8-8:私が、貴方を御してみせる
8-8:私が、貴方を御してみせる
呂布の安堵した表情を見て、私は言葉を続けた。彼の弱さを受け止め、そして、新たな関係を築くために。
「だが……俺は、お前の前で、見苦しい姿を晒してしまった。あの時、俺は、何も考えられなかった。ただ、お前を、そして、あの子を傷つけようとした、あいつが、許せなかった。それだけだ」
彼は、まるで懺悔するかのように、ぽつり、ぽつりと語り始めた。
「俺は、今まで、自分のためにしか、力を振るったことがなかった。強いことこそが、全てだと信じていた。だが、お前と出会って、初めて、誰かを守りたいと、心の底から思った。お前が、あの子供たちを、慈愛院を守ろうとしている姿を見て、俺も、そうなりたいと思ったのだ。だが……俺には、やり方が分からん。俺にできるのは、ただ、敵を、力でねじ伏せることだけだ」
天下無双の鬼神が、初めて見せた弱さ――。
彼は、自分の力の、その圧倒的なまでの破壊力を持て余している。そして、その力を正しく使う方法を、知らないのだ。
私は、その告白に胸を締め付けられる思いがした。彼はただの獣ではない。この乱世に翻弄され、自分の在り方に苦悩する、一人の人間に過ぎないのだ。
私は立ち上がり、彼の前に立った。そして、その巨大な身体を見上げた。
「将軍。貴方は、何も、間違ってはいません」
私は静かに、しかしはっきりと告げた。
「貴方は、私を、そして月を、守ってくれました。そのために、貴方の全てを懸けて、戦ってくれました。私は、そのことに、心から感謝しています」
私の言葉に、彼の瞳が、わずかに潤んだように見えた。
「ですが」
ここからが本題だ。
「その力は、あまりにも強大で、危険です。使い方を間違えれば、貴方自身をも滅ぼしてしまうでしょう。昨夜のように、怒りに我を忘れれば、守るべきものと壊すべきものの区別さえ、つかなくなってしまうかもしれない」
私は、彼の胸に、そっと手を置いた。その下で、力強い心臓の鼓動が伝わってくる。
「だから……」
私は、その瞳を真っ直ぐに見据えた。
「貴方のその力――これからは、この私が、完全に御してみせます」
私の宣言に、呂布は息を呑んだ。
「……お前が、俺を、御すだと?」
その言葉には驚きと、かすかな反発が混じっていた。誰かに支配されることを、最も嫌う男。その彼が、動揺を隠せずにいる。
だが、私は怯まなかった。
「ええ。そうです」
きっぱりと言い放つ。
「貴方の怒りも、悲しみも、喜びも、その全てを私が預かる。貴方は、私の剣となり、私の手足となり、私の意志となるのです。もう、貴方が一人で悩む必要はありません。貴方が振るうべき力の、その矛先は、全て、私が定めます。貴方はただ、私を信じ、私の言葉に従えばいいのです」
その響きは問いかけではなく、有無を言わせぬ絶対の命令だった。
呂布はしばし黙し、深く息を吐いた。
彼の瞳に宿るのは、反発ではなく――奇妙な安堵。
「……お前は、俺を鎖で縛るのではないのだな。俺を……導こうとしているのか」
「はい。私は、貴方を檻に閉じ込める気はありません。ただ、貴方の力を、正しい場所へ導くだけです」
その瞬間、呂布の頬に、かすかな笑みが浮かんだ。
それは鬼神のものではなく、ただ一人の男としての、安堵の笑みだった。




