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蒼灰の叙録〜断魔の軌跡〜  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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カナメvsサイモン

 カナメは石壁を解除して改めてサイモンを見る。体格はレオの時から変わっていない。しかし髪や顔、服から露出している部分は漆黒になり、目が赤くなっている。よく見ると顔の肉付きも良くなっている気がする。

 手には剣を持っているが構えていない。武器は使い慣れていないのだろうか。隙が大きいように見える。誘導なのかと疑ってしまうほどだ。

 ただ、誘導だとしてもここは行くしかない。距離を開けるとまた魔法を撃たれる。

 仕込み杖に魔力を流し、いつでも抜けるようにしてから距離を詰める。

 互いに剣の射程に入ったところでサイモンが片手で剣を振る。レオと同じく力任せだがこちらの方が速く強い。杖で受け止めるが押し込まれ体が横に流れる。

 そこにサイモンが両手で剣を打ち込んでくる。重い。打ち込まれるたび腕が下がる。杖で反撃する余裕が無い。

 ならばとサイモンの足元に小さな穴を作る。剣を振っている途中のため回避ができず体勢を崩してよろめいた。体勢を崩しながら振り下ろされた剣を受け流して杖を振り抜く。殺しはしない。聞きたいことがある。だから、まずは腕を貰う。

 杖が肩に当たる。骨が砕ける感触が伝わってくる。これで片腕が使えなくなった。

 しかしそう思ったのも束の間、その砕いた方の腕で殴られた。想定外のことで体が反応できなかった。口の中に血の味が広がる。

 顔が一瞬だけ横を向く。そこに剣が振り下ろされる。杖で受けられるような体勢ではない。地面を蹴って後ろへ逃げる。革鎧の表面を剣が斬っていく。

 若干距離を離して向かい合い、口に溜まった血を吐き出す。まさか折れた腕で殴りつけてくるとは思わなかった。油断した。


「外したか。」


 剣を振り下ろした状態のままサイモンが呟いた。


「まさか折れた腕で殴ってくるとは思わなかった。だがいいのか?片腕を犠牲にしたのに何も得られなかったぞ。」

「ふん。この程度、どうということもない。直に治る。」


 そう言ってサイモンは折れた方の腕を動かす。たしかに、あの様子だと影響は無さそうだ。治るというのもあながち嘘ではなさそうだ。まだ肩を上げることができていないことを考えるとそんなにすぐ治るといるというものでもないのだろうが、厄介なことに変わりはない。


「それじゃあ、あんまり時間を稼がせるわけにはいかないな。」


 カナメはそう言うが早いか、サイモンの足元に石棘を放つ。


「ちっ!芸の無い奴だ!」


 サイモンは肩の回復を優先したのか後方へ回避をする。だが、逃げるなら当たるまで出し続けるだけだ。逃げ道を潰すように棘を出す。何度も回避されるが、直に逃げ場が無くなる。既にこれ以上後方へ行けないよう棘で囲っている。

 そして、遂に棘がサイモンを捉える。1本の棘が足に深々と突き刺さった。


「ぐっ――!」


 サイモンが顔を歪ませる。棘の刺さった足からは血が、いや、黒い靄のようなものが流れ出ている。

 体は人間のはずなのに血ではない何かが出てきていることに驚きつつも、目の前の敵を無力化することに集中する。刺さっている棘以外を解除して接近する。


「この程度どうということもないわぁ!」


 足に刺さっている棘を強引に引き抜いた。足からは黒い靄が一瞬だけ勢いよく漏れ出るが、すぐにおさまった。もう傷が治ったというのか。ただ、砕いた方の腕はまだ治りきっていないのか片腕で剣を振り下ろしてきた。

 カナメは体を低くして飛び込む。振り下ろしてくる剣が見える。今しかない。

 カナメが腕を振った瞬間、サイモンの腕が飛んだ。カナメの後方で重いものと剣の落ちる音が聞こえる。目の前ではサイモンが腕から大量の黒い靄を出して固まっていたが、すぐに大きな声を出しながら腕を抑えて後ずさった。

