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蒼灰の叙録〜断魔の軌跡〜  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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戦いの行方

 クインティナとエイミィは息を切らしながらギルド支部のドアを開けた。勢い余ってドアが壁に当たり、その音がホールに響き渡る。

 夜のギルド支部。ほとんど人はいない。ゆえに静かだ。普段より音が大きく聞こえ、非常に目立つ。この時もその場にいるいくつかのパーティーの傭兵や受付から視線を集めた。

 しかしそのようなことを気にしている余裕は無い。空いている受付へと駆け寄る。受付の女性が何かを言う前に切り出す。


「4等級のクインティナです。仲間が暴漢に襲われています。至急、応援をお願いします」


 受付の女性は顔色を変える。


「詳しい状況をお願いします」

「ここから徒歩だと5分くらいの路上で突然襲われました。相手は元4等級のレオです。明らかに正気じゃなかったです。今は3等級のカナメと交戦中です」


 これを聞いていた傭兵がざわつく。「カナメって、狂犬か?」「狂犬てことは相手のレオってのは決闘で負けて引退したやつか」「それなら助けなんかいらないんじゃねぇか?」と口々に話し、興味を失ったように各々の会話に戻っていく。

 ただ1人、受付の女性だけは話を聞いてくれる。


「正気じゃなかった、というのはどういうことですか?」

「何か、一方的にこちらに怒りを向けてきていました。以前襲われたときは薬の中毒症状のようなものが出ていたので、もしかしたら薬の影響かもしれません」

「なるほど。分かりました。今、上の者に報告してきます」


 そう言って女性は席を立った。ただ、夜なので職員数が少ない。直属の上司がいないのだろう。2階へと駆け上がっていく。


「とりあえず、これでなんとかなりそうね」

「そうですね。でも、早く戻らないと心配です」

「大丈夫よ。レオならカナメくんに勝てないわ。今度はカナメくんも逃がさないようにするでしょうから前みたいにはならないはずよ」

「でもあの人、なんか変でした。雰囲気が前と違ってザラッとしていました」

「ザラッと?よく分からないけど、前より嫌な感じだったってこと?見た目のせいじゃなくて?」

「違います。体から出る空気みたいなのが凄く気持ち悪かったんです」

「そ、そうなんだ。でも、たしかに変だったわよね。やっぱり薬の影響かしら」

「どうなんでしょうか。薬の影響っぽい症状は見えなかったですが」

「薬をやっていなければいいんだけど……」

「薬をやっていないのに斬りかかってくるような方だったんですか?」

「そんなことないわよ」

「じゃあ、薬の可能性が高いですよね」

「そうなるわね。ほんと、何考えてんのかしらあいつ。今度こそ捕まえて全部話してもらわないとね」

「そうですね。執拗に私たちを狙うのもよく分かりませんし。あ、上で何かありましたね」


 エイミィが2階の廊下からの音に反応してた。何人かの足音が聞こえてくる。音の感じから受付の女性と武装した人物のようだ。

 階段を降りてくるその姿を見て驚いた。ユーノス、コンラート、フィリップの3人を伴っている。


「クインティナさん。お待たせしました。上に者に相談していたところ、お3方が支部長との話を終えて出ていらっしゃいまして。その時に私の話が聞こえてたようで……」


 受付の女性がなぜか申し訳なさそうに説明を始めた。だが、応援としてはこれ以上ないほど頼もしい。何も後ろめたいことは無いはずだ。

 女性の言葉を遮るようにフィリップが話し始めた。


「クインティナ。話は聞いた。今、カナメが襲われてるんだって?でも、相手はあのレオだろ?万が一があるのか?」

「たしかに、レオはカナメくんの相手ではないです。でも、前にも南門前で襲われたんですが、その時は逃げられてしまったんです。だから、今度は逃がさないようにしたいんです」

「なるほど。それで人を呼びに来たのか。それなら急がないとな。実力差を考えるとすぐに終わってしまうぞ」


 そう言うなりフィリップはロビーにいる傭兵達に向けて呼びかけた。


「6等級のフィリップだ!これから同業者の救援に向かう!報酬は騎士団持ちだ!騎士団からの覚えが良くなりたければ俺についてこい!」


 フィリップは横にいるユーノスに軽く目配せをした。これを見たユーノスはため息をついた後に話し始める。


「リヴェンデール騎士団のユーノスだ。本来なら治安維持のため騎士団を動員したいところだが、生憎騎士団を動かす時間が無い。だからといって黙ってみているわけにもいかない。よってフィリップ殿と同行していただければ特列に報酬を支払おう」


 これを聞いた傭兵達は歓声を上げる。狂犬の救援という簡単そうな仕事をするだけで報酬が貰え、騎士団との繋がりも作れるかもしれないのだ。その場にいる全ての傭兵がフィリップの前に集まった。


「よし。それじゃ行くぞ。クインティナ、案内を頼む」


 フィリップに促されてクインティナとエイミィが先導するようにしてギルドを飛び出した。その後をフィリップら傭兵達とユーノスとコンラートがついてくる。

 辺りは暗く、静まりかえっている。しかし、自分たちの来た方向から妙な音が聞こえてくる。低い音、高い音、様々であるがいずれも爆発音に聞こえる。


「なに?この音」

「なんでしょうか。凄く嫌な予感がします」

「とにかく急ぐわよ」


 2人は軽く話したあと、暗い夜道を走り出す。それにフィリップらがついていくが、夜道に響く異様な音に傭兵達は首をかしげている。

 音はすぐにきこえなくなり静かになった。それが逆に2人を焦らせる。クインティナは魔力切れの反動を、エイミィは怪我の痛みを堪えて速度を上げる。

 目的の通りの手前の角まで来たとき、それは起こった。


「選定の円卓に栄光あれ!」


 角の先から大きな声が聞こえた瞬間、光と共に爆発音が轟き暴風が吹き荒れた。激しい風でクインティナの帽子が吹き飛ばされ、周囲の建物の木窓がガタガタと震える。何が起きたのか分からず、誰もが体を屈めて警戒する。

