第45話〜忘れ得ぬもの〜
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昔、ある大陸に一匹の全身毛だらけの生き物が居た。その生き物は群れからはぐれ身体も弱り録に歩くこともできず、餌を狩ることさえできなかった。
大陸をふらふらとさ迷い続けたその生き物がいよいよ自分の寿命を悟ったとき、何処からともなく突如一筋の光が目の前に降ってきた。
その生き物は最後の力を振り絞り、一歩前へ進んだ。光の中へ。
そして・・・声を聞いた。
『この実を食べなさい』
その声と共に眼前に差し出された一個の赤い果実を今にも倒れそうなその生き物は何の疑いもなしにかじりついた。
その途端、弱った身体は回復し元気になったその生き物は駆け出した。
駆け出した先には新天地が待ち受けていた。
その生き物はそこに住み処を造り、子孫を繁栄させたという。
「私は○○○の声を聞いた」
獣の姿を持ちながら言語を話すその生き物は、後にそう言ったという。
何の声を聞いたかは定かではない・・・
△△△
俺はニーズヘッグが話すその昔話を聞いていた。
そしてその抽象的な昔話の中で知りたい、突っ込みたいことがいくつかあるので、
「なあ、その生き物って何の獣なんだ?それに大陸って、此の大陸じゃないのか?」
ニーズヘッグに尋ねてみた。
『我もそういう風に話を聞いただけだからな・・・聞かれても答えようがないのだが・・・』
?こいつ、細かいところを知らないのか?
「そうか・・・まあ分からなかったところでどうということもないが、」
少し気になっただけだ。
『ただ、我の推測ならば・・・』
「?何か分かるのか?」
『セフィロトの果実の伝承は今の話だけだ。伝えられるうちに細部が変化、というより簡略化されただけということも考えられるが・・・しかしその話の内容から考えてみると、』
俺はニーズヘッグがしてくれた果実の伝承を思いだして考えた。
「うーん。全身に毛が生えた生き物・・・そいつは体力が回復して駆け出した・・・つまり足があるということか・・・」
『哺乳類、という種族ではあるだろうな・・・』
確かにそれは鳥とかじゃないな。犬とか猫とか熊とかそのあたりか?そしてその中でも群れならば・・・
「話の感じとしては犬とか狼が一番近いか?」
『そうだな。群れをなす毛が全身に生えた哺乳類、と言えばそのあたりか・・・?』
「うーん・・・生き物が仮に犬、もしくは狼として、でも場所は何処なんだろうな?やっぱりセフィロトがある此の闇の大陸か?」
果実を云々言うぐらいだからそうだろうと思うんだが、
『いや、そうとは限らんだろう。かつてセフィロトは此処ではない場所、大陸に存在していたと聞く・・・』
「そうなのか?別の場所に樹が生えてたのか?」
『そう。一説にはそれを此の闇の大陸に持ってきて植え替えたと・・・』
「いや、誰がだよ!あんなにでかいのにそう容易く植え替えることができるって!それに前にセフィロトがあった大陸って何処なんだ?」
何か嘘臭い話だな。
『誰がそれを行ったかは不明だ。が、以前にセフィロトが存在した場所は光の大陸、らしい』
「光の大陸?それって此処から大分遠いんじゃないか?」
『ああ・・・方法は不明ではあるが。それに果実の伝承の内容を思えば、』
「・・・一筋の光ってやつか」
『そうだ・・・何処からともなく光が射すというのは光の大陸ぐらいしか考えられん。そのことを踏まえればセフィロトが以前光の大陸にあったということにも信憑性がある・・・』
「成程な。!待てよ。もしかしたらその伝承の獣って竜・・・・・・いやそれはないか」
俺はその獣が竜かと一瞬思ったが、よく考えれば竜はこのニーズへッグやラドンみたいに全身に毛が生えていない。むしろ鱗みたいなものだ、と思い直した。
『・・・我も始めは汝のように考えた。龍神様よりこの役目を承った際にな・・・だが違うだろう』
「え?じゃあなんでその龍神様とかって奴はニーズへッグにセフィロトを護る役目を与えたんだ?」
『さてな・・・龍神様の御心は我の知るところではない・・・』
それでいいのか、と思ったが俺が口をだすことでもないと思い何も言わなかった。
「・・・それよりも、貴様はラドンを追わなくて良いのか・・・?」
今まで黙っていたミシルがもっともなことを言った。
『うむ・・・それがな、』
何故か奴の魔力を感知できない、とニーズへッグは言った。奴は今何処に居るんだ?
~~~
「違う、あれは悪い奴だ!りいなちゃん逃げて!」
僕はりいなちゃんを庇うようにしながら必死に叫んだ。あの黒い生き物は危険だ!
「わるいやつ?」
りいなちゃんは首を傾げている。
「りいな・・・?あ、頭がぁぁぁ!」
!?
黒い生き物が急に頭を押さえて苦しみだした?
もしかして逃げられるかも・・・?
