第57話〜イシの力〜
「ふんぬああああああ!」
・・・・・・力を入れすぎて俺は頭かどこかの血管が切れそうな感覚を味わった。アサエが言っていたのはこの塊で間違いないだろうが・・・
どうでもいいがどうもあいつに上手いこと利用された気がする。というのは俺は今、アサエやボロボが居た鉄の建物の下に潜ってとあることをしているからだ。あいつの言葉に乗せられて・・・
▽▽▽
「地下に?」
「そう。一際大きな反応があるんだよね」
小さな箱を手に持ったアサエが言うには金属へ埋め込んで動くことができるようになる物質 (知恵の石)の発見器にこの建物の地下から反応があったらしい。そもそもボロボに埋め込んだものは小さな欠片を偶然見つけて使ったと言っていたが、欲深いこいつはそれを最初は大量に製造しようと目論んだらしいが結局失敗し、それでもめげずに同じものを発掘しようと発見器を作ったらしい。
さっき奥の部屋から取ってきていた、そのこいつが持つ箱こそがその発見器というもので確かに先程から床に倒れているボロボの身体に埋め込んである赤い石のようなものに反応している。
俺が反応しているかどうかを何故判断できるかというと、
「ビービービービー五月蝿いな!」
その発見器とやらは近くに知恵の石があるとビービーと物凄く五月蝿い音を出すという反応を示すからだ。
その五月蝿さに耐えかねてそのことを言うと、
「えー、実物を見た方が分かりやすいと思ったのに。じゃあ」
とアサエが文句を言いながら何やら発見器を操作した。するとその五月蝿い音は鳴り止んだ。
「?石から遠ざけるとかじゃないのか?」
「いいえ、これだけでセンサーの調節ができるもの。めんどくさいことは嫌いだからそういう回路を組み込んでさらに携帯可能にしたってわけ」
説明を聞いてもよくわからないが・・・
「で?その反応が一番ある場所がこの建物の地下っていうことなのか?」
「そ。規模や位置から計算しておそらくそれがあの鉄の壁の中心に埋め込まれていると予測したの。その大きな知恵の石をどうにかしないと物理的な手段では今後この島への出入りは不可能だと思うわ」
「どうにかするって、お前はそれをどうにかしようとは思わなかったのか?」
「いえ、もちろん私もそこまで近づこうとしたわ。でも・・・」
「場所が分からないとか?」
「精確な場所はね。凡その見当はついてるけど」
「?ならそこに行けばいいんじゃないか?行ってその石に命令?するなり破壊するなりすればあの鉄の壁もどうにかできるんじゃ?」
「そんなに簡単じゃなかったの。地下へ通じる道自体は多分昔に誰かが造ったものがあったから途中までは進めたんだけど」
「途中までは?ということはその先はどうにもできないような何かがあってそれ以上進めないっていうことか・」
「そのとおりよ。鉄の塊が邪魔をしてて進めなかったの」
「それを除けばいいんじゃないか?」
「そう。そのために唯一手元にある石を使って作業用にボロボを造ったんだけど、さすがに鉄の掘削はできなくて」
聞くと、押したり引いたりして移動させるにも無理なほど質量がある鉄の塊、だったらしく鉄をぶつけて鉄を削るとかは無理らしい。
そこで役に立たなかったボロボは侵入者を排除するためにあそこの部屋に置いてたとか。
「まあ・・・いくら腕が立つとはいっても君でも無理でしょうね?」
上目遣いで挑発的に俺に尋ねてくるアサエの顔を見ながら、島から出るためにはどっちにしろその地下道へ行くしかないなと俺は諦めた。
△△△
確かにあいつが言ったとおりこの鉄の塊は重たすぎて押しても引いてもびくともしない。誰が何の目的でこんな邪魔なものをここに置いたんだろうか?いやそれを言い出せばだれがあの鉄の壁を島の周囲に設置したんだ?あの鉄の壁を置くことで誰か得をするやつでもいるのか?・・・考えても分からないことではあるが。
「どっちみちこれをどかして石のある場所まで行かなきゃいけないんだが・・・」
俺は道をふさぐその鉄の塊を見上げてため息を吐いた。でかすぎるだろ?ざっと見てこの舗装された地下道の幅は3mぐらい高さは4mぐらいはあるがそれを覆うように歪な球状の鉄の塊が置かれている。本当、誰かがこの道をとおせんぼしようとしてるみたいだな。しかし、今やったようにびくともしないからこれをどうにかしないことには先に進めやしない。
「・・・しょうがないな。借り物だからあんまり無茶はしたくないんだが」
ミスミから借りた槍を使うか。ただ、この槍はさっきボロボに突き刺したときに穂先から火花みたいなものが出たからな・・・何か特殊な造りなのかもしれない。その機能が損なわれたりしないものだろうか?
