60.それは流れる綺羅星のように
なんと、突然のプロポーズされた宣言!?
このあと、修羅場必至!?
僕からプロポーズされた。
突然、アルテミスから放たれた渾身の一撃!
それは、僕やデメテルら女性陣の精神を中枢から破壊し、粉々にしてしまった……とは言いすぎだけど、それ程の衝撃のものだった。
そんな張りつめた空気の中、アルテミスと共に朗らかな雰囲気を漂わせてるお方――レーアさまがにっこりと笑って言葉を続ける。
「ふふっ。流星さんったら、大胆ね~。その『 紅玉 』だけど、私もプロポーズの時にパパから貰ってとても嬉しかったわ~。その石は、身に付けた者に幸福をもたらすと言われてるの。でも、それだけじゃなくて、男性から女性に贈られた際には特別な意味もあるのよ~?」
特別な意味?なんだろう??
「レーアさま、それって……」
「『一生懸けてあなたを愛します』ってことよ~。アクセサリーの種類は関係なくて、その石自身が意味を持ってるの。流星さん、アルテミスはまだ結婚できる年齢ではないから、成人するまで待ってて下さる~?」
茶目っ気たっぷりなウィンクをしながら言い放つレーアさま。あまりの衝撃に固まる僕。デメテルはそれに加えて目を見開き、フォルはおまけに口をあんぐりと開けている。そして、千秋はさらにそれらに加え、cvれtkjふぇph、と、およそ言葉になっていない意味不明な音声を発していた。
「お兄ちゃん、わたし、代打逆転サヨナラ満塁優勝ホームラン、打っちゃったってことだよね!?平成十三年の九月二十六日に近鉄が勝った時みたいに。あれ、すごかったよね~!わたしのこと、しあわせにしてね?」
えへへ、と可愛らしく微笑む、本当に愛らしい無垢な女神さま。アルテミス、君って野球に詳しいんだね。すごかったよね、と言われても、僕ってその時はまだ生まれてないんだけどな。僕の思考は現実から逃れるように、そんなことを考えていた。
彼女とは皆の中で一番最後に出会ったのに、目にも止まらぬ速さで僕をかっさらっていく。まるで、夜空に煌めく流れ星のように一瞬の出来事だった。
これからどうしたらいいんだろう?確かにアルテミスのことは好きだけど、妹の様な女の子を見守りたいと思う気持ちも愛に入るんだろうか?嬉しそうにくっついてくる彼女の頭を優しく撫でながら考えるも、答えはすぐに出せそうになかった。
「さ、アルちゃん。そこまでにしときなさいよ~?流星さんが困ってるわ~」
「は~い!」
「それに、デメちゃんたちもあのままじゃ、可哀想だもの。流星さん、ごめんなさいね~。また私の悪い癖がでちゃったわ~」
ん?どういうことだろう?
「お兄ちゃん、ごめんなさい。お姉様たちも千秋もごめんなさい」
面白そうに笑みを湛えていたレーアさまとアルテミスが、一転、揃って頭を下げる。
「『 紅玉 』は確かに、そういった意味はあるのだけれど、結婚を強制するものではないのよ~」
「お母様がお話の中で、お父様にその宝石を貰ったって言ってたでしょ?だから、わたしもプロポーズの時にお兄ちゃんから貰いたいなって思ったの。それで、さっき貰ったネックレスがその宝石だったこと思い出して、嬉しくてついあんなこと言っちゃったんだ」
なんだ……そうだったのか。
「そうだったんだね。突然、プロポーズされた、なんて言うから驚いちゃったよ」
「私も面白そうだから、アルテミス乗っかっちゃたわ~。流星さん、本当にごめんなさいね~」
「いえ、少しビックリしただけですから。大丈夫ですよ」
「お母様!悪ふざけが過ぎます!」
「そうですよ!アタシたち、心臓が止まるかと思っちゃったんですから!」
「ほんとほんと!でも、あー良かった!流星がほんとにプロポーズするつもりで、ルビーを渡したのかと思っちゃった」
僕の後に続いて、口々にひとしきり思いを吐き出し、安堵の表情を浮かべるデメテルたち。
「まぁ、アルテミスにはまだプロポーズなんて早すぎるからな。ていうか、そもそも、恋人だって早いってーの!アタシなんて流星がその……は、初恋なんだし」
「えー!?フォル、本当に初恋なんだ!?じゃ、私と同じだね!私も流星が初めて好きになった男の子なんだー」
フォルが照れながらチラチラと僕に視線を送り、千秋も頬を染めながら笑顔を向けてくる。
「あら、二人共、初恋なの?なら、三人共条件は同じってことなのね。今まで恋愛経験なし、恋人なしなら、経験値的にも優劣はつかないと思うの。下手に恋愛のテクニックに頼るよりずっといいわ。」
「えっ……てことは、デメテルも今まで恋人いたことなかったんだ?」
僕の問いかけに、彼女が恥ずかしそうに微笑む。
「えぇ、そうよ。流星が初めて好きになった男の人なんだから……ぇぃっ!」
皆が僕から離れたのをいいことに、小さな掛け声と共に急に抱き着いてくるデメテル。さっきは背中にだったけど、今度は真正面からのむちむちとぷるぷるとむにゅむにゅが、僕の精神を違った意味で破壊しにきていた。
「しまった!」
「迂闊っ!!」
まるでどこかの戦場のような悲愴感溢れる叫びがフォル、千秋の両名から発せられる。でも、いまはハッキリ言ってそれどころじゃなかった。
なんて破壊力なんだ!デメテルが恥ずかしそうに体をよじる度に押し付けられる女神メロンの弾力。体に感じるそのとろけるような感覚といったら!