「りいなちゃ、」
そう思い僕がりいなちゃんを連れて外に出ようとした。
その時。
ブンッ
ズガッ!
黒い生き物が持っていた剣が家の出口の横に突き刺さった。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・お、己の頭を掻き乱す奴は、殺す!」
剣を此方に投げてきた黒い生き物が牙をむき出してそう言った。
甘かった・・・
「氷嵐!」
ファオオン!
そんな声がしたと思ったら、家の外から入ってきた白く輝く吹雪が黒い生き物を襲った。
吹雪に覆われている黒い生き物を尻目に僕はりいなちゃんと急いで家の外に出た。
「長老・・・」
外に出た僕は口から吹雪を吐き出している長老を見て呟いた。
「ウルホが、ウルホが・・・」
僕が長老に話しかけると長老は眼で分かっている、という風に優しげに頷いた。
「大丈夫かロラン?」
「何があった?」
「ウルホは?」
と、ウルホの家の前に続々と集まってきた村の者たちが口々に僕に尋ねてくる。
「ウ、ウルホがあの生き物に、」
泣きそうになりながら僕は答えようとした、
「黒焔砲!」
その時家の中からそう叫ぶ声が聞こえ、
ドガンッ!
黒い炎に覆われたウルホの家が噴き飛んだ。
「ぬう。魔導か・・・!」
口から吐き出していた吹雪を黒い炎で消された長老が呟き、
「小賢しい真似を。だが、己にその程度の魔法は通じん!」
黒い生き物が炎の中から現れた。
「黒竜じゃと!?」
黒い生き物の姿を認めた長老が何故だか驚愕している。
「なんだ。そんなに黒竜の姿が珍しいのか?」
嘲るように黒い生き物が言う。竜?
「な、何故黒竜が我らの村を襲う!」
「何故だと・・・・・・!成程、お前はどうやら勘違いしているようだな」
「勘違いじゃと?遠い昔からの約束・・・連綿と続く違えようもないそれをどうして我らが間違えようか!」
「約束ねえ・・・・・・どうやら読めたな・・・ニーズへッグの役割が」
「?・・・お主は守護者では・・・?」
「どうでもいい、そんなことは!己はただお前らを糧にする!」
そう言いながら黒い生き物の身体が膨らんで・・・?
「お主は・・・?」
「黒焔雨!」
黒い生き物の身体から放出された塊が上空へ・・・?
ズドドドドドドッ!
「うわあああ!」
「ぎゃあああ!」
「がああああ!」
その塊が無数の細長い黒い針状のものに変わり村に降り注いだ!?
「ロラン!退けい!」
ズボッ
村の者たちが黒い針状のものに貫かれるのを呆然と見ていた僕は長老に押し飛ばされ、
「ちょ、長老!!」
長老の身体にその黒い針が当たった・・・
「ちっ。全滅してはいないか。だが・・・」
黒い生き物は自分の戦果を確認し、息も絶え絶えな村の者に近づいていった。
「ロ、ロラン・・・無事、か?」
「ぼ、僕はだ大丈夫だよ!」
長老が虚ろな目で僕を見てくる。
「そうか・・・あの者、は?あの小さき・・・」
「りいなちゃんのこと?」
慌ててすぐ傍のりいなちゃんを見ると、どうやら僕の身体の陰になっていたためりいなちゃんも無事らしい。
「無事だよ、りいなちゃんは。でもみんなが・・・」
僕は呻き声を上げていたり声すら発していない村のみんなを見ながら言った。
「そう、か・・・お主だけでも、逃げろ・・・」
「長老?」
地面に倒れ伏した長老が僕に優しく微笑みながら、
「我が子、よ・・・」
目を閉じた
「長老ぉぉぉぉぉ!!」
僕は泣き叫んだ。
厳しくて強くて、でも優しい・・・僕の・・・
父が・・・
「あああああああああ!!」
「ろらん?どうしてないているの?」
「僕の、父さん、が・・・・・・」
「とうさん?おやなの?」
「そうだよ・・・それをあいつが、」
僕は涙の浮かんだ目で黒い生き物を睨みつけ、
「あいつが殺した・・・!」
「そう・・・・・・・・・とってもかなしいことなのね」
黒い生き物は倒れている村の者を・・・!?
「な、何をやっているんだ!?」
まだ息がある者へ食らいついている黒い生き物へ、僕は怒鳴った。
先程まで動かなかった口が勝手に。
「・・・?ああ、お前か・・・まだ生きていたとはな。こいつらを食らいきったらお前もすぐに殺してやるから待っていろ・・・!」
黒い生き物が僕を見下したように言った。
「ねえ、ろらん?」
「(りいなちゃん。君は早く村を出ていくんだ)」
僕は先程黒い生き物がりいなちゃんを殺そうとしたことを思い出しひそひそと話しかけた。
幸いにもあいつはりいなちゃんがまだ生きていることに気づいてはいない。
「いや。わたしはろらんといる」
「(りいなちゃん!)」
「あのくろいやつがろらんをなかしたの?」
?
