第十六話 絡まる縁
「ねえ、ファルってさ、もしかして歩いて旅する必要なかったりする?」
「どうしてそう思うんですか?」
「いや、なんかそう思ったから」
「サラさん。人は、歩かないと旅などできませんよ?」
「人、か…そうだね」
名もない村から数日、教会の神官や騎士との遭遇を避けるため、ふたりは遠回りで王都に向かって歩いていた。
小さな林を抜けた先、そこにはサラが初めて目にする大きな街と、大きな城が現れた。
「うわぁ……」
「どうですか?」
「まだ遠いのに、大きい…」
「子どもみたいな感想ですね」
小さく笑うファルを、サラは軽く睨んでから視線を王都に戻した。
「この国は比較的新しい国ですよ」
「そうなの?もう300年は続いてるって教わったけど」
「そうですね…言われてみればそうでした」
サラは小さく首を傾げてから、王都に向けて歩みを進める。
ファルが歩幅を合わせて隣を歩く。
「白と赤が基調なんだね」
「そうですね。教会の白と王族の瞳の色を合わせているんです」
「ふーん…」
サラが興味無さそうに返事をすると、ファルもそこで話をやめた。
街に近づくにつれ、遠目に旅人や商人が見えるようになってきたところでファルが足を止めた。
サラが少しだけ前に進んでから振り返ると、ファルの服が神官服から法衣に変わっていた。
「変装…まではいかないけど、その方が似合うね」
「神官服は目立ちますからね」
黒い生地、刺繍は今までの服と変わらない。
サラがしみじみ眺めていると、短めだったファルの髪が徐々に伸び、肩甲骨の下程で止まる。
「なんか…なんでもありだね…」
ファルは寂しそうに笑い、ゆっくりと首を横に振った。
「それなら、どれ程よかったか…」
「それでも、できることが多いのは良いことだと、私は思うよ。…だって、それで救われた人はきっといっぱいいたよ?」
「どうでしょうか…苦しめてしまった人も沢山いますから」
サラはファルへ歩みより、拳を作るとファルの胸の辺りを軽く殴る。
ファルは不思議そうにそれを眺めてから、サラの顔を見ると、サラはファルを睨んでいた。
「卑下すんな。今は、私が良いって言ったんだから良いんだよ」
ファルは軽く吹き出すように笑い首を縦に振った。
「分かりました。そういうことにしときますね」
「笑うとこじゃない!」
「はいはい」
ファルは笑いながらサラの横を通り過ぎ、王都に伸びる街道へと歩きだす。
サラはそんなファルの背中を少しだけ眺めてから、小走りで追い付いた。
街道に出ると、今まではなかった人の声、馬の蹄の音、馬車の車輪の音が時を刻んでいる。
「凄い人の数だね」
「王都に入ったらもっと凄いですよ」
「ファルは前にも来てるの?」
「そうですね。この王都は嫌いではないので」
ふたりはそのまま、王都の入り口に並ぶ列の最後尾に並ぶと、突如後ろから話しかけられた。
「よお!穣ちゃん!」
その聞き覚えのある声に振り向くと、神官グランツが屈託の無い笑顔でサラを見下ろしていた。
「えっと…煩い神官さん」
「ひでぇなおい!」
グランツはそれでも笑い、サラの隣にいるファルに視線を向けた。
「ん?あんた…そんなに髪長かったか?」
「人違いではないですか?私は貴方など知りませんよ」
「グランツだよ!つい数日前に会っただろうが!」
「こんな煩い人は知り合いにいないのですが」
グランツは肩を落として項垂れて、再度サラに視線移してからファルを指差した。
「こいつ、いつもこうなのか?」
「いえ、普段は…優しい?ですよ?」
ファルが心外と言わんばかりに身体ごとサラに向き直る。
「サラさん。なぜ疑問符がついているんですか?」
「えっと、なんとなく?」
それを聞いていたグランツが笑いだし、周りの視線が三人に向くが、グランツは気にした様子もなく大声で話し出す。
「いやあ!こいつをこんなに適当に扱えるのは穣ちゃんぐらいだなぁ!アルティスでも無理だろ!」
「アルティス?」
「あ?村で会わなかったか?女の最高位神官だよ」
「あ…あの目付き怖い人…」
グランツはそれを聞いて更に笑いだし、グランツは自分の目尻を指で吊り上げた。
「こんな感じだよな!」
「そうです!そうです!」
サラも一緒になり笑いだすが、ファルは冷ややかな目で二人を見つめた後王都の方に視線を戻した。
「ほら、ふたりとも…後ろの方に迷惑になるので進みますよ」
「「はぁーい」」
「なんで無駄に息が合ってるんですか」
ふたりの返事が被り、ファルがため息をついて前に進むと、ふたりがそれに続いた。
グランツが歩きながらサラの身長に合わせて屈むと、サラに耳打ちした。
「ちゃっかり、ふたりとも、だってよ。悪い野郎じゃねーんだよな」
「はい。少しひねくれてるだけだと思います」
グランツの大笑いでファルが深いため息をついた頃、王都の城下町の入り口の門の下に辿り着いた。
グランツが門の守備兵に軽く手を上げると、三人とも身分や持ち物の検査もなく、あっさり通れてしまったのだった。




