第40話〜素〜
〜〜〜
「遅い!」
私は目の前の鬼族、ロナン・サタクに言い放った。
「くそ!何故俺の疾風が当たらん!」
「それは貴方が弱いからよ、ロナン・サタク?」
私は模擬戦をしろと言ってきたロナンを体捌きだけであしらいながら、
「ほら、隙だらけ!」
パカッ
持っていた木刀をロナンのがら空きの脳天に降り下ろした。
「痛え!」
余程痛かったのかロナン・サタクは赤い髪の毛が生えた頭を押さえてその場に蹲った。
「分かったかしら?つまり貴方は魔法とやらに頼りすぎているのよ。だからその魔法がかわされたときに大きな隙ができる、というわけ」
私がたしなめるとロナン・サタクは、
「くそ!偉そうに!もう一回だ、ニルナ・カナワ!」
諦めが悪いのか再度此方に向かってきた。
しかし・・・私は何をやっているのだろう?
確かに私が此処鬼ヶ島、火喰い島に残るとは言ったが。それは別にこの島の住民、鬼族に稽古をつけるためではなく、
フワッ
と、ロナン・サタクが宙に浮いた。
「食らえ!連風!」
その状態から両手を前に連続して激しく動かしている。
ブワワワワワッ
と、見えない圧力が連続で押し寄せてきた。
また懲りずに風の魔法を使ってきた、と見当をつけた私は、
「九天奥義!盾!」
持っている木刀を両手で縦にしそれにプラーナを纏わせてそれを中心に見えない壁を造った。おそらく縦横3、4m程に不可視の盾ができただろう。
「なっ!?」
ブワワワワワッ
と、先程した音が私の目の前でまた聞こえ、ロナン・サタクのほうへ見えない風が舞い戻り彼を襲ったらしい。
ロナン・サタクの体勢が崩れたのを見てとった私は、
「だから、隙ができると言ってるじゃない・・・」
そう言いながらロナンに近づき、
バカッ
再度赤い髪の毛が生えた頭に木刀を降り下ろした。さっきよりも強めに。
木刀は折れたが。
「っう!!」
ロナン・サタクはまたもや蹲った。
どうでもいいが隙だらけだ。
まあ、追い打ちをかけるのは少し可哀想なのでこのまま放っておこう。
そして私は先程の思考に戻った。
どこまで考えていたんだっけ?
そうそう、私は鬼族に稽古をつけるためではなく、この島に何故プラーナが溢れているのかを調べようと思ってこの島に残ることを希望したんだった。
精気・・・大気に満ち溢れる力。
先程の九天奥義もこの島の豊潤なプラーナを取り入れたせいか通常より形成が速く範囲も大きかった。やはりこの島はプラーナ量が火の大陸の大気中よりも遥かに多い。あそこまで強力な盾を形成できるとは思っていなかった。プラーナを取り入れ過ぎたのか木刀は脆くなり一撃で折れたが。
もっとも、タチオ師匠にはそれでも遠く及ばない。いや、そもそもタチオ師匠ならば武器を壊さずに武器そのものを変形させる技量を持っているから比べるのもおこがましいか?