りいなちゃんが黒い生き物を見ながら僕に言った。
「(そうだけど。それよりも早く!)」
君だけでも。と僕は必死になって言った。
「あのくろいやつがわるいのね」
「りいなちゃん!」
つい大きな声を出してしまった。
「五月蝿い奴だ。そんなに死にたいのならお前から食ってやる・・・!」
その声を聞き咎めたのか黒い生き物が此方に向き直り近づいてきた。
「ふぁんぐ」
ズオッ
「なっ!?うおおっ!!」
ドゴンッ
!!?
何が起きたの?
黒い生き物を・・・
後ろから巨大な銀色の棒が飛び出てきて吹っ飛ばした。
何が起きたかよく分からない僕が首を動かしてきょろきょろとあたりを見てみると、
「あれ?」
首を傾げて銀色の棒を持っているりいなちゃんが居た。
〜〜〜
中々戻ってこないな・・・私は水龍の祠にある龍巣というものを使って何処かへ行ってしまったトウヤ達に何かあったのではないかと考えていた。
あれからしばらくこの祠の中を調べたり外に誰か居ないか探してみたりしていたけど目ぼしいものは特にない。
「師匠達まだ帰ってこないね」
双子の姉妹の姉アリナがぼやいた。
「そうだね。泉の底が光ってあの3人の姿が消えてから結構経つね」
「・・・でも不思議だった」
姉妹の妹ユリナがぼそっと呟いたように、泉の底が光ってあの3人が消えたのは実際にこの目で見たら何とも不思議な光景だった。
「ネクちゃん。それにユリナも。結局何の仕業だと思う?」
アリナが私と自分の妹に聞いているのは、
「うーん・・・3人が3人とも似たような予感を感じたり声を聞いたりしたっていうことね。どういうことなんだろうね」
そのことだろう。
消えた3人はそれを聞いたりしたような素振りが何も無かったので、それはこの場に居る3人だけだと思う。私もそんな予感が無かったら当初の予定通りトウヤ達に付いていくつもりだったのだけど。おそらく姉妹もそうだろう。
「・・・もしかして」
「何か分かったのユリナちゃん?」
「・・・私達は拒否されたんじゃないかな」
「拒否?」
「・・・うん。龍巣に認められてないっていうか・・・」
「何で?」
「・・・多分だけど」
強さが足りないのかも、とユリナちゃんは言うが。
「え、でも。龍巣ってそういうのが分かるものなの?」
確かに私はトウヤやリシナさんに比べたらあまり強くはないがそんなことが分かるものだろうか?
それに、
「アリナちゃんやユリナちゃんは強いじゃない?」
「・・・ネクちゃんとそう変わらないと思うけど」
「そう?じゃあやっぱりユリナちゃんが言うように私達は強さが足りないっていうことなのかな・・・?」
私は強さとかあまり気にしたことはないが、そう言われると少し落ち込む。
それは、
「何か置いていかれた感じがするのよね・・・」
トウヤに。
私は溜め息を吐いた。
「へええ?ネクちゃんは置いていかれたら寂しいんだ?トウヤ君に?」
「えっ?いやそれは、そういうことじゃなくて」
アリナがやたらとにやにやしながら言う。
「そ、それよりも2人もリシナさんに置いていかれたら寂しいでしょ?」
「うっ。うんまあそれはそうだけど」
あれ?思った以上に落ち込んでる。
「だ、だから日頃一緒に居る人が側に居ないとそういう気持ちになるのはしょうがないでしょう?」
「うん、そうか。そうだよね!」
アリナはどうやら納得したようだ。
「でも、あれを使ったら本当に大陸を移動できるのかな?」
アリナの言うように、先程泉の底が光ってトウヤとリシナさんとフェンの姿こそ消えたものの実際に他の・・・闇の大陸に行ったかどうかは確認しようがない。だから3人が無事に此処に帰ってくるかどうかを待つしかないと思い、こうして駄弁りながら待っているわけだが。
「・・・何も起きない、ね」
ユリナもしびれを切らしたのかいらついた口調だった。
「そうね。何も起きな、」
パァァァ
!!
泉が!?
「帰って来たんじゃないっ?」
アリナが興奮した口調で言うように私もそう思った。
私達は急いで泉の底から溢れだす光に近づいた。
?
人影が4つある?
ああ、そうか。無事にミシルって人を見つけたのね。
私は光の中に見えた人影の数が此処を出た時よりも増えたことに疑問を持ったが、そもそも行方不明になった人を探しに行ったことを思い出して納得した。
そして光が消えて4人の人物の顔が視認できるようになった。
だが、
「えーと・・・?貴女達は誰?」
しかしその4人はトウヤ達ではなく見知らぬ4人だった・・・?
その中の1人の少女が私達にそんなことを問い掛けてきたが、それは此方の台詞だと言わんばかりの表情をアリナとユリナの姉妹はしていた。
・・・勿論私の顔も同じ様な表情をしていたと思う。




