表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼灰の叙録〜断魔の軌跡〜  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
170/172

悪魔憑き

 暗い通りの真ん中でカナメとレオは向かい合っている。さすがにレオが大声を出しすぎたのか、いくつかの明かりが消えていた家の木窓から光が漏れてきている。騒ぎになるのも時間の問題だろう。

 クインティナとエイミィもギルド支部へ行って少し経つ。そろそろ支部に着いて応援を呼んでいる頃か。こいつは何としても捕らえたい。貴重な情報源だ。


「お前、なに笑ってんだよ。ムカつく野郎だな。」


 レオに指摘されて自分が笑っていることに気がつく。だが表情は変えない。否、変えられない。


「ふふふ……。いやな、お前が俺の探そうとしているやつだったとは思わなくてな。お前、いや、お前の言う『神』とやらに聞きたいことがあるんだ。話させてくれないか?」

「何言ってんだ?言うとおりにするわけないだろ。」

「そうだよな。そうなるよな。……ふふふ。じゃあ今すぐにでも代わりたくさせてやるよ!」


 カナメは開いていた距離を一気に詰める。カナメの変貌ぶりに驚いたのかレオの反応が遅れる。振り下ろされる杖を慌てて剣で受けようとする。


「竪穴」


 レオの足元に小さな穴を作り出す。急に足元の地面がなくなりバランスを崩したところに杖を叩き込む。剣でなんとか受け止められたが、その状態で押し込み背中から地面に押し倒す。

 仰向けに倒れているレオの腹に杖を突き立てる。苦悶の声をあげ顔を歪ませている。だが、これでは力任せにすぐに逃げられてしまう。


「石棘」


 杖で腹を押さえて逃げられないように固定しつつ足に石棘を放つ。さすがに回避できず両足を貫いた。レオの悲鳴が通りに響く。


「さぁ、これでお前の勝ち目はなくなった。どうする?このまま警備隊に突き出されるか、お前の言う『神』に助けてもらうか。」


 杖を放して地面をのた打ち回っているレオに向かって問いかける。

 レオは痛みをこらえながら睨みつけてくる。涙目になりながらも闘志を失わないのは大したものだが、情けない姿だ。


「こ、こぉ……、このやろう。ゆるさねぇ。しらねぇぞ。どうなってもしらねぇぞ。」

「グダグダ言ってないで変わるなら早く変われ。」

「くそ……。もう……どうにでもなれ。あとはたのむ、サイモン。」


 レオが何者かの名前を呼んだ瞬間、顔が黒く変化し始めた。悪魔の顕現が始まったことを理解して少し距離を取る。

 体が硬直したと思うと痙攣し始めた。そして足の出血がなくなった。目元に浮き出ていた血管が引いていく。

 指先まで黒く染まると突然目を開いた。瞳孔が、赤い。

 その場でゆっくりと立ち上がると肩を回し始める。鎖骨を折った方の肩だ。怪我が全て治っている。

 体の変化は以前に途中までは見たことがあるので驚きはしなかった。だが、怪我が治るのは想定外だ。少なからず衝撃を受ける。


「まったく。散々力を貸してやってこのざまか。敵わない相手に無謀すぎる。何が『俺にやらせてくれ』だ。」


 目の前の赤い目を持つ存在が話し始める。酷く不快な声だ。この声を聞いてレオは『神の声』と言っていたのか。どうかしている。


「お前は、悪魔なのか?」


 この問いにちらりと目を向けてから答えてくる。


「そうだな。よく分かったな。」

「まぁな。前にも見たことがあるんでな。」

「ふむ。そういえば、先程悪魔を知っているような話し方をしていたな。『選定の円卓』の名前も知っているようだが、どこでその名前を聞いた。」

「享楽のフェリックス。あいつが自分で言っていたぞ。」

「フェリックス様……。何をしていらっしゃるんだ。」


 悪魔が額に手を当ててため息をつく。


「フェリックス、様?あいつはお前より上の階級なのか?」

「そのとおりだ。選定の円卓は我々にとって至高の存在。私は選定の円卓のうちの1人である憤怒のシュメール様の部下、サイモンだ。」


 憤怒のシュメール。新しい名前が出てきた。何者なんだ。アルベルトと同じようにこの街に潜伏しているのだろうか。

 そして選定の円卓は幹部の下に部下がつく組織のようだ。幹部が何人いるかは知らないが、意外と規模が大きそうだ。


「自己紹介ありがとな。それで、そのシュメールとやらはどこにいるんだ?」

「言うわけがなかろう。それに、これから死ぬお前に話すことなど無い。私の名前を胸に刻んで死んで行け。」

「せっかちな野郎だ。それじゃ、また動けなくしてからゆっくり聞いてやるよ!」


 カナメはサイモンの足元に穴を作る。相手は悪魔だ。最初は近づかずに魔法で様子を見るべきだろう。体勢を崩させてから棘で貫いてやる。

 石畳が光った瞬間、サイモンはその場から移動する。レオの時とは違い気がつくのが早い。だがそう簡単には逃さない。追いかけるようにして石棘を連続して放つと、後方へ逃げられていく。まずい。あまり距離を取られるとエイミィの星爆(スターボム)のような魔法が飛んでくる。

