第30話〜加護〜
〜〜〜
「この力・・・?」
シンド・ラギは怪訝な顔をしてそう呟いた。
「・・・一方は獅子だろうが、もう一方は・・・?」
闇の大陸の奥の方から戦う魔力を感じとり、最初はランザー・レオパルドが奥深くに棲む強力な魔物あたりと戦っているのだろうと思っていた。しかし、その相手らしき者の魔力は純粋なものではなく、何かが混ざったようなチカラ、かつて何処かで感じたような感覚だった。
だが、
「・・・決着が着いたのか・・・」
その両者ともに戦うことをやめたのか先ほどから魔力も何も感じなくなった。
「・・・あの獅子の武力ならばそれも必然、か・・・」
そう呟き目の前の巨大な魔物を斬り捨てた。
〜〜〜
不死兵を量産している最中に遠くのほうで膨大な魔力の奔流を感じた。
「ランザーか?相も変わらず戦闘狂だのう」
ゲン・マドゥは同盟を組んでいる獅子顔の性質を思い出し僅かに苦笑した。
「・・・しかし奴が本気を出す程の相手かの・・・?」
ランザー・レオパルドは普段は半人半獣の姿を取っておりその肉体の頑丈さ俊敏さを活かして様々な体術を使えるが、奴の強さの本領は実はさらにもう一段階上、完全な獣形態になってから発揮される。
今は亡きアルカード・ブラッディも半人半獣だったが魔力の絶対量がそこまで高くないため普段は人間形態で戦うときは人狼へと変貌していた。もう少し・・・いや、大分か。魔力が増えれば人狼を越えて狼形態になり、それこそ我等や天狼に匹敵する強さをもちえたものを・・・
それはともかく。
ランザーの先刻の魔力の上がりかたを見れば獣形態になったのだろうが・・・
「相手の・・・魔物?か?ランザーが本気を出す程の魔力ではなかったのではないかの?」
ランザーと戦っていたらしき魔物の魔力は並の魔物よりはかなり高かったが。それでも人獅子形態のランザーのほうが上だったように感じた。
「まあ、戦いは魔力の量だけで決まるものでもないからの・・・・・・どうやら終わったか」
戦っていた2つの魔力を感じなくなりゲン・マドゥはひとり納得したように呟いた。
〜〜〜
「はあ、疲れた!結局300㎞ぐらい走ったぞ・・・」
俺はレヴィアタンの住み処から急いで引き返した。
何故なら、
「お疲れ様でした、トウヤさん。・・・でも私の御先祖様は本当に其処から旅立ったのでしょうか?その龍巣?から」
リシナが俺を軽く疑うような口調でそう言った。
俺はリシナから聞いた話、そしてレヴィアタンが言っていたことを総合して、かつてリシナの御先祖とその友達は火の大陸の龍巣を使って移動したのではないかと予想した。
250年程前ならば、今ほど船の技術も発達してなかっただろうし、レヴィアタンの話が本当なら確実に誰か通っているだろうしな。
「いや、あくまでも予想だからな?でも仮に違ったとしてもミシルを探してみようとは思ってるんで・・・」
「そうですね。しかし、魔力ですか・・・人がいきなり魔力を持つようなことがあるので・・・・・?」
「?どうした、リシナ」
リシナが話ながら何かに気づいたような思い出したような顔をしたので聞いた。
「そういえば、火喰い島で鬼族と戦ったときにその鬼族がこんなことを言っていたのです」
「ふうん。何て?」
「ええ。その鬼族は魔法を使ったのですが。私たちに対して、今は廃れているがかつては人間にも魔法を使えた者が居た、と」
「!?そうなのか?」
「そうらしいです。その名残が今は各町村に張られている結界だと・・・」
「ふうん。まるでオーラみたいだな・・・?じゃあ、リシナが使う技、退魔術ってのも魔法ってことになるのか?」
「いえ、それはよく分からないのですが、多分違うのではないかと。1つ言えることは私もアリナちゃんもユリナちゃんも退魔術は使えますが、魔力は持ってないです。それも鬼族との戦いで鬼族の言動から判断しましたが」
「そうなのか。じゃあオーラとプラーナでってことだな」
「そうなりますね。私もトウヤさんも御先祖様は交流があったようですし、基本的な戦い方というか考え方は同じなのかもしれませんね。自らの力を使い、大気の力を取り入れる、という・・・」
「だな。あと、詳しくは判断できないが、俺はそんなに遠くなかったら多分魔力がどんな感じのものかわかるぞ?」
「そうなんですか?私もミシルさんらしき強力なオーラは遠くで何となく感じていたのですが、魔力は全く・・・」
「そうなのか。いや、俺もまあ何となく嫌な感じがする、っていう程度のものだけどな」
ちなみに今俺達はレヴィアス王都にある王立図書館の休憩室の中に座って居る。御先祖の行先を調べるというリシナの言葉から判断して俺はここだろうとあたりをつけ、その読み通りリシナ達が居た。
「ねえ。それよりネクちゃんは?もう治ったの?」
と、横に居たアリナが聞いてきた。
「いや、もう少しだな。一応出るときーーーーーー」
すぐ戻るとか、そんなやりとりをした時のことを話した(何故か不満そうにいじけてたことも)
すると、アリナが横のユリナに何やらごにょごにょ耳打ちをしていた。
いや、聞こえないぞ?