 カナメの手には冷たく光る剣があった。


「ぐぅぅぅ……。き、きさま……。そんな……ものを……。」


 痛みを堪えながら睨みつけてくる。腕の靄が少なくなっていく。


「さすがに斬り落とされた腕までは再生できないようだな。どうだ?少しは話してみる気にはなったか?」

「なめるな。この程度怪我のうちに入らん。」

「強がるなよ。大きな声を出していたくせに。」


 腕の靄が完全に消えた。同時に抑えていた腕を離して残った手に魔力を集中させ始めた。


「貴様などこの魔法だけで十分だ。」

「無理すんなよ。その魔法、かなり魔力を消耗するだろ。」

「ふん。人間1人殺すのに魔力切れになるほど魔力を使うわけがなかろう。」

「そうかよ。でも、その魔法のことはよく知っているんだ。弱点もな。」

「たわけたことを。やれるものならやってみろ!」


 サイモンが手をこちらに向けると光球が撃ち出された。先程よりも速い。だが威力は大したことがないことは分かっている。これを躱しながら接近する。ある程度まで近づくと星屑(スターダスト)で牽制してくる。距離を離すと星爆(スターボム)だ。実に単調だ。人のことを言えたものではないが攻撃手段が乏しくて攻撃が読める。

 手がこちらに向いた。また光球が来る。いい加減鬱陶しい。剣に魔力を流し、軽く地面に触れさせる。切先から魔力が地面に流れサイモンの方へ移動する。これに気がついたサイモンが横に移動し始めたところ、足元に到達する前に石棘が飛び出した。

 想定外の距離から出てきた棘に驚いたサイモンは唸るような声を出して体をよじる。胸当てが弾け飛んだ。

 サイモンはこちらに背を向けて止まった。僅かに黒い靄が見えるが、すぐに治るだろう。そうなる前に追撃だ。

 再び剣に魔力を流すと、剣に水を纏わせる。色々試してみた結果、これでしか成功しなかった。だが、威力は絶大だ。水穿程ではないが、瞬時に出す魔法なら十分だ。


「水刃」


 水を纏わせた剣を思い切り振る。すると、剣に着いていた水が三日月状になり飛び出した。刃物のような水がサイモンの背中を斬り裂いた。


「ぐぅ――!」


 深々と斬られたサイモンは苦悶の声をあげその場に倒れた。意識はあるようだから死んではいない。ならば逃げられないようにしなくては。今は大量に漏れ出ている黒い靄も徐々に減っていっている。

 カナメはすぐさまサイモンの元に移動する。何としても捕獲して情報を引き出さねばならない。


「おい。いくつか質問がある。答えろ。」


 サイモンの体を蹴り飛ばして仰向けにさせる。


「ぐふっ!くそ……。こんなやつに……やられるとは……。」

「お前の後悔なんかどうでもいい。今から言うことに端的に答えろ。銀騎士のカミュを知っているか?」

「おまえなんかに……はなすわけがなかろう。ぐぅ――!」


 サイモンが答えるのを拒否したため、カナメは剣を腹に刺した。


「早く答えろ。答えなければ何度でも刺す。どうせ回復するんだから問題無いよな。」

「き、きさま……。こんなことをしてただで済むとおもうなよ……。」

「はぁ……。さっさとしろ。銀騎士のカミュを知っているか?」

「……しらぬ。聞いたこともない。まだ人間に憑いて2ヶ月も経っていないからな。人間の世界のことなどほとんど知らぬ。」


 ハズレか。レオに憑いている時点でなんとなく分かっていたが、案の定下っ端だった。今言っていたことが本当なら、こいつはエイミィが怪我をしたあの襲撃の頃にレオに憑いたことになる。あの時にレオの力が強くなっていたのはそういうことか。


「それ以前のことは記憶にないのか?」

「ある。ただ、こいつに憑く前は森の中にいたもんでな。人間は森の中で見る程度だった。」

「なぜレオに憑いた。」

「なんとなく街に来たら、ちょうどいい具合に怒りに飲まれていたからだな。憑いてからシュメール様の玩具だったのを知って驚いたもんよ。」


 シュメール。先程『憤怒のシュメール』と言っていた奴だ。たしか選定の円卓の一員だ。


「憤怒のシュメール、だったか。そいつは何者だ。どこにいる。」

「ふふふ。言うわけがなかろう。」

「なるほど。余程傷つきたいようだな。」


 カナメは刺したままの剣を捻じる。サイモンの顔が大きく歪み、汗が噴き出している。血は出なくなっても、こういうところは人間らしいんだなと思ってしまう。


「ぐぶっ!……ふ、ふふふ……。何をされようとこればかりは言えぬ。シュメール様の崇高な研究の邪魔になるからな。」


 研究、か。何を研究しているかは知らないが悪魔の研究なんかろくなものではないだろう。


「気は済んだか?」

「まだだ。ボラスとは何者だ?」

「知りたいか?…………だ。」

「よく聞こえないな。はっきり言え。」

「…………にいる。」

「もう少し大きな声で話せ。」


 声が小さすぎてよく聞こえない。思わず顔を近づける。


「聞こえないように言っていたんだよ。死ねぇ!」


 突如、サイモンが残った片腕を振るう。その手は光を帯びている。話しながら気づかれないように魔力を練っていたようだ。だが光球が見えない。違う魔法なのか?

