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第5話〜温泉街〜

魔狼の群れと遭遇後、もう二日ばかりかけて夕刻頃、漸く一番近い隣の(イグナ)へとたどり着いた。

その町の入口にある門を見上げて、




「大きいな・・・」

俺がそう感嘆の声を洩らすと、

「大きいね・・・」

と、横のネクが似たようなことを言った。



「いや、カリュウ村にも似たような形の門はあったけど、大きさが違い過ぎるだろ?」



そう、カリュウ村の入口にも門があるが精々3mぐらいの高さしかなかったが、この村の門はどう見ても10mはありそうだった。



「いやー、流石に村の規模が違うだけあるね。あそこが守衛所かな?」

そう言ってネクが向かって右にある小さい建物を指す。


「だろうな。えーっと、知らない村に入るには、身分証明書が要るんだよな。どこに仕舞ったっけ。」

俺は手持ちの頭陀袋に手を突っ込み身分証明書を探す


「あった。よし行くぞ。」と言って、入町の手続きをするため守衛所らしき建物に向かった。




〜イグナ町〜


町へ入る手続きを終えた俺達は、町中に入り目的の場所を探した。我儘を言う横のやつのために。


「もーーーっ!宿屋は何処なの?イグナ名物の温泉宿屋はっ!!」


「おい、落ち着けよ。守衛所の人も言ってたろ?温泉街は町の外れにあるって。そう直ぐには着かねえよ。」

としょうがなしに俺は宥める。



ここイグナは源泉が湧き出るとかで温泉が名物の地域である。

湧き出る量も豊富なため、それを利用して何軒も温泉用の宿屋があるらしい。


それ目当てにこの町へやってくる人も多いらしく、宿屋も必然的に増えていき、それに伴い色んな商売、例えば料理屋、名産品店、飲み屋、賭博場、等々の建物も増えていったという話だ。まあ、町の外から来た人は、温泉に入った後は羽根を伸ばしたい気分になるのだろう。

また、地元の人も家でわざわざ薪や火を使って風呂を沸かすよりは経済的なのか、温泉には常に人が多いとのことだ。



「おっ!それっぽいところに来たんじゃないか?」


それから一時間弱も歩いたところで、雰囲気の変わった場所に出た。妙に熱気があるな。



「キタキタキターーーッ」ネクがアホみたいに騒ぎだし、駆け出そうとした。


「待てっ!止まれっ!さっき聞いたお薦めの温泉宿屋を探すぞ!飯が安くて量が多く美味い、チヒロ屋って宿屋を!」


俺は慌てて声をかける。

これだけは外せるか。


「ええー。ご飯はどっちでもいいよ。それよりも湯船が広くて、美容に効く温泉がある宿屋を探すほうが・・・・・・うん、チヒロ屋を探そう!」


何故か俺のほうを見ながら焦ったネクがそう言い出した。

いや、別に腹が減って機嫌が悪いとかじゃないぞ。

本当は温泉はどっちでもよくて飯のためにここまで付き合ったのに、ふざけたことを言い出したネクを物凄い目付きで睨んだとかそんなことはないぞ。


「ああ、美味そうな匂いからして、多分あの正面にある大きめの建物だと思う。さっさと行こうぜ♪」


上機嫌になった俺はネクを促し、早足で先に行く。



「そ、そうね。早く行きましょう。」

(危ない、危ない。そういえばこいつはご飯の邪魔をすると物凄く機嫌が悪くなるんだった・・・それにしても匂いって・・・)

