表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌姫、鬼神を飼う。ー連環の計の駒?いいえ、鬼神の主は私です。未来知識で天下を操る。ー  作者: チャプタさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/116

3-8:次なる罠

3-8:次なる罠

呂布からの贈り物が、とうとう私の部屋の一角を埋め尽くすまでになった頃だった。

絹に包まれた華やかな箱、細工の施された漆の器、宝石のような光沢を放つ装飾品──まるで宝物殿の一角を切り取ってきたかのような光景が、私の居室を満たしていた。

一歩足を踏み入れるたび、真珠や金具の光が視界の端でちらりと瞬き、そのたびに呂布の顔が脳裏に浮かぶ。あの真っ直ぐすぎる瞳。必死に何かを伝えようとする、不器用な眼差し。

そして、贈り物が増えるたびに、私の胸の奥には妙な重さが積み上がっていくのを感じていた。


そんなある夕暮れ、私は再び王允の書斎へと呼び出された。

障子をくぐると、そこには薄暗い灯火に照らされた王允が、いつもよりも深く椅子に腰掛け、口元に微かな笑みを浮かべて私を待っていた。

その笑みには、計略が順調に進んでいることへの満足感がにじんでいる。


「呂布は──完全にお前に夢中だ」

王允は、まるで戦の勝利を告げる将軍のように、誇らしげに言葉を放った。

「面白いように、我らの掌の上で踊っておるわ。計画通りだな」


私は、無言で静かに頷く。

彼の言葉の端々が、胸の奥に細い針のような痛みをもたらしたが、それを顔に出すことは決してしなかった。

この男の前では、あくまで彼の計画に心酔し、全力で協力する忠実な娘でいなければならない。

表情一つ誤れば、王允の信頼はすぐに揺らぎ、その瞬間から私は彼の駒としての価値を失うだろう。


「……さて、次は董卓を釣る番だ」


その一言が、私の心臓を冷たく掴み上げた。

まるで背中から冷水を浴びせられたように、全身の血が一瞬で引いていく。


「明後日、相国府にて宴が催される。董卓が漢室の重臣たちを招いて開く宴だ。その席に、お前も呼ばれている。──董卓が、お前の舞が見たいとな」


相国府──。

それは董卓が住まいとし、同時にこの国の政治を意のままに操る権力の巣窟だ。

そこは、王允の屋敷とは違う。法も礼節も、あの男の気まぐれひとつでいとも簡単にねじ曲がる。

虎の巣に足を踏み入れるようなものだ。しかも、そこに護衛もなく、私は一人で乗り込まなければならない。


胸が、ぎゅっと締めつけられた。

呂布よりも遥かに狡猾で、残忍な男──董卓。

彼を相手にしなければならないのだ。

恐怖が、せっかく固めたはずの覚悟を、じわじわと溶かしていく。


呂布には、まだ子供のような純粋さがあった。感情は直線的で、読みやすく、時にその単純さが救いにすらなった。

だが董卓は違う。あの男は、欲望と猜疑心で全身を塗り固めた老獪な獣だ。その濁った瞳は、人の心の奥に隠した弱さや嘘を、容易く嗅ぎ当てるだろう。


王允は、そんな私の内心を見透かすこともなく、淡々と、冷酷に言葉を重ねた。

「心配するな。董卓には、ただお前の美しさを見せつけ、媚びを売ればよい。あの好色な豚のことだ、すぐに食いつくわ。お前の仕事は、奴の欲望を掻き立て、呂布への嫉妬の炎を燃え上がらせることだ。呂布の許嫁であるお前を、董卓が欲しがる──これ以上の筋書きはないだろう」


私は、心の奥で静かに舌打ちした。

違う──それでは駄目だ。

ただの玩具として飽きられれば、すぐに捨てられるだけだ。そんな結末では、計画どころか私の命すら守れない。


呂布が私に堕ちたのは、舞の美しさだけではない。

彼はそこに「魂の繋がり」を感じたのだ。彼の孤独と郷愁を突き、心の深い部分に触れたからこそ、あの男は全てを投げ出してまで私を求めた。


だが──董卓は違う。

彼は権力と欲望の権化であり、他人の心など信じてはいない。

魂の繋がりなど持ち出せば、せせら笑われ、その弱さを利用され、丸ごと飲み込まれるだけだろう。


彼を相手にするなら、もっと別の脚本が必要だ。

繊細で、緻密で、そして何より危険な、綱渡りのような脚本が。


王允の計画はあまりにも粗雑だ。

彼の駒として死ぬつもりは、私にはない。

私は──私自身の脚本で、この舞台を生き延びる。


書斎を辞した私は、庭に出て夜風を吸い込んだ。

冷たい風が、頬をかすめ、袖口から忍び込んでくる。

見上げれば、月がまるで何かを見透かすように、冷たく白く輝いていた。

その光は、私に一つの事実を突きつけてくる──この先の舞台は、私の命を賭ける戦場になる。

そしてその戦場では、一瞬の油断すら命取りだ。


呂布は狼だったが、董卓は虎だ。

狼を手懐けることはできても、虎の首を撫でようとすれば、返り血を浴びることになる。

それでも私は行く。

なぜなら、そこで負ければ、私も、私の守ろうとした全ても、無惨に食い尽くされるのだから──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