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第52話〜精気〜


「剣鬼本人だと!?」


俺が説明不足なリシナの言葉を補足すると、その場に居た青年、ガロウ・サイハがやけに驚いていた。



「剣鬼?」


しかし言ったことがよく分からず俺は尋ねた。

するとガロウ・サイハは「火の国盗り」という書物についてこっちが聞きもしないのに懇切丁寧に説明してくれた。というか俺はそれについて知ってるんだが・・・その、火の大陸の者なら、例え本が好きだろうとそうでなかろうと誰もが一度は目にすると思う最も有名な書物についての説明を聞きながら、俺は何故この青年はやたらと興奮して話しているのだろうと疑問に思っていたが、実話ではないか、というくだりのところではあの書物にそういう見方があるのか、と感心した。また、その話を聞くうちにだんだんと内容を思い出してきた。そういや登場人物はそんな名前だったような気がする。

しかもこいつは少し前に、


「俺の家に?」


来たらしい。その時に俺の親父に短い時間ではあるがオーラの闘法について教わったとか。また、それを話すときに俺の親父のことを褒めちぎるもんだから俺もどんな顔をすればいいか分からず、ただその話を聞いていた。やがて、話し終えて気がすんだのかようやく目の前の饒舌な青年は、



「というわけで、まさかご本人に会えるとは私にとっては正に僥倖・・・!」



と、ガロウ・サイハは「火の国盗り」の登場人物である剣鬼・・・実在の人物、草薙神人に向かって言った。



「そ、そうか。あの戦いが書物になっているとは思っていなかったが・・・」


その勢いについていけないのか、若干引いた口調で答えていた。



「ふーん。楽しくなってきたわね♪」


「何が!?」


急に笑顔でそんなことを言い出したシエル・スサノオに対して俺は聞いた。

今の一連のやり取りを見てどこに楽しい要素があったのか俺には全く分からない。ガロウという奴が神人の熱烈な信奉者っていうことぐらいしか。



「あら?だってあれだけ強さに拘るガロウがあそこまで手放しで誰かに憧れを示すなんてそうそう見られないから。そのことだけ鑑みてもあの人のためにガロウは色々動くでしょう。何よりあの人が居れば次回の格闘大会の開催のためにとてもいい宣伝になるでしょ?何せ伝説の人物ですもの。事前に触れ回っておけばお年寄りから子供まで幅広い年齢層の人が見に来ると思わない?」



・・・ああ、そういうことか。こいつらは政府の人間で年に一回行われる格闘大会の主催者でもあるからそういった宣伝に気を配らなければいけないのか。



「・・・つまり私は客寄せ、というわけか」



シエルの言葉を聞いた神人が落ち込んでいるが、それは置いといて、



「じゃあ、今鬼ヶ島にはニル姉が居るってことか?」


俺が先程聞いたのは、この目の前の人物、シエル・スサノオが鬼族と友好を結ぶためにまずお互いの代表人物を1人ずつ交換し、留学という形でお互いに見聞を広めているるということだった。その人物が、俺の知り合いであるニルナ・カナワという奴と、



