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61.帰還の時

ついにその時が訪れる……!

――午後九時過ぎ


 アルテミスが現在(この世界)にいられる時間も残りあと僅か。かなり広めな裏庭に出た僕たちは、彼女との最後の時を楽しんでいた。


「さっきのライバル宣言には、ほんとビックリしたぜ。けど、お前の熱いハート、ビビビッと感じまった。本気なんだな?……言っとくけど、そうと決まれば手加減なんてしないぜ?絶対に、アタシが一番になってやるさ」

「ふふっ。フォルお姉様にだって負けないも~ん」


 フォルとアルテミスがお互いの顔を近づけ、視線をぶつけあう。でも、傍から見ると、恋敵というよりは仲の良い姉妹がじゃれあってるようにしか見えないんだけどね。二人共、そんなにまで僕のことを想ってくれるなんて。本当に嬉しいよ。


「悪いけど、それはないかなー?この中で一番長く一緒にいたのは幼馴染であるこの私だよ?つまり、私が一番、流星のことを理解してるってわけ。隠してるエッチな本の場所だって把握済みなんだから!」


 えっ!し、知ってたの!一体、いつから!?これは由々しき事態ってやつじゃ……!そういえば、忙しくてしばらく本に触ってない時に、なんだか妙にきちんと整理されて置いてあるな~。これ、僕がやったんだっけ?属性ごとに分けたっけ?って思ったことがあったんだよね。もしかして……!?


「大丈夫よ、流星。男の人は皆、そういうもの持ってるって従姉妹から聞いたことあるもの。私、理解ある方だから気にしなくていいわよ?でも……そんな本より私の方を見てね?」


 見ます!絶対、見ます!!ていうか、死んじゃってるから、もうその本見れないし。


「流星さん、こんなことになってごめなさいね~。まさか、アルテミ(この子)スまであなたを好きになってしまうだなんて……」

「いえ!僕の方こそ、優柔不断で申し訳ありません。ただ、アルテミスのことは彼女がもう少し大人になってから、よく考えてもらいたいと思ってますから」

「そうね~。年上への憧れかもしれないものね。でも、なんとなくだけど分かるの。大きくなっても、きっと、流星さんのことを好きでいると思うわ~」


 そう言って少しだけ心配そうな表情になるレーアさま。


「レーアさま、僕――」

「あっ!来ちゃった……!」


 言いかけた途端、アルテミスの叫び声が響く。間髪入れずに激しい光が視界に入り、そのあまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう。ゆっくり目を開け、何事かと恐る恐る見渡すと、目の前に巨大な光の柱が出現していた。


「これだ!お風呂で僕が見たっていう光はこれだよ!」


 まるで、雷を何本も束ねたような巨大すぎる稲光。バチバチと激しい音を立て、意志を持って唸っているようにさえ見える。それがずっと目の前にあり続けるという今まで経験したことのない光景。不覚にもちょっとだけビビってしまった。

 だって、仕方ないよね?巨大な雷にしか見えないものが、消えずにずっとすぐそこで(ほとばし)ってるんだもん。そりゃ、怖いって。


「すげぇ……!アタシも初めて見るぜ」

「私もよ?これが時空間移動の能力なのね。もの凄い神力の塊だわ!」


 フォルとデメテルでさえも驚嘆する能力。ほんとに凄いな!あれ?でも、千秋はあんまり驚いてない……?