「休憩なさいますか、ニルナ?」
私が思考に耽っているとそんな声が聞こえた。
「ええ。そうさせてもらうわノルエル」
私は声をかけてきた鬼族、ノルエル・ハザマに答えた。
ノルエルの実年齢はともかく見た目は額の角を除けば私とそう種族や年齢が変わらないように見えるので、鬼族の中では私が一番気安く喋れる存在だ。
もっとも見た目だけではなく、
「あら。ロナンさんは何を蹲っているのでしょうか?」
「そんなことよりもノルエル?研究は進んでいるの?精気兵の」
プラーナの取扱いに関してこの島で最も長けているのでプラーナについての話が意外と弾むから、という理由もある。
「いいえ・・・かなり調べたのですが、相変わらず仕組みがよくわからないです。やはり一度ニルナに見てもらったほうが良いのかもしれませんね」
「可能なら私もそうしたいけど・・・」
私が口を濁したのには理由がある。
最初にノルエルから精気兵の存在を聞いたとき、是非ともその実物を見てみたいと願い出たが、断られたのだ。あの頭の固い鬼族、フェニス・カハラとかいうおっさんに。なんでも鬼族に伝わる秘伝だとかなんとかでいくら島の重要な客人であろうと部外者に見せるわけにはいかぬ、と強く断られた・・・
いや、秘伝とか言っても扱いきれてないじゃない!と突っ込んだ。
ノルエルが今現在稼働可能なものはなく動いてないものが三体しかない、という話を先にしてくれていたからそう言ったわけだが。
話を聞き、私が1つ思いついたのは精気兵と言うぐらいだからその動かない物体にプラーナを込めてみたらいいのでは?という考えだ。石炭を動力の素にするようにプラーナを素にして動いていると考えれば自然なのだが。
しかし、聞いた話だとこの島の鬼族は魔力というものを扱えてもプラーナを扱えるものは居ないという話だからその発想を思いつかないのはしょうがないのかもしれない。
扱えないまでも辛うじてプラーナの存在を感じとることができるのはノルエル、ともう1人今はこの島に居ないジン・ガトウという者だけらしい。
以前は一体稼働している精気兵があったらしいのだが少し前に壊されたらしい。あのトウヤに・・・あの無邪気な子供は、いや成人したんだった、は確かにタチオ師匠に匹敵する程に強いが考えなしなところもある。おそらくそんな面白い玩具・・・もとい、興味深い代物だとは思ってもみなかったのだろう。真っ二つにぶった斬ったという話だし。
「一度私がフェニス様に掛け合ってみます。せっかくプラーナの達人のニルナがこの島に居る機会を無駄にしたくありませんから」
ノルエルの言葉に私は思考を中断した。
「そう。あまり期待しないで待っておくわ」
私はフェニス・カハラの融通の利かなさそうな顔を思い出してノルエルにそう言った。
〜〜〜
「・・・俄には信じがたい話だが・・・」
俺の話を全て聞き終えたミシルが言った。
「まあ俺もお前とはそこまで付き合いが長いわけじゃないからな。それ以上詳しい話はできないけどな」
「・・・火喰い島、鬼族、レヴィアス・・・そしてデュカ・リーナ、か・・・」
こいつは記憶を忘れていることが所々あるらしいのだが、どうしてか戦いの記憶やデュカ・リーナという奴のことだけは憶えていたらしい。
「そうだ。自慢するわけでもないけどお前がオーラを扱えるようになったのはおれのおかげだと思うぞ」
いやまあ素質があったから使えるようにはなったのだろうが。こいつがオーラを知った切欠は俺だ。
「・・・ふん・・・それで貴様は仲間だった私を探しに態々この闇の大陸にまで来たというわけか・・・ご苦労なことだ・・・」
「お前?そんな言い草はないんじゃないか?」
「・・・別に・・・私が頼んだわけではない・・・それよりその龍巣、だったか・・・貴様の話を信ずるならば私はおそらく無意識の内にそれを使って水の大陸より此の闇の大陸に移動していた・・・というわけだ・・・便利な代物だな・・・」
「まあ、な。でも俺が腑に落ちないのはお前がなんで魔力?ってやつを扱えるようになっていたのかなんだが・・・その魔力ってやつはそれこそ魔物とか鬼族とかしか扱えなかったものじゃないのか。あとは・・・ラドンになる前の羅義神人ってやつぐらいしか」
「・・・・・・おそらくそれはデュカ・リーナの仕業だ・・・奴の言葉を信ずるならば、だが・・・」
「ふうん?どういうことだ?」
「・・・ああ。先程奴と相まみえた時にーーーーーー」
ミシルの話によると・・・デュカ・リーナというミシルと因縁がある奴とさっきこの辺りで戦った際にデュカ・リーナが自分で造った魔石とかいう物をミシルが使った、と言っていたとか。
その話を合わせて考えるとどうやら魔石というのはそれを使った本人が魔力を扱えるようになる物、らしい。多分。
ミシルは感覚的にそれを使って自分が魔力を扱えるようになったのでは?と自分のことなのにいまいちよく分かっていない様子だが。鬼ヶ島の時でもミシルはあいつに尋常じゃない恨みを持っている感じだったからその恨みの対象のおかげで自分が強くなったと思うのはどこか納得はできないのだろう、顔をしかめている。
でも、と俺は思った。
そのデュカ・リーナの姿が何処にも見当たらない、と。そう思いミシルに尋ねると、ミシルは奴を討った際にその身体が消滅したと言った。?そんなことがあるのだろうか?奴は人外の存在ではあるだろうが魔物と似たようなものじゃないのだろうか?
