第十九話 見る者達
「つうかよ、ファルネーゼ。お前が全部話せば済むんじゃねーのか?」
「私はなにも知りませんよ」
「うそつけ!大体お前は――」
「そこまでにしましょうか。グランツ」
ファルは穏やかな表情のままなのに、応接間に緊張が走り、兵士は手を震わせていた。
「すみません。脅すつもりはなかったんです」
「い、いえ!問題ありません!」
ファルが兵士に話しかけると、兵士らしく敬礼して答えた。アルティスは身体の力を抜き、グランツの袖を引っ張った。
「流石に踏み込み過ぎよ…」
「ああ…悪かったよ」
グランツは納得できないと言った様子で腕を組み、背もたれに身体を預けた。そのまま、片目だけ開きサラを見た。
「穣ちゃんは、いいのか?目の前に答えがあるかも知れないんだぞ?」
「…ファルは、話さないと思うから、だから…私が知れば教えてくれると思います」
「なるほどな…今までと違うと言われてる理由が分かった気がする」
サラが少し下を向いて、考えてから再度グランツを見た。
「私は、私でしかないですから」
グランツは目を見開き、アルティスはサラを見つめている。ファルは正面に座る三人を見てから咳払いをした。
「それで、禁書庫は開けて頂ける、で宜しいですか?」
「いや、答えるまでもないんだが…。お前はあっさりし過ぎだろ」
グランツは項垂れるように下を向くと、床を靴の裏で数回叩いた。そして、再度ファルを見た目は、グランツが初めて見せた鋭い目だった。
「教会は諦めないぞ?」
「ええ。そうでしょうね…。アーテルの執着は凄まじいですから」
ファルが肩を竦めると、グランツはいつもの目に戻った。
「それ、お前が言えるか?」
「あなた、そこまで私を見ていた訳ではないでしょう」
「そりゃーお前からしたら短いだろうなぁ」
グランツは天井を見上げて遠い目をしているが、ファルは気にせず立ち上がった。
「紅茶、おかわり要りますか?」
「「「いただきます」」」
サラ以外の三人が声を揃え、サラが小さく笑った。同じようにファルも小さく笑うと、いつもの動作で紅茶を淹れ始めた。
そのファルの背を横目に、サラが口を開く。
「あの、陛下?とファルはいつからお知り合いなんですか」
「なんで、陛下?って疑問符付いてんだよ!」
グランツの指摘に兵士が吹き出しグランツが睨むと、兵士が更に笑い喋りだした。
「だって陛下?はただのおっさんじゃないですか」
「おい!おっさんなのは認めるが、陛下?じゃなくて陛下だ!」
アルティスまで笑いだし収拾がつかなくなると、グランツは手を叩き場を征した。
「おふざけは仕舞いだ!」
グランツの低く響く声が笑いを止め、応接間に緊張感をもたらした。
「いつから知り合いかだよな…。おい、ファルネーゼ!良いのか?」
「サラさんは感づいてますから、良いですよ」
「まぁそうだな…」
グランツは目を閉じ、長く息を吐いた後、ゆっくり目を開いた。
「穣ちゃん、ファルネーゼはな…実は俺の息――」
「違いますよ」
グランツの言葉を遮り、ファルがグランツの肩を掴んだ。
「その口塞ぎますね?」
「やめろ!口だけはやめてくれ!喋るのが商売なんだ!」
「あなた、一応国王でしたよね」
「まぁ、一応な」
アルティスが呆れたように首を横に振り、サラの隣まで近寄り小声で話し出した。
「ファルネーゼ様は…グランディアや私がまだ赤子の頃から、私たちを知っているのよ」
「そっか…やっぱり…」
「…驚かないのね」
「なんとなく、そうかなって…。だっていつも寂しそうだから」
「貴女にはそう見えるんだ?」
サラは小さく頷き、自分の手の平を見た。
「ファルは、確かに優しいし、ちゃんと温もりがあるのも知ってます。でも、凄く冷たいから…寂しそうって…」
「そう…」
「…私は、ファルをただのファルとして見ているんだと思います。だから、どこの誰で何者なのか、気になるけど…それは私にとって重要ではないんです」
サラは軽く手を握り、自分の温もりを確かめ、アルティスに視線を移した。
「私の事は私が決めます。だから、ファルをどう見るかも私が決めます。他人には愚かだと言われることもあるかもしれません。…でも、少なくとも、隣を歩く人は…待ってくれている弟は、それを認めてくれますから」
アルティスはサラの真っ直ぐな視線を受け止め、サラの握られた手に静かに手を重ねた。
「サラ、ありがとう。確かにファルネーゼ様は、誰にでも分け隔てなく接する。でもね、彼を本当の意味で知ってしまった者たちは…」
「そんなのどうでもいいんです。今は、真実を…私が狙われた理由を、私の家族が殺されなければならなかった理由を知りたい。その後になれば…私がファルを怖れない理由が着いてくると思うので」
アルティスは瞬きも忘れていそうなほど目を見開いたが、グランツの声で直ぐに現実に戻された。
「話しは終わったか?」
「え…ええ」
グランツはサラに一瞬だけ視線を送ると、ファルに向き直った。
「ただのファル…か」
「ええ。私はただのファルと言う変な人です」
グランツとファルの言い合いはいつの間にか無くなり、静かな時間が流れた。
「あ…紅茶覚めてしまいました。入れ直しますね」
「馬鹿野郎!冷めても旨いんだから捨てるなよ!」
「面倒な人ですね」
サラは、そんなふたりのやり取りを聴きながら、ファルの背中に向けられたグランツの視線を背中で遮り、ファルの背中に向けて質問した。
「ファル…聞いてた?」
「さあ、何の事でしょう」
「やっぱり、ファルはファルだね」
サラは、長椅子に座る三人に軽く笑みを見せ、椅子に座り直した。
応接間は、いつもの紅茶の香りが漂い、サラに日常を感じさせていた。




