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第46話〜クロユリ〜

〜〜〜




「そっちこそ!」


あたしはおそらくあたしと同年代ぐらいの少女があたしたちに向かってそう怒鳴るのを何気なく聞いていた。

その傍らには他にも同年代ぐらいの、同じ顔をした少女が2人居る。双子?


それにしても何故こんなところに居るのだろうか?


あたし達はサラマンドラの案内で竜族が使う特殊な通り道、龍巣を火の大陸で使った。それを使ってまず試しに一番近い大陸である水の大陸に移動した、と思っていたのだが、何故人が居るんだろうか。それもあたしとそう変わらない歳・・・?

良く見ればその少女達は皆黒髪に黒瞳をしている?



「ねえ、水の大陸の人の見た目って確か、」


「金髪に青い瞳、の筈です」


あたしが言いたいことを察したのかガロウが素早く答えた。



「そうよね。じゃああの子達は水の大陸の人間じゃないということなのかしら?」


「おそらくは違うと思います。それに、」


「なに、ガロウ?」


「あの真ん中の少女・・・どうも最近何処かで見たことがあるような」


真ん中の少女。というのは今あたし達に怒鳴った人物のことだろう。長い黒髪に気が強そうなその瞳を見てあたしもおや?っと思った。ガロウが言うようにあたしも何処かでその顔を見たことがあるような気がしたからだ。

うーん・・・あたしの周りにあたしと同年代の女の子は居ないから一度でも会ったことがあるならすぐに分かりそうなものだけど・・・・・・あっ!!



「分かったわガロウ。あの子の顔、ニルナ・カナワに似てるんだ!」


「ああ!成程!」


あたしの言葉にガロウも納得した様子だ。



「?・・・貴女達はニルを、姉を知っているの?」



あたし達の会話を聞いていたのかその少女はそんなことを言った。




〜〜〜




私はその4人のうちの少女と青年が話す内容を聞きながら姉であるニルナの名前が聞こえてきたのでつい口を挟んだ。



「姉?貴女はニルナ・カナワの妹?ということは、火の大陸のカリュウ村の子かしら?」


おそらくは私とそう年の変わらない少女が私に尋ねてきた。

見た目は若く見えるがやけに威厳というか大人びた雰囲気というか落ち着きというか、そんなものを感じさせる少女だ。

それにその質問の内容から判断すると、この少女も火の大陸の人間のような気もする。


「ええ、そうよ。このアリナとユリナはイグナ町出身だけど」


私は素直に答えた。


「そう・・・じゃあ此処は・・・」



?少女は何故か少し落ち込んだように答えるが、何故だろう。



「?いえ。今貴女は出身と言ったわね。此処は何処の大陸?」


少女の質問の意図が分かった。

つまり、


「此処は水の大陸、水龍の祠よ。つまり貴女達は何処かの大陸から・・・?」


私は喋りながら先程の会話を思い出した。カリュウ村の名を知っている、ということはもしかして、


「火の大陸の龍巣を使って此処に来たのよ。良かった。どうやら成功したみたいねサラマンドラ?」



少女は私に答えてから傍らの少年に話しかけていた。サラマンドラ?


『当然じゃ。我を誰だと思うておる』


そのサラマンドラと呼ばれた少年はやたら尊大な口調で答えていた。


「・・・もしや君はネク・カナワか?」


ガロウと呼ばれていた青年が私に尋ねてきた。


「え、ええ。何故それを、って。ニルと知り合いなら知っててもおかしくはないわね」


だが、と思う。あの無愛想がぺらぺらと家族のことを喋るだろうか?いや家を出て3年経つからその間に社交性が身についたのか?

私がそんなことを考えながら余程怪訝そうな顔をしていたのだろう。ガロウという青年が、



「ちなみに、それはニルナ・カナワに聞いたわけではないぞ」



?じゃあ、なんで私の名前を知っているのだろうか?


「それに君のその連れは、アリナとユリナと言ったか。クロカゲ家の者ではないのか?」


「「!?」」


姉妹がとても驚いている。

「どうやら図星だな。君達が何故龍巣に居るかは分からないが、私が君達の」


「名前を何故知っているかと言うと、鬼ヶ島探索の報告書を見たからよ。アズト・ミタラのね。聞きたいのだけど、他の人達は?アズト・ミタラと、トウヤ・ヒノカ、それにリシナ・トゴウだったかしら?一緒じゃないの?」


泉の底から上がってきた少女がガロウ青年の言葉を途中で引き取りそんなことを言った。アズトさんの報告書、つまり報告書を提出した依頼者。ということは、

「貴女達は政府の?」


「そ。あたしはシエル・スサノオ。この堅物がガロウ・サイハ。この子供が、」

私の気づきを肯定した、火の大陸のお姫様が連れている者達の紹介をし始めた。




〜〜〜





俺は基本的に伝説というものはあまり信じてはいない。いなかった。今までは・・・


それは伝説というものはそもそも何処の誰がどんな根拠を持って伝えたかも分からないような代物だと思っていたから騙されるのはいやだと。

少し前に読んだある書物、何とかというおっさんが纏めた冒険記、ああいうものは誰が何処で、ということがはっきりと分かるので特に文句はないのだが、それとは別の、例えばある一族にだけ伝えられている口伝とかいうものはどうも意図的に何らかの意味が隠されているような気がして頭から信じる気にはなれない。・・・なれなかった。