「そうだ。だから私が此処に居る」



その場に居た大男、ジン・ガトウが答えた。つまりこいつが鬼ヶ島側の人物というわけだ。



「ふうん。で?何であんたらは此処に居るんだ?交換留学、というのは分かったけどそれならそれで火の大陸の中を案内するのが一番手っ取り早くないか?」



俺は火の大陸の主要人物が何故こんな場所、水の大陸のしかも辺鄙な場所の祠の中に居るのかを疑問に思い尋ねた。



「それはね、」


『我が説明しよう、破焔斬を受け継いだ者よ』



シエル姫が喋ろうとした時にそれを遮って、目の前の子供が口を開いた。



「?お前は誰だ?それに破焔斬って?」



『・・・まあ、この姿なのでそう聞かれるとは思っていたが、まさか己の得物の真の名も知らぬとはな・・・・・・つまりじゃーーーーーー』



その子供は何故か嘆息しながら話し始めた。



『ーーーーーーと、いうわけで我の頼みを聞き入れてこやつらは此の場に訪れた、というわけじゃ。まあラドンに関してはよく無事であったと言いたいが・・・』



「まあ、な。ラドンは強かったが・・・それよりも俺はお前がサラマンドラっていうことに吃驚したんだが・・・」



『うむ。それはそうであろう。それよりも破焔斬を見せてみろ。刀の形を保っておらんじゃろう?』


「分かるのか?」



『それはそうじゃ。破焔斬は言わば我の分身。そもそも魔力が残っておらんことを感じたからの、出張ったわけじゃからのう・・・』



へえ?自分が造った物の状態が分かるものなのか、と俺は感心しながら腰に差していた炎斬を抜いてサラマンドラに渡した。そう言えばレヴィアタンもそんなことを言っていたな、と思いだしながら。


『むう。かなり魔力が持っていかれておるの・・・』


「ああ。あいつに最初出会った時にまさか喰われるとは思ってもなかったんで・・・」


鱗の状態になった炎斬・・・破焔斬を見ながらサラマンドラは呟いた。


『まあ、微かに力が残っておるから何とかなるか。それはともかく、ラドンを止めねば・・・』


「あれ?そういや言ってなかったか、あいつは倒したぞ?」


『!?・・・・・・た、倒した?』



「ああ。もっとも俺だけじゃなくて、他の奴の力も借りて・・・魔法とかも使ったけどな」



俺はやたらと驚いているサラマンドラへラドンを倒した際の状況を話してやった。

身体を乗っ取られたラギ・シンド、デュカ・リーナやロランのこと、黒竜のことを。

ロランに聞いたらあの時に居た黒い蜥蜴がラドンの成れの果て、ということだった。何でもラドンと蜥蜴の臭いが一緒だったから、それが分かったロランが踏み潰したらしい・・・・・・まあ、自分の村を襲われてたからな、それはやってもしょうがないだろう。

結局俺はロランの身体、特に毛並みを触ることが出来なかったことを思いだし密かに後悔した。



『・・・しかし、龍の鱗を貫くとは・・・やはり汝が預言の、』



「サラマンドラ!」



サラマンドラが俺の話を聞き、何かを言おうとしたところでガロウが急に叫んだ。



「そのことは蒸し返さなくても良いのではないか?」


「そのこと?」


「ああ、いや。君には関係が、」


「あら、いいじゃないガロウ?この場ではっきりさせておけば?」



?ガロウが何かを言いかけてシエル姫がそれを遮った。はっきりさせる、って何だ?



『うむ。預言の者かどうかはさておき我もこの者に興味はあるの。どれほど強いのか・・・』


「お前も黒竜と同じようなことを言うんだな・・・」


俺は呆れたように言った。

また預言の者か・・・



『黒竜か。そのことを・・・龍神様の預言のことを知っておるのなら話は早い。それにこれは只の興味本意ではなく世界の平和にとって重要なことなのじゃ』


「ああ、星が闇に何覆われるとかってやつか。でも、それは」


『先刻も言うたが、現在この世界の何処かで世を混沌に陥れようと暗躍する者が居る。龍神様の預言とあの者の行動が何らかの関係があると我は考えておる・・・』



「さっき言ってたデュカストテレスって奴か?そのへんは俺にはよく分からないが・・・それより、はっきりさせるって何をだ?」



俺はシエルに向き直り尋ねた。



「勿論、どっちが預言の者に相応しいかをよ♪」



つまり俺とガロウのどちらが強いか、ということか。

既に臨戦体勢になっているガロウを見ながら俺はシエルが何故か嬉しそうに言うのを聞いていた。




〜〜〜





「名前、ですか?」



「そう。ないと不便でしょう?」



私はノルエルに説明した。精気兵についての私の気付きを。

能力云々、機動性云々、破壊力云々、利便性云々。

そして、結論付けた。



「つまりこれを効率的に使役するためには呼び名を付けたほうが良い、というわけ」


「呼び名をつけることによってどのような働きをするものかを分かりやすくするために、ですね」


「そういうこと」



私が呼び名をつけることに拘るのはノルエルが言ったことによる。それはつまり、


「それにしても量産化とはね」


「ニルナのおかげですよ。何せ重要な物は精石と精気、ということが実証されましたから」


そう。つまり今後この島で精気兵を量産化していくことになった、らしいのだ。確かに本体の造り自体は単純なものであるし精石とやらもまだ数はあるらしいので不可能ではないだろうが。