あぁ、この悦びを誰かに伝えたい!タイトルをつけるとしたら、そうだな……『女神のメロンはぷるんぷるん』?ううん、こんなありきたりじゃダメだ!『メロンとメロンの狭間で』?いやいやいや!なんか違うな。
そうだ。一度、メロンから離れよう……ハッ!これはどうだろう?『僕だってラブラブしたい!桃とメロンと大玉と』……うがぁっ!僕はなんって最低なんだ!三人を一遍にだなんて、誠実に程遠いじゃないか!しかも、どっかで聞いたことがあるようなタイトルだし。おまけに、メロンから離れられてない。
もう一度、もう一度冷静になってよく考えるんだ。何か……何か良い案があるはず。彼女が抱き着いてきてからここまで約コンマ七秒。驚異的な速度で頭をフル回転させる僕に、突然、天啓の如く一筋の光明が差し込んだ。
『揺れは時間差でやってくる』
おぉっ!これは、いいねがたくさん付きそうな感じじゃない?大きさは分かるけど柔らかさがいまいち分かりにくいメロンという比喩表現を使わず、しかも、いまの僕が感じている感覚を的確に表している!さらに、時間差という言葉によって、単体ではなく複数の悦びがあることを見事に伝えている!!
そうだ!今度、このことをディオニュソスにも教え――
「流星さんったら……あなたも男の人なのね~。若いっていいわ~」
「ふふっ。流星ってば、そんなに嬉しかったの?時間差じゃなくて同時にも揺れるんだからね?」
レーアさまとデメテルに全部、筒抜けでした。それにしても、同時の揺れか……同時も捨てがたいな。
◇◇◇
「アルちゃん、もうすぐ時間よ~?流星さんたちにちゃんとご挨拶なさいね~」
はっ……もうそんな時間なのか。いよいよ、お別れの時なんだね。三年後にまた会えるとはいえ、寂しいな。
「え~!もう?もうちょっと一緒にいたかったのにな」
「元気出してよ。ね?それに、私たちは三年経たないとアルテミスに会えないけど、アルテミスは未来に戻ったらすぐに私たちと会えるでしょ?」
「うん、それはそうだけど……」
レーアさまに言われ、途端に元気をなくすアルテミス。そんな彼女に優しく諭すように声を掛ける千秋。平気そうな顔してるけど、やっぱり千秋もどこか寂しそうに見えた。
そういえば、そうだった!アルテミスは戻ったら、すぐ僕たちに会えるのか。勘違いしてたよ。
「そーだぞ?未来のアタシたちによろしくな。街で約束した通り、未来へ戻ったら肉まん作ってもらえよ。アタシは約束したことは必ず守るぜ?」
「は~い!じゃあ、早速、未来のフォル姉様にお願いしてみるね!」
「あら、それは良いわね。フォル、私にもまた作ってよね!……じゃなかった。未来に戻っても、ちゃんとお母様やお父様の言うことをよく聞くのよ?隕石もやたらと呼び寄せたりしたらダメなんだからね?あと、いくら仲良くして下さってるからって、そんなに頻繁にアリアさんの所へお邪魔したらご迷惑よ?お仕事の邪魔になってもいけないし……それから――」
「お、お姉様!大丈夫。ちゃんと分かったから大丈夫だよ~!」
デメテルってば、なんだかお母さんにみたいになってるな。(地球換算で)十三歳も年が離れてれば、自然とそうなっちゃうのかも?
