表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌姫、鬼神を飼う。ー連環の計の駒?いいえ、鬼神の主は私です。未来知識で天下を操る。ー  作者: チャプタさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/116

8-9: 共犯者

8-9: 共犯者

私の言葉は、刃であり、鎖であり、そして呪文でもあった。

それは彼の魂そのものを絡め取り、抗う心を縛りつけようとする、甘美で傲慢な毒だった。

火が揺らめく天幕の中、空気が張り詰め、炎の匂いと獣のような男の荒い息遣いが、互いに絡み合っていた。


「……なぜだ」

呂布は、喉の奥から石を擦り合わせるような声を絞り出した。

その声音には、困惑と恐怖、そして何より理解できぬものへの苛立ちが混じっていた。

「なぜ、そこまでして……俺を」


私は、迷わなかった。

「それは、私が貴方を必要としているからです」

言葉は刃のように鋭く、同時に抱擁のように柔らかかった。


「私には知恵があります。しかし、知恵だけでは、この乱世を動かすことはできない」

私は、一歩、彼へ近づく。

炎の赤に照らされた彼の瞳が、獣のように細まり、私の言葉を試すかのように揺れていた。


「私には力がないのです。けれど、貴方にはある。誰も敵わぬ、圧倒的な『武』が」

私は、彼の胸に触れた。

鎧の下に隠された肉体は、戦場で鍛え上げられた鋼のように硬く、そして熱を帯びていた。


「だが、力だけでは破壊者にしかなれない」

私は囁く。

「だから――私達は二人で一つなのです。どちらが欠けても、この世界を変えることはできない」


胸に触れていた手を、私は静かに彼の頬へと滑らせた。

粗く、乾いた肌。幾度も戦場を駆け抜けた証がそこにあった。

それは、孤独の証でもあった。


「もう孤独ではありません」

私は、彼の瞳をまっすぐに見つめた。

「貴方には私がいます。私は剣となり、盾となり、道標となります。ですから――どうか、全てを、私に預けてはいただけませんか」


その言葉は、彼を縛る縄でありながら、同時に救いをもたらす手でもあった。

呂布は誰かに導かれることを恐れていた。

だが同時に――彼は心の奥で、それを渇望していた。

圧倒的な力を正しく導いてくれる者。破壊ではなく「意味」を与えてくれる者を。


その矛盾が、彼の胸を裂かんばかりに揺さぶっていた。


天幕には沈黙が落ちた。

炎がぱちぱちと弾ける音だけが、妙に大きく響く。

時間は途方もなく引き延ばされ、私自身の心臓の鼓動さえ、呂布の耳に届くのではないかと思えるほどだった。


やがて――

まるで重い鎖を断ち切るように、呂布の膝が、音を立てて地に沈んだ。


その姿は、嵐の化身が自ら大地にひれ伏す瞬間だった。

彼の額が、私の掌に恭しく押し付けられる。

まるで絶対の主君へ忠誠を誓う騎士のごとく。


「……ああ」

低く、くぐもった声が、炎に揺らめく空気を震わせる。

「俺の全ては、お前のものだ。好きにしろ」


その瞬間、鬼神は自ら首輪を差し出した。

私は勝ち取ったのだ。呂布という怪物を。

だが同時に――その首輪を握った瞬間から、もう後戻りはできないことも悟った。


彼の猛威を背負うのは、他ならぬ私自身だ。

喜びと同じだけの恐怖が、背筋を駆け上がる。

刃を握るのは私だが、その刃が私の手を切り裂く日も、きっと来る。


「……ありがとう、呂布」

私は、初めて彼の名を呼び捨てにした。


彼の肩が小さく震えた。

それは怒りでも反発でもない。

ただ、幼子のように、私の掌へ額を押しつけ続ける震えだった。


その姿に、私は確信する。

――私達は、もはや単なる主従ではない。

恋でもない。

互いの弱さを補い合い、同じ罪を背負って進む「共犯者」なのだと。


私は彼の髪を撫でた。

獣のたてがみのように硬く、そして力強い。

その荒々しさすら、今は愛おしく思えた。


この夜を境に、呂布は私の剣であり、そして私の影となった。


やがて軍営には、不思議な静けさが広がり始める。

嵐のように荒れ狂った鬼神が、ただ一人の女の一言で鎮まった――その事実は、兵たちの心に絶対の畏怖を刻みつけた。

だがそれは単なる恐怖ではなかった。


「鬼神すら従える存在」への崇拝。

それは、やがて兵士たちの忠誠心に、宗教のような色彩を加えていく。


私は知っていた。

この静けさは嵐の後の束の間に過ぎない。

次に挑むべきは、呂布に粉砕された華雄の魂。


あの巨躯は折れても、心はまだ燃えている。

彼をどう飼い慣らすか――それが、私に与えられた次の課題だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