通常魔物を殺したところでその姿が消滅するということはない。余程オーラやプラーナを込めた攻撃ならば魔物もかなり無惨な原形を留めない状態ぐらいにはなることもあるがさすがに煙のように消える、ということはないだろう。
俺はミシルの話を聞きながらそんなふうにいくつか疑問に思っていた。
「!そういえばあいつはどうなったんだ」
「・・・あいつ?」
「ああ、あの毛むくじゃらの。さっきラドンに食われていた・・・」
「・・・ランザーのことだな」
俺とミシルは話しながら数十m離れたあの毛むくじゃらの魔物が倒れている場所へと目をやった。
そこには先程、ラドンと戦っていた最中にも見えたがフェンとリシナが未だ何かをやっている。
!
もしかしたらリシナが退魔術を使って毛むくじゃらの魔物の傷を治しているのか?
「ああ。ランザーっていうのかあいつ?」
「・・・そうだ。利害が一致したため私と手を組んでいた獅子の獣人、ランザー・レオパルドだ・・・」
ミシルが此処で戦っていた経緯を話した。
成程な。闇の覇権を争って、か・・・
「とりあえず無事かどうか確認してみようぜ?」
一応そいつと仲間らしいので俺はミシルを促してフェン達へと近づいた。
〜〜〜
私とフェン少年が人間になったその亡骸を呆然と眺めているとあちらからトウヤさんが近づいて来るのが目の端に映った。
それにミシルさんも。
「リシナ!・・・・・・?誰だ、そいつ?」
トウヤさんが目の前の亡骸を見ながら怪訝そうに私に尋ねた。
私は、
「ええと、何と言いましょうか・・・」
適切な言葉が浮かばずにフェン少年に私は目線をやった。
「俺が説明してやるよトウヤ。こいつはな、」
さっきまでライオンの半人半獣の死体だったやつで何故かは分からないが人間の男死体に変わったんだ、と今見たそのままのことを2人に言っていた。説明というか何というか・・・
性格が雑?