やっぱり自分の目や耳や体験で確かめてみないとな。

しかし俺は今後そのような考えを少し改めてみようかと思った。

というのは、



「成程な。何故私が此処に居るのか、腕が上がっているのか、魔力が扱えるのか全て思い出した。トウヤ、先程の貴様の話の内容も全て理解できた」



ミシルが全てを思い出したからだ。

つまり、ニーズヘッグが話してくれたセフィロトの果実に関する伝説とやらは全て真実だということがミシルによって判明したからだ。



「・・・俺がさんざん説明して駄目だったのに果実をかじるだけでミシルが全て思い出すなんて微妙に納得がいかないんだが・・・」

伝説というものがそれなりに信憑性が高いことが分かったことはいい。しかしこんなにあっさりと説得?できる便利なものがあるのなら剣まで交えて話しかけた俺の立場は・・・


「まあ、そう言うなよトウヤ?良かったじゃないかミシルさんの記憶が戻って」

フェンが俺を宥めるように言った。ミシル、さん?何故さん付け?



「ああ、そうだな・・・」

まだ納得はいかないが、フェンの言うとおりミシルが思い出したなら良しとするか。


「しかし魔石とはいったいどのような・・・?羅義神人さんと話した時には闇に堕ちたとか、人を捨てたとか、そんなことを仰っていましたが。ミシルさんが使った魔石と羅義神人さんが使った魔石とは同一のものというわけではないのでしょうか?」


リシナがそう疑問に思うように俺も魔石とやらの効力や作用がよく分からない。確かにミシルと羅義神人は2人とも魔力を扱うことができる。しかし記憶を失っていたミシルに対して羅義神人はかつての記憶、それこそ二百年以上前のことを憶えていた。この違いは何だ?いやもしかしたらあいつも果実を食って記憶を取り戻した、という可能性もあるが。



『・・・魔石とやらの違いはよくは分からぬが。そのミシルという者と羅義神人という者の違いは分かる。決定的な違いがな・・・』

「?どういうことだニーズヘッグ?ミシルと羅義神人との決定的な違いって?」

俺は何かを知っているような黒竜(ニーズヘッグ)に尋ねた。


『うむ。決定的な違い、それは・・・』


選ばれし者かどうか、とニーズヘッグは言った。


何に?と思った俺が再度尋ねると、


『無論、邪龍(ラドン)にだ・・・』



それからニーズヘッグは静かに語りだした。




▽▽▽



〜龍神界〜



『つまり(ラドン)をこの世界から追放したと?』


まだ(ニーズヘッグ)が龍神界に居た時・・・我は龍神様からそのことを聞いた。

『そうだ。(ラドン)は決して犯してはならぬ禁忌を犯した』


龍の眷属を殺しあまつさえその肉体を喰らうという禁忌を、と龍神様は仰った。

そして、


『それで(ラドン)を・・・?』


『・・・(ラドン)の持てる力を取り上げ魔界へと追放した。汝等の長である我までも禁忌を犯すわけにはいかぬのでな、殺すことはできなんだ・・・その代わりに一個の無機物として(ラドン)には存在することを課した・・・』


我は他の六体の(もの)が龍神様の言葉を聞いている中で、(ラドン)と血の繋がりがある我だけがおそらく持つ感情、怒りと哀しみを感じていた。

同じ黒竜族の(ラドン)に対して・・・


龍神様は続けた。


『・・・己が眷属を喰らっても何も感じることの無き邪悪なる感情を持つ龍・・・邪龍と呼ばざるを得まいそして、特に近しい汝には掟により・・・』


我は抗うことなく龍神様のその命令に従った・・・




△△△




それで人間界で最も魔が集まる此の場所・・・闇の大陸に我は落とされた、とニーズヘッグは言った。

その話を聞いた俺は、


「つまり、ニーズヘッグはラドンの尻拭いで此の闇の大陸の守護者になったってことか?」


ニーズヘッグが此処に居る理由を確認したくて尋ねた。


『・・・身も蓋もない言い方だがその通りだ。故に我は奴を滅ぼさねばならん・・・』


「そうか。じゃあ他の竜、例えばサラマンドラとかも何か理由があって火の大陸に落とされたのか?」


レヴィアタンとかもどうなんだろうな?