「やってみるか」
まあそうなったらなったでミスミに謝ればいいか、と決断し俺は槍を構えてブリューナクにオーラを込めた。
「いくぞ鉄の塊!・・・九天奥義、貫!」
ズガァンッ!
鉄の塊を貫いた。というより、
「粉々、に砕け散った?いや、融けたのか?」
鉄から出来ているボロボに傷をつけたときからこの槍はかなりの業物だということは感触として感じてはいたが。それに、やはり今も槍の穂先から火花が放出された。いやどちらかと言えば火花、というよりは雷?みたいな。
「すごすぎだろこの槍・・・」
俺は、破壊された部分が融解したようになっている飛び散った鉄の塊・・・だったものを見ながら呆れたように呟いた。
だが鉄の塊が飛び散り、無くなったおかげでこの先へ進めそうだ。
俺は僅かに先程の形を保っている鉄の塊の残骸を踏み越えて先へと進んだ。
「海の中が見える?」
そして、その途中の道を進みながら何気なく横を見たら魚が泳いでいた。
俺は岩肌のようなものをくりぬいた地下道を通っていたはずだが?
海中に入った覚えはない。それに体も濡れてはいない。
「どういう仕組みだ?」
何で海が、向こう側が透けて見えるのか。それにやけに肌寒い気もするし。
・・・いざとなれば泳げばいいか、と気楽に考えて俺はさらに進んだ。
〜〜〜
我等が剣を手にした日・・・それは光の戦士が一体の獣にその尊い生命を奪われた日と同じ時。
我等は天と地、双方の恩恵を受け豊穣なるこの大陸で暮らしてきた、種族を別け隔てることなく。
だがある日、突如荒れ狂う一体の獣が我等の王の命を奪った。その王は闇から来た者の末裔ではあったが永年の生活により純粋な光の大陸の者へと成っていた偉大な戦士でもあった。光の大陸最強のその戦士は狂った一体の獣を止めようと獣に戦いを挑んだ。だが、王は敗れそして殺された・・・その日から我等の戦いは始まった。いつ正気を失うともしれない獣、そして獣の力を持つ亜人、亜人よりもさらに我等人間に歩み寄ることのない魔物・・・それらの存在との決別。我等はこの大陸よりそれらを追い出すことを決断した。
もっとも・・・当初は話し合いの場が持たれた。穏やかに別離を告げるために・・・だが奴等は、特に亜人は頑な態度を示し、決してこの大陸を離れようとはしなかった。
だから・・・・・・
そうして我等の長く苦しい戦いの幕は明けた・・・
~光の大陸ライトニング教教典より抜粋~
〜〜〜
ジェノス・サイモン。それが目の前のリビングデッドの名前らしい。生前の。
私は光の大陸に伝わる宗教の教典の内容を頭の片隅で思い出しながら、
「そろそろ聞かせてもらえるかしら?貴方を蘇らせた存在を」
ジェノスに尋ねた。しかし、このリビングデッドは、
「使役者に会えるとは・・・だが吾輩の肉体では・・・」
何やら考えている様子だ。ちなみにこのリビングデッドの言う使役者というのは私のことであるが、その呼び方はかつてこの大陸で私が行っていた事に起因する。
「それにしても良く知っていたものね、私の名を?」
私がこの大陸でそう呼ばれるようになった出来事は数十年前、少なくとも五十年以上は前なのだが、このジェノスの年齢はどう上に見ても四十には達していないように見える。もっとも早くに死んでいて何らかの方法で蘇ったのなら、実際に生きていた時代はそれよりも前かもしれないが。
「・・・お前は亜人だが強力な魔導を使う。しかも失われた魔導を。だからこの大陸では使役者であるお前は有名な存在だ。吾輩だけではなく今を生きる年若い子供らも名前ぐらいは知っていよう・・・」
それは光栄ね、と何の感情も込もらない声で私は言った。
「でも貴方を蘇らせたのも失われた魔法じゃないかしら?おそらくは、だけれど」
「っ!!そんなことは解っている!吾輩は確かに一度死んだ筈だ。死の間際の記憶さえある!」
「ふうん、解っている・・・?ということは、その失われた魔法の存在を認めているということは使い手にも心当たりがあるのじゃない?」
「・・・・・・」
私の言葉が痛いところを突いたのかジェノスは口を引き結んで沈黙した。
「・・・?まあいいわ。いつまでもこんなところで貴方と問答をしていても仕方がないし。行きましょうロラン?」
私はその場を離れようと連れの狗族に声をかけた。
「・・・」
「?ロランどうしたの?」
しかしロランは動こうとしなかった。
「リーナちゃん、このニンゲンは・・・」
ロランがジェノスを見ながら何かを言い淀んでいる。何かを嗅ぎ取ったのだろうか?