「(トウヤくんって鈍いのかな?)」
「(・・・)」
耳打ちされたユリナが此方を冷めた目で見ていたのが多少気になったが・・・
〜〜〜
大丈夫かな?
シエル・スサノオが鬼ヶ島へ向かう船上で今さらながらそんなことを思っていると、
「姫?どうかされましたか?何か心配事でも・・・」
ガロウがそんなことを聞いてきた。
「いや別に?ああ、1つだけあると言えばあるわね」
「・・・何でしょうか?」
あたしがそう言うとガロウが妙に難しい顔をしていた。
「あれよ、あれ」
と、あたしは離れた所で佇んでいる1人の女性を指差した。
「あれ?ああ・・・実力は保証しますが」
「うん、ガロウ。そういうことじゃなくてね。彼女の強さは分かってるんだけど、その何て言うか・・・一応機密事項に入るんじゃないかな?」
「機密・・・いや、一般の者に知られようが大した問題ではありませんよ」
「えっ、でも。もし広まったら神獣の力を利用しようとする輩が出てくるのじゃない?」
「姫・・・古より伝わる神獣の力、それを一般人がどのように利用するのですか?」
「ええと。見世物とか?」
「まさか。一説によると神獣は人語を解するとても知能の高い生物とのことです。そんな境遇にされそうだと分かった時点で離れていきますよ」
「じょ、冗談よ!いや、でも。いくら大会優勝者で腕が立つとはいえ、政府所属でもないのに神官や警備隊と行動を一緒にするのはねえ・・・」
言いながら、離れた場所で1人佇む女性ニルナ・カナワを見た。
私が懸念していること。
それは一般人への神獣の存在の情報の漏洩だ。
元来火の大陸で、神事を司ることができるのはカグツチ政府所属の神官だけである。他の町村には勿論神官は居ないため、何か祭事がある際にはカグツチから各町村へ神官を派遣している。
今回の場合は先に民間の行商人に鬼ヶ島の調査を依頼してその結果神獣の存在を知ったわけだが(アズト・ミタラなる人物には一応口止めしてある。もっとも神獣と判明した時点で調査を打ちきったとのことなので心配しすぎかもしれないが)それを踏まえて、警備隊第2班12名、ナシラを入れた神官隊8名、それにあたし、ガロウ、ニルナ・カナワの計23名で神獣捕獲隊を結成したわけだが(あたしが行くと言ったらシバは猛反対したが、何とか説得?した)その中で唯一政府所属ではない、ニルナ・カナワの存在は後々問題にならないか、あたしは心配していた。
「ですが、強力な得体の知れない技を使う鬼族が少なくとも二名は居るとのことです。万一のことを考えれば、」
「分かってるって!戦力が必要だってことは。もう此処まで来てるし」
なら、今さらそんなことを仰らずに・・・
とか、ガロウが小言をぶつぶつ言い始めたのであたしはそれを無視して、前方を見つめた。
海しかないが・・・
一応用心のため、あたしはスサノオ家の宝刀を持ってはいるが、あたしの実力で鬼族と戦えるかどうかも分からないし。
いや、上手くすれば戦わずにすむかも?とも考えたが、此方は神獣を奪いに行くので無理かな?あたしはそんな思考に耽っていた。
〜〜〜
王都の中で宿を取っているというリシナ達と一旦別れて俺はネクの待つ宿に向かって歩いていた。
ネクを連れて2〜3日ぐらい後でまた王立図書館に来るという約束をしているのであいつの風邪が治り次第またリシナ達と合流して、再度水龍の祠に行く。
・・・にしても。
水渇刀だっけか?レヴィアタンに貰ったこれは。
俺は腰に差した刀を見てレヴィアタンとの会話を思い出していた。
▽▽▽
とりあえず、ミシルを探しに行くのはネクやリシナ達と合流して行くか。そこまで急がなくてもミシルの強さならそんなに問題もないだろう。魔力とかはよく分からないが・・・