「でもいいの?」


「何がですか?」


私が尋ねたのは今後量産していくだろう精気兵を全て私のプラーナで起動させてもよいのかどうかということだ。これを確認しておかなければ、


「ああ・・・そういうことですか。問題ないでしょう」


「あっさり言ってくれるけど、私が翻意しないとも限らないのじゃない?」


要は精気兵という者は生き物の刷り込み効果と似たようなもので最初にプラーナを注ぎ込んだ者に対して忠誠を誓うようになっている。造った者ではなく。だから私が複数の精気兵を起動させて、例えばこの島を破壊しろとかそういう命令を下せば精気兵達はそれを実行するだろう。この聡いノルエルがそこを考えていない筈はないだろうだが・・・


「その場合は精石の活動自体を停止しますのでご心配なく」


ノルエルはそう言うが、そんなことが容易くできるものなのだろうか?


「ええ。さすがにこれは機密なので詳しい内容は言えませんが可能です。それに、この数日貴女の行動や人となりを見てきましたがまず間違いなくそんなことをされるとは思っていませんし」


だから、今後も遠慮なくプラーナを使って下さい、とノルエルは言う。

まあそこまで言われて、これ以上何かを言うのも何だし、


「わかったわ。取りあえずこの本体があるものから起動させていきましょうか。あとは製造待ちね」


「ええ、宜しくお願いします」


私達は先程行った精気兵の本体が2体寝かされている部屋へと向かった。動いている一体には待機させて。

しかし、本体の製造にどれぐらい時間がかかるか不明なのでもしあまりにも時間がかかるようならば他の奴に役目を振っても・・・・・・と私は私に劣らずプラーナの扱いが上手い顔馴染みの顔を思い浮かべていた。




~~~




この少年は強い・・・!


私は目の前の少年トウヤ・ヒノカの剣撃を何とか躱しながら反撃に転じる機会を窺っていた。

水龍の祠とやらの外に広がる平原に出て私とトウヤ・ヒノカのどちらの腕が上かを確かめるため先程から模擬戦を行っているのだが、



「確かにあんたは強いな。親父が短い時間で教えただけのことはある!」


私と同じくオーラを纏った木剣を振りながら少年は言う。


「き、君もタチオ殿の子息だけあって、オーラが強力、だ」


若干息を切らせながら私は答えた。

すると、少年は僅かに距離を取り木剣を正眼に構えて此方に向けてきた。


「でも、技までは知らないだろ?・・・九天奥義、牙!」


ズォォォォォッ、と少年の持つ木剣が此方へ向かって伸びてきた。

速い!だが、


「見切った!」


カァンッ!と音を立てて私はそれを弾いた。


「!!大した反射神経だな・・・」


言いながら少年は私に近づき連撃を繰り出してくる。


ゴッ

一撃もらった、が、


「っ!!だが、私とて伊達に警備部総隊長を務めてはいない!その程度では倒れんぞ・・・!我郎剣、裂空れっくう!」


私は「火の国盗り」に載っていた剣鬼の技を真似て独自の技を造り上げた。即ち、我郎剣がろうけん


シャッ


距離を取って、私は少年に向かって縦にオーラを込めた剣を振り下ろし縦に飛ぶ斬撃を放った。




~~~




一瞬、ガロウは何故下がったのかと思ったが、

あいつの剣の先から何か飛ぶものが見えたので俺は合点した。成程、こいつは得得してまだ日が浅いとか言ってた割にはよくオーラを使いこなしている、と。


「甘い!」


キィン!

俺はその飛んできた斬撃を打ち落とし、


「オーラを飛ばすなら、こうだ・・・九天奥義、おん!」


シャッ

手に持つ木剣を一旦腰に納めて横に薙いだ。今ガロウが撃ってきた飛ぶ斬撃は縦に広がるものだが俺が放ったものは横向きで飛んでいく。つまり左右には回避しづらい。



キィン


「・・・や、やはりオーラの使い道というものは似通るものだ、な」


回避することなく俺と同じように飛んでいた斬撃を打ち落としてガロウはそんなことを言った。


「そうだな」


「・・・だ、だが現時点で君が最強というのも肯け、る」


息を切らしてガロウは言うが。


「何で?今のところ互角ぐらいじゃないのか?」


確かに俺は息も上がっていないがそれでもいい勝負をしていると思うんだが?


