第十四話 約束の在りか
「これが、レクス・フィニス教会のやり方ですよ」
ふたりの目線の先には、頭部を潰された男性、四肢を落とされ胸を貫かれた女性、焼かれた子ども。そして、唯一損傷が少ない少女。腹部に剣が墓標のように突き立てられている。
「ファル…ごめん。私、見れない」
サラがファルの後ろに隠れ、遺体が目に入らないように強く目を瞑った。
「既視感が、強すぎますか?」
「…うん」
サラの手は激しく震え、涙が止めどなく流れている。
「彼らは決まって、子どもを焼き、少女の腹部に剣をつきたてるんですよ。…少女の殺し方はどうあれ、ね」
サラは聞きたくないと言うように耳を塞ぐと、ファルがそっとサラの手を掴んだ。
「サラさん…酷かもしれませんが、あなたが知らなければならないことです」
サラは激しく首を横に振り、ファルの手を振りほどこうと踠く。そんなサラを、ファルは無理矢理に抱き寄せた。
「あなたは、ライルは…こうはさせません。私が約束します。だから、私の話を聞いてくれますか?」
サラは大人しくなり、ファルの胸の辺りを掴んだ。その手は酷く震えている。
「ずるいよ…知りたいことは話してくれないのに…嫌な事は無理矢理教えるんだね」
「確かに…そうですね。じゃあ、サラさんが一番知りたいことをお話しましょうか」
ファルは子どもをあやすように、優しくサラの背中を叩く。サラも身体の力が抜け、震えが小さくなっていく。
サラは顔を上げないまま小さな声で喋りだした。
「じゃあ…教えて。ファルはどうして、私のところに来たの?私以外にも、この家族みたいな人たちがいるんだよね…なのにどうして…」
「それは…約束を果たすためですよ」
「ほら、答えになってない…誰との約束なの?どうして私なの?」
ファルは軽く息を吐き間を置くと、サラがファルの胸を拳で叩いた。
「そうやって…大事な事ははぐらかすんでしょ?」
「約束は…古い知人としたんです」
サラは、またファルの胸を拳で叩き押し付けた。
「それは、私が知っている人…て事だよね」
「…そうではありますが、そうではないかもしれません」
「名前…教えて」
サラの背を軽く叩いていたファルの手が止まり、僅かに力が入る。
それが合図かのように、サラが顔を上げた。
「…ファル?」
「サラさん、知ってしまったら…後悔するかもしれませんよ?」
「それでも、教えて。どうして私だけを、ファルが助けるのか…ちゃんと教えて」
サラの背に添えられたファルの手が拳を作り僅かに震え始め、ファルは深く息を吐き、サラの目を真っ直ぐ見つめた。
「たとえ数百、数千の歳月が過ぎようとも必ず……見つける。そうしたら、一人ではない。…そうだろう?…ソフィア」
「ソフィア…って誰?…私じゃ…ない」
サラは、目から大粒の涙が溢しながらファルを見つめている。ファルは目を逸らさずサラを見ている。
サラがゆっくりと首を振り、それが徐々に激しくなる、
「違う…違う、違う!私はソフィアじゃない!」
ファルの腕の中で髪を振り乱し、サラは必死に否定して見せた。
「ええ。あなたはサラさんです。…他の誰でもない。サラさんは、サラさんでしょう?」
「嫌だ…違う!ソフィアなんて知らない!」
混乱するサラの頭を軽く撫でてあげる。
「今日は、ここまでにしましょうか」
その言葉がサラの耳に入ると、サラの意識が途切れ、ファルが抱き上げた。
「…サラ。目が覚めたら、君は俺を嫌いになるだろうか。それとも恨むだろうか…」
そう語り掛けたファルの目は、意識のないサラを慈しむように見つめている。その目を閉じてから、ファルは天井を見上げた。
「ライル…俺は君とは違い、世界は嫌いだよ」




