第48話〜動力〜
〜〜〜
ノルエルが伝えてくれたところによると、精気兵を私が触ったり見ることについては思いの外すんなりと許可が取れたらしい。最初に私が提案したときはあれ程頑なに拒否していたあのおっさん、フェニス・カハラの許可が。
そもそも何故、部外者には見せることすらできないのか理解できない。自分たちで長年精気兵を研究してきてそれ以上手の出しようも何の発展も無かったのにも関わらず、だ。そうなると通常は種族の違いこそあれ外部から有識者を連れてきて知恵を貸してもらうものではないのだろうか。
まあ説得できたのは今まで稼働していた者が破壊されて現役で動いている精気兵が無くなったということも要因の1つではあっただろうが。もう一つは、
「どうしましたニルナ?」
私に尋ねてくるこの鬼族の女性ノルエル・ハザマの持つ雰囲気・・・酷薄というか冷静沈着というか、それにあのおっさんが気圧されたのではないかと私はにらんでいる。
「いいえ?なんでもないわ」
私は自分の考えを読み取らせまいと平静を装って答えた。
「そうですか・・・?まあいいでしょう。こちらへどうぞ」
そう言うノルエルの後ろを歩き、
「結構厳重なのね?」
私はノルエルに連れられて鬼ヶ島のほぼ中央に位置する神殿という場所に来た。その建物の奥のほうに稼働していない精気兵が3体程置いてあるからだ。
厳重、というのは精気兵が置いてある部屋、精気の間、というところの扉が2重にありしかも3つずつ施錠されているので私はそう言った。
「ええ、確かにそうですね。あれは材質自体も鋼と銀の合金ですし、なによりあの形状にするための知識も何もないので取換えもきかないものですから、盗まれないようにしておかなければ」
「成程ね」
私はそれ以上何も答えなかった。以前まで唯一稼働していたものは知り合いが破壊しその残骸を持ち帰ったらしいので下手に何かを言って責任を取らされたくないという考えももちろんあるが、それだけではなく、
「もっとも、魔導の使い手や強力な力の持ち主に対してはこんな扉や鍵がいくらあろうとあまり意味を為さないんですが」
私の考えを読んだのかノルエルはそんなことを言った。言っては悪いが剣を振っただけでぶった斬れそうな厚みの扉だし。
そして、
がちゃがちゃ、と鍵を回す音がし2つ目の扉が開いた。
「どうぞ」
ノルエルに誘われてその部屋の中に入ると、
「銀色ね」
私は率直にそう言った。もちろん実際に見て感じたことはそれだけではないが。
精気兵というものは、この島の住民・・・鬼族の使い方の通りおそらくは戦闘用のものなのだろう。ノルエルが言っていたように鋼と銀の合金らしく銀色に輝いておりかなり硬そうであるし、その体長も2m程度はありそうだ。なにより、人や鬼族で言うところの手足のようなものがその身体に取り付けられている。1m程度の長さ、直径が90㎝程度の丸太のような銀色のものを2つ繋ぎ合せておそらく上半身らしき方には横に、下半身らしき方には下に2本ずつ細い棒のようなものがとび出ている。その丸太の繋ぎ目の部分に拳大ぐらいの凹みがある?あれは何だろう。
ノルエルの話だと以前稼働していたものはあの飛び出た4本の棒を使って相手の攻撃を防いだり移動していたりしたらしい。
・・・でも、これは、
「どうですかニルナ?」
「そうね・・・想像していたものとは少し違うわね」
「?貴女はどのようなものを考えていたのですか?」
「基本的なところはそこまで違わないんだけど。何ていうのかな・・・こう、もう少し汎用性というか、色々なことに使えるようなものを想像していたの」
「汎用性、ですか?」
「そう。例えば道具や剣を扱うために物を掴めるような構造だとか、船や馬車みたいに人が乗れたりするような足場や車輪だとか、そんな感じの物があるのかなと思っていたの。ただ、こんなふうに実際に稼働していない状態ではどのような動きをするのかは貴女の話から判断するしかないけどね」
私は一言で言うとがっかりしていた。
精気兵という名前から判断するに、まだ巨大な物だと楽しみにしていたし、もう少し洒落た意匠だと期待していたからだ。
実際に目の当たりにしたら何だか只の無骨な金属にしか見えない。
「そうですか・・・ただ私達にとっては役割を忠実に果たしてくれる便利な物なので見た目や汎用性等は特に気にしなかったのですが」
「まあ、それはそれでいいと思うわよ。私は只好き勝手に言ってみただけだから私の意見は気にしないで?それにそんなことよりも重要なのはまず、」
「動かなければ何の意味もない、ということですね」
「そういうこと。じゃあ、試してもいい?」
「ええ勿論。そのために許可を無理矢理取ったので」
・・・ノルエルは笑顔でそう言った。無理矢理?