「これ見てもあんまり驚いてないね?」

「え?ううん、驚いてるよ?でも、私、これ見るの二回目だもん。慣れちゃったのかも」


 そういや、未来の天界から僕のところに来る時に一度、アルテミスが能力発動してるんだっけ。


「バチバチしてるけど、触っても平気なんだよ」

「へ、へぇ。そうなんだ」


 朗らかに笑う千秋。二回目だとしても、こんなすぐに慣れるもの?千秋ってやっぱり、適応力が半端ないんだろうなぁ。


「アルちゃん、戻っても体に気を付けてね~?ジュースばかり飲んでちゃダメよ~?」

「お母様とお父様の言うことをよく聞くのよ?」


 レーアさまとデメテルが心配そうに声を掛ける。


「もう!分かってるよ~!大丈夫だったら」

「アルテミス!」

「まだあるの?お姉様」

「……頑張ったご褒美に最新のコテ、買ってあげるわ。未来の私に買ってもらいなさい。ね?」

「~~~~っ!?ありがとう!お姉様!」


 喜びを体全体で表し、歓喜の声を上げる彼女。こうして見ると、そんなに凄い能力を使える神さまだとはとても思えないや。普通の可愛らしい女の子にしか見えないよ。


「アルテミス、あなたのこと忘れないよ。」

「ちょっとぉ!それだと私が死んじゃうみたいじゃない!?」

「あれ?それもそーか」


 おどける千秋とぷんすかという表現が似合いそうなほど、頬を膨らませるアルテミス。


「全く、いい加減にし――」


 そんな彼女をふいに千秋が抱き締める。


「本当にありがとうね。一緒にいた三年間、すごく楽しかったよ。ケンカもしたけど、あなたに会えて良かった」

「千秋……わたしも。わたしも会えて良かった」


 抱き合いながら、涙ぐむ二人。千秋たちが天界に来るまでの時間を僕は知らない。でも、きっと、二人にとってかけがえのない友情を育む時間でもあったんだろうな。

 と、そこへ、二人をまとめて抱き締める人物が――


「アタシさ、アルテミ(こいつ)スに友達ができて嬉しかったんだぜ?千秋、アルテミスをありがとうな。アルテミスもよく千秋を天界(ここ)まで連れてきてくれたな。レーア様との約束は一部破っちまったみたいだけど、偉かったぞ?それでこそ、神だな!」


 嬉しそうに心の底から笑顔を見せるフォル。いつもだとここで背中をバンバン叩くんだけど、さすがに女の子にはやらないみたいだ。僕の時ももう少し控えて欲しいんだけどね。そんな彼女の笑いに誘われるように、他の皆も笑顔になっていた。


「お兄ちゃん……じゃあ、またね!三年後までに素敵なデートプラン、頑張って考えてよね?」

「うん、もちろん!本気で考えるよ。楽しみにしてて!」


 返事を返すと元気な声で、うん!と頷き、駆け足で光の中へと入っていく。


「みんな~!バイバ~イ!また遊んでね~!!」


 こちらを振り返らずに大声で叫ぶアルテミス。その肩が僅かに震えていてた。

 しっかりね!頑張って!そんな声が皆から掛けられる中、次第に光の柱がより太く大きくなり、輝く強さも唸るような轟音も一段と激しさを増していく。

 あぁ、もうすぐお別れなんだ……そう思うと、無性に寂しさが募り、自然と叫んでいた。


「アルテミス!三年後、また会った時に()()()()()()()()()()()()()()()()!お願いを何か考えといて~っ!?」


 一瞬、ビクッと震え、ゆっくりとこちらを振り向く彼女。その瞳に溢れるたくさんの涙。でも、すぐにごしごしと両手で拭うと、ニコッと笑顔を見せてこう言ってくれたのだった。


「お兄ちゃ~ん!だ~い好きぃ~!」


 その声を最後に、光の柱が急速に揺らぎ始め、次第に薄くなっていく。そして、地面から上空へ吸い込まれるように、すぅっと消えていってしまった。

 再び元の静けさが戻り、上空を見上げる。誰ともなく呟く、行っちゃったね、の声。空には雲一つなく、数多の星たちが宝石をばらまいた様に輝いていた。


 千秋を僕の所まで連れてきてくれた心根の優しい性格。日本の少女漫画が大好きで、お洒落にも興味津々。幼いけれど強大な神力を誇り、デメテルやレーアさまでさえも驚愕する能力の持ち主。僕のことをお兄ちゃんと呼んで慕ってくれ、初恋とまで言ってくれた。そんな元気で明るく、思ったことを割とハッキリ言う女神さま。でも……とても優しくて思い遣りのある女の子。


 彼女は大人になっても、今の気持ちを持ち続けていてくれるのだろうか……?もし、そうだとしたら、僕はどうしたらいいんだろう。大人になる前にデメテルたちの誰かを選んだら、悲しむだろうか?

 いや、そんなことを考えてる時点でアルテミスに失礼だ。アルテミスだけじゃない。デメテルたちにもそんな気持ちでいたら失礼すぎる!今度のデートでハッキリと気持ちを決めよう。そうじゃなきゃ、僕はいつまで経っても皆の想いを弄んでるのと同じだもんな。

 

 どんな結果になるか分からないけど、自分の心に正直になるよ。デメテルとフォルにも言われたもんな。選ばれなくて誰が可哀想だとか、そんなのは単に自分が傷つきたくないだけだって。

 三年後、僕の隣に誰がいるのか、それともいないのか正直なところ分からない。でも、これだけは言える。どんな状況になったとしても、自分の心に嘘はつかないと。それが僕なりの誠意と覚悟だよ。

 アルテミスが会う未来の僕はどんな男になってるのかな。今より少しでも成長してるといいのだけど。


 しばらくのお別れか……また会えるのを楽しみにしてるよ!


