第38話〜ケモノ〜
〜〜〜
〜とある村〜
日の光があまり差さない此の村では農作物はあまり丈夫に育たない。
村を取り囲むように川が流れているため、村の者達は協力し合って僅かな農作物を育てて何とか生きているという状況だ。
また、村の外に出ようとすればそれ相応の覚悟・・・外に棲む生物を殺す覚悟、外に棲む生物に殺される覚悟、がなければ村の外に出ることすらできないため他の村との交流も一切ない。
この村の住民は僕を含めて皆生き物を殺すことのできない心根の優しい者ばかりだからだ。
しかし。
僕は自分を取り巻くそのような環境に自分が居る、と気づいた時に絶望した・・・・・・
僕はこの狭い世界だけで生涯を終えるのか、と・・・
この村には僕を含めて12体の者が住んでいる。
皆僕よりも年上の者逹ばかりだ。
ごく稀だけど上空に翼の生えた生き物が飛んでくることがある。
僕は滅多に見ることのないそんな彼等を見たとき、友達になりたいと思い声をかける。しかし、言葉が通じないのか彼等は此方が呼びかけても何も答えてはくれない。悲しいことだ。
その大きさを見てみると僕の額から突き出た所に止まると丁度よさそうなのに。
僕は外の世界に出てみたい。外の世界に出て他の生き物に会ってみたい。
しかし村の者は皆口を揃えて止めろ、と言う。
何故?と僕は以前聞いたことがある。
すると返ってきた答えは、「今まで村の外に出て戻ってきた者は居ない」というものだった。
それは長い間存在するこの村で、今までただの一度も例外がない、とも言われた。
だからお前も戻って来れないからやめておけ、と。
しかし、と僕は思う。
このままだと遠くない将来誰もこの村に居なくなるのではないか、と。
この村で一番歳を重ねている者。長老と皆からは呼ばれている者がまだ幼かった頃、村はまだまだ多くの住民が居たそうだ。
時が経つにつれ徐々にその数が減っているらしい。
そんな話を聞けばいずれは村に誰も居なくなるのではないか?と思うのは当然だと思う。
だが誰も村の外に出ようとは言わない、その上僕が出たいと言っても皆が止める。
どうすればいい・・・?
僕はどうしても出たいんだ。
いつの日か終わりゆくこの村から。
何かきっかけがあれば僕は村を出ていけるのに。
僕の他に誰か1人でも村を出ようと言い出せば他の誰が何と言おうとも僕も一緒に村を出ていけるのに。
そう考えるほど僕1人だけの力は弱い・・・
まだ僕が子供だということもあるだろう。力、強さでは僕は村の大人の誰にも勝つことはできない。
大人が時たま見せてくれる不思議なことも僕は未だに上手くはできない。
一度試してみたら大人に止められてそれ以来一度もそれをやっていない。それ以来試してもいない。
僕は子供だ・・・
様々な鬱憤を抱えながら、それでも日々を生きるため村で畑を耕していた。
そんなある日のことだった・・・
▽▽▽
「光った?」
僕は今視界の隅で何かが光ったような気がして呟いた。
此処から遥か遠く視界が晴れ渡る日に朧気に見えるあの天を衝くようなものがある方角に。
「ねえ誰か今の、」
光を見た?とまわりに居た大人逹に尋ねてみるも、皆首を振るばかりだった。
見間違い?
でも、神鳴りというわけでもないだろう。
今日は珍しく日が差すほどに晴れている。
神鳴りならばまだ天気が悪く見通しの良くない日でないと見えもしないはずだ。
なら・・・?
「なんだ・・・見間違いか」
僕は嘆息し、がっかりしながら作業に戻った。
しかし、そのすぐ後に村の中心にある広場あたりが輝き、
ゴォォォッ!
「あれは・・・・・・炎?」
空から渦を巻きながら青白い炎が村の中心にある広場へと落ちてきた?
一目見たとき、それは大人に出してもらう炎に少し似ている、と思った。
しかし、
「熱くない・・・?」
何故かその巨大な青白い火柱からは熱を感じなかった。
そのうちにその炎は大きな円形の塊になり、
パァンッ!