そんなことを考えて水龍の祠を出ようとしたら、
『待って。貴方は帰るの・・・?』
レヴィアタンが俺にそう言った。
「ああ。いや、仲間を連れてもう一回来るよ。龍巣を使いに」
『そう・・・私は一旦此処を離れるわ・・・』
「えっ?此処がレヴィアタンの家じゃないのか?」
『違うわ。あくまで此処は竜族の共通の拠点。私が普段居る場所は本当に誰も来ない場所にあるの・・・』
「そうか。それにウォルス国も滅びたしな・・・」
俺はミシルの言葉から、レヴィアタンが見ていた人間というのはウォルス王家の人間だと思っていた。
『そうね・・・・・・そう言えば、すこし前に来た人間が変わったことをしていたわね・・・』
ふと思い出したといった口調でレヴィアタンがそう言った。
「変わったこと?」
『ええ。龍巣に近づいて、何かを喋って・・・何をしていたのかしら・・・』
「さあな。それより俺はもう行くぞ」
『待って。その前に、これを・・・』
そう言ってレヴィアタンは何処からともなく一本の剣を取り出した。
炎斬に形が似てるな?
その剣を見て俺はそう思った。
「これは?」
『私の魔力を込めて作った刀・・・水渇刀よ。貴方にあげるわ・・・』
「刀?これも刀なのか?そもそも刀ってなんだ?」
俺はいつぞや誰かに言われた刀という言葉をまた聞いて尋ねた。
『貴方ね・・・持ってる武器のことも知らないの・・・刀というのはーーーーーー』
レヴィアタンが呆れたような顔をしながら説明してくれた。大まかに言うと刀というのは太古の昔、それこそ何万年か前に何処かの大陸でモノノフ?という名の人達が好んで使っていた剣とは一線を画す武器らしい。その曲線美、重さ、切れ味、どれを取っても魅了される妖しい雰囲気があった、とレヴィアタンが熱く語った。
サラマンドラも刀に魅了され無意識にそんな形にしたのでは?とレヴィアタンが勝手に想像していたが。まあ、つい鞘から抜いて刀身を眺めたくはなるんだが・・・
「形をその刀に似せたっていうのは分かったけど、何で俺に?」
何故かその大事そうな刀をレヴィアタンが俺に渡したのでそう言った。
『貴方ならおそらく使いこなせるでしょうからね・・・』
そう言われて悪い気はしないが、
「そうか。それなら有り難くもらっとくよ」
『ええ、どうぞ・・・水竜の加護を・・・』
そう言ってレヴィアタンは一瞬手を翳した。
「?それにしても。なんか色々世話になったな。また会えるかな?」
『さあ?ひょっとしたら貴方が生きている間は無理かもしれないわね。そうなったら残念ね・・・』
「この刀があるからな。少なくともレヴィアタンが無事ってことがわかるから、俺は別にいいさ」
『そう言われたら嬉しいけど。それと、最後に1つだけ・・・』
「なんだ?」
『さっき話したのだけど・・・』
「うん」
『以前、数百年前に龍巣を通った人間が居たと言ったじゃない?・・・』
「ああ、言ってたな。俺はそれを聞いて仲間に知らせてやらなきゃならないと思ったから憶えてる」
『聞いた話だとその人間が持っていたのも刀だったらしいわ・・・黒竜の加護を受けた・・・』
「?竜族ってのはみんな刀が好きなのか?」
最後に別れの挨拶を交わし俺は祠を出た。
△△△
そういやこの刀の使い方とかは何も聞いてなかったな。
まあ、使ううちに分かるだろ。
と、考え直して俺は歩いた。何故歩いているかというと、最初は走って帰るか?と思ったがネクがまだいじけてたらめんどくさいと思ったので、ここは1つ土産でも買って帰り機嫌を取ろうと思い、王都の中にある装飾品屋でも寄ろうかと考えたからだ。
此処か?
