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第44話〜行く先〜

〜〜〜




今日は色々なことが起きるな。



突然青白い炎と共に自分が暮らす村に現れたヒトの少女を背中に乗せて、狗族の若者はそんなことを考えていた。



このヒトの少女もそうだしさっきまで遠くの空に見えていた黒い影・・・あれはいったいなんだったのだろう・・・時たま目にする翼の生えた生き物にしては大きすぎる気もするし。

!!

もしかしてあれが長老に聞いた黒き守護神と呼ばれる存在?

・・・違うか。長老が言ってた黒き守護神は、あの遥か遠くに見える大きな樹を護る存在だって話だった。さっきまで見えていたあの黒い影だとすれば樹から離れ過ぎてるな。


でも、何だか今日は色々なことがあって楽しいな。自分達以外の生き物をこんなに見れるなんて。



「ろらん?」


先程まで村の中を駆け回っていた僕が遠くを見たまま止まっていたからだろう、背中に乗せているヒトの少女・・・りいなちゃんが僕・・・ロラン・オオガミに怪訝そうに声をかけてきた。


「ごめんよりいなちゃん。つい珍しくて」


遠くの空を眺めていたんだ、と僕は首を背中に回して弁解した。


「そら?おそらのこと?」


りいなちゃんは不思議そうに首を傾げて僕が見ていた方向を見た。


「うん。でも今は何も珍しいものはないよ」


「そう・・・」


「それよりも。何か思い出したかい?」


僕は自分の名前以外何も憶えていない、というりいなちゃんへ尋ねた。


「ううん・・・わたしのおなまえはりいなちゃん、ってことぐらいしか・・・」

「い、いやいいんだよ!そのうちに何か思い出すかもしれないしさ!」


落ち込んだように喋るので僕は焦ってとりなした。


「でもね・・・うれしいことがあったの」

「?嬉しいこと?それはどんなことか憶えているのかい?」

「ううん・・・どんなことかはおぼえてないけどとってもうれしいことがあったの・・・」

「ふうん?何だろうね」


曖昧な表現なので僕には何があったのか分からない。でも、名前以外自分が何者かすらも分からないこの幼い生き物が憶えているという感情ならば余程嬉しい出来事はあったのだろう・・・・・・というより、そもそも何故りいなちゃんは記憶がないのだろうか。何故突然炎と共に現れたのだろうか。肌身離さず持っているあの棒は何なのだろうか。

そして、何者なのだろうか・・・

謎だらけのこの小さな生き物への興味は尽きない。

だが、


「村の中も1通り回ったし、そろそろ他のみんなを紹介するよ」


僕以外の者は顔も名前も分からないりいなちゃんのために、まずそのことを提案した。

すると、


「うんっ!ろらんすきっ!おいぬさんすきっ!」


りいなちゃんは本当に嬉しそうにそう答えてくれた。


「えっ?そう?えへへ・・・嬉しいな」


僕は念願の他の生物との交流が果たせてつい顔がにやけた。それにもし上手くいけば此処から出られるかもしれない。りいなちゃんと一緒に此の村から。

しかし、おいぬさんとは何のことだろう?


そんなことを考えながら村の入口近くまで来ていた僕は其処から一番近い村の者が暮らす家に向かった。

それは此の村で僕の次に年若い狗族の若者で名前はウルホ・ミチハヤという者だ。若いとは言っても僕よりは遥かに年齢が上の大人ではあるが。だから僕に色々な事を教えてくれる。


農作物の栽培や収穫等の生活の仕方とか。以前は姿を変化させる技を見せてくれたり、火を吹く技を見せてくれたりしていた。

僕はその真似をしてできなかったけど・・・

だけど、ウルホの家に行くと良いことが1つある。それは、村の外に連れて行ってくれることだ。一番村の端にあるウルホの家は長老や他の者に見咎められずにこっそりと村外に出ることができる。出ても何をするというわけでもなくすぐに村に戻るのだが、それでもやはり雰囲気が違うので僕はウルホの家に行くと必ずそのことをねだる。

今、一番最初に向かっているのももしかしたら連れていってくれるかもしれないという期待があるからだ。あわよくばりいなちゃんも一緒に。

そうしてしばらく歩くとウルホの家の前に着いた。



僕はりいなちゃんを背中から下ろし、(下りることに不満そうな顔をしていたが)


