第十.五話 僕のいつも
ライル視点です。
いつもなら、起きる前にご飯の良い匂いがしてきて、その後にお母さんが起こしにきた。
そして、お父さんが僕におはようと挨拶をする。それから、お姉ちゃんがいつも頭を撫でてくれる。
それが、僕のいつもだ。
でも、少し前からお母さんのご飯の匂いも、起こしてくれる優しい声も、お父さんの元気な挨拶もなくなった。
代わりに、お姉ちゃんの寂しそうな笑顔が、僕のいつもになったんだ。
気付いたら、ファル兄がいた。
唯々優しくて、温かい、そんな人だ。
お姉ちゃんは少し怖がってるみたいだけど、僕が懐いたのを見て、少しだけ仲良くなっていた。
僕は、そんなファル兄にお願いをした。
『お姉ちゃんを、遠くに連れていってあげて』
ファル兄が優しいから頼んだんじゃない。
ファル兄が好きだから頼んだんじゃない。
ファル兄じゃなきゃ駄目なんだ。
ファル兄は分かってくれたかな。
今日の朝は、お姉ちゃんのご飯の匂いも、寂しそうな笑顔もない、寂しい朝だ。
布団から起き上がり少ししてから、お姉ちゃんが出ていったんだって気付いた。
立ち上がると、古びた紙が机の上に置いてあった。
『ライルへ』
僕の名前だけは読めるから、お姉ちゃんが書いたんだって分かる。直ぐにその手紙を握りしめてグレタおばあちゃんのところへ駆け出した。
「おばあちゃん!手紙!読んで!」
「ライル?サラちゃんは?」
「いない。だから読んで」
グレタおばあちゃんは息を切らした僕の背中を心配そうに擦りながら、椅子に座らせてくれた。
そして手紙を渡すと、おばあちゃんが僕と手紙を交互に見た。
「これ…サラちゃんから?」
「うん。読めないから読んで欲しい」
グレタおばあちゃんが、深く息を吐いたのが分かった。
―――
ライルへ
お姉ちゃん、行くね。
ひとりにしてごめん。
痛い思い、辛い思いさせてごめん。
こんなお姉ちゃんで、ごめんなさい。
ライル、大きくなってね。
お姉ちゃん、頑張るから。
だから、ライルも元気でね。
お姉ちゃんより
―――
気付いたら、おばあちゃんに抱き付いて泣いていた。
次に気付いたら、おばあちゃんの膝の上で目が覚めた。
誰もいない。
それが、今日からの僕のいつもになる。