 暴風はすぐにおさまった。辺りが静まりかえっている。2人は恐る恐るカナメのいる通りを覗く。すると、そこは自分たちのよく知っている光景ではなくなっていた。石畳は捲れ上がり土が露出している。建物の木窓も外れて落ちている。

 建物の上の方の階の窓から明かりが漏れ始めている。今の音と風で目が覚めたのだろう。窓の外れた家からは住人が顔を出している。


「ちょっと、なによこれ。どういうこと?」

「クインさん、止まってないで行きましょう!フィリップさん!こっちです!」


 エイミィが通りに入って進んでいくのを見て、クインティナも後をついていく。

 だが、通りを歩いても人の姿が確認できない。ついさっきまでここに人がいたことは間違いないのだが。


「クインさん、カナメさんが……いません」

「どうなってるのよ。さっき声が聞こえていたじゃない。何で誰もいないのよ」


 狼狽える2人の後ろでフィリップは地面を見ている。その視線の先の地面は少しだけ抉れたようになっている。


「なぁクインティナくん。きみたちを襲ったのって、本当にレオなのか?」


 フィリップが妙な質問をしてきた。


「はい。自分でそう言ってましたし、私も間違いなくレオだと思いました」

「そうか」

「どうかしたんですか?」

「いや、この状況を考えると、ここで何かが爆発した可能性がある。魔の森で5等級以上の入れる区域にはフレアボムという自爆する魔物がいるんだ。俺も戦ったことがあって痛い目にあったことがある。さっきの暴風や地面のこの状態を見ると、それによく似ている」

「……つまり、どういうことですか?」


 クインティナは目つきを鋭くしてフィリップの発言の真意を確認する。


「ここでカナメと交戦していた魔物が自爆した可能性がある。そしてカナメは――」

「やめてください!カナメさんはどこかに隠れているはずです!」


 エイミィが泣きそうな顔でフィリップの発言を止めた。この状況から分かっているのだ。カナメがあの激しい爆風を浴びたのは間違いないのに姿が見えないということがどういうことなのか。爆発を伴う魔法を使う者として分かってしまっている。

 クインティナも頭では理解できている。おそらくは爆発に巻き込まれたであろうことは。だが、いくらなんでも装備品までなくなるだろうか。たしかに石畳は激しく破損しているが、建物の外壁に目立った被害が無い。その程度の爆発で武装した人物が跡形も無く消え去るだろうか。いや、あり得ない。


「フィリップさん。私もカナメくんはどこかに隠れていると思います。ここは、少しキレイすぎます。何も物が無いというのは不自然です」

「そうだな。その通りだ。じゃあ手分けして探すぞ。おい!おまえら!カナメを探せ!どっかに隠れてるはずだ!」


 フィリップは傭兵達に指示を出す。


「どこかってどこですかフィリップさん!」

「物陰とか家の中だよ!」


 傭兵達が通りに広がってカナメを探し始めた。とはいえ物陰は少ない。意味があるのか疑問だ。

 クインティナも何もしないわけにはいかない。今にも泣きそうなエイミィを連れて歩き始める。

 少し歩いた所で、足音が変わった。まるで地面の下が空洞になっているような音がする。不審に思って土を足で払ってみる。そこには大きな石の板がある。妙だ。石畳の下に石を敷くのも、大きな1枚の石を敷くのもおかしい。しかも下は空洞だ。そこから導き出される答えは1つだった。


「エイミィちゃん!これ、多分カナメくんの魔法よ!」

「え!?本当ですか!?」


 エイミィが槍の石突きで地面の石を叩く。やはり空洞のような音がする。エイミィの顔が明るくなる。


「本当です!こんなの作れるのはカナメさんくらいです!でも、この下にいるんでしょうか?」

「とにかく動かすしかないわ。フィリップさん!こっちに何人かお願いします!たぶんこの下にいます!」


 クインティナはフィリップと数人の傭兵を呼び寄せる。数人がかりで石の板を持ち上げると、その下にはカナメが横たわっていた。頭からは血を流している。


「カナメくん!」

「カナメさん!」


 2人は倒れているカナメに声をかける。すると、カナメの瞼が動いた。生きている。安心してその場にへたり込んでしまった。


「う……ん。あれ?クインさん?エイミィ?それに、フィリップさんまで。どうしたんですか?」

「どうしたじゃねぇだろ。この2人が応援を要請しに来たから助けに来たんだろうが。で、これは一体どういう状況だ?」

「応援……。あ!そうだ!サイモンはどうなりました!?」

「サイモン?誰だそいつは。とりあえず、ここには地面に埋まっていたお前しかいなかったぞ」

「地面に……。そうか。そういうことか。あいつ、自爆したんですね」


 カナメは周囲を見回している。今の状況を確認しているのだろう。若干記憶が混濁しているようだ。レオと戦ていたはずなのに別の人物の名前を出している。仕方ないので直接訊くことにする。


「カナメくん。レオはどうなったの?」


 その質問に対するカナメの答えは曖昧なものであった。


「レオは、たぶん死にました」


 カナメは頭の傷を押さえながら、歯切れ悪く答えた。

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