「?」
「・・・?」
その説明を聞いたトウヤさんとミシルさんが不思議そうな顔をしている。
「ええっと。つまりさっきまでこの死体はミシルの仲間だったっていう獅子・・・ライオンのランザーって奴の死体だったけどフェンとリシナが見ているうちに人間の死体に変わったっていうことか?」
トウヤさんのその結論で概ね合っている。
「そうだ」
「そうですね」
なので、フェン少年と私は肯定した。
「なんで?なんで人間に変わったんだ?」
トウヤさんがもっともな疑問を聞いてきた。
するとフェン少年が、
「俺は別の半人半獣の魔物に聞いたことがある。なんでも半人半獣の始まりってのは、大昔は人間でその人間に獣型の魔物の魔力の素を取り入れて獣人になり魔力やら獣並の身体能力を使えるようになったんだと。現在世界に居る獣人はその子孫だっていう話だ。数は少ないらしいけどな。つまり、さっきまでライオンの半人半獣だったやつが人間の姿に変わったのは、」
体内の魔力が全て尽きたからじゃないのだろうか?と自分の推測を述べた。
その話を聞けば成程、獣人とはそういうものなのかと納得できるのだが、
「魔力が尽きた?こいつはラドン、さっき飛んでいった黒い爬虫類のことだがそいつに腕を食われてはいたが、その時は獣の姿だったぞ?いつ魔力が尽きたんだ?」
私と同じ疑問をトウヤさんも覚えたようだ。
そもそも魔力とはどのようにして無くなるのかもよく分からない・・・
「・・・ラドンと戦っていて思ったのだが奴の魔力が戦いの最中に上がった時がある。ヒノカ、貴様の剣が奴に食われた時にな・・・」
そういえば私も感じた。他者の体の部位を食したことであの黒い魔物の嫌な雰囲気が上がったことを・・・
「ん?つまりどういうことだミシル?」
トウヤさんがミシルさんに尋ねた。
どうでもいいがミシルさんは前と雰囲気が変わったような気がする。強いていうなら魔物が傍に居るような印象を受けるが?
「・・・つまりだ。奴、ラドンは魔力を持つものを食すことで自らにその魔力を取り入れ、且つ取られたものは魔力を根こそぎ持っていかれるのではないのか、と私は思う・・・私が以前戦った魔導の使い手に魔力を吸収する技を使う者が居たのでその類いなのだろう・・・」
「成程な。それでこのランザーって奴は魔力が無くなって人の姿になったってわけか。それにしてもラドンって何者なんだろうな?竜って自分では言ってたけど・・・人や竜に何か恨みを持っていたみたいだし、そもそもあいつは羅義神人の変わり果てた姿だし。黒い炎やら青白い炎やら吐いてくるし、凄まじい速さで攻撃を受け止め・・・!そういや炎斬もあいつに食われたんだった。大丈夫なのか?」
トウヤさんが言いながら腰に差しているものを抜いた。
そして、
「おいおい・・・炎斬も魔力ってやつが無くなったのか?」
先が刃ではなく赤い鱗?のようなものになったそれを見ながらトウヤさんはそう呟いていた。
〜〜〜
〜火の大陸〜
奴が甦った。地の底から・・・我が兄弟が・・・
龍神様に逆らいその力の殆ど全てを取り上げられて失っていたはずなのに。
本来穏やかな我等龍族の中で争いを好み他の龍との争いが絶えなかった特異な存在のラドン・・・その性質は奴が生まれながらにして持っていた特性にも由るところが大きいのだろう。他者の魔力を食すことで己のものにする、という呪われし能力・・・我が魔力と想いを込めて造りだした破焔斬・・・完全なものではなかったがラドンにそれが持つ力を吸収されたらしい・・・何故かそう感じた・・・
魔界という恐るべき場所へと堕とされたにも関わらず奴が生きていた、生きていてこの人間界に顕現した、というのは由々しき事態だ。だが魔力が不足している我は未だに此処から動けない。
我を戒めから解いたあの人の姿をした魔物・・・デュカ・リーナ、とか言ったか。あの魔物も龍巣を使って以降此処には戻ってはこない・・・
どうすれば、奴を・・・ラドンを止められる・・・?この人間界で体を持った奴はこれから破壊、暴食の限りを尽くすだろう・・・何とかして他の竜に接触せねば・・・水竜・・・風竜・・・黄竜・・・超竜・・・剣竜・・・黒竜・・・奴等は今何処に・・・
「このあたり?」
!?
今の声は・・・?
火竜サラマンドラが動かずに思考に耽っていると近くでそんな声がした。
またしても人間が・・・?それにこの魔力は・・・?
今まで感じたことのない不思議な魔力を感じたサラマンドラは何者がやって来たのかと疑問に思った。