『我以外の(もの)はそれぞれの特性に見合った土地へと存在している・・・』

「特性?」


『そう・・・例えばサラマンドラならばーーーーーー』



俺はニーズヘッグが他の竜の特性について話すのを聞いていた。



「成程。其々の得意な場所に居るってことか。それにニーズヘッグの話でラドンが龍神や竜に怨みを持つ理由はわかったけど何故、」

人間にも怨みを持っているんだろう?と尋ねてみた。

『分からん・・・奴が剣、邪龍の剣として雌伏している時に人と何らかのいざこざがあったのかもしれん・・・』



ニーズヘッグでも理由は分からないのかそんな答えが帰ってきたが。でも剣になったラドンは魔界に落とされたって話なのに何故人間界にありしかもそれを羅義神人持っていたのか、選ばれたっていうのはどういうことか、と色々と腑に落ちないところがあるのだが。


『龍神様はこうも仰っていた・・・邪龍の剣となったラドンの感情、それにより大きな負の感情を持つ者の元へと辿り着く、と・・・』


それでも魔界にそれが存在する限り特に憂う必要はない、らしい。

いや、人間界にあるじゃねえか!と、俺が突っ込むのは無理ないと思う。



『そう。汝の言う通りだ。もしやと思いあの人間の挙動を見張ってはいたが、結果あの人間はラドンにその肉体を乗っ取られて、』


ラドンと化したあの人間に我は負けた、と言うが。


「俺が知りたいのはそこだ!」


『・・・?どういうことだ?』


「つまりだ。あいつは俺が見ている目の前で羅義神人からラドンへと変貌した。細かいことは分からないが。でももしかしたらその逆、ラドンから元の羅義神人に戻ることが可能かどうかだ!」



横目で見るとリシナが頷いている。あいつもそれを知りたいようだ。



『不可能ではないとは思うが、実際の所は不明だ。(ラドン)は復讐の感情に駆られている。そう易々と手に入れた肉体を手放すことはないだろう・・・だが汝ならばあるいは、』


俺を見て、


『汝が本当に・・・』


預言の者ならば、とニーズヘッグは俺に言った。


それを聞いても俺は何のことだか意味が分からなかったが。




〜〜〜




「りいなちゃん、君はいったい何者・・・?」


今、りいなちゃんから一瞬感じた凄まじいチカラに戸惑った僕は尋ねた。



「わたし?」



しかしりいなちゃん自身も自分のことがよく分かってない様子だ。


だが今のはもしかして?



ゴォォォッ!



僕が考えているといつの間にか目の前に青白い炎が迫っていた・・・!



「ほのお?」


僕の陰から飛び出たりいなちゃんがそう呟くと同時にその青白い炎へと手を翳した。


「りいなちゃん!危ない!」


何故そんな危険なことをするのかと思いながら僕は叫んだ。



シュウッ



しかし目の前に迫っていたその青白い炎がりいなちゃんの手の中で急に消えた?



「お前は何だ!己の頭を掻き乱し魔力を持ち、その上、」

先程りいなちゃんに吹き飛ばされた黒い生き物が此方へ・・・りいなちゃんへ怒鳴りながら、



「己の焔までも通じないお前はいったい!?」


黒い生き物が手に持っている剣でりいなちゃんへ斬りかかった。

りいなちゃんが!


「なにもの?」



キィキィンッ!



しかし僕の心配したようなことにはならなかった。

りいなちゃんはその小さな身体の何処にそんな力があるのかと思う程に力強く手に持った銀色の棒を振り黒い生き物の剣を受け止めた


「わたしはなにもの?」


「・・・どうやらただの人間ではないようだ・・・・・・それに」


黒い生き物が何かを考えている?


「己はお前を見たことがあるような気がっ?」


「あなたはわたしのことをしっているの?」


「己は知らん!だが、己の中のラギ・シンドが叫んでいる!お前を殺すなと!」

「!?・・・らぎしんど?」


りいなちゃんの様子がおかしい?何かを躊躇うような考えるような?剣が目の前にあるにも関わらず・・・


「らぎしんど・・・らぎ・・・・・・しんど・・・?」


「己は全てに復讐すると誓った!お前にかかずっている暇はない!やめろ、ラギ・シンド!」


僕がりいなちゃんの心配をしていると、今度は黒い生き物の様子までもがおかしくなった?どういうこと?

「し、んど・・・しん、ど・・・シ、ンド・・・シン、ド・・・・・・神、人」

りいなちゃんが?



「己の邪魔を、するなぁ!己はぁっ!」


黒い生き物が?



僕はりいなちゃんと黒い生き物の両方がお互いを見ずに其々何事かを考えている様子を話しかけることもできずに黙って見ていた。



「神人・・・神人・・・私の・・・私の・・・」


「この身体は返さん!ウォォォォォ!怨念黒花(ブラックサレナ)!」



りいなちゃんが虚ろな目をして黒い生き物へと近づこうとした瞬間、黒い生き物の身体が光り輝いた。



「私の・・・子・・・」



虚ろな目をしていたりいなちゃんは急に目の前に現れた光に驚いたのか光から目を逸らし何事かを呟いていた。

そして、黒い生き物は・・・




「危ないところだった・・・まさか親という奴が生きていたとは・・・だが己の復讐心のほうが勝った、か・・・」



そんなことを呟きながら光が消えた場所から現れた。


まるで花弁を何枚も纏ったような、その皮膚を幾重にも重ねた姿に身体の形を変えて。


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