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64.天使の恋路はワインの味?

ラミエルとルミエル、親子の激烈バトル開始……!?

――天使のベーカリーショップにて


「さあさ、とにかくうちのパンたちを食べておくれ。相談事はそれから頼むよ」

「わぁっ!美味しそう!いただきまーす!」


 ルミエルさんが並べてくれた美味しそうなパンたち。キラキラと瞳を輝かせて、早速、口にする千秋。ラミエルさんがそんな千秋を微笑ましそうに見つめていた。

 この天使の親子が大激闘を起こす寸前、二人をなだめて褒めちぎって気を落ち着かせ、戦いをなんとか回避させた僕。もう疲労困憊(こんぱい)です。


「僕も頂きます……」

「私も頂くわ。私は見慣れてるけど、流星と千秋は天界(こっちの世界)のパンは初めてでしょう?素直な感想を聞かせてあげてね?」


 デメテルの言葉に、頬張りながらコクコクと頷く僕たち。テーブルには所狭しと様々なパンが並べられ、その香ばしい匂いに吸い寄せられそうになる。見たところ、黒パンだけみたいだね。日本で見たようなパンはなさそうだ。

 思えば、ついこないだまで『アルテミス』で働いてたんだもんな。なんだか遠い昔の様に思えてくるから不思議だなぁ。


「そういえば、ラミエルさんってアクセサリー店で働いてるんですよね?ご実家の店はお母様お一人で……?」

「実はそうなんです。普段は母だけで店を切り盛りしてるんです。うちは早くに父を亡くしましたから」

「あっ……すみません。知らずに失礼な事をお聞きしました」

「いいんだよ、そんなこと。ちっとも気にしなくて大丈夫さ」

「そうですよ。気になさらないで下さいね」


 ルミエルさんとラミエルさんが優しい表情で僕に笑いかけてくれる。


「私一人でやってるって言っても、いまは週に4日しか店を開けてないんだ。それに、ラミエルが仕事終わりに仕込みなんかを手伝ってくれるからね。いつも助かってるよ」

「いいのよ。無理はしてほしくないもの。それに、母さんの方こそ、私の仕事に理解を示してくれてるわ。ありがとね」


 微笑み合う二人。ちょっと豪快なところがあるみたいだけど、やっぱり親子なんだね。笑顔がそっくりだよ。それに、お互いをリスペクトしてるみたい。


「お二人共、とっても素敵ー!こんな関係に憧れちゃいます!」


 千秋もラミエルさんたちから、何か心に響くものを感じたみたいだ。


「ふふっ。千秋さん、ありがとうございます」


 照れながらも律儀にお礼を言うラミエルさん。ルミエルさんも嬉しそうだ。本当に素敵だなぁ。


「デメテルさん、いかがですか?うちの母が焼いたパンのお味は」


 少し心配そうな表情で、ラミエルさんがおずおずと尋ねる。


「えぇ、味が豊かで美味しいわ。うちでいつも買ってるパン屋さんのより、もしかしたら、美味しいかもしれません。特に、このほんのりと赤い色がついたパンは初めて食べましたけど、とっても美味しいです!」


 デメテルが本当に美味しそうにパンを頬張る姿に、心底安心した様子の彼女。


「僕もこの赤いパンは好きですね。とても美味しいですよ。中のクルミと生地がよくマッチしてて、日本のパン屋でも出したいくらいです。黒パンはあまり食べ慣れてないんですけど、この適度な固さがまたいいですね」

「まぁ、ありがとうございます!そう仰ってもらえて光栄です!それは赤ワインを生地に練り込んだものでして、新作なんですよ。売り上げが落ちてきた時に、何か新製品をと思って母と二人で作ってみたんです」

「それに目を付けるとはさすがだね。客足が落ちてきた今でも、それだけは結構な量が売れるんだよ」


 新作のパンを褒められたことが本当に嬉しそうだ。ラミエルさん親子に笑顔が浮かぶ。ただ手をこまねいているだけじゃなくて、必死に打開しようと頑張ってらっしゃるんだなぁ。


「私もー!このパン、どれも食べたことがなくてとっても美味しいです!でも、やっぱり、塊のままだと固くて少し食べにくいような気もしますけど。そうだ!スライスしたものを袋詰めして置いてみてもいいんじゃないですか?そうすれば、家で切る手間も省けて喜ばれるかも?」

「そうですね……どうしてもライ麦のパンは固くなってしまいますから、スープに浸して食べるのが一般的なんです。それに、店でスライスすると、どうしても空気に触れた面から固さがより進行してしまうんですよ。ね、母さん?」

