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◆第十六話『エピローグ①』

 アスフィール王国の王都。

 レイルダートの中心に聳える王城の最上階。


 王の寝室テラスにて。


「よぉ、おっさん」


 ロアは手すりに腰かけながら、室内に向かって軽く手をあげた。


 満天の星とともに月が煌めく最中だ。夜であっても、硝子越しに映る王グレシオの驚愕する顔ははっきりと確認できた。


 グレシオが盛大にため息をつきながらテラスへ出てくる。


「まったく、お前が暗殺者だったらと思うとぞっとするわ……」

「前にも言ったが、俺みたいなのが正式に出入りするのはちょっと、な」

「だからといって忍び込む奴がどこにいる」

「ここに」


 得意気な顔で応じると、また呆れられてしまった。


 見張りからの視線を避けるため、ロアはテラスの内側へと移動。壁に背を預けたのち、星を見上げながら話しはじめる。


「通信具で話してもよかったんだけどな。前に顔を見せろって言ってただろ。だから、色々話すついでにな」

「来るなら来ると言えば、もてなせたものを」

「俺にはこれが気楽でいいんだよ」


 格式ばった歓待が苦手ということもある。

 だが、それ以上にグレシオを思ってのことだ。


 現状、この身はただの男でしかない。


 そんな人物が一国の王と会合するなんて本来はありえないからだ。品位を疑われるだけでなく、あらぬ誤解を招く可能性すらある。


 もっとも、当のグレシオはまるで気にしていないようだが。それどころか、もてなせなかったことを心から悔やんでいるぐらいだ。


「てかおっさん、ちょっと老けたか?」

「あれほどの襲撃を受けたあとだぞ。戦力の確保やら修繕費の捻出やら考えることばかりで……老けんほうがおかしいだろう」

「生まれた皺の分だけ、王としての貫禄も増すってわけか」

「嬉しくないものだがな」


 ふっと笑ったグレシオがそばに置かれた椅子に座った。それから厳めしい顔つきになると、「して、先の襲撃の件だが……」と新たな話を切り出してくる。


「奴らは魔神の復活を待たずして攻めてきた。その真意はなんだと思う?」

「さあな。功を求めて先走ったのか。あるいは……俺らが近いと思ってる魔神の復活が実はそうでもないのか」

「今回の襲撃が魔神復活に必要なことだったということか?」

「よくあるだろ。供物で悪魔召喚なんて話」

「仮にそうだとすれば……供物は人間の血か」

「あくまでそうじゃないかって話だからな」


 断定して動くのは、さすがに早すぎる。


 だが、仮に真実であれば、こちら側にとって有利となる。なぜなら、魔族から人間を守りさえすれば、魔神復活を防げる可能性があるからだ。


「しかし、魔人が4体か。お前がいなければ間違いなく我が国は滅びていただろうな」

「おかげでかなり無茶な戦い方をするはめになったけどな」

「北方砦群の前方区域が荒れに荒れていると聞いた。それこそ天変地異でも起こったのではないか、とな」

「悪い。抑える余裕がなかったんだ」

「あのような状況だ。気にすることはない」


 当初はもう少し抑えるつもりだった。


 ただ、戦姫学園側から緊急で入った報告を聞いて、なりふり構わず戦うことにした。その報告とは、北西街道を南下する魔獣の大群に、担当教室の生徒たちが向かっているというものだ。


 もちろん最初から手を抜いていたわけではない。ただ、敵の増援を考えた際に余力を残しておくのが常だが、それを考慮せずに暴れた形だ。


 おかげで戦闘終了後はいまにも倒れそうだった。

 もちろん生徒たちの前では、そんな様子をいっさい出さなかったが。


「とはいえ、今回の件で噂は広まりつつあるぞ。黒曜の騎士がガルディアントの生き残りというだけでなく、《狂人化》の力を持っているとな」

「あれだけ暴れたあとだからな。さすがに隠しきれないか」

「お前はこの国を救った英雄だ。その肩書とともにガルディアント王国の正当後継者である、と公表すれば民の後押しも受けられる。いまが最高の機会だと思うがな」


 現在、アスフィールの隣国であるスィラン神聖王国は、魔神復活の対応に無関心を貫いている。魔獣の襲撃に関しても同じだ。アスフィールが滅びれば、自国も滅びるというのに──。


 そんな中とあって、グレシオとしては信頼出来るパートナーが欲しいという側面もあるだろう。だが、彼は絶対に無理強いはしてこない。


 彼は昔からそうだ。

 こちらのことをなによりも考えてくれている。


 だが──。


「その話は何度もしてるだろ。ってか、名乗ったところでいまや国は魔獣の棲み処だ。住民は魔獣だけなんて笑えるにもほどがある」

「この国にもガルディアントの生き残りはいる」

「10人にも満たないって聞いてるけどな」

「王と、それに付き従う民。その両者がいれば国は成り立つ。場所も、民の数も重要ではない」


 以前にも提案されたが、グレシオは土地を貸し与えることまで考えている。本当にありがたい話だが、やはりいまはまだ受けるわけにはいかなかった。


「全部……全部終わってからだ」


 ロアは広げた右手を見つめたのち、ぐっと握りしめる。


「俺はなによりも先にケリをつけなくちゃいけない。クソ親父のせいで滅びた国。そしてそこにいた国民たち。あいつらのためにも、俺が……っ」


 魔神は殺す。


 だが、それは復讐心を満たすためではない。

 すべては肉親の過ちを正したいという想いからだ。


 そんなこちらの想いを汲んでか。

 グレシオがそれ以降、なにか言ってくることはなかった。


 ロアは昂ぶった感情を抑えんと息を吐いた。

 壁から離れ、そのまま手すりのほうへと歩き出す。


「じゃ、そろそろお暇するとするか」

「なんだ、もう行ってしまうのか。なにか食べていけばよいものを」

「久々におっさんの顔も見れたし、それで満足だ。ってか、こんな夜中に起こして料理を作れなんて言ったら嫌われるぜ」

「そ、そうか。それもそうだな……しかし──」

「明日も授業があるんだ。どのみち長居は出来ない」


 そう返したことがよっぽど意外だったのか、グレシオが呆気に取られていた。しかし、すぐにその表情は優し気なものへと変わる。


「初めは少し面倒そうにしていたようだったが……なんだ、楽しそうではないか」

「まあ、な。生意気なことこのうえないが、鍛えがいはある奴らだ。いずれは、この国最強の戦姫集団に鍛え上げるつもりだから、期待して待っててくれ」

「うむ……楽しみにしておる」


 担当教室の生徒たちはまだ学生の身だ。

 最強なんて言葉とはほど遠いが、グレシオは笑うことなく力強く頷いてくれた。


 本当になにからなにまで世話になっている。

 彼にはいつか大きな恩返しをしなければならないな、と。


 そんなことを考えながら、ロアは王城をあとにした。



本日の19時頃にも投稿します。

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