「ウルホー!僕だ、ロランだ!入っていいー?」


家の中に向かって声をかけた。


「うるほ?」

りいなちゃんが尋ねるので、


「そうだよ。ウルホ・ミチハヤ。僕に色々教えてくれるんだ」

ふうん、とりいなちゃんはあまり興味がなさそうに呟いた。



「?」


声をかけて待っていてもウルホの返事が中々聞こえてこない。



「ウルホー?」


おかしいな?さっき村の中心にある広場に何事かと集まってきたみんなは家に帰ってたと思ったんだけど。

広場で起きた出来事とはりいなちゃんが突然現れた、ということなんだけど。



「いないの?」


りいなちゃんが尋ねてくるので、



「ううん・・・出かけたのかもしれないな。確認してみる」



僕は中に入ってウルホが居るかどうかを確かめることにし、


「ウルホー、入るよ」


木で出来たウルホの家に入った。



「!!?」



そして、僕は何故ウルホが返事をしなかったのか、その理由を知った。



「ろらん?どうしてとまってるの?」



僕の後から家の中に入ってきたりいなちゃんが怪訝そうに僕に尋ねてきた。




「餌が向こうからやってくるとはな・・・!どうやら己は運がいい・・・」


僕は、足を四本床に投げ出して横たわり目を開けたまま動かないウルホの胴体にかぶりついている黒い生き物が喋る声を何処か上の空で聞いていた。





〜〜〜




あたしたちはサラマンドラを連れて移動していた。

龍巣と呼ばれる場所へ。

というのは先程、



▽▽▽



『しかしサラマンドラよ。如何にして食い止める?』


フェンリルの言うとおりだ。ただでさえ今のサラマンドラは魔力という自分の力が減少している。その上、魔界の統括者とやらや邪龍とやらが今何処に居るのかも分からない。


『他の(もの)の力を借りる・・・我のように魔界の統括者が人間界に影響を与えていることやラドンがこの世界に顕れたことに感づいた竜は居ないかも知れぬが。会いに行こうと思っておる・・・』


『え?でも貴方の話だと他の竜って世界の大陸に散らばっているんじゃないの?』


各大陸に竜が居るなら往き来するだけでも膨大な時間が必要だ。



『その懸念はもっともだ。だから龍巣を使う』


『龍巣?』



何だと思い聞いてみると、世界の大陸を全て繋げる龍族の道、らしい。



『それは竜以外でも使えるものなの?』


『うむ。言語を扱う生物ならば・・・ただ、』



使い手にはある程度以上の強さや生命力が必要だ、とサラマンドラは言った。




△△△





それでサラマンドラの案内に従いその龍巣を目指している。ちなみにフェンリルは火の大陸を離れるわけにはいかないらしくそこで別れた。

別れ際にサラマンドラと何かを話していたようだったが、あたしはクニツナを鞘に納めていたのでそれは聞いてはいない。まあすぐに終わったようだし。



『此処じゃ』



サラマンドラは目の前の洞窟を指し示した。

どうやら龍巣とやらに着いたらしい。





〜〜〜




俺達は黒竜(ニーズヘッグ)のおっさんの頼みで再び生命の樹に向かうことになった。

俺達がおっさんが倒れていた場所に来る手段、つまりフェンの風について話すと、



『ティアマットまでも・・・汝等は本当に何者なのだ?何故闇の大陸へ・・・』


と聞いてきたので俺は闇の大陸に来るまでの経緯や俺達の関係を話した。



「ーーーーーーってわけだ」



『成程な。火の大陸、水の大陸、風の大陸からか・・・それにあの人間が魔力を扱えたのは・・・・・・・・・我は魔力を回復させるために今セフィロトを目指しているわけだが、その男にも果実を与えてはどうだろうか?』


「?果実を食ったら記憶が戻るのか?それに、果実ってあのでかい樹に生ってるのか?さっき見たけど何もなかったぞ。天辺のほうにあるのか?」


『見た目はそうだろう。それに天辺まで行ったとしても果実は何処にも生っていない。あの樹の果実を採るにはある方法が必要なのだ』


「へえ、道理で無かったわけだ。その方法って何だ?」


『悪いが汝には、いやそれは誰にも教えられんのだ。その代わりにいくつか果実をやろう・・・』


「そうか。まあおっさんは守護者っていうぐらいだからそれはしょうがないのかもな」


もしその方法が誰かに漏れたら樹を護るのも余計に大変になるからだろう、と俺は1人で納得していた。

くれるっていうしな。



「書物で読みましたがセフィロトの果実というのは智恵や生命力が与えられるものなのでしょう?」


『どのようにして伝わったかは知らぬがそれは少し異なる。果実を体に取り入れれば、人ならば智恵を、竜ならば魔力を、魔の者ならば心を、与えられると言われている。我が永年の間、セフィロトの守護者たりえたのもあの果実の恩恵に因るところは少なくない』


