第九話 自分から自分へ
全員が食後の紅茶を飲み終え、ファルが不意に立ち上がる。
「そろそろお暇しますね。お二人とも、今日は仲良く過ごして下さいね」
ファルはそう言ってサラたちの家を後にした。
「お姉ちゃん、林檎食べてないじゃん」
「うん、お腹いっぱいだから食べていいよ」
「やった!」
小さい身体の何処に入るのだろうと思う程食べているライルを見て、サラは少し安心した。それと同時に寂しくなる。
「ねえ、ライル…」
「ん?」
「本当にひとりで大丈夫?」
ライルはその質問に急いで答えようと、頬張った林檎を必死で飲み込んだ。
「ひとりでも、村の人いるから平気」
淡々とした回答に、サラは寂しそうに笑いながら頷くとゆっくり立ち上がった。
「そっか。じゃあ、お姉ちゃんはファルさんと行くね」
「うん。いつ行くの」
「まだ、分かんないけど…長くは居ないかな」
「そっか」
ライルはそう言って残りの林檎を頬張ると部屋に行ってしまった。
ひとり残されたサラも部屋に戻ると、ファルから渡された法衣を広げようとして、何か挟まっているのに気付く。
「高そうな紙…」
広げて見ると―
『準備はいりません。気持ちの整理が付いたら村外れの土手に来てください』
そう書かれていた。
「最初からお見通し…か」
サラは、ファルに呆れつつ、人をよく見ているのだろうと感心しながら改めて法衣を広げた。
渡された時は、いきなりでよく見ていなかったが、そのあまりに高級そうな生地に、顔を引きつらせつつ、自分の今来ている服を見た。
麻で編まれた服は所々解れ薄汚れている。それが普通だと思っていたのに、目の前に広げた法衣がそれを否定してきた。
「これ…私に似合うの…?」
恐る恐る袖に手を通すと、見た目より遥かに軽い着心地で肌触りもいい。
心なしか日差しの熱も和らいだ気がした。
鏡に目をやると、自分が想像していた以上に似合っていた。
「髪型…変えよ」
邪魔にならないようにと纏めていた髪を解き、丁寧に解かしていく。
肩甲骨の下まで伸びた髪は毛先が少し傷んでいる。それに気付くと、毛先を整えるように鋏で切っていく。
「うん、この方が服に合うよね」
長い髪を整えて、自然に降ろしただけの、何の変哲もない髪型。それが一番自分らしいとも思えた。
サラは、自分の服がしまってある引き出しを見つめて固まった。
「準備いらないって…下着の変えもいらないの?」
散々迷い、旅先でどうにかなると自分に思い込ませ、手ぶらを決意する。
「普通の旅って、こんなんじゃないよね…」
人が綿毛に変わり、火傷や傷、切断された首が戻り、無い筈の物が現れる。
そんな異様な光景を目にしていたからか、諦めがついた。
「ファルさんだし、大丈夫…かな」
まだあの力は少し怖い。いつも穏やかでも、初めて会った時のファルを思い出すと、いまだに怖くなっていた。
「行くって決めたんだから…」
握った拳を広げ机の前に座り、大事にとってあった古びた紙を取り出して手紙を書き出す。
『ライルへ―』
手紙を書き終えると、いつものサラに戻る。
洗濯をして、ライルのお昼ご飯を作る。家の掃除が終わる頃には、夕食を作る時間になっていた。