「畜生めが!吾輩の何が分かるというのだ!」
「ニンゲン・・・君は、」
キィィィィィン!
「っ!ロラン!」
「うわ!?」
ロランが言いかけたその時、頭上に光が降り注いだ。私はロランと共にその魔力の込もった怪しい光を避けた。
だが、
「おお・・・・・・救いの光よ・・・・・・」
ジェノスはまるでその光を受け入れるかのように棒立ちになって頭上を見上げた。
そして・・・光が降り注いだ跡には何も残っていなかった。
「あの光・・・殲滅の魔法?」
今の光を見て私はかつて闇の大陸で我が身に受けたとある魔法を連想した。それに光の魔法ということはもしや・・・?
だが、それを放った者の気配は感じない。あれほどの魔法ならこの近くに居て然るべきなのだが・・・
「リーナちゃん、今のは」
「魔法、でしょうね・・・何処から撃ってきたものかは分からないけれど。それよりロラン、貴方はさっきジェノスに何を言おうとしたの?」
私はジェノスに何かを言いかけていたロランの言葉が少し気になり尋ねた。
「うん。気になったんだ。僕が鼻が良いのは知ってるよね。気持ちも何となくだけど分かるっていうのも分かる?」
「ええ。貴方の鼻はどんな意思を持っているかも分かるのだったわね。それが?」
「・・・今まで居たあのニンゲン、あのニンゲンは、」
死にたがっていた、とロランは言った。
「?でもそれなら何故私達に襲いかかってきたのかしら?あれは自分の意思でやったのでしょう、そんなことを言っていたわ・・・死にたがっていたのなら他者を殺す意味が不明よね」
「それは分からない。でもリーナちゃんがあのニンゲンと話してからだったんだ、あのニンゲンがそんな風に思っていたのは」
私と話してから気持ちが変わった?ということはつまり私が使役者ということが判明したからジェノスが死にたがった、ということ、かしら・・・?
私が使役者、(他者を使役する者)ということと何か関係があるのだろうか。だがジェノスは元々死者だった。それは間違いない。だが最期、あの光を浴びる直前は何故あのような穏やかな顔をしていたのだろうか。やはりロランの言うように死にたがっていた・・・?
「また匂いっ?リーナちゃん!」
私が考えているとロランの叫ぶ声が聞こえた。が、私はロランの声を聞く前に既に動いていた。
「ファング」
何故ならその強力な魔力の持ち主の存在を感じ取っていたからだ。だから私はその存在へ向けて杖を伸ばした。
「光剣」
ギィン!
だが私が伸ばした杖はその存在が放った輝く剣に弾かれた。
「っ!・・・相変わらず貴方に物理攻撃は通じないのね」
「ああ。だが、穏やかではないな。久方ぶりだというのに」
その存在、かつて私と召喚契約をしていた者は私の顔を見てそう言った。
〜〜〜
僕はその新たに現れたニンゲンはどうやらリーナちゃんの知り合いらしいということをリーナちゃんの言葉から分かった。しかしニンゲンにしては何か匂いが違うような・・・
「ええ。確かに久しぶりの再会ね、ルー?かれこれ50年にもなるかしらね」
「そうだな。自分が最後に貴殿に召喚されたのは歴205年だから、もう50年か・・・月日の経つのは早いな」
「そうね。ただ・・・光の神の名を冠する貴方が早いという言葉を使うのは何か可笑しいわね?」
「そうでもないさ・・・・・・それで、何をしに此の光の大陸まで来た?契約が切れたことと何か関係があるのだろうか?」
「ご名答よルー。貴方と改めて召喚契約を結びに来たの」
会話の内容から考えるとリーナちゃんはどうやらこのニンゲン?に会いに光の大陸に来たらしい。召喚の契約か・・・
「そうか・・・だがこの度はお断りさせていただく」
「何故かしら?」
このニンゲンはリーナちゃんと前に召喚の契約というのを結んでいたらしいのに断るというのはどういうことだろう?
