第十一話 歩む先に願いを抱いて
漸く日が昇り始めた頃、サラは村の方を振り返った。視線の先に村は見えない。
それでも惜しむように村の方角を見ているサラを、ファルは何も言わずに待つ。すると、サラは不意にファルを見た。
「ねえ、ファル…」
「はい」
「ファルは何を知ってるの?」
ずっとサラが感じている違和感を投げ掛ける。しかし、ファルは何の反応も見せずに答えた。
「なにも。私はただ、ここに居るだけですよ」
「ずるい答えだね」
サラは嫌な顔はせず歩きだし、ファルの前に立つ。そしてまた振り返ると、ファルの目を見た。
「ねえ、ファルはさ…どうしてここに居るの?」
「サラさんと約束しましたから。側に居る、と。」
「本当にそれだけ?」
「質問責めですね」
サラはつまらなそうに前を向き歩きだす。その後ろをファルがついていく。
「だって、ファルは自分のこと何にも話さないんだもん」
「話す必要がありますか?」
「あるよ?だって、私ばっかり弱み見せてるし」
「…なるほど」
ファルはサラの後ろを歩きながら、考えるように顎に手を当てる。それから少し沈黙が続くと、ファルが軽く手を叩いた。
「弱みと言えば、私は嘘が下手ですね」
サラが吹き出すように笑うと、歩く速さを緩めてファルに並び、見上げた。
「それ、本気で言ってる?」
「当たり前じゃないですか」
「あーそうですか。なら…ファルは何処の誰なの?」
「私は、サラさんの隣にいるファルという人物です」
サラは諦めたように笑い、ファルと並んで歩く。
「確かに、嘘下手だね」
「今のは嘘ではないですよ?」
「はいはい」
そんな会話をしているうちに日は昇り、朝の澄んでいた空気が温かくなっていた。
ファルが不意に足を止めると、サラも同じように足を止める。逆に、サラが足を止めれば、ファルも足を止めた。
「ライル、起きたかな…」
サラが小さく呟くと、ファルが村の方角に振り返る。釣られてサラも振り返るが、何が見えるわけでもない。
「そう言えば、預かり物があったのを忘れていました」
ファルがサラに拳を差し出すと、サラが受け取るように手の平を差し出す。
サラに渡されたのは、ライルと藍色の瞳と同じ色をした綺麗な石だった。サラは、それがライルが大切にしていた物だと知っていた。
「これ…」
「ライルは知っていたんですかね?」
「…何を?」
「古い習わしですよ。自分と同じ瞳の色の石を送るのは、『あなたの無事の帰還を祈ります』って意味です」
サラは石を強く握りしめ胸元に抱くと、涙を堪えるように目を閉じた。
「…ねえ、私…嫌われてないかな」
「はい」
「ライルの、お姉ちゃんでいい…のかな」
「他に誰がいるんですか。ライルのお姉さんはサラさんだけですよ」
「うん…うん!」
サラは強く目を閉じたまま、大きく息を吸い、大きく吐いた。
次に目を開くと、そこにはファルがいる。
「ファル、行こう!」
サラは、蒼銀の髪を揺らしながら胸を張って歩きだす。
ほんの一滴溢れた涙は、朝露に紛れて消えていた。