 全ての魔法を解除してサイモンを追いかける。サイモンの手が光っている。魔力が集まっている。何かをされる前に封じなければ。

 魔法は回避される。アルベルトの時もそうだったが、勘のいい相手は魔力の光に敏感で当てにくい。こいつもそうだ。それならば殴るしかない。

 手に石の槍を生成して投げつける。余裕で回避されるが、そもそも当たると思っていない。回避した先へ杖を叩き込む。

 片手に持った剣で杖を防がれた。レオの時より力が強い。押し込めない。顔色一つ変えずに防いでいる。

 それならばと蹴りを繰り出そうとするが、サイモンの手が光り続けていることに気がつく。そしてその手には小さな光球が大量に見える。これは……まずい!

 サイモンの手が振るわれ、顔面めがけて光球がばら撒かれる。


「うおおぉぉぉぉ!!!」


 目の前に大量の光球が迫ってくる。杖を振った直後で体が思うように動かない。ならどうやって防ぐ。

 カナメの足元が一瞬だけ光る。サイズの調整なんかしている余裕はない。瞬間的に開けられる可能な限り深い穴にする。

 カナメの体が下に落ちる。足元に細長い穴が開き膝下まで落ちる。髪を光球が掠めていく。

 バランスを崩し石畳に手をついて転倒を免れる。そのついでにサイモンの足元に石棘を放つが避けられる。だがこれでいい。穴から出る時間を稼げる。

 後方から大量の破裂音が聞こえる。やはりエイミィの星屑(スターダスト)と同じ魔法だ。さっき聞いた話だとヴァンガードの顔面に浴びせたらしい。そしてそのヴァンガードの顔は見るも無残な状態になっていた。あれを、あの魔法の本家本元とも言える悪魔が放ったものを食らったらどうなるのか。想像もしたくない。

 穴から飛び出して杖を構える。


「ふむ。お前、今の魔法を知っていたみたいだな。」


 サイモンが値踏みをするように訊いてくる。

 このような問いに正直に答える必要は無い。適当にはぐらかす。


「いや、初めて見た。顔に何かが飛んできたら逃げるだろ。」

「それにしては必死だったぞ。それに、魔法の結果を見ようとしない。知らないなら音に驚いて見ようとするものだ。」

「気にはなってるが戦闘中に後ろを見るほど余裕が無いもんでね。」

「そんなものか。まぁいい。知っていたとして、対処できなければ同じこと。」


 サイモンの手がこちらに向けられ、その手が光っている。今回は妨害する時間が無い。避けるしかない。だがここで避けたら周囲の建物に当たって甚大な被害が出る。


「くそったれ!石壁!」


 地面に手をつけて壁を生成する。以前、フェリックスの魔法を防いだときは剣を抜いた状態で作った石壁が破壊された。今回はどうか。相手の魔法の威力が分からない。とにかく作るだけ作って地面に伏せるしかない。

 石壁が生成されていく途中でサイモンから魔法が放たれる。大きめの光球だ。エイミィのものより大きいか。その分魔力も多く詰められているはずだ。爆発の規模が大きくなることを覚悟する。

 壁が完成し、頭を押さえて地面に伏せる。頭上で爆発音がする。細かな石が降ってくる。やはり破壊されたか。


「ふん。思ったよりやるな。」


 壁の向こうからサイモンの声が聞こえてくる。石壁を破壊しておいて何を感心しているのか。疑問に思いつつも急いで立ち上がる。そして目の前の石壁を見て驚いた。壁が壊れていない。いや、壊れてはいるが倒れもしなければ穴もあいていない。魔力の当たった箇所の真裏を中心に割れてはいるが、それだけだ。想像以上に威力が弱い。まともに食らえばただでは済まないとはいえ、必要以上に警戒する必要はなさそうだ。

 相手の実力はだいたい分かった。あとはどう料理するかだ。

 目の前の石壁を消し、杖に魔力を流しながらサイモンに向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