第56話〜主義〜
〜とある大陸〜
その大陸の端・・・
其処で一人の少女と一匹の大きな犬が周りを見渡していた。
「ねえリーナちゃん?」
「何かしらロラン?」
その大きな人語を解す犬、ロランと呼ばれた犬が傍らに立つリーナという少女に話しかけた。
「匂わない?」
「匂い?・・・・・・ああ」
ロランの質問の意図するところに得心したのかリーナは僅かに頷いた。
「貴方の鼻というのは大したものなのねロラン?私でも意識しなければ気配は分からなかったわ・・・」
「でしょ?えへへ、僕の唯一の特技なんだ」
「そ、そう・・・唯一・・・」
得意そうに言うロランを見たリーナは何やら少したじろいだ。
「それで、どうするのリーナちゃん?」
「そうね・・・」
リーナとロランは自分達を取り囲んでいる何者かの気配を感じながら、どうするかを相談し始めた。
「一番最初に再契約をしたい子が居たから此処に来たのだけれど、以前とは情勢が変わっているようね・・・」
「ふーん?でもこの匂いは・・・」
「?匂いがどうしたのロラン?」
「・・・敵意があるよ」
「そう。まあ無理もないかもしれないわね」
「どうして?・・・あっもしかしてリーナちゃんが前に来たときに何かやったとか」
「違うわ。失礼ねロラン」
「うっ。ごめんよ。?でもどういうこと?」
「そうね、わけが分からなかったかしら。かつて此の大陸ではねーーーーーー」
デュカ・リーナはロラン・オオガミへと此の大陸でかつて起こった出来事について説明した。此の光の大陸で起こった人間による亜人の排斥運動について。
「そんなことがあったんだ・・・でも、それなら何で、」
「?」
「ニンゲンだけじゃなく、こんな匂いがするんだろう?」
「匂い?私もこのあたりに居る人間のオーラみたいなものを何となく感じるけれど、別におかしくはないでしょう?」
かつて起こった人間によるそれ以外の種族の排斥のせいか亜人や魔物の気配、魔力を感じないリーナはロランの言葉に疑問を持った。
「うん、ニンゲンの匂いは別にいいんだ。でも僕が嗅いでいるこの腐ったような匂いはいったい?」
「腐ったような匂い?」
そこまで話していたところでリーナの視界に何かが映った。
〜〜〜
女性の権力者とはね。
ガルディアの注進によりレヴィアス王への謁見が実現したあたしは自分のことを棚に上げてそんなことを思った。
「・・・その話は理解致しました。祈祷師による占いを許可しましょう。ガルディア殿も知らぬ方ではないようですし。それで?もう1つの別件、わたくしへの提案とはいったいどういった内容なのでしょうか、火の大陸の王女殿?」
レヴィアスの王様、女王様が言った祈祷師の占い、というのは何処かの大陸へと移動したらしいトウヤ・ヒノカの行方を祈祷師に捜索してもらうためのもので、意外にもすんなりとレヴィアス女王、セシリー・ノーティス様の許可が下りた。
ただ、あたしにとってはこれからが本題だ。
「シエル姫様?先程私に言った件を仰るのでは、」
と、傍らで跪くガルディア・ソーイがあたしに言ってきたので、
「ええ、分かっているわガルディアさん。セシリー様?お聞きしたところによると此方の国は私達の国よりも高度な文明を御持ちとのことですが?運送や軍事や建築技術など、水の大陸の国家の中でも随一だとか?」
あたしがへりくだってレヴィアス女王に対してそう持ち上げると、
「ええ。面映ゆいですが事実です。そこまで発展したのは民の努力、そして守護神の御加護の賜物だとわたくし達レヴィアスの民は誇っておりますの」
女王は笑顔でそう答えた。・・・どうでもいいがこういう顔を花が咲いた、というのだろうと、その四十路を過ぎたようには見えない若々しい表情を見ながらあたしは思った。
「羨ましい限りです。我が国も技術開発、特に軍事面に力を入れてはいるのですが中々思うような成果は出ずに足踏みをしている状況です」
「あら?わたくしが聞いたところによれば貴女方の国では剣術がお盛んだとか。それならば取り急ぎ軍事面における強化は時間をかけてよろしいのでは?
