第35話〜禁断の果実〜
〜〜〜
凄いな。
俺は素直にそう感じた。
というのも、
「トウヤ!どうだ、風のチカラは?凄く速いだろっ?」
フェンが言うように風に乗って凄い速さで移動している俺達は馬で移動するよりも、船で移動するよりも大分速く移動しているからだ。
「ああ。凄く速い・・・これなら20〜30分で着きそうだ・・・」
気持ち悪い・・・
軽く酔ってきた・・・
俺達・・・俺とネクとフェンはあの後王都の図書館でリシナ達3人と合流した。そして其処から馬でも借りて水龍の祠を目指そうとしたのだがフェンが、
「風に乗って行けば速いぞ!」
と、自信満々に言うのでついその言葉を信じた・・・
いや、確かに速度だけなら馬に乗って行くよりも遥かに速いのだろうが、
「・・・おぅ」
本当に気持ち悪くなってきた・・・
フェンの風喚びの太刀とやらを使い風に乗って凄い速さで移動する・・・そこまではよかったのだが、刀で風を喚んでそれに乗る、という方法はかなり縦に横にとても揺れる・・・大まかな方角だけを大体決めて飛んで来たのだがここまで揺れるとは想像以上だった・・・!
他の奴は大丈夫か?と見てみると、フェンは慣れているせいか特に何も感じてなさそうだった。ネクは目を瞑りやけに冷静に飛んでいる・・・?リシナとアリナとユリナは身体が回転したり揺れたりしないように結界を張って居場所を固定している、のか?
これだけ苦しいのは俺だけか?と腑に落ちない気分で俺は風に乗って揺られていた・・・
〜〜〜
「・・・ゲン・マドゥを消したあとは私を、というわけか、闇の武よ・・・」
私は獅子が此処に来た理由に見当はついていたが牽制のため一応言った・・・
おそらく私が黒竜と戦っていた魔力を感じて私を討つために此処までやって来たのだろう。人間らしき騎士と共に・・・
「まあな!そろそろ闇の三強と呼ばれるのも飽きてきたしな。闇の大陸の覇者は1人でいい・・・!」
ランザー・レオパルドは牙を剥き出して此方を威圧するようにそう言う。
「それに、俺の新たな仲間もようやく仇討ちができるらしいからちょうどいいしな!」
と、傍らの甲冑を身に付けた凄まじい殺気を放つ者を見ながらそう言った。
獅子が同盟破棄に踏みきった契機はあの者を仲間に引き入れたからだろう。
しかしあの者・・・・・・魔力に加えて・・・?
「・・・そうか。ならば問答無用。此の場で滅してやる、ランザー・レオパルド・・・!」
「はっ!おもしれえ!やってみろよっ!やれるもんならなあっ!」
私は魔力を全開にし相対した獅子に対して身構えた・・・
~~~
「貴方はやはり人を捨てたようね?」
私は自製の魔石を使ったと思われる目の前のウォルス王国の生き残りの騎士にそう言った。
「・・・貴様を倒すためだ。チカラを取り入れたおかげで記憶が無い部分もあるが、それだけは忘れようもない・・・!貴様に踏みにじられた記憶だけはな・・・!!」
目の前の騎士は今にも私を殺しそうな眼つきで睨みながらそう言った。
「そう・・・ついに辿り着いたのね?この闇の大陸に入れる域までに・・・」
「・・・・・・?貴様は以前もそう言っていたな・・・強さや憎しみ、閃きだったか・・・憎しみなら私は誰よりも持っている・・・貴様だけは絶対に許さんというな・・・!」
「でも、分かったのでしょう?私が貴方の国を落とした理由を?悪魔と戦ったのなら・・・」
私がそう言うと騎士は僅かにたじろいだ。
・・・?何か違和感があるわね?
「・・・あの悪魔が言ったことは出鱈目だ・・・!我が王が悪魔に魂を売るなどと・・・」
「・・・どんな話を聞いたのかはわからないけれど。それは事実よ。だから私は・・・」
「・・・五月蝿い・・・!貴様のことなどはどうでもいい・・・!貴様に滅ぼされた者たちのためにも私は貴様を討つ・・・!」
・・・・・・!
私は違和感の正体に気付いた。
この人間は魔の力を取り入れながら、人の心を失っていない・・・?