「流星……」

「流星さぁ……」


 余韻に浸る間もなく、デメテルとフォルから声を掛けられる。


「どうしたの?」


 不思議に思って見ると、二人共、ちょっといじけてるような表情だ。


「私にだって『何でもする権利』くれたの忘れちゃったの……?」

「アタシもだからな?ちなみに、アタシは二回だぞ!?」

「う、うん……もちろん、覚えてるよ」


 ほんとは忘れてたけど。


「ええぇっ!何それ何それ!?」


 驚きと羨望の眼差しを向ける千秋にかいつまんで説明すると、はぁ……と盛大なため息をつかれた。


「そりゃ、流星が悪いよ。よりによって、なんでそんなこと考えちゃうかなぁー?」

「千秋、なんだかちょっと怒ってない?」

「怒ってる!」


 ですよね~。


「分かるだろ?千秋!アタシたちのこの気持ち!」

「酷いでしょう?私たちを残して消えちゃいたいだなんて」

「ほんとだよね!?……ということで、怒らせた私にもその権利ちょーだい?」


 千秋に同意を求める二人の女神さま。当の千秋はというと、二人を慰めるように頭をよしよしと撫でつつ、したり顔でさらっと同じことを要求してくるのだった。

 要するにたぶん、自分だけ『何でもする権利』がないのが悔しかったんだろうな。


「あら、いいわね~。流星さん、私にもそちら、下さらない?」


 それまで沈黙を守っていたレーアさまが突然の参戦!?


「えっ!?」

「まぁ、お母様ったら!……でも、よくよく考えてみたら、娘の私の悲しみはお母様の悲しみよね?そうよね、流星?」

「え、えーと……うん、まぁ。そ、そうかな?」

「だとしたらだ。レーア様にだって当然、その権利はあるってことだよな?アタシはそう思うぜ?」


 デメテルとフォルがやけに強気に攻めてくる。


「じゃあ、皆で仲良く、流星から()()()()()()()()()()()()()()()()()、貰おうよ!」


 ちょっと!?なんか内容変わってない??


「ごめんごめん。冗談だってば。そんな無茶な事は言わないって!そうねぇ……デートの時にずっと、お姫様抱っこで移動してもらうとか?そのくらいだよ」


 ニッコリ笑顔で(のたま)う千秋。


「それいいわね~!でも、ちょっと恥ずかしいわ。ううん、そのくらい積極的にやらなきゃダメよね」

「すごい発想力だな!?さすがは流星の幼馴染なだけあるってことか。恐れ入ったぜ。なら、アタシだって……!」


 千秋に触発されたのか、不気味な神力ダダ漏れな女神さまたち。そして、三人でわちゃわちゃしながら楽し気に、僕へのお願いを相談しあうのだった。


「これが若さなのね~」


 温かく優しい微笑みで皆を見つめるレーアさま。


「私もその権利、下さるの~?」

「え……え~っと、はい。も、もちろんです。喜んで!」


 若干、引きつった笑顔になっているのを自覚しつつ、なんとか返事をする。


「ふふっ。ちょっと無理やりだったかしら~?でも、ありがとね~。そうだわ!私もお姫様抱っこしてもらおうかしら~?」


 そして、僕にだけ聞こえる絶妙な声量でとんでもないことを言い出す。


「れ、レーアさま。お戯れが過ぎますって……!クロノスさまに叱られてしまいます!」

「ふふっ、そうね~。パパはあれで結構、ヤキモチ焼きだから、見つかったら困っちゃうわね~」


 全く困ってない様子で朗らかに笑ってるし。


「冗談よ~。じゃあ、私からのお願いを早速、聞いて下さる~?」

「えっ……」

「そんな絶望的な顔しなくても大丈夫。安心なさって~。お願いはね、あなた自身の幸せもきちんと考えること。誰を選ばないと悲しむから自分を犠牲にしてもいいとか、そんなことは決して思わないで欲しいの。もちろん、娘たちのことは大切よ~?でも、流星さん、あなたのことも大事なの。自分の心に正直にね~?」


 慈愛に満ちた微笑みで見つめながら、約束よ?と、優しく念を押すレーアさま。


「ありがとうございます。肝に銘じます……」


 そんな彼女に感動してしまって、僕はそれ以上の言葉が出なかった。


「それと――」

「えっ?」

「パパの言うように、もし、あの子たちを酷く傷つけるようなことが万が一にもあった時は……」


 喉がゴクリと鳴り、息が詰まったような緊張が走る。


「『大地神、(クリティカル)渾身の一撃(・オブ・マーマ)(・ツヴァイ)』があなたを襲っちゃうかもしれませんよ~?」

「い、いえ!絶対に!決して!そのようなことはありません!!」


 その言葉を聞いた途端、体が即座に反応する。姿勢を正し、九十度の角度でお辞儀をするより他なかった。レーアさまならやりかねない。クロノスさまの仰ったことは決して比喩なんかじゃなかったんだ!


 明日、ラミエルさんと会う約束があるんだけど……どうしたらいいんだろう?デメテルたち、彼女の名前を出しただけで、あの空気の変わりようだもんな。

 ラミエルさんと会うことを話すべきか、話さざるべきか。明日を生きるため(もう死んでるけど)、必死に頭をフル回転させて考える僕だった。

今回もご覧頂きまして、ありがとうございます。

ついにアルテミスが未来へと帰ってしまいました。


次回は流星最大のピンチ!?

ご期待ください♪

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