第一話 始まりの朝
窓から差す朝日の光に銀の髪が照らされた。同時に、眩しさで眉間に皺を寄せながらゆっくりと身体を起こす。すると、窓の外には見慣れた農村の景色が広がっている。しかし、いつもより新鮮な朝が彼女を出迎えたことを直ぐに理解した。
焼きたてのパンの匂い、朝にしては少し香ばしいお肉の匂い。それは朝食にしては少し豪勢な匂いで、幸せな1日を迎えられるのだという確信をもたらした。
扉の向こうから明るい聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ほら、お姉ちゃん起こしてきて」
「わかった!」
どこか安心する母の声に促され、弟が扉を勢い良く開けた。
「お姉ちゃん!お誕生日おめでとう!」
満面の笑顔でお祝いの言葉を投げ掛け、彼女に駆け寄ると、頭を撫でて笑顔を返した。
少し冷たい髪。その髪を掻き分ければ、確かな体温が伝わる。
「ありがとう。ライル」
大好きな姉に頭を撫でられ、子犬のように目を細めるライル。彼女は、そんな弟が愛おしくて堪らず、気付けば彼女の寝癖よりも乱れてしまったライルの髪が、笑いを誘った。
少しだけ笑いながら、そっと手櫛で整えてあげると、ライルは嬉しそうに母に駆け寄っていく。
ライルの姿を横目に捉えながら鏡に目を向けると、彼女自身の蒼い瞳と目があう。
彼女が寝癖を整えて部屋を出ると、本当に豪勢な朝食が並べられていた。
少しだけ驚いて固まっていると、父からもお祝いの言葉が贈られた。
「おはよう。16歳の誕生日おめでとう」
「ありがと」
彼女は、ライルに言われるより少しだけ照れ臭い気持ちになりながら椅子に座る。すると、母が飲み物を配りながら同じように祝ってくれた。
「お誕生日おめでとう」
「うん、ありがと」
母は椅子に座りながら父に飲み物を差し出した。それを見て父は少しだけ驚いてから、心底嬉しそうな顔になる。
「今日は特別だな!」
父の表情を見た彼女は、中身がお酒であることを即座に理解した。
「じゃー乾杯するか!」
父の元気な声が響いた――まさにその瞬間。
突如玄関が激しく開け放たれた。
踏み込んで来たのは外套を羽織った教会騎士が三人。後ろには神官がひとり控えている。
「なんだお前ら!」
笑顔だった父の表情が、一瞬で鬼の形相に変わり騎士に詰め寄る。
ひとりの騎士が剣を抜き放ち、朝日を反射した――その光景の意味を理解できたのは、父の頭の頭がライルの足元に転がり、数秒経った後だ。
ライルは声にならない悲鳴を上げて椅子から転げ落ち、母は理解が及ばないのか、這うように転がった父の頭に近づくと、酷く震えた手でそっと撫でようとしている。
強烈な血の臭いが家の中を蹂躙していく中、教会騎士の剣が母の背中から胸を貫通する。
力無く崩れ落ちる母を見た瞬間――彼女はライルを庇うように抱き締めていた。
このまま抱き上げて逃げなければ――なのに、足は動かない。
膝は笑い、呼吸は激しく乱れている。ライルは酷く震えて、声すら出せないでいる。
教会騎士の鎧の音が一歩ずつ近づく。
「たしか、焼き殺すのだったな」
その言葉と同時に、教会騎士の手が伸びライルを無理やりに引き剥がそうとする。
「いや!やめて!」
必死にライルを抱き締めるが、鍛えられた教会騎士の力に敵う筈もなく、容易く引き剥がされる。
「ライル!」
必死に手を伸ばすが、声すらも聞こえていないように震えている。
神官がライルの前に立ち、無機質な表情のままライルに向けて残酷に手をかざした。
「やだ!ライル!ライル!」
彼女の叫びが辛うじてライルに届いたのか、ライルと漸く目が合った。
「おね…ちゃ」
――瞬間、神官の手から放たれた赤く激しい炎が、ライルを包み込んだ。