ネクはそう思った。



その時、右の料理屋らしき建物の扉が開き女の子が飛び出して来た。

「助けて!」


そう言いながら私の後ろに隠れた。

年の頃は私と同じか少し下ぐらいで、着物の上に白い前掛けをしていた。


続いてその扉から屈強そうな顔を赤くした男達が出てきた。3人ほど。



「おいおい姉ちゃんよ、逃げることねえだろ?ちょっとお酌してくれって言っただけじゃねえか」


真ん中の大柄な男が笑いながらそう言った。左右の二人も何が嬉しいのか笑っている。


「嘘です!無理矢理座らせて手とか、お、お尻とか触ってきました!」

その女の子が涙目になりながら私に訴えてきた。



「あれー?酒代にお姉ちゃんへのお触り代も含まれてるんじゃねえの?」

右側の太った小柄な男が

嬉しそうに言う。

左側の痩せてひょろっとした男が、

「まあ、いいじゃねえか姉ちゃん。戻ってこいよ。呑もうぜ?」

と笑いながら言う。



「う、うちはお料理屋でそういったことは一切してません!」

と女の子が必死になって言う。



「うるせえっ!こっちは代金払ってんだ!さっさと戻って相手しやがれっ!」

と真ん中の男が怒鳴りだした。



私は煩わしいと思いながら「あのー、この子も困ってるみたいなんで、あんまり無茶なことを言わないほうがいいんじゃないでしょうか?」

と遠慮がちに言ってみる。


すると、男達が顔を見合わせて笑いながらこちらへ、「お姉ちゃん別嬪だな。いいぜ、店を出るから俺達に付き合えよ?宿屋で一緒に呑もうぜ。」

と真ん中の男が私に言ってきた。宿屋?


「それは嫌です。あなたたちの相手をしている暇はありません。大人しく中で呑めないなら勝手に宿屋でもどこへでも行って下さい」

というと、何が嬉しいのか、


「おー、気の強い姉ちゃんだこと。まあ、いいから、いいから。」


と言って、酒臭い息を撒き散らしながら私の腕を掴んできた。その時、


「おい、ネク!何やってんだ!早く行くぞ?」


結構先まで歩いていたトウヤがこちらへ走って戻ってきて怪訝そうにした。


「誰だ?こいつら?」

トウヤが言うので、私は

「酔っぱらい」

簡潔に答えた。



「ふーん。おっさん、こいつは俺の連れなんでその手を離してもらえるか?」


と言うと、

「あーん?なんだてめえは?この姉ちゃんは俺達と一緒に呑むんだよ。すっこんでろ!」

と凄んでいた。だがトウヤは、

「いや、おっさん、聞こえなかったか?俺は手を離せって言ったんだが。それにそいつは今から俺と飯を食うんだよ。邪魔すんな!」キレ気味に言った。


「こ、このガキィ!おいっ!このガキやっちまえ!」と後ろの二人に言う。


「おいおい兄ちゃんよぉ。お前こそ人の楽しみを邪魔するとはどういうつもりだ?あぁん?」

「そうだぞ。そんな野暮なやつはこうだっ!」

とひょろっとした男がトウヤに殴りかかったが、トウヤはその腕をかわし、右拳を男の顔面に叩き込むと、もう一人の小柄な太ったほうのお腹を右足で蹴りとばした。

二人の男は悶絶した。一人は口から何か吐いていた。「ぐぅぅ」

「ぼぇぇぇっ!」

一連の動作はほぼ一瞬である。


そこに居る女の子と大柄な男はポカーンと呆けていた。



「て、てめえクソガキ!なにしやがる!」

と私の腕を離すと、大柄な男はトウヤへ向きあった。

「いや、なにって?殴りかかってきたんで、殴って蹴っただけだが?」

トウヤがキレ気味に言うと男は青ざめた顔で、

「て、てめえツラ覚えたからな!覚えてろよ!」

と言いながら後ずさり、二人の男を引き摺るように逃げて行った。



するとトウヤが呆れたように、

「なんだ、あれ・・・まあいいや。ネク!早く行くぞ!もう腹が減って腹が減って・・・」

と、踵を返して歩きだす。


「わかったわよ。さあ行きましょ。」

と私が言うと、



「待って下さい!」

そんな声がかかった。

女の子は、

「あ、あの、ありがとうございました!おかげでたすかりました。」

と律儀に礼を言ってきた。


「いいの、いいの。偶々通りかかっただけだから、気にしないで?」

と私が言うと、女の子は


「いいえ!そういう訳にはいきません!お礼をさせて下さい!あのー、もし良かったらご飯を食べて行かれませんか?もちろん代金は結構です」

女の子が私にそう言うと、それが聞こえたのかトウヤが振り返った。目を輝かせながら。

これは絶対食いついてるわよね・・・温泉でお肌ツルツル計画が・・・



まあ色々な話が聞けるか、と思い直し

「わかった、有り難くご馳走になるわ」

と、女の子へ笑いかけながら言った。




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