「そうだね。一塊全部をスライスするのはちょっと難しいかも知れないね」

「あ!それだったら、こういうのはどうですか?一塊の半分――例えば、四枚とか五枚とか少ない枚数を袋詰めするんです。日本で食べきりサイズっていうのがあって、一人暮らしの人にピッタリなんですよ。食べきれなくてダメにしちゃうのを防いでくれますし」

「千秋さん、やるねぇ!すごい発想だよ!手間は少しかかるけど、お客さんのためならどうってことないさ。そうだろう?」

「もちろんよ!母さん」


 千秋の率直な意見にも真剣に考えて取り組むお二人。ほんとにパンが好きで、自分の店に愛着を持ってるんだなぁ。なんだかいいな、こういうの。僕もいつか、自分の店が持てたらいいな……。


「ねぇ、流星。地球にはどんなパンがあるの?」


 僕らの三倍の量は既に食べ終えたであろうデメテルが、先程の千秋と同じく瞳をキラキラさせながら質問してきた。


「そうだなー。地球全部のことは分からないけど、僕らがいた日本では白パンを見る機会が結構、多かったかもしれないね。それに、種類がすごく豊富にあるんだよ。中にクリームやあんこを入れたソフトな口当たりのものや、外皮をパリッと焼いたハード系のものとかね」

「その白パンってのはなんだい?」

「えぇと、ざっくり言うと、小麦粉を使ったものが白パンで、ライ麦を使ったものを黒パンと呼んでます。あと、黒パンはご存知の様に、サワー種というライ麦の天然酵母を使いますよね?ちょっと酸味があって食感も固くなるのが特徴ですが、白パンは反対に口当たりが柔らかくてふわふわしてるんです」

「へぇ!ちっとも知らなかったよ。ここいらじゃ小麦も採れるけど、ライ麦の方が安くてね。ほとんどのパン屋で焼いてるのは、流星さんの世界で言う黒パンなんだ」


 ルミエルさんが驚いた様子で、天界のパン事情を教えてくれる。そうなのか。だから、食パンやバターロールみたいな白パンがないんだね。


「流星、私も詳しくは知らないんだけど、白パンっていうのは小麦粉を使ったパンのことで、要するに私たちが見慣れてるパンってこと?ピザとかも?」


 千秋が袖をちょいちょいと引っ張りながら、疑問を口にする。


「まぁ、そうだね。フランスパンなんかを白パンとはあまり言わないけど、あれも小麦粉から作ってるから、白パンと言えばそうなのかも知れないな。ピザもそうだよ。あれの生地は強力粉を使うんだ。強力粉も小麦から作られてるからね」


 僕の説明に、千秋を始めとして皆が感心した表情を浮かべる。


「ふわふわした食感は白パン特有のものだけど、黒パンだって凄いんだよ?白パンよりずっと栄養価が高いんだから」

「流星さん、ほんとに詳しいんだね!まだお若いだろうに、すごいじゃないか」

「いえ、そんなことないんです。アルバイトの時に身に付けた単なる知識ですから」

「謙遜なさることありませんよ?知識があるのも努力の証じゃないですか。本当に素晴らしいです!」


 ルミエルさんとラミエルさんがとっても頼もしそうな表情で僕を見る。嬉しいけど、ほんとにそんなでもないんだけどな。


「そうよ。私も素敵な事だと思うわ。さすが、私の旦那様ね!」

「デメテル、それはまだでしょ?それに、私がいる限り、そんなことにはならないと思うよ?」


 デメテルの発言に対し、一歩も引かない千秋。視線が激しくぶつかり合い、昨夜の光の柱のようにバチバチとした凄い音が聞こえてきそうだ。


「本当に愛されてるのですね。誰かを愛し、こんなにも真っ直ぐに想いをぶつけることができるなんて羨ましいです……」


 バチバチやり合ってる二人を見て、ラミエルさんがふとそんなことを呟く。どうしたんだろう?なんとなく寂しげに感じるけど、聞いてもいいのかな。


「何言ってるんだい!あんただって、さっさとあのワイン工房の彼に告白――」

「ちょっと、やめてったら!こんなところで!」

「そんなこと言ったって、前に嬉しそうに話してくれたじゃないの。流星さんたち、聞いとくれよ。だんだんパンが売れなくなってきた時にね、ふと思いついて、ワインとペアリングしたらどうだろうって話になったんだ」

「それは名案ですね!地球でもパンとワインは最高の組み合わせだと言われてますし、ここにある黒パンとも相性のいいワインはあるはずです」

「あら。流星、そうなの?じゃあ、ディオニュソスのところのワインが色々あっていいんじゃないかしら?」

「そうだね!ディオ君ならワインに詳しいだろうし。ルミエルさん、ディオ君のところに行かれたんですか?」

「おや、ワイン工房の彼を知ってるんだね?……そうかい、友人なのかい。もちろん、行ったさ。但し、私じゃなくてラミエルがね」


 あぁ、やっぱり!店内に陳列してあるワインは、ディオニュソスのところのものだったんだね。ルミエルさんの言葉に何気なく皆の視線がラミエルさんに集中する。ん?なんだか顔が赤くなってない?恥ずかしそうに俯いてるし。どうしたんだろう?