それに活気のあるお国柄で皆さん活き活きとされておられるとか。そういった治世をしっかりと為されていらっしゃるのならばいずれ結果は出ると思いますよ」
「ありがとうございます。私もいつかは此方の国ぐらいまで技術が発展するとは思っています。ただ現在私達の国、というか大陸は悠長にしていられない状況にあります」
「・・・魔物の活性化問題ですね?」
話が早いから説明は要らないので楽だな、と思うと同時にあたしはこのレヴィアス女王の情報に対する耳の早さに内心舌を巻いた。
数日前にアズト・ミタラが女王に謁見した際にこの大陸での商売の許可を得るため色々と火の大陸の状況を話の種にした、ということは推測できるが。
「我が大陸の状況をご存じなら私からご提案できることは1つです」
「何でしょうか?」
「取引しませんか?」
あたしは単刀直入に切り出した。
「国単位ではなく個人的にはされていらっしゃる方も居られると思いますが?例えば以前来られたアズト・ミタラ殿のように・・・・・・ですが、大陸の中枢の人物である貴女が言われるということは、そちらはおそらくレヴィアスの技術、特に軍事面に関するものを此方が提供することだと考えられます。ですがその取引は此方にとって何か益があるのでしょうか?」
レヴィアス女王のその疑問はもっともなことであり、確実に来るであろう質問だと予測していた。何しろカグツチと此のレヴィアス王都の建物の造りからしてまず違うし、ガルディア・ソーイから聞いたレヴィアスの技術の高さから鑑みて、レヴィアスのほうがカグツチよりも技術的に少なくとも10年程は先に進んでいるぐらいの印象は受けた。動力を持った船って・・・
だから私はカグツチ、というよりは此方側が持つ唯1つと言って良いほどの切り札を切ることにした。むしろこれがあるから今此の場に居て取引を持ちかけることができる、と言っても過言ではない。
「もちろんです、セシリー王♪・・・サラマンドラ?」
あたしは傍らの少年の名を呼んだ。因みに今この謁見の間には、レヴィアス女王、あたし、ガルディア、サラマンドラ、そしてレヴィアスの護衛が2人の合計6人が居る。(ガロウや他の人達は別の間に待機させてある)
「そのお供の少年が何か?」
レヴィアス女王はサラマンドラの姿を見て怪訝そうな顔をした。
「ええ。今からご説明致します。時にセシリー王?此方のレヴィアスでは隣国ウォルスで起きた異常に対処をするため大陸の守護神である竜、レヴィアタンを探すために探索団を結成されているとか、このガルディア・ソーイさんからお聞きしましたが?」
「そのとおりです。しかしそれが?」
「この少年、サラマンドラというのですが実は、」
『シエル、其処からは我が説明しよう』
「ああ、そう?じゃあ御願いするわ」
「その口調?その少年は只の従者、というわけではなさそうですね?」
『そうじゃな、まずはお初にお目にかかる。といったところか。我はサラマンドラ。火の大陸に棲む竜じゃ』
サラマンドラが名乗った途端、今日初めてレヴィアス女王の驚いた表情を見ることができた。
〜〜〜
ドワーフという種族は見た目は人間に近いがその中身は人間とは差異がある、らしい。ドワーフであるミスミ本人から聞いただけだが。
ミスミ曰く人間に比べて背丈が低い、髪が多い、寿命が長い、力が強い、酒に強い、手先が器用、等々。
俺がミスミから借りたこの槍、ブリューナクとか言っていたが言われてみれば確かにやたらと重たいので人間より力が強いと言われるドワーフでないと扱えないのかもしれない。ただ俺は小さい頃から身体を鍛えているので並の奴よりは筋力があるし何よりオーラで身体強化をすることによってさらに力が上がるので少々重たい物を持とうが特に差し障りはない。
「いやその判断基準はどうだろう?」
だから俺はこの槍を使えるという姿を見ただけで俺をドワーフと勘違いした眼鏡女に言ってやった。
「判断基準?もしかして君はドワーフ族に伝わるとされるその槍は力持ちなら誰でも使えると思っているの?」
「・・・違うのか?」
「違うわ」
俺の言葉から考えを呼んだらしい女に指摘されて俺の頭に違う疑問が浮かんだ。
「えっ?でも俺は普通に使えたぞ」
「それが解らないのよね。このボロボを傷つけたということから考えても腕は立つようだし、でも人間って言い張るし」
「ボロボ?その鉄の塊の名前か?」
「そう。で、本当に人間だとするとおそらく君は妖術師とかいう職業だと思うんだけど違うかな?」
何で俺が妖術師?リシナみたいな技は使えないんだが・・・
「いや違うぞ。俺は妖術師じゃない。お前が何でそう思ったのかは知らないが」
「ふーん?じゃあ益々君が何者なのか解らないな。そもそもどうやってこの鉄島に来たの?私が把握してないだけで元々島に居た・・・いえそれじゃあおかしいな。だとすると考えられるのは・・・」
「元々島に居たわけじゃないぞ。俺もよく分かってないが少し前に多分魔法で此処に飛ばされてきたんじゃないか、と思う」
「魔法かあ・・・アレが出来てからはそれが唯一の移動手段だからおそらくはそうだろうね。で?結局君は何者なのかな?」
眼鏡の奥の鳶色の瞳を輝かせて興味津々といった様子で女は再び俺に尋ねてきた。
「その前に聞かせろ。お前が何者かを」
だが俺はこいつの目線に妙な予感を感じて逆に尋ねた。
「えー?面倒くさいからいいよ」
散々人に質問しといて何だこいつ?
