サイモンという者に出会ったことを。どうやらこのラゴスの父親らしい。



「そんなはずはっ!もしや誰かが父上の名を騙り辱しめようと」


「そんな雰囲気でもなかったのだけれど。それに思い出してみると貴方の顔に似ていたわね」



生気は無かったけれど、と付け加えた。



「生気が?しかし、そんなことはあり得ん!父上はもう一年以上も前に亡くなっている」


「・・・恐らくは魔法、ではないかしら?」

「魔法だと?いやそうか。貴様は魔法を使っていたな・・・・・・そのようなものがあるのか?」



「私は使えないけれど。不死兵(アンデッド)を造り出す術は確かにあるわ。ロストマジックの一種ね」



不死闘魔魂(エインヘルヤル)だったかしら?



「そうか・・・」



「そんな魔法の使い手に心当りはない?」



私が尋ねると、ラゴスは顔をしかめた。ルーの妹を探す上で一番警戒すべきはその者だと思い、それを聞くためにわざわざこの人間が目を覚ますのを待っていた。



「神をも恐れぬ技だな・・・否、奇跡と言うべきか・・・魔法かどうかは知らないがそのような奇跡を起こせるような術を持つ方は1人しか知らん」


「へえ、有名なのかしら?」


「有名もなにも。この光の大陸の平和の礎を築いた御方だ」


「ふうん・・・ということは人間ね」


「当たり前だ!大司教ジズ様はお年は召していらっしゃるが人間だ!・・・そう言えば貴様のそれは、」



と、興奮した様子で喋っていたラゴスがふと私の手元を見た。



「ジズ様の杖に似ているな?色こそ違うが」



私の持っている嘆きの杖を見ながらラゴスはそう言った。

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