何故?魔石を使った者は・・・
「・・・・・・でも、人のまま天に召されるのと悪魔の傀儡になって生き永らえるのとどちらが幸せでしょうね?自らの意思で悪魔に近づいた王はともかくそれに巻き込まれ人でなくなったら国民はたまったものじゃないでしょう?だから・・・」
「・・・滅ぼしたというのか・・・?罪もない者達を、国を・・・!」
「ええ。もっとも私の都合が大半だけれど、そういう気持ちも多少はあったわ」
「・・・勝手なことを・・・貴様の都合で・・・!」
「でも結果、だからこそ貴方には人を越えた力が手に入ったのではない?魔石のおかげで・・・」
私が魔に堕ちた時の何よりも強い願い・・・我が子に会いたいという気持ちがあり、それに魔石が応えたわけだがこの人間の場合は私を殺したいという強い願いがあったから魔のチカラを手に入れることができた筈だ。
永年、自らの魔力の源となるものを調べ研究しそして造り出したアレを・・・
だが、
「貴方は大切な者を壊したいとは思わないの?」
私は先程感じた違和感について疑問に思った。
何故私の時とこの人間は違うのか、と。
大事だと思っていた故郷の村を滅ぼし殺意の衝動に駆られていた私と。
あの魔石は失敗したのだろうか?
「・・・何を、貴様が何を言っている・・・!私の大切な者を全て奪った貴様がっ・・・!!」
ゴォォッ!
今にも斬りかかってきそうな雰囲気で騎士は魔力を視認できるほどに高めた。
凄まじい・・・
これが人の憎しみ、か・・・
だが・・・?
「まあ、それはそうよね。でも、全てとは?以前会ったときは貴方に仲間が居たと思ったのだけれど?あの仲間はそんなに大切な者では無かったということかしら?」
火喰い島で戦った際にはとても強い人間と共に居たことを思い出し私は言ってみた。
まだ年若い者だったが。
「・・・仲間、だと・・・?今の私に仲間など居ない・・・!貴様に全て殺された騎士団の者以外はな・・・!」
・・・?
どういうことかしら?
親しそうな感じではあったのに。
・・・!
・・・成る程ね。理由は分からないけど私に使われた魔石と私がそれを基に造ったものにはそこが違うということか・・・
あの人が扱うべきではない禁断の果実と・・・
私はそれと全く同じものを造ろうとしたわけだがどうやら上手くはいかなかったようだ。
「貴方は此処、闇の大陸に来る前は何処に居たの?それに貴方は何者なの?」
疑問を解消するために確認するために尋ねると、
「・・・異なことを・・・貴様は余程他者を愚弄するのが好きとみえる・・・!私はウォルス王国騎士、ミシェール・オルレアン・・・!
ウォルスから最後の生き残りとして貴様を討ち滅ぼしに来た者だ・・・!!」
!
やはりそうだ。
この人間は人の心ではなく・・・
「・・・御託は聞き飽きた。今こそ決着を着けさせてもらう・・・!」
そう言いながら此方に剣を向けた。
「貴方はミシル、と呼ばれていたはずだけど?」
私も魔力を高めて身構える。
「・・・ミシル?どうでもいい、そんなことは・・・覚悟しろ、デュカ・リーナ・・・!!!」
「・・・私の造ったものだから差異がある・・・?いいえ、おそらく憎しみの感情が強すぎて、」
多くの記憶を失ったであろう騎士に対して私は杖を翳した。
〜〜〜
「ハッハァーッ!どうしたよ、ダークナイトッ!動きが鈍いんじゃねえのかっ?」
・・・ランザーが上機嫌にそう言いながら私の周りを高速で動き回り凄まじい速さで翻弄する。
獅子奮迅雷速、とか言ったか・・・
「・・・ランザーよ。余裕だな・・・」
・・・奴の残像しか見えない私は巨木が背になるようにじりじりと後退した。
背後からの奇襲に警戒せねば・・・
「ああ!今がまたとないチャンスだからな。ゲンの野郎も居ないし、てめえは、」
・・・殺気!
来るか・・・?
「消耗してやがるからなあっ!獅子王牙穿っ!」
「・・・右か!」
キィンッ!
・・・私はランザーの爪を狙って剣で弾いた。
身体を回転させながら両手の爪で敵を抉り貫く技だろうが、力や速度はともかく狙いが単純な技、だ・・・!
「・・・それでもその形態の貴様には負けんよ・・・本気で来い、ランザー・・・!」
私に弾かれ正面に立ったランザーが、
「ハッ!やっぱりな!万全ならてめえは俺の爪をへし折るぐらいはできたはずだ。あの妙なチカラを使ってなあ!そう考えればミシェールのほうが強いかっ!」
・・・妙なチカラ。
オーラのことだろう。確かに今の私は黒竜との戦いで大幅にオーラを消耗している。
魔力は・・・むしろ上がって、いる・・・?