「アルテミス……ありがとう。会えて良かったよ」
「お兄ちゃん、わたしもありがとう。すっごく楽しかった。街で手を繋いでくれたことも、ホットドッグを作ってくれたこともありがとうね。あと、いつも優しくしてくれてありがとう。それから、お洋服も褒めてくれてとっても嬉しかったよ。デートもいっぱいいっぱい楽しかった!わたし、あんなに楽しかったの生まれて初めて!」
「うん……僕も楽しかったよ。凄くね。改めて見ても、そのドレス、よく似合ってる。それにネックレスもよく似合うね。とっても大人っぽいよ」
「嬉しいな……」
「…………」
「…………」
「アルテミス……?」
「やっぱりヤダ……戻りたくない。お兄ちゃんのそばにいたい!」
空色の瞳に涙を湛え、いまにも零れ落ちそうな表情で見上げる彼女。
「アルちゃん、それはダメよ~?例え、ママがこの時代にいてもいいと言ったとしても、あなたの能力は誰にも干渉できないの。どんな神でもね~。二十四時間経てば未来に強制的に戻される。これは絶対不可侵なんだから」
「だって――!」
「アルテミス」
なおも何か言おうとする彼女を優しく抱きしめる。念のためにデメテルたちをちらっと見ると、皆、仕方ないわね、といった表情で軽く頷いてくれた。
「お、お兄ちゃん……?」
「三年後の僕に伝えてくれる?三年前はアルテミスにお任せしちゃったけど、今度は僕がリードするようにって」
「えっ……」
「未来に戻ったら、必ずデートしよう?次は最高のプランを考えておくからさ」
僕の言葉を聞き、みるみるうちに涙が溢れるアルテミス。ギュッと抱き着き顔を胸にうずめ、小刻みに震える小さな肩。必死に泣き声を抑えているようだった。
こんなにも僕のことを慕ってくれる妹のような彼女。まだ幼い顔立ちだけど、時々、ドキッとさせられることを言う淑女な彼女。色んなことを話して、たくさんの表情を見せてくれた小さな女神さま。
妹、淑女、女神さま。どのアルテミスも、いつも僕に笑顔をくれた。とびっきりの笑顔を。対する僕は彼女に何をしてあげられたんだろう?デートの時、彼女の目が時々、艶っぽくなっていることには気付いていた。だけど、子供だからと……どうせ本気ではないと、気付かないフリをしたのは僕なんだよな。
もしかしたら、とても失礼な態度をとってたのかも知れない。そう思うと、心の規範にしている誠実という言葉がひどく薄っぺらなものに思えた。
「アルテミスの気持ち、とっても嬉しいよ。ありがとう。いままで本気にしてなくてごめん」
「もう……!ほんとだよ」
「でも、広場でも話したように、付き合ったりするのはちゃんと大人になってから――」
「うん、それも分かってるよ。分かってるから……もっとギュッてして」
そう言ってすすり泣く彼女。抱き締めながらその背中を撫でてやる。しばらくすると、ひとしきり泣いてスッキリしたらしく、顔を上げてニッと笑って口を開いた。
「お兄ちゃん、わたしも初恋なんだからね?今度、会えるのはわたしはすぐだけど、お兄ちゃんは三年後になっちゃうでしょ?だから……ちょっとかがんでみて?」
すぐさま膝をついて彼女と目線を同じにする。すると――
「……っ!?」
頬に感じる柔らかな唇の感触。そして、顔を真っ赤にして、えへへ、とはにかむアルテミス。その表情はまだあどけなさが残るも、とても可憐で神々しい美しさだった。
無意識に周りを見渡すと、レーアさまが微笑んでる以外、皆、目が殺気立っている。そんなデメテルたちに向けて、アルテミスは事もなげに言葉を発した。
「お姉様とフォル姉様。それから、千秋もよく聞いてね?わたし、お兄ちゃんのことが大好き!だから、もう少し大きくなったら彼女さんにしてもらうね。それまでにお姉様たちがプロポーズしてもらえなかったら、わたしがもらっちゃうね~!」
「「「えぇーーーーっっ!?」」」
それは、デメテルたちに対する宣戦布告だった。ていうか、僕の意志は……?
「あらあら~。我が娘ながら、積極的ね~。デメちゃんたち、頑張らないと本当に流星さん、取られちゃうわよ~?」
これまた笑いを堪えた表情で煽るレーアさま。絶対に面白がってますよね!?
ここまでご覧下さって本当にありがとうございます。
相変わらず、わちゃわちゃしてる流星たち。
そして、いつになく積極的なアルテミス。
流星争奪戦はまさかのアルテミスが一歩リード??
次回もご注目ください★