「・・・不本意ではあるがオーラのみでの戦いはともかく、」


「!!ああ、そういうことか。確かに俺はまだ使ってはいないが」


精気プラーナを。


「私はプラーナの存在を知っている、というだけで使いこなせるわけではない。せめてオーラだけでも君を上回れば、と思っていたのだが」


「互角だった、ってわけか」


「そうだ。これでも私はプラーナを使ったニルナ・カナワと戦って、」


引き分けた、という。

つまり、全力の二ル姉と全力のガロウはほぼ互角ってことか?


「じゃあ、あんたがプラーナを使えるようになるまで勝負は一旦お預けってことか?」


「そうしてくれると助かるが」


「分かった。別にいいぞ・・・・・・ちなみにあそこに居る奴は、」


遠巻きに俺達の戦いを見ていた奴の中から一人の人物を指差した。


「7日で精気プラーナの使い方を会得したぞ?」

「なっ!?あの金髪の男がかっ?」



ガロウは俺が指差したミシルを見ながら驚いていた。


「まあ、目的もあったらしいし。それにあいつはそれだけじゃなくて、」



魔力も使える、と俺は言ってやった。



「だからもしかすると俺よりも強いかもな」



ミシルを見ながら俺は言った。実際にはそんなことは思っていないけど少し煽ってみた。



「あの金髪の男はいったい何者・・・?」


ガロウは納得がいかないのかそんなことを言うが、



「元々はこの国の奴って話だ。そもそも俺達はあいつを探しに、」



俺達が龍巣を使った経緯を説明した。ついでにミシルが今の力を持つに至った経緯も併せて。




〜〜〜





決着がついたようには見えないが、何を話しているのだろう?

あたしはガロウとトウヤ・ヒノカが手を止めて何やら話し込んでいるのを見ながら疑問に思った。



それにしても、と考える。ガロウに関しては先日鬼ヶ島でニルナ・カナワと模擬戦を行っていた時に現在の強さを大体ではあるが把握しているので今見てもそこまで驚かなかったが、あの少年トウヤはそのガロウと戦って傷1つ負っていない、とはいったいどれほど強いのだろうか?

確かにあの強さならば最強の人間というサラマンドラの見立てもあながち間違いではない、かと思う。

だが、とそこまで分析して2人の戦いの最中に気づいたもう1つの事実に思い至った。


現在この場には10人居る。模擬戦をしていたあの2人を除いたその10人が少し離れて今の戦いを見ていたのだが、その約半数が特に驚きもせずに今の戦いを見ていた。

先日の鬼ヶ島で今と同じような戦い、ガロウとニルナ・カナワの戦いを見ていたカグツチの神官隊や警備部の者、鬼ヶ島の鬼族等は、驚愕で言葉すら発しないほどだったのに・・・?



・・・つまりこういうことか?

今の戦いは驚くほどではないと感じた、と?

この場に居るあたしと、ジン・ガトウとサラマンドラ、それにネクとクロカゲ姉妹以外の者はそう感じた、ということか?


だとすれば・・・とあたしはこの場に居る数名の顔を窺いながら、思った。此の4人はどれだけ腕が立つのだろうと。リシナ・トゴウ、羅義神人。まあこの2人は3大英雄の子孫、どころかそのものなので腕は立つのだろうが。と・・・そう言えば他の2人は誰なのだろう?


「ねえ、貴方は、」


私が傍に居た見知らぬ少年に話しかけようとした時、



「・・・風が、哭いてる・・・?」


その刀を背負った黒髪の少年は空を見上げて何やら呟いていた。


「どうした、クレアス?」


もう一人の見知らぬ金髪の大柄な青年がクレアスというその少年に怪訝そうに尋ねていた。

それに、先程あちらからトウヤ・ヒノカがこの青年を指差していたのは何だったのだろうか。

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