少しいらついたので俺は無言で女を睨み付けた。
「・・・・・・しょうがないなあ。私はアサエ・マガハラ、何者かっていうと・・・一応は科学者、魔学者って肩書になるのかな?」
俺の睨みが効いた、かどうかは分からないがアサエと名乗った女は渋々といった感じで話し始めた。
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「良かったのかミスミ?」
「何がだタウラ」
「アレのことに決まっている!アレをあの人間に渡してよかったのか?以前大事なものだと言っていなかったか?」
「使えたしな・・・」
「うん?今なんと?」
「だからな、トウヤは私達ドワーフしか扱えないとされているあの(ブリューナク)を使えたんだ!それもあっさりと」
「そんなに大したものだったのか、あの槍は・・・だが貴様等ドワーフしか使えないものを何故あの人間は使えたのだ?」
「私が知るかよ!もしかしたらと試しに渡したらいきなりブンブン振り回して・・・・・・なあ、あいつはいったい何者なんだ?」
「我にわかるはずがないだろう・・・・・・貴様が以前言っていた妖術師とやらではないのか?確か妖術師ならば多くの特殊な武器を使えるのでは」
「・・・私もそう思って聞いてみたが本人は違うと言っていた」
「そうか・・・」
「あいつ自体は嫌いじゃあないんだが得体が知れないな・・・」
「我は嫌いだがな」
2人はそう言いながら同時にため息を吐いた。
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魔力を帯びた道具、例えば武器や防具、特殊な効果のある物、文字。魔力を使って放つ技、つまり魔法ってやつ。魔力が作用して動いたり止まったりするもの・・・それらを総称して魔導というらしい。
魔学者という奴らはそれらを研究したり実験で使ったりと色々やっているらしい。そいつらが近年最も力を入れて研究しているものが失われた魔法、闇の魔法と言われる(ロストマジック)というものだそうだ。大昔にはそのロストマジックを使って武器を精製したり魔方陣を描いたりやりたい放題だったらしいのだが現在それの使い手の数がめっきり減ったらしくその詳細はいまいちよく分からないとか。
俺はそういったアサエの説明を聞いていたが、
「ん?じゃあこのボロボってやつも魔力で動いてたってことか?」
金属にも魔力を注ぎ込むことにより動かしたりできる、というくだりのところで俺は口を挟んだ。
「うーん・・・間違ってはないけど少し違うかな?」
しかしアサエはそんなことを言った。
「違う?じゃあ魔力で動いてるわけでもないのか?」
「魔力を使っているというところは正しいんだけどね。それだけでもないって言うか、」
「どういうことだ?」
「つまりね、」
アサエの説明によるとボロボという鉄の塊を動かすためにはいくつかの条件が必要だったらしい。1つは動力としての魔力をその身体へ注ぎこむこと、もう1つは動力の基盤となる物質をその身体に埋め込むこと。らしい。結果、上手く起動して動きだせばそれに命令を下すことができる、と。ただ、その物質はこいつが古い資料を調べて研究した結果偶然できたものだとかで他にはないとのことだ。
「っていうことはその物質があればそのへんの鉄を繋ぎ合わせて動けるようにすることができるわけか?」
「簡単に言うけどね、それはそれは苦労したんだよ?それに他の研究を差し置いてその物質ばっかり調べてたのは早くこの島から出るために・・・」
「?どういう意味だ?」
俺が疑問に思い尋ねるとアサエは僅かに言い淀み、
「・・・1つ聞くけど君は島を覆う鉄の壁は通れると思う?魔法以外で?」
質問してきた。
「通れるんじゃないか?鳥とか魚なら?」
いくら高いとはいえ鳥なら上を超えれるだろうし魚なら海から潜り抜けれるだろう。
「甘いね。試してみたけどそのどちらも、」
鉄の壁が変形して阻止した、とアサエは言う。