 何をするのかが読めず、サイモンから剣を抜く。こいつらの魔法は爆発を伴うはずだ。剣で受けるのは危険だ。早々に回避するべきだ。

 後方に飛び退く。サイモンの指先から魔力が伸びて剣のようになりカナメに迫る。回避するにはあと一歩足りない。咄嗟に石の盾を生成する。

 魔力の剣が石の盾に接触する。しかし爆発しない。斬られた。石の盾が紙切れのように切断された。そして盾を着けていた腕に重い衝撃が伝わってくる。だが腕は斬られない。藍色の服が仄かに光り魔力の剣が止まっている。


「ぐぐ……なんだその服は――!」

「――っ!」


 今のは危なかった。藍色の服のおかげで斬られなかったが腕が痛む。腕を動かしてみる。折れてはいなさそうだ。だが、今は剣は持てないだろう。力が入らない。利き手を潰された。

 背中の傷はもう治っているようだ。回復するための時間を稼がれたか。腹の方は治っていないが時間の問題だ。

 少し距離を取るとサイモンが立ち上がり追ってきた。畳み掛ける好機だと思ったのだろう。魔力の剣を解除することなく迫る。

 一気に距離を詰められる。あの剣は石の盾が斬られたことを考えるとかなり斬れ味が良さそうだ。下手に剣で受け流そうとすると折られるかもしれない。後退するか?いや、下がったら追撃されてしまう。前に出るしかない。

 振り下ろされる剣を掻い潜り懐に飛び込む。同時に剣を振り腹を斬りつける。しかし上手く力を伝えられず振り抜けない。途中で止まってしまった。

 腹を斬られたことでサイモンの攻撃の手が緩んだ。すかさず前蹴りを入れて剣を引き抜く。そして反撃が来る前に剣を振り下ろした。

 首筋から斜めに斬り下ろす。だが浅い。これではすぐに回復してしまう。

 どうする。まだ聞きたいことは山程ある。だがこれ以上長引かせると危ない。こちらは既に昼間のゴブリン集落の件で体力を消耗しているのだ。疲労で判断力が鈍っている。もうしばらくするとギルドから応援が来るだろうが、待っている余裕は無い。ここで倒すしかない。


「うおぉぉぉぉーーーー!!!」


 肩口を斬られて体をふらつかせているサイモンの体を更に斬りつける。腕を鞭のようにしならせながら縦に横にと斬る。サイモンの体から黒い靄が噴き出してくる。だが倒れない。それどころか斬られながらも魔力の剣を振り上げてきた。

 ここで引くわけにはいかない。確実に仕留める。

 咄嗟に足元に穴を作りサイモンのバランスを崩させる。手を振り上げた状態で転びそうになった。

 しかし、どこを斬る?あれだけ斬りつけても死なないのであれば、あとは頭、首、心臓くらいしか思いつかない。迷っている暇はない。今は最も確実に届く場所に攻撃するしかない。

 剣を片手に持って腕を伸ばす。狙うは胸。心臓だ。片手では首は斬れない。頭は届くが致命傷まで持っていけるか分からない。心臓ならば腕と体を使って深々と刺せる。

 手に硬いものが当たる感触が伝わるが、それもすぐになくなる。次の瞬間にはサイモンの体の反対側に切先が見えていた。

 サイモンが口から黒い靄を吐き出す。魔力の剣が消えた。


「く……そ。にんげん……ごときにやられるとは……。シュメールさま、おゆるしを。」


 サイモンは消え入りそうな声で呟いた。

 突き刺した剣を引き抜くとサイモンは力無く倒れた。全身から黒い靄が溢れてくる。そして指先から徐々に黒い部分がなくなっていく。


「我にはわかる……。お前は……きけんだ。お前のなかに……つよい怒りが……見える。われわれに……むけたものだ……。いずれ……われわれの、シュメール様のしょうがいになる……。その前に、今、ここで、殺さねばならない!」


 サイモンの全身が光り始める。何をする気なのかは分からないが危険だ。魔力が収束している。急いで距離を取って石壁を作る。


「選定の円卓に栄光あれ!」


 サイモンが叫んだ瞬間、激しい轟音共に爆風が巻き起こった。

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