何かが弾けるような音がして、炎は霧散した。
「何、何なの今のは?」
僕はまたも大人に聞いてみたが皆首を振る・・・いや、長老が何か怪訝そうな顔をしながらさっきまで炎があった場所を見ている。
「・・・・・・いの炎?」
長老が何かを呟いていたが全部はよく聞き取れなかった。
そして広場の中央に視線を戻してみた。
そこには、
「ここはどこ?おいぬさんがいっぱい?」
辺りを見渡しながら不思議そうに首を傾げる小さな生き物が居た。多分背の高さは1m程度しかないだろう。
僕達とは違い全身に毛が生えておらず何だかつるつるとしている。
大人がたまに見せてくれる変化した姿に形は似ているが。
しかし、
「お主は何者じゃ?ただのヒトではあるまい・・・」
長老が僕達と同じように額に角が生えたその小さな生き物へとそんなことを尋ねた。
何かを考えているような表情で。
ヒト?
「わたしのこと?おいぬさん?」
その色の白い肌の生き物は自分を指しながら逆に長老へと尋ね返していた。
「おいぬさんではない・・・我等は狗族。かつてヒトにこの地に追いやられた狗神の末裔じゃ・・・」
長老は額に生えた角を小さな生き物に向けながら重々しくそう言った。
「おいぬさんはくぞく?・・・・・・・・・じゃあ、わたしはだれ?これはなに?」
しかし小さな生き物は自分の手に持った銀色の棒を自分の青い瞳で見ながらそんなことを言う。
「・・・・・・・・・どうやら害意を持って村に入ってきたわけではなさそうじゃが・・・何かの偶然か?それとも・・・」
長老が何かを考えるようにして呟いている。
「ロラン!その者の面倒を見てやれ!」
と、思っていたら長老が僕のほうを振り向いて僕にそんな命令をした。
「ええー。僕が?」
今まで見たこともない生き物に興味をひかれつつも、めんどくさいのでそんなことを言ってみるも、
「つべこべ言うな!」
一蹴されたので仕方なく僕は小さな生き物へと近づいた。
「何か僕が君の面倒を見ろってさ」
僕が言うと、その小さな生き物は、
「わー。ふかふかだー」
目を輝かせて僕の背中の毛並みを見ていた。
自分の身体には頭に生えている金色の毛しかないので珍しいのだろう。
その様子を見て何だか嬉しくなった僕は、
「乗るかい?」
僕達と違って二本の足で立っている小さな生き物へそんなことを言ってみた。
「いいのっ?」
そんなことを言うやいなやその小さな生き物がいそいそと僕の背中に跨がった。
「ねえ、君の名前は?僕はロラン・オオガミ。この村の狗族の中で一番若いんだ」
呼び名が分からないと不便だと思い僕は小さな生き物、ヒト?へ首を回して尋ねた。
「わたしのおなまえ?うーん。あんまりよくおぼえてないな・・・・・・・・・あっ!りいなちゃんだっ!わたしのおなまえはりいなちゃんだよ!」
りいなちゃんか・・・
「分かった。じゃあ、りいなちゃん?今から村を案内するね!」
「えっ!うんっ!」
りいなちゃんは嬉しそうに答えた。
僕は背中に跨っているりいなちゃんを乗せたまま4本の足を使い全速力で駆け出した。
「・・・転生の炎・・・あの者は・・・」
それを見送りながら長老と呼ばれる最年長の狗族がそう呟いていた・・・
△△△
〜〜〜
消えた?
俺は羅義神人という奴が急に魔物みたいな姿・・・倍ぐらいにでかくなり、皮膚はどす黒く鱗のようなものがあり、何より顔かたちが角の生えた蜥蜴とか蛇のような爬虫類?みたいな姿に変化したことに驚いてしばらく呆然としていた・・・とは思うが別に目を離したわけじゃない。
しかし、その姿が消えた?