「簡単なことだ。自分は己より弱き者の下に付くことはない」
「・・・確かに50年前よりは魔力が増しているようだけれど、それは思い上がりというものじゃないかしら?」
リーナちゃんが何やら機嫌が悪いような。
それにどうしてこのニンゲンはさっきから、
「かもしれん。正直に言うと自分のほうが僅かに下のようにも感じている」
「だったら何故?」
「本当は・・・自分にはすることがあるため、だ」
そう言ったとき、そのニンゲンの心は、
「・・・私を殺すこと、かしら?」
敵意に染まった。
「それだけではない!・・・天光!」
キュイン!
一瞬そのニンゲンの体が光った、と思ったらリーナちゃんが蹲っていた。
「リーナちゃん!?」
リーナちゃんが今の光にやられたと思った僕は焦って叫んだ。
「し、心配ないわロラン。少し掠めただけ・・・ルー?随分なご挨拶ね、先程の群光も貴方の仕業でしょう・・・」
しかしリーナちゃんは右手を上げて近寄ろうとした僕を制した。
「気づいていたのか。・・・さすがはかつて自分を従えていた、だけのことはある」
「でも、今のも先程のも敢えて避け易いように撃ったのは何故かしら・・・?」
「それ以上は喋らないことだ。とにかく自分は貴殿と契約を結ぶ気はない」
「そう・・・残念ね・・・」
「ところで話は変わるが、その者はもしや祝福を受けた種族ではないのか・・・?」
と、そのニンゲンは僕のほうを見てきた。祝福?
「そうよ・・・それが?」
「成程。これが本物の・・・」
僕のほうをまじまじと見ながらそのニンゲンは呟いた。
「貴方は鼬、だったかしら?」
「・・・違うな。似て非なるものだ」
「そうだったかしらね。それで、何を企んでいるのかしら・・・?」
「リーナちゃん、よく分からないけどもう帰ろうよ?」
僕はこれ以上この大陸に居ると何か嫌なことが起こりそうな気がしたのでリーナちゃんを急かした。
「待ってロラン。私は聞きたいことがあるの・・・この光を操る神獣に」
そう言ってリーナちゃんはルーと呼んでいたニンゲンへと目を向けた。
〜〜〜
ようやく見えてきたな。
俺はやけに長い外が透けて見える地下道、(おそらくだが見た感じは海の底をくりぬいて海水が入らないような措置を施している)を進み、ようやくだだっ広い場所に着いたので安堵した。
「ええと、どうだったかな・・・」
先程ここへ来る前にアサエから借り受けた、(知恵の石発見器)の釦を切から入に操作した。これを入に操作することにより音が出る筈だ。だが、
「っ!?・・・何処だ」
このだだっ広い場所、(おそらくだが平均的な大きさの帆船が十隻並んでもまだ足りないぐらいの広さ)その端から端まで発見器を持っていってみたが、どの場所に当ててもビービーという音がするので当惑した。
「分かりづらいなこれは・・・」
しかしこの見通しの良い場所には石みたいなものを隠すような場所はないんだが・・・
「壊れてるのか?」
俺はその発見器を振ったり揺すったりして壊れているかどうかを確かめた。しかし鳴りやまない。
「そうだ!」
俺は思いついて元来た道を引き返した。発見器の反応が無い場所まで。鉄の塊があった場所よりもさらに前にまで。其処から暫く戻った所で発見器は鳴りやんだ。なので俺は再度だだっ広い場所を目指した。
だが、やはりあの広い場所に近づくにつれて発見器の反応は顕著になっていった。丁度あの鉄の塊があった場所あたりから音がどんどん大きくなっていく。
で、結局あの広場にまた戻ってきた。
「じゃあ、やっぱりこの広場の何処かにあるのか?」
この場所は今通ってきた通路とは違い海底が透けて見えるということはない。岩のような壁や天井だ。
「分からんな。もしかして岩に埋まって・・・・・・!」
まさか!
俺は1つの可能性に思い至った。
「この広場自体、か・・・?」
そんなに大きなものなのか?だがボロボに付いていたのは精々小石ぐらいだったので島の周りの鉄の壁ならかなりでかくてもおかしくはない、か?
そう考えた俺は試しに、
「おい、石!お前があのでかい鉄の壁を制御してるのか!」
広場に向かって怒鳴った。
「反応なし、か?」
タタタタッ
しかしその時、誰かが広場に走ってくる音が聞こえた。
「はぁっはぁっはぁっ、あれ?魔力反応が、ない?」
「誰だお前は!・・・・・・?・・・獣?」
俺は広場に入ってきた体長が150㎝はありそうな喋る獣へと尋ねた。