・・・そして、あの騎士。どうやらかなり強力な者らしい・・・
「ハッ!今のてめえには耐えられないだろうがっ!優しい俺はこのまま殺してやるよっ!!」
ランザーは言いながら再度高速で動き始めた。
「・・・剣鬼と呼ばれた私も舐められたものだ・・・」
・・・奴は己の爪が折られなかったことで私の攻撃の威力を測っただけで、何故攻撃が受け止められたかは考えもしない・・・
「・・・敵の殺気を読み、次の行動を予測する・・・」
・・・ランザーは魔力で強化した己の肉体のみで戦う武闘派だ。
魔導王などとは違い攻撃の際には必ず相手に接触する・・・
・・・其処だ!
「・・・羅神剣、砕牙・・・!」
バキィッ!
「ガッ!?」
・・・私は頭上に捉えた奴の殺気に向かい今度は弾くのではなく叩き折るつもりで剣技を繰り出した・・・
結果、ランザーの両手の爪を折った・・・
「・・・ランザーよ。本当にそのままでいいのか・・・?」
「ちっ。ミシェールにも折られてめえにも折られるとは。剣を使う奴ってのは厄介だな」
「・・・ふっ・・・貴様が単純過ぎるだけではないのか・・・?」
・・・私は挑発するため嘲るように言った。
「てめえっ!・・・・・・いや、ここは冷静にいくか」
・・・と、形態を変えるかと思えばランザーは落ち着いてそう言った・・・
「・・・貴様、そのままでいいのか?」
・・・私が腑に落ちずに言うと、
「ハッ!そうそう変身するかよ。それに、」
「・・・なんだ?」
・・・私はランザーが手を翳すのを見て警戒した。
そして凄まじい魔力の高まり・・・?まるで魔法を繰り出すかのようなその構えを見て・・・
「今が使い時だっ!停止魔法!」
「・・・!!貴様が魔法だ、と・・・?」
ズワッ!
・・・と、一瞬光った。
そして、
?・・・身体が重い、いや動かない、だと・・・?
「終わりだ、ダークナイト!喉笛を食い千切ってやる!・・・・・・・・・・・ウォォォォォォォォォォンッ!」
・・・まさかこのような切り札を隠し持っていたとは・・・!
・・・獣の形態になっていくランザー・レオパルドの姿を見ながらそんなことを思った・・・
〜〜〜
「・・・気持ち悪い」
漸く水龍の祠の外に着いた。
風喚びの太刀とやらはかなり便利だ。
・・・それはいいのだが、風に揺られ過ぎたせいか俺は体調が・・・
「トウヤ?此処でいいんだろ?」
フェンが聞いてくるが、今の俺に答える余裕はない。
「おそらく間違いないでしょう。中から不思議な力を感じるので」
リシナが俺の代わりにフェンに答えた、声が聞こえた。
「そうか!じゃあ早速中に入ろうぜ!」
やたらと元気にフェンが言う。
「え、ええ。それはいいのですがトウヤさんが・・・」
俺のほうを見ながらリシナが言うが、
「だ、大丈夫だリシナ・・・早くミシルを見つけなきゃな」
俺は必死になってそう言った・・・
「・・・・・・」
いや、ネクの視線がやたらと痛いのはなんでだろうな?何かを言いたそうな?
「よし、入るぞ!」
なんでフェンはこんなに元気なんだ・・・
そして俺達6人は俺の案内で祠の中の泉があった場所まで来た。
泉の中に水がなくなりぽっかりと大きな穴が空いており、底のほうに何やら文字が円形に書かれている。あれが龍巣か?
それにしても・・・やはりレヴィアタンは居ないな。
「思うんだが、全員が行く必要はなくないか?」
闇の大陸とやらは危険らしいので俺は気を使って言った。
「私は行きます。トウヤさんの聞いたとおりレヴィアタンさんが言った話を信じるなら・・・」
かつて闇の大陸に行った人間とは羅義神人という人物ではないか?と、俺が思ってリシナに伝えたことを言う。
「俺も、俺も行くぞ!」
まあ、フェンはそう言うと思っていたが、
「わたしは行かない」
?ネクは此処まで来てどうしたんだ?
俺は気になって、
「ネク?行かないって?」
尋ねると、
「うん・・・此処に来るまでは行く気だったんだけどね。やっぱり待ってる」
ネクがそう言うと、
「あたしも行かない。ユリナも」
と、アリナが双子の妹を見ながら言うと、ユリナは頷いた。
「お前らどうしたんだ?」
俺は此処に来るまではかなり乗り気だった3人を見ながら言ったが、
「何ていうのかな・・・その龍巣だっけ?それに拒絶されてる気がするのよね・・・」
ネクがそう説明するが、俺にはよく分からない。
「もしかしたら、」
フェンが何かに気づいたように口を開いた。
「なんだ、フェン?」
「いや、気を悪くしたら申し訳ないけどもしかしたらあれを使う程の強さが足りないんじゃないか?」
「強さが?」
「ああ。多分だけど」
そんなことがあるのだろうか?