気になるところではあったが気にしないことにし、私は寝かされている精気兵の一体へと近づきその胴体を触った。あることを試すために。
それは、
「ハァァァッ」
パァァァッ
精気兵というぐらいだから、稼働していないそれにプラーナを注ぎ込むことで何らかの反応があるのではないかと考えたからだ。特にこの鬼ヶ島、火喰い島の大気中には濃いプラーナが充満しているため、私はかなりの量のプラーナを取り込むことができる。
だから私は、しばらくこのまま私に取り入れて集めたプラーナをこの一体に注ぎ込んでみることにした。
「・・・」
「・・・」
そして、
「・・・何も起きませんね?」
「・・・ええ」
しばらく・・・凡そ10分ぐらいプラーナを注ぎ込み続けてみたが精気兵に何も変化らしきものが起きず、私はノルエルに答えた。
「その精気兵の状態が悪いのでしょうか?」
「どうなのかしらね」
状態の違いは私には分からない。此処に寝かされている三体はどれも同じように見えるし。
「あっ!」
「なに?ノルエル?」
ノルエルが急に何かに気づいたように叫んだので私は尋ねた。
「そう言えば精石を取りつけるのを忘れていました」
てへっ、と全然表情を変えずににおどけてそんなことを言うノルエルを見て殴りたくなったが、我慢し、
「精石?」
私は尋ねた。
「そうです。精気兵に欠かさず取り付けられている赤い石のことです。我々の中では以前稼働していた精気兵のそれを破壊されたため動かなくなったという結論が出ているので」
その精石が付いていないこれらにいくらプラーナを注ぎ込もうが意味がないでしょう、とノルエルは言う・・・本当に殴ってやろうかしら・・・?
「と、とにかくすぐに持ってきますね!」
何故か慌てたようにノルエルは言い素早く部屋を出て行った。
私がノルエルの顔を睨んでいたことは別に関係ないだろう。と思う。
しかし、と私は思った。
此処に並べてある3体の精気兵はどれも皆一緒に見える。寸法といい、色合いといい。
一体誰がどのようにして、どんな目的でこれを造ったのだろうか?しかも以前トウヤに破壊されるまで動いていたやつは齢2000歳を超えるというあのフェニス・カハラが生まれたときからすでに動いていたらしい。永年の間何の燃料も無く自動で動く・・・この世にそんな物が存在しているとは。
何らかの特殊な技術か方法があるのだろうか?それこそこの島の鬼族が使うような魔法のようなものとか?
「お待たせしました!」
私が思考に耽っていると息を弾ませながら戻ってきたノルエルがそう言った。
その手には赤い宝石?のようなものを持っている。
「それが精石?」
「ええ。これは別に宝物庫へと保管してましたので」
私はノルエルからその赤い石を受け取ると、丸太の繋ぎ目にあった凹みにその石をはめ込んでみた。見た感じでは丁度収まる大きさだったので何の迷いもなくそこだろうと決めつけて。
ガコン
やはり寸分の狂いもなくそこへと収まった。
「・・・これでいいの?」
「そうですね。ではもう一度プラーナを」
「分かってるわ」
「そ、そうですか」
「いや、私は別に怒ってはいないわよ。ただノルエルのせいで2度手間になって無駄な時間を取られたな、と思っただけで」
「うう・・・すいません・・・」
ノルエルの顔を見ながら私が言うとノルエルは何故か縮こまっていた。
「じゃあ改めて。・・・・・・ハァァァ!」
再び私は、寝かされている石を嵌め込んだ精気兵の1体へとプラーナを注ぎ込んだ。
ガガガガガガガガガッ!