リシナの問いに対しておっさんは説明してくれた。

でも、


「・・・では、私には何が?」



ミシルが疑問に思うように人が魔の力を持った奴が果実を食うとどうなるのだろう?智恵か、心か。



『両方・・・智恵を、汝の場合なら記憶とかつての心を取り戻す、のではないかと思う。ただ・・・汝等の話だとあの男は智恵を授かり人の心を取り戻したことで、』


ラドンに付けこまれて化物(ケモノ)化したのだろう、と言うが。



「化物化?」



聞き慣れない言葉に俺は思わず聞いた。



『・・・そうだ。かつて火の大陸から闇の大陸に辿り着いた人間、羅義神人は剣に封じ込められていた邪龍(ラドン)にその身体を乗っとられたのだ・・・』



我はそれを防ごうとしたができなかった、とおっさんは言う。




そうこう話しているうちに俺達は生命の樹の前に着いた。

『暫し待っておれ』



おっさんは俺達にそう言い残して1人で樹に近づいた。さっき言っていた、ある方法とかを俺達に知られないためにそうしたのだろう。



「ある方法って何だろうな?俺達に知られたら困るっていうことは誰でも可能な方法かもしれないが」


おっさんの先程の言葉と今の行動から俺は判断した。

「分からないですね。何らかの特殊な言葉を発するとか、樹を触って何かするとか?そのあたりではないでしょうか?」


リシナが言うように俺もそのぐらいしか思いつかない。まあ黒竜のおっさんがやってくれるんだからどうでもいいが。


「心、か」


「ん?何だフェン」



「いや、な。さっきあのおじさんが言ってただろ、魔の者ならば心を与えられる、って。じゃあ言葉も話せない魔物とかはどうなのかなと思って」



「成程・・・そう言われるとそうだな。魔物とかに心があるのか?いや果実を食えば心が芽生えるっていうことなのか?」


フェンが持った疑問に対して俺は同じように疑問を持った。あとでおっさんに聞いてみるか。


「それに獣とかもどうなのかな?」


それも併せて聞いてみるか、と俺がおっさんのほうを見るとその姿が、


「あれ?おっさんは何処だ?」



無かった。


『礼を言おう。人間達よ。』



代わりに居た巨大な黒い奴がおっさんの声で俺達にそう言ったが。

そう、まるでラドンをそのまま巨大にしたような奴が。



「おっさん?それが本当の姿って奴か?」


そういや自分のことを巨大な黒竜と言っていたな。


『そうだ。魔力が回復し漸くこの姿に戻ることができた。汝等のおかげだ・・・あまり数が無いのでな、これだけしかやることができないが・・・』



黒竜はその巨大な手を上に向けて俺達に差し出してきた。見ればその手には林檎のようなものが乗っていた。

これがセフィロトの果実、ってやつだろう。


俺は4つあるそれを受け取り、



「くれるっていうなら有難くもらうぞ。ありがとうな。それとおっさ・・・ニーズヘッグに聞きたいことがあるんだが」



俺は黒竜に礼を言い先程疑問に思ったことを尋ねた。つまり獣が果実を食ったらどうなるかを。


『・・・そもそもセフィロトの果実を食した者は歴史上少数しか居ない。先程も言ったようにある方法でしか果実を採ることが出来ないからな・・・だが、過去にそういう話があったということを聞いたことはある。それは一匹の獣のような姿だったらしいのだが・・・』



黒竜が果実を食った魔物の話をし始めた。





〜〜〜






ウルホはもう動いていない・・・・・・つまり生きてはいない・・・



僕は何が起きたのか理解することができなかった・・・



「ろらん?おいぬさんは?」



僕の身体が邪魔をして見えないのか、りいなちゃんが僕に尋ねる、


!?


「りいなちゃん!外へ!」

此処は危険だということに思い至り僕は叫んだ。



「さらにもう一匹だと?己はどうやら相当に運がいいらしいな」


目の前の黒い生き物が此方を観察するような目で見ながら言う・・・

身体が動かない、というよりもこの黒い生き物に背を向けることが出来ない・・・



「魔法やら身体能力やらそれなりに手強かったからな。そういう獣の種族ということか・・・?己の今の魔力では中々に手こずったが、これは良い拾い物だった」


黒い生き物は僕たちに話し掛けるような独り言を言っているようなどちらともつかない口調で手に持ったものを眺めている。ウルホの身体を咀嚼しながら・・・すぐ僕たちに飛びかかれる程の距離だ。



「どうした獣?逃げないのか?それとも己に襲いかかってこないのか?もっともお前から感じる魔力はこいつよりも落ちるがな・・・!」



咀嚼するのを止めウルホを指しながら黒い生き物が僕に言う。僕はそれを聞いているが足も口も震えて言葉を発することさえできない。



「それにもう一匹の奴も、大した・・・!!?」



僕の身体の陰になっていたりいなちゃんを覗くようにして姿を見た黒い生き物が何故か驚いたような素振りを見せた。



「お、お前は・・・?」



そう言いながら黒い生き物は、



「何者だ・・・!何故己の頭を、」



手に持っていたもの、鍬のような金属・・・確か剣というものだ。刃が先についているその切っ先を、


「掻き乱す・・・!」



りいなちゃんへと向けた。


それを見た僕はりいなちゃんを隠すように身体で覆った。



「ろらん?あれもおいぬさんなの?」



当のりいなちゃんは、目の前で何が起こっているのかはよく分かっていない様子だった。

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