まあ、行きたくないと言っている奴等を無理に連れていくのも悪いしな。
というわけで俺達、俺とフェンとリシナは龍巣を使ってみることにし、ネクとアリナとユリナはこの付近で待ってる、ということになった。
「まあ、行ってみてミシルのオーラを感じなかったからすぐ帰ってくるから」
と、俺は待っている3人に言い残し泉があった場所へ飛び降りた。フェン、リシナとそれに続き、
「よし試してみるか」
俺はレヴィアタンに聞いたように、
「闇の大陸の龍巣へ!」
すると穴の底の文字が光だした!
「なあ、トウヤ?何か暖かくないか?」
フェンがそんなことを言うが?
「暖かい?そう言われたらそうだな。リシナもそうか?」
リシナはどうかと気になって聞いてみたら、
「そうですね。少し」
フェンと同じように暖かい、と言う。
そして、あたりが白く輝き出し、
「!?」
周囲が見えなくなった。
残された3人は、
「消えた・・・トウヤ、大丈夫かな?
・・・・・・それにしてもあの声はいったい何?」
「ごめんね師匠。何かに行くなと言われた気がしたんだ・・・」
「・・・龍巣が繋ぐ世界。でも、私を止めたのは誰?」
そう口々に言った。
〜〜〜
速くなっているだけではない。この騎士の心は・・・
「・・・やはり不死の肉体か・・・厄介な」
見えない速度で剣を胸に突き刺されたが不死の再生能力を持つ私には致命傷にならない。
「貴方はやはり他の人間とは違うわ」
傷を回復させながら目の前の騎士に言ってみると、
「・・・何の話だ。確かに私は闇の力を取り入れたが、それは・・・」
「それは魔石のおかげね・・・・・・私の造った」
「・・・な、に・・・?」
騎士が僅かにたじろいだ。好機・・・!
「吸血爪!」
杖に吸血剣の特性を取り入れて新たに造り出した、この技。つまり、魔力を吸いとる。
だが、
シャッ
「・・・いつぞやとは違い刃とは・・・だが、貴様の攻撃など・・・!」
反応速度も以前より遥かに上がっているらしく完全に見切られていた。
「強い・・・!」
だが、今までとは違い此処でこの騎士を倒しておかなければ神人が・・・
「・・・どうやら私は貴様より強くなったようだ・・・」
「さあ、どうかしらね。案外私はまだ本気を出してないのかもしれないわよ?」
そういえば神人は、
・・・!!?
「・・・どちらでもいい。身体が回復しても魔力は減っている・・・つまり傷をつけ続ければいずれは・・・」
神人が危ない・・・!
彼方を見れば何故か棒立ちになった神人が大きな獅子に襲いかかれているところだった。
〜〜〜
・・・闘獅子になりきったランザーが残りが少なくなった魔力を集中させながら此方を見て舌なめずりをしている。
おそらくこの他者をその場に留める魔法とやらは魔力を大きく消費するのだろう。だが、少なくなった奴の魔力でも全力で私を攻撃すればおそらく私は死ぬ。
先程から魔力を全開にしてもその場から微動だにしない私は外しようもない標的だからだ・・・
・・・先程から可能な手を考えているが、このままやられてなるものか・・・
・・・!
そういえば、セフィロトの果実とやらは生命力を授かると言っていた。もしやオーラの回復が・・・
私は先程黒竜から受け取った果実の存在を思いだし懐に入れていたそれを何とか取り出そうと足掻いた・・・
「グルルルル・・・?」
・・・そんな私の動きに警戒したのか獅子となったランザーが此方に近づいて来る・・・そして、装着したあの黒い牙は・・・?
・・・よし何とか取り出せた。
あとはこの実を・・・
シャリッ
その瞬間、
・・・・・・・・!!!?
これは、記憶・・・!
その実をかじった瞬間、獅子が飛びかかってきた。
その時、
ドスッ!!
・・・痛みを感じない?
そして眼前の光景を見ると、
先程私と共闘した少女が獅子の牙の餌食となっていた・・・
その少女が私を振り返り、
「大、丈夫?し・・ん・ど?」
微笑みながら私にそう言った。
その光景を見た私は、
「母さ、ん?」
先程思い出した幼き頃の記憶とともに、その顔に母の面影を感じた・・・