!?
精気兵から何か凄い音がしたが?
ピー!
プシューーーッ!
そして何か鳴き声のようなものが聞こえ、そして白煙が巻き起こった。
「何が起こったのノルエルッ?」
「私にも分かりません!」
白煙で前が見えなくなった私がノルエルに尋ねるも全く頼りにならない答えが返ってきた。
「成功、したのかしら?」
私は白煙に覆われた精気兵を見ながら言った。
「それはなんとも」
そして、白煙が晴れた。
「・・・ノルエル?」
「・・・はい?」
「前に動いていたやつって、こんな感じだったの?」
「いいえ。あんな部分は無かったかと・・・」
私がノルエルから聞いた話では精気兵は先程まで寝かされていたあの形だったということだが。あの2本繋ぎ合せたつるりとした丸太が伸びていたという。
だが、
『ガ、ガガ、ゴ、ゴシュジン、サマ、オ、オハヨ、ウ』
「喋っ・・・?二、ニルナこれはいったいどういうことでしょう?」
「私が知るわけないでしょ!」
目の前に立ち上がっている精気兵。それの上半身と思われる部分の正面にある穴から音声が聞こえて
きたためかノルエルは慌てていた。
聞くところによると以前稼働していたものは上半身にあのような穴は無かったらしい。人で言うところの口や目のような穴は。そしてその穴から音が聞こえることも・・・
〜〜〜
バランは精確には何と言っていたのだったかしら?
私は黒く染まった自分の腕を見ながら、そのことを思いだそうとしていた。
闇の大陸の鍛治師、バラン・オオガミ。あの犬のような姿を持つ神の末裔は・・・
確か、『嘆きの杖は太古の昔にある大魔導士が造ったもので神々の武具のように使い手の力に因って特性や形状に様々な変化が起こり、またその使い手の魔力が強大になればなるほどその効力が上昇する』、だったかしら。
そして私が復讐の準備をしていたあの100年の間に見つけたこの世界で最も優秀であろう鍛治師のあの狗族は確かこうも言っていた。
『この世界の何処かには武具の形を取っている魔物を封印したものがあるらしい。お主は封印を解除する術を持つロストマジックの使い手ではあるが、もしそういったものの解除をする機会があるのなら下手に触らぬことじゃ』、と。
バランはこれが言いたかったというわけね・・・
私は自分の手を見つめながら、
『何故ならそういった武具はとてつもない力、もしくは想いによってその形状をしておるから、もし手を出そうものなら手痛いしっぺ返しを受ける可能性が大きい』
と言っていたバランの言葉を思い出していた。
黒い鱗の生えた腕を見ながら・・・
〜〜〜
「あの辺りじゃないのか?」
俺達は黒竜から教えてもらった鍛治師が居る狗族の村という場所へと向かっていた。目で探しながら。
というのも、その狗族の村というのは黒竜が魔導結界とかいうものを張っているらしく、黒竜やミシルでも魔力が感知できないからだ。何故黒竜がそんなことをしたのかを聞いてみると、自分と関わりのある貴重な種族だから闇の大陸の他の魔物に襲われないように保護するためだ、と言っていた。ただしその村の奴等は並の魔物よりもかなり多くの魔力を持っているらしくあまりその必要はないが、自分がそうしたいからそうしている、つまり魔導結界を張っていると黒竜は言っていた。
俺の炎斬を見てもらえるだろうか?それと俺はそいつのふかふか感を楽しめるだろうか?