「ギャアアアッ!」
俺がほんの僅かな時間目の前で起きたことについて考えていると離れた場所からそんな声がした。
その方向を見てみると、
「あ、あ・・・て、てめえは闇騎士なの、か?・・・ま、まるで黒きま・・・」
「・・・・・・」
俺がさっき地面に叩きつけた毛むくじゃらの魔物。
そいつが、いつのまにか毛むくじゃらに近づいていた羅義神人らしき爬虫類の魔物に対して怯えながら話しかけていた。
・・・・・・その右腕を食われながら・・・
「て、てめえっ!よ、よくも俺の腕をっ!」
毛むくじゃらがそんなことを言いながら爬虫類に左腕を振り、押し飛ばそうとした。
「・・・グルルルル」
だが爬虫類の魔物はその腕をかわして、さらに毛むくじゃらの反対側の腕、左腕を食いはじめた・・・
「こ、こ、この化物がああああああっ!!!」
毛むくじゃらの両腕を僅かな時間で全て貪り尽くし、
「グルルルルルルルルッ!」
爬虫類の魔物は最後に毛むくじゃらの喉元に噛みついた・・・
「がっ!・・・・・・・・・・・・」
ブシュッ!
その途端毛むくじゃらが大きく目を見開いたが抗うことができず、そのまま毛むくじゃらの喉元から血が噴き上がった・・・
「グルル・・・」
毛むくじゃらの魔物が地面に倒れ伏してびくびくと痙攣している。
それ以上食えなくなったのか爬虫類の魔物が食べるのを止め、毛むくじゃらを口で地面に投げ捨てたからだ・・・
シャッ!
と、俺がその一連の光景を眺めていると、
また爬虫類の魔物の姿が消えた?
「・・・貴様・・・!」
そんな声がしたのでその方向を見ると今度はミシル?らしきやつの前に爬虫類が居た。
速い・・・!いつの間にあそこまで?数十mはあった筈だぞ?
ミシルは反射的に剣を構えたのか爬虫類の魔物はさっき毛むくじゃらの魔物にやったようにすぐには噛みつきをすることができないようだ。
しかし、何故?
と俺は思った。
何故あの爬虫類、先ほどまで羅義神人だったあの魔物はミシルよりも毛むくじゃらよりも先に近くに居たリシナや俺を襲わないのだろうか?
そのリシナは先ほどから俺と同じく目の前で何が起きているか分からないといった風情で呆然としており隙だらけなのに・・・
それにフェンもそうだ。
ミシルらしき奴とフェンが先ほどまで戦っていた場所に爬虫類の魔物が居るが、何故ぱっと見で身体も小さいフェンのほうを襲わないのだろうか?
それに・・・
何となくだが爬虫類の魔物から感じる嫌な感じのプレッシャーが上がっているような気がする?
毛むくじゃらの腕を食い出したぐらいからか・・・?
「・・・ク・・・ワセロ・・・」
「・・・ランザーがあのような姿になったのは貴様の仕業か?」
その爬虫類とミシルらしき奴が話をしているようだが。
「トウヤ!何だあいつは?」
俺が爬虫類の魔物とミシルらしき奴の動きを見ていると、隙をついて此方へやってきたフェンが爬虫類を見ながらそう言った。
「俺にもよくわからん・・・・・・なあリシナ?あいつはさっきまで話していた羅義神人ってやつなのか?」
「・・・・・・」
「リシナッ!」
「はっ!あ、ああトウヤさん・・・すいません。聞こえてはいたのですが考え事をしていたものですから」
「あの爬虫類の魔物についてか?」
「爬虫類・・・ええ。多分ですが、あれは私達が先ほどまで話していた羅義神人さんの・・・変わり果てた姿なのでしょう・・・・・・どういう理屈で急にあのような姿に変化したのかは見当もつきませんが・・・」
「やっぱりそうか・・・しかし何で俺達には目もくれずにあいつは、」
毛むくじゃらの魔物やミシルらしき奴を襲いだしたんだろう、と聞いてみると、
「推測になるのですが、おそらくは・・・」
!?
リシナが今まで考えていたのだろう、自分の考えを答えた。
「ということは、あの爬虫類は・・・」
「おそらくそうです・・・体の部位を食すことで他者の持つ魔力というものを、」
吸収して自分の力にしているのでしょう、とリシナは言った。
確かに、それならばあの爬虫類から感じるプレッシャーが上がったのも頷けるが・・・
!!
ならミシルらしき奴は?