どうやら実際に試したらしい。
「つまりあの鉄の壁はボロボと同じだと思うんだ」
「?つまりお前が今言った、その物質で?」
「そう。(知恵の石)を使っていると思うんだ。これに使っている物よりは規模が大きいだろうけどね」
「ふーん」
俺は床に転がっているボロボを見ながらこいつの身体の中心にある赤い宝石は何処かで見たことがあるような気がするな、と思った。
〜〜〜
「あれは何なのリーナちゃん!」
「さあ・・・」
何故か私に付いてきた狗族のロランの私に対する質問の答えを私は躊躇った。
此の大陸ではかつてあった出来事のせいで人間という種族以外には戦う術を持つ者は居ないはずだ。だから今、私とロランに襲いかかってきたものは人間だという答えを導き出すことができないこともない。
いや・・・人間というのはこのような腐った肉体はしていない。かつての自分の記憶を呼び起こすまでもなく私は思いついた意見を否定した。そう、つまりこの敵は、
「死者でしょう」
どう見ても生気を感じられない瞳から私はそう判断した。ただし形としては人間?の体裁を保ってはいるが。
「死者?死んだ生き物ってこと?」
その、死んでいながら生きている者のような動きをする敵の攻撃を敏捷な動きで避けながらロランは驚いたように言う。
「な、何で?死ぬってことはもう動かないってことじゃないの?」
もっともだ、と私はそのリビングデッドの剣捌きを見ながら思った。
その敵が動く死者という結論に至った瞬間は若干面食らったものの、剣士としては大した実力でもなさそうだと見てとった私は反撃に転じることにした。
「誰にどうやって叩き起こされたかは知らないけれどもう一回眠りなさい。獄炎・・・!」
私はその動く死者へと青い炎を放った。
「ぐ、がが、が・・・」
「・・・!」
だが、動く死者は炎を浴びてもまるで効いた様子がなかった。それどころか、
「お目覚め・・・というところかしら?」
私はその死者を見て対処を変えることに決めた。
何しろ先ほどまで土のような色をしていたそれの皮膚が私の炎を浴びることにより血色の良い肌色になったからだ。
「・・・お前は半鬼か?」
!
この死者は喋るの?
先程まで無言で此方を襲いかかっていたが。
「しゃ、喋った!喋ったよリーナちゃん!ん?じゃあ生きているってこと?」
「貴方は暢気ねロラン。死体が喋る、ということはつまり誰かの手が加えられているということ。だから、」
「亜人の割には知性が高いな?否、魔導を扱う半鬼だからこその冷静さか・・・しかも人語を解す畜生までも・・・」
「・・・その亜人を見下した口調。貴方は此の大陸の人間ね?」
「亜人風情が!誰に口を聞いている!」
私が尋ねようとしたところその死者は急に怒鳴った。
「お前の強力な魔導により吾輩は鎖を断ち切り言語を取り戻した。意志も・・・だが!」
「取り戻した?つまり貴方は操り人形みたいな、」
「口を開くな亜人!そして吾輩に従え!さすればお前は吾輩の配下にしてやる!」
「お断りするわ」
「なに?吾輩を死に追いやった人間の輩を倒したくないのか亜人のくせに?」
「私には関係のない話ね」
「ぐぬぬ・・・ならば何故此の大陸に来た?」
「別の用事よ・・・でも面白いわね?やはり貴方は死んでいるということになるのかしら」
「亜人風情に吾輩の事情を話す舌は持たん!」
「そう、頑ななのね・・・でもそれこそが、その人間至上主義こそが貴方を殺し、死んだあとも傀儡にされたような原因に思えるけど私の邪推かしら?」
「!?・・・・・・お、お前は只の半鬼ではないのか?光の大陸の何を知っている!?」
「そうね・・・・・・光の戦士を殺した獣、その存在ぐらいかしら」
「・・・お前の名はなんだ半鬼?」
「デュカ・リーナ」
「デュカ・・・?・・・・・・!し、使役者だとっ!?」
どうやら一度失ったものを取り戻すためには、それ相応の労力が要りそうだと、私は密かに嘆息した。