「それで、色々と相談に乗ってくれたらしいんだ。おまけに、パン生地にワインを入れてみてもいいんじゃないかって、アイデアまでくれてね。本当に親身になってくれて、ディオニュソスさんには頭が上がらないよ」


 嬉しそうな表情で話すルミエルさん。ディオニュソスの名前を聞いて、さらに頬を真っ赤に染めるラミエルさん……え?えぇっ!?こ、これは……まさか?


「その日以来、ちょくちょく彼が店に様子を見に来てくれるようになったのさ。ラミエル(この子)ったら、自分がいない時に彼が来ると、とても悲しい顔をするようになっちゃって……」

「へぇ!ラミエルさん、ディオ君に……そうなんですね?」

「ちょっと、千秋!そんな面白そうな顔するもんじゃないったら」

「……はーい。流星ったら、頭が固いんだから」


 ラミエルさんがまさか、ディオニュソスのことを……驚いたなぁ。でも、人の恋路を邪魔する奴は……って言うし、他人が口出ししない方がいいよね。

 千秋をたしなめつつ、そう自己完結しようとしたその時――


「分かったわ!」


 えっ?デメテル?彼女の叫びに皆が何事かと一斉に視線を送る。


「ラミエルさん、ディオニュソスのことが大好きになっちゃったのね!?OKよ!恋の駆け引きなら、私に任せてちょうだい!宇宙に散らばる星々の恋愛育成ゲーム百万本を全クリした私がいれば、もう安心よ!その恋、応援するわ!!」


 ドッパ~ンと日本海の荒波がバックに見えてきそうな迫力ある声とポーズに、固まる僕と千秋。そして、声にならない悲鳴を上げ、恥ずかしそうに両手で顔を隠してテーブルに突っ伏してしまうラミエルさん。


 デメテルってば、恋愛ゲームやってたのか。しかも、百万本を全てクリアって……一体どれだけの時間やってんだろ?

 って、そんなことより、ディオニュソスがアリアさんのこと好きなの知らないの!?アリアさんだって、きっと好きだと思うんだけど……?

 余計なことはしない方がいいと思うんだけどな。そう言おうとしたその時――


「娘のためにすまないね。よろしく頼むよ」


 ルミエルさんが感激した様子でデメテルに近寄り、二人はガッチリと固い握手を交わしていた。


「お任せ下さい!恋愛ゲームで鍛えた私にはもうひとつの武器があるんです!」

「なんだい?武器って」

「知恵と戦術に長けていると評判の、かの有名なアテナがいますよね?知り合いじゃないんですけど、実は私と神アカ時代の同期なんです。それで、たまに廊下で何度か彼女を見掛けたことがあったんですよ!」

「へぇ……!デメテルさん、流石だね!これ以上ないくらいの心強さだ。知略に長けたアテナとそんな関係とはね。とても安心したよ」


  えぇっ!ど、どどどど……どの部分がですか!?流石とか安心の要素、いまの話でどっかにありました?どの辺が武器になるのか僕にはサッパリですけどぉ!?関係って言っても、アテナって神さまを見ただけですよ!?友達ならまだしも、知り合いじゃないってデメテル、言っちゃってるし。

 しかも、これと似たような下りを前にも確か、アフロディーテって神さまを話に出した時もやってたよね?あれも結局、デメテルとは知り合いじゃないんじゃなかったっけ!?


 そんなツッコミを心の中で激しく入れていると、売り場の方で鈴の音がカランカランと軽やかに鳴り、扉から誰かが入ってくる気配がした。


「こんにちは!ルミエルさん、いらっしゃいますか?」


 聞き覚えのある声に売り場を覗いてみる。すると――

今回もお越し頂きありがとうございます☆☆


パン屋さんの相談事を解決していくはずが、なぜか恋愛の話に?

しかも、ラミエルの片想いの相手はあのディオニュソス!?

そして、ラストに登場した人物とは?


次回もぜひ、ご期待下さいね♪

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