第五.五話 見えたもの
ファルとライルか二人で話している間、家に居たサラ視点です。
「うん。やだ」
ライルからの一方的な拒絶に、私は涙を堪えられず下を向いてしまった。
嫌われたのか、私と居るのが怖いのか、分からない。でも、ライルは真っ直ぐ私を見ている。嘘は言わない子だと、私が一番よく知っている。
「また、怖い目に遭いたくないもんね…」
涙は拭った。でも、上手く笑えない。手の震えが止まらない。
「うん…お姉ちゃんが居なければ、怖い目に遭わないもん。だから、ファル兄と行って」
居ない方がいい。そう、言われた気がした。
「…わかった」
私は、耐えられなくなって部屋へ逃げ込んでしまった。扉を締めたら、我慢していた涙が溢れ出した。扉を背もたれに踞り、声を殺して泣いていると、扉越しにファルの声が聞こえた。
「ライル、夕焼けが綺麗ですよ。私と2度目のお散歩にいきましょうか」
玄関が閉まる音。窓から漏れる足音が聞こえなくなると、私は泣き声を我慢できなくなった。
「ライル…ごめん。…ごめんね」
私が、お姉ちゃんじゃなかったら、ライルは1人にならなかっただろうか。
今も、両親と笑えていただろうか。
違う姉や兄がいたのだろうか。
頭の中を、同じ考えが何度も、何度も…何度も何度も駆け巡る。
でも、答えは出ない。
不意に、ファルの言葉が頭を過った。
『何かを奪おうとする者は常に理不尽なんです。…人も、世界も。だからサラさん、貴女は悪くない』
違う。私が居たから、ライルの平穏を奪ったんだ。ライルの視線は、言葉は、奪われた側のそれだ。
漸く涙が止まっても、同じ考えだけが頭の中を駆け巡る。
何気なく体勢を変えた時、窓の外の夕日が消えかかっていた。
「…あ、ごはん…作らなきゃ」
嫌われても、一緒に居たくないと言われても、私にとってはたったひとりの可愛い弟、それは変わらない。
台所に立ち、ライルの好きな料理を思い出す。
美味しいと喜びながら食べる顔を想像して、また涙が出てきた。
「もう、あんな顔…見られないのかな」
料理に涙が入らないよう、捲った袖で必死に拭いながら作っていく。
少しだけでも、喜んでほしい。そう願いながら、出来上がっていく料理を食卓に並べる。
並べ終わる頃、静かに玄関の扉が開いた。
「お帰りなさい。ライル」
今度は、ちゃんと笑顔、作れたかな。
「お昼食べ損ねちゃったから、いっぱい食べてね」
ライルの表情は…変わらない。
うん、分かってた。でも…。
「それでは、また明日。おやすみなさい、ライル、サラさん」
ファルはそう言いながら一礼して、一瞬私を見た。
「ファルさん、おやすみなさい。あの…また明日」
見送った背中は、明日があるのだと雄弁に語っている気がした。