その鍛治師は人間が嫌いだという黒竜の言葉も一緒に思い出し俺は密かにため息を吐いた。
「あそこ?ああ、あれか」
風に乗って空を飛んでいた俺が指し示した場所をフェンも見たのだろう、遠くに見えた門のような物をフェンも指していた。
「狗族、竜族、鬼族・・・」
「どうした、リシナ?」
リシナがぶつぶつと独り言を言っていたので俺は気になって尋ねた。
「いえ・・・少し考え事をしていました」
この世界の種族について、とリシナは言った。
「種族について?どういうことだリシナ?」
リシナが何を考えているのかよく分からないのでさらに聞いてみると、
「つまりですね、」
リシナが考えていたことは要するに、俺が日頃から疑問に思っていたことらしい。というのは、俺達人間と黒竜のような竜族、それに前に出会った鬼族の奴等と普通に会話ができたことだ。
さらに水の大陸のミシルや風の大陸のフェンと、その生い立ちや大陸の場所、今までの歴史も違うような俺達がこうして自然に交流していることもその疑問に含まれる。さすがに獣とかの動物は別だが。
「うーん・・・俺もそれは考えたことはあるけどな?まあ考えてもよく分からないし別に会話が可能な理由を知らなくても困りはしないだろ。だからあまり気にする必要はなくないか?」
だから俺は物事を細かく考えていそうなリシナにそう言ってやった。
「ええ、まあ。考えても分からないというのは同感ですが、何か気になるというか。それに黒竜さんに聞くのを忘れていましたが今から会いに行く狗族の方というのは会話が可能なのでしょうか。見た目が犬のような姿ということでしたが」
ああ、そういうことか。
つまりリシナが何を心配しているかというと、もしかしたら話せないとか襲われるとかそういうことを心配しているのか。
「おそらくそれは大丈夫だろう。大きな魔力を持つ人外の者は大抵私たち人間と話すことが出来るはずだ」
「そうなのか、ミシル?」
「ああ。以前手を組んだ魔物、あの獅子も喋れていたしまさしく人外、というより悪魔の姿をしていた者ですら会話は可能だった」
「悪魔?」
「そうだ。というのも、」
ミシルが闇の大陸に来て戦っていた相手の話をした。あの獅子の魔物を圧倒して手を組んだとか悪魔を倒したとか。
・・・こいつ、物凄く強くなっていないか?
俺はミシルの話を聞きながらミシルはそんなに強くなっているのか、と驚いていた。
「とりあえず門に着いたぞ」
と、フェンが突然俺達に言った。
俺達が話しているうちにいつの間にか先程遠くに見えていた集落の前に来ていたらしい。
「そうか。ありがとうなフェン。じゃあ中に入って早速バランってやつを、」
?
あれは何だ?
俺が喋りながらその集落の中を覗きこんでいたら、何か気になる物が見えた。
「破壊されているのでしょうか・・・?」
俺が見ている物をリシナも気づいたらしい。
「ああ。家、みたいな建物がいくつかあるがあれはぶっ壊れてるよな」
門から一番近い家みたいな建物が他のそれとは違いとても無惨な姿になっている。まるで大砲を何発も食らったような?
何かがあったのか、と思い俺達は無言で顔を見合わせて素早くその門をくぐり抜け集落、村に入った。
「バカなっ!?」
門をくぐり抜けた途端ミシルが叫んだ。何だ?
!
これは・・・魔力ってやつか。しかし黒竜の話だと狗族っていうのは強力な魔力を持って・・・!?
「これは、非道いな・・・」
俺は何故か急に感じるようになった魔力らしきものが近くにあることを確認しつつ、残骸になった家の周囲に倒れている複数の犬らしき死骸を見て呟いた。これが狗族って奴等だろうか。それにしても酷いことをする。
「何があったのでしょう・・・」
「分からないな。魔物に襲われたのか?それにミシル?お前は何を驚い、」
「そんな筈は・・・!」
俺がミシルに尋ねようとしたらミシルは魔力らしきものを感じるほうへ駆け出して行った?何だ?
「何者かに襲われた、のは間違いないだろうな」
「だけどなフェン?黒竜が言ってたろ。倒れているこいつら・・・おそらく狗族って奴等だろうけど黒竜の話だとかなり強い魔力を持っているって。だからそう簡単には、」
「!もしかしたらラドンって奴じゃないのか?」
「確かにあいつの強さなら分からないが。でも、ラドンの魔力を感じ・・・!!」
そうか!黒竜の言ってた結界ってやつか!
それに気づいた俺はミシルが危険かと思い、あいつが駆け出した方向へ続いた。
「何故貴様が生きている!デュカ・リーナッ!!!」
そして、駆け出した先に居た人物へと向かいミシルがそう叫んでいた。




