第十七話 交わりだす思惑
「穣ちゃん!ようこそ!ローズタニアへ!」
グランツが腕を広げ、大声で歓迎の言葉を口にすると、周囲から小さい笑いが聞こえてきた。
グランツは辺りを見回しながら大衆に手を振りだし、サラは顔を赤らめ周りを見渡してからグランツを睨んだ。
「ちょ…目立ちすぎですよ!」
「いいじゃねーか!ここは俺の国なんだからよ!なぁファルネーゼ!」
ファルは心底呆れたようにため息をつくと、グランツに向き直った。
「人の名前を大衆の前で叫ぶ阿呆は消えて貰えませんか?」
「阿呆とは失礼だな!」
「だって阿呆じゃないですか」
その会話を聞いていた周囲から更に笑いが溢れ、サラは更に顔が赤くなっている。
「それよりだ!せっかくだし俺ん家来い!な!」
「嫌です」
「じゃー穣ちゃんだけ連れて――」
「それは許しません」
グランツはファルを更に愉快そうに笑いだした。
「お前は本当にぶれないな」
「あなたが神官の真似事なんかしてるから、余計嫌いになりましたよ」
「真似事じゃねーよ!一応属してんだからな」
「サラさん。行きますよ」
ファルは、サラの肩を押してその場を去ろうとするが、グランツが正面に回り込み満面の笑みを浮かべている。
ファルは一目みた後に諦めたようにため息を吐いた。
「分かりました…行きますよ」
「そうこなくっちゃな!」
グランツの足取りは軽くなり、サラから見ても楽しそうだった。
「ねえ、もしかして、ふたりって前から知り合い?」
「違います」
「そうだぞ」
ふたりの言葉が被り、ファルは睨み、グランツは笑っている。サラはどうして良いか分からずに苦笑いを浮かべながらふたりの後をついていく。
グランツは前を向いたままサラに話しかけた。
「穣ちゃん、王都観光は明日でも良いか?」
「いや、観光に来たわけじゃ…」
「なんだファルネーゼ、年頃の穣ちゃんに観光もさせてやらねぇのかよ。つまらねぇ男だな」
グランツはファルを冷たい目で見るが、ファルは気にした素振りも見せず、無視して歩いている。
「あの…グランツ…さん?」
「なんだ?穣ちゃん」
「ずっと大通り歩いてますが、お店しかないですよ?」
「ん?あー…俺ん家は、あれだ」
グランツが指差した先に、サラは視線を向けるまでもなく理解した。
「え…冗談、ですよね?」
恐る恐る視線を向けた先には、王都で一番大きく、王都の象徴になっている建物、王城があった。
ファルは、サラの隣に並び、酷く嫌そうに口にした。
「この男の本名はグランディア・ローズタニア…この国で一番偉い阿呆です」
「おい!俺は馬鹿だが阿呆じゃねーよ!」
呆然とするサラを横目にグランツは必死に訂正するが、ファルは冷やかな視線を向けた。
「大して変わりませんよ」
「変わるだろ!」
「大体ですね、国を放り出して帰らない国王…もとい阿呆なんて居ても居なくても国民は困りませんよ」
「お前なぁ…」
グランツがため息を吐くと、周囲から笑い声が聞こえた。
「ほら、皆さん同じ意見だそうですよ」
「俺の馬鹿さを笑ってるだけだ!」
「それ、自慢できませんよ?」
「良いんだよ!内省はアルティスがやってんだから!」
サラはその名を聞いて現実に帰ってくると、ぎこちなくグランツに視線を向けた。
「え、あの人も偉い人…なのでしょうか?」
「俺の妻だな!つか穣ちゃん、今更改まるなよ」
「…」
サラは難しい顔をして俯いてしまった。
ファルはそんなサラを置いてきぼりにして話を変えた。
「そう言えば、あなたの奥方、この間の村で何をしていたのですか?」
「ああ…あの家族を殺ったのは俺らじゃねーよ」
「でしょうね。奥方の演技はまあまあでしたよ」
「女狐だからな!」
ファルは少し考えてからグランツを見ると、グランツはファルに目配せした。
「分かりました。まずは王城に行きますよ」
「取り敢えず茶でも淹れてくれ」
「なんで招待された私が淹れるんですか」
「お前の紅茶旨いんだよ」
そんなふたりの会話を聞いて、サラがようやく顔を上げた。
「私も…ファルが淹れた紅茶飲みたい」
「喜んで」
ファルはいつもの笑顔をサラに向けると、グランツは詰まらなそうに小さく舌打ちをした。
「俺にも優しくしてくれたっていいじゃねーか」
グランツの言葉など聞いていないかのように、ファルはサラの隣を歩き王城へ向かう。
グランツは肩を落としてふたりの後ろを歩いていた。