俺は爬虫類がミシルらしき奴を襲っていたことを思いだし急いでそちらを見た。
「・・・この魔力。化物め・・・!」
食われてはいないようだがミシルらしき奴は爬虫類に圧倒されているのか、大きな樹を背にじりじりと後退していた。
「しょうがないな」
それを見た俺はミシルらしき奴に加勢するため得体のしれない爬虫類の魔物に近づいた。
〜〜〜
私はいったい・・・・・・
我が剣を手にした途端に意識が遠のいた・・・
何者かの声がした・・・
目が覚めれば何も映らない景色・・・
そして・・・感じる感覚・・・身体の奥底から溢れ出すチカラ・・・餓え・・・渇き・・・
近くに感じる、マ、リョク・・・エ、サ・・・
ワタシハ・・・・・・
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『あはははははははっ!最高だよ神人君!僕の予想以上だ!まさかそこまでだなんて!』
生命の樹の前で起こっている出来事を遠く離れた場所で眺めていた青年は笑いながらそんな独り言を言っていた。
そうして一頻り笑ったあと、
『哀しみ、渇望、嫉妬。そんな負の感情が綯い交ぜになったヒトの心がまさかあの剣にそんな作用を引き起こすなんて・・・!最高だよ神人君!』
自分ですら完全に制御できずにいじっているうちに飽きて面白半分で人間の世界へ流した(邪龍の剣)
叩き折ったり自分で扱ったりしようと、いくら魔力を込めようがいくら魔法をぶちかまそうがいくら攻撃を加えようが何の変哲もなかったあの剣。
偶々人間の世界の火の大陸とかいう場所に辿り着いたあの剣。
かつて龍神界で他の龍を喰らい龍神に反逆したため魔界に堕とされたという1匹の龍。その龍が自らの憤怒と絶望と魔力をつぎ込んで造り出したというあの剣。
・・・そんな代物をたかだか一人の人間が目覚めさせるなんて!
親を目の前で殺されたことで哀しみの感情が増大して精々デュカストーン、魔石の効力を高める程度だと思っていたのに!
あの剣の力を引き出せるなんて!
化物化するなんて!
『やっぱりニンゲンって面白いな!』
その顔をぐにゃりと歪めながら青年、デュカストテレスは再び遠くを眺めだした・・・
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「でかいな・・・!」
俺は爬虫類の近くでその姿を改めてよく見てそんなことを呟いた。
その巨躯、額に生えた角や顎に生えている巨大な牙を見ながら。
だが、2人増えたことで警戒しているのか襲いかかってはこない。
が、こいつは凄まじく素早い動きをするので油断はできない・・・
「・・・貴様、何をしに来た・・・」
ミシルらしき奴が横に並んだ俺にそんなことを言った。
「いや、何しにって。その爬虫類を止めに来たんだが」
「・・・下がっていろ。こいつは私が仕留める・・・」
偉そうに俺に言ってきた。
「お前だけじゃ無理だろミシル?」
爬虫類がその身体から発散するプレッシャーを感じながら俺は挑発的に言ってみた。
「・・・オーラを持つ貴様がどれ程の腕だかは知らんが、図に乗るなよ・・・!」
「・・・なあ。本当に忘れたのか?俺の、俺達のことを?鬼ヶ島に行ったことも?」
「・・・貴様のことなど知らんと言った・・・!」
俺の顔をちらりと見てからミシルは言った。
「・・・だがその力・・・オーラは以前感じたことがあるような気がするのも事実・・・」
「?その口ぶりだと俺のことが完全に分からないというわけでもなさそうだな?」
「・・・・・・奴を倒した後で貴様の知っていることを全て話せ。貴様を斬るかどうかはその内容次第だ・・・!」
ミシルは未だにこちらの様子を窺っている爬虫類を見ながら言った。
「へえ。俺にそんな口をきくとはね。あの時は散々、世話になっただの、この恩は一生忘れんだのとほざいていたくせにな」
「・・・私にはところどころ欠けている記憶がある・・・あやふやな・・・仮に貴様の言うことが事実だとしても今の私には確かめようがない・・・!」
「そうかよ。まあ後でたっぷりと話してやるよ」
「・・・ああ。後でだ・・・来るぞ・・・!」
とりあえず此の場は共闘することにした俺達は爬虫類の魔物が口を開けて此方へ襲いかかるような素振りを見せたので会話をやめ身構えた。