しばらく街中を歩くとそれらしい店があったので俺は中に入った。
うわ、さすが火の大陸よりも技術が発展してるな。
やたら加工されている指輪や首飾り等を見て俺は内心驚いた。
そうして探していると、
「これか?」
「・・い」
何となく豪華に見える銀製の指輪を手に取って見てみた。
値段もそれなりか?
指輪を見ながらそんなことを考えていると、
「おい、お前!無視すんな!」
ん?俺に言っているのか?そう思い声のしたほうを見ると、
「お前は何処からきたんだっ?」
興奮した様子の、俺とそう変わらない年格好をした奴が居た。黒髪黒瞳の。
〜〜〜
「オーラ?」
俺は新しく仲間になった魔神、ではなくニンゲンの・・・元ニンゲンのミシェール・オルレアンと戦いについて、今後の予定について色々と話していた。
戦略を練るためにお互いの実力やできることを把握しておくべきだ(という名目でいずれ俺がこいつと戦うときに何か役に立つかと思い)と俺が主張し、先ほどの戦いの最中に感じた得体の知れないプレッシャーの正体は何なのかと尋ねた俺に対する奴の答えが、
「・・・そうだ。オーラ・・・人のみが持ち得るチカラ、己の体内より作り上げ体外に発するチカラ、魔物では持つことの無い、な・・・」
「?でも、お前は既にニンゲンじゃなくなったわけだろ?何でそのチカラがまだ使えるんだ?それに魔力も・・・」
「・・・それは私にも分からん。お前との戦いの際には使えたから使った。それだけのことだ・・・」
「そうか・・・まあ、お前の強さの仕組みは大体分かった。!そういや、あいつも・・・」
「・・・あいつ?」
「ああ。あいつってのは、同盟相手の闇騎士のことだ。あいつもミシェールと似たようなプレッシャーを出していたような気がするな」
「・・・闇騎士。興味深いな。その者は人間なのか?」
「さあ?あいつが兜を外した姿を見たことがないからな。人なのか魔物なのかもよく分からん。それに、」
「・・・?」
「どうでもよくないか?今から倒す奴のことなんて」
「・・・確かにな」
「じゃあ、今後についてだが、まずはーーーーーー」
そうして、俺とミシェール・オルレアンは、俺が知りうるシンド・ラギとゲン・マドゥの情報、奴の知るデュカ・リーナとやらの情報を突き合わせてどの敵が厄介か、どの敵から倒すかを検討した・・・
〜〜〜
「火の大陸!?ひょっとしたら同郷かと思ったのに・・・」
と、俺に声をかけてきた少年フェン・クレアスは甲高い声でそう言った。こいつは風の大陸から来たらしい。
黒い短髪に華奢な身体だが立派な刀を背中に背負っている。軽そうな鎧だな。革製か?
「ああ。仕事上の成り行きで水の大陸の奴と知り合ってな。見聞を広めようとレヴィアスに来たってわけだ」
「そうか。わ、お俺も頭領に旅の許可をもらってはいるが・・・一応名目は風の大陸出身の男探しだしな」
「へえ?やっぱり風の大陸は今でも男が少ないのか?」
「そうだ。そのせいで録に結婚もできやしない・・・」
「ふうん。あっ!でもお前じゃないのか?魚売りのおっさんが女2人を連れてたやつが居るって言ってたのは?」
2人も女連れてるって余程モテる奴じゃないのか?
と、俺はフェンの整った顔立ちを見ながら納得がいかずにそう言った。
「なっ!バカっ!あ、あれはお供の女どもだっ!それにわ、俺はまだ15歳だっ!」
「そうなのか?おっさんも適当なこと言うなー。いや、でも15歳でも別に結婚はできるだろ?フェンは顔がいいし」
「顔がいい・・・・・・はっ!違うっ!わた、俺の大陸では結婚は16歳からだっ!」
「そうなのか?ところで頭領ってなんだ?」
「・・・風の大陸のお、俺が居る風厳の里で最も偉く強いお方だ」
と、胸を反らして誇らしげに言った。
「強い奴か。お前も強いんじゃないのか?」
「えっ?お、俺か?」
「まあ、何となくだけどな。それにその・・・」
そう言って俺はフェンが背負っている刀を指差した。
「ああ、これか。これはな、」
「風の竜に関係したものか?」
「!?」
「あれ、違うのか?」
「い、いや合ってる。よく分かるな。これは風の竜のご加護を受けた刀、風呼びの太刀だ」
そう言ってフェンはその剣を愛しそうに擦った。




