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◆第二話『皆で楽しい森生活』

「そろそろ落ちついたかー、お前ら」


 森林地帯のひらけた場所にて。

 ロアは座り込んだ生徒たちへと問いかけた。


 少し前、彼女らに本気の殺意を放ったのだが……。

 結果、大半の生徒が恐怖に怯えて腰を抜かしてしまった。


 さらには泣いたり、全身を震わせたり。

 悲鳴をあげたりとなんとも騒がしかった。


 ほとんど動じなかったのはリシスぐらいだ。

 それでも脚はぷるぷると震わせていたので相応に恐怖は感じたのだろう。


 ちなみに経験者のナナトリアはけろっとしていた。

 ただ、当時を思い出したのか、「やっぱりそうなるよね」と苦笑していた。


「ったく、揃いも揃って情けない声出しやがって。まあ、気絶するよりはマシだが」

「ちょっとぉ、恥ずかしいからその話はもうしないでよっ!」


 顔を真っ赤にしながらそう抗議してくるシャルミン。

 今回、彼女1人だけが気を失ってぱたりと倒れた。


 図太い人間かと思っていただけに意外だった。

 ともあれ、いまは調子を取り戻したようで元気一杯だ。


「そんじゃ話をするぞー。今回、お前らにはこの森生活で闘気を扱えるようになってもらう。さっきお前らに俺の殺意を感じてもらったのもその訓練の一環だ。というのも、基本的に闘気は殺意を高めて発動するものだからだ」


 説明を始めた途端、生徒たちがざわつきだした。

 顔を見合わせながら、難しい顔をしている。


「……いきなり闘気なんて言われても」

「そもそも、闘気ってガルディアント王国の技術よね」

「いまじゃ教える人がいなくて、誰も使ってないって」

「ええ、失われた技術って言われていたはずだけれど……」


 予想できた反応ではあった。

 だが、まさかこれほどまでとは。


 中でもリシスからはより強い疑念の目を向けられていた。


 そもそも森での訓練に否定的だった彼女がなぜ参加したのか。〝皆が行くから自分も〟と周囲に流されるようなことはない彼女のことだ。


 おそらくとも言わず、こちらの正体を探るために違いない。


 リシスを視界から外しつつ、ロアはおどけたように説明する。


「まあ、色々あって教わる機会があったんだよ。知人の父ちゃんの弟の、その息子の友達が使い手でな」

「色々あり過ぎだし、完全に他人じゃん」


 シャルミンから適格なツッコミが入った。


 だが、出所について気にする生徒はほとんどいないようだった。疑念の眼差しを向けてきているのも、やはりリシスぐらいだ。


 1人の生徒が遠慮がちに手を挙げる。


「その闘気を使えるようになれば、本当に強くなれるのでしょうか?」

「ナナトリアが強くなったのも、それが大きな要因だ」


 そう答えると、生徒たちの視線がナナトリアに集まった。


 リシスに勝利した決闘や、先日の砦防衛戦における獅子奮迅の活躍。それらが闘気の力によるものだと知ってか、生徒たちがやる気になったようだ。


「とりあえず説明ばっかしてても時間の無駄だし、始めるか。ま、そう難しく考えることはない。まずはこの森で2、3日生きてみろ。本格的な戦闘訓練はそのあとだ」


 まずは生きるために必死になってもらわなければならない。その過程で可能な限り殺意を操れるようになってもらう。そこまではナナトリアに辿らせた流れと同じだ。


「あ~、そうそう。食糧調達が重要になるってのは誰でもわかるだろうが……食べていいのは肉だけだ。つまりそこらにいる動物を自分の手で殺せってこった。どうしても山菜を食いたいって奴は、ちゃんと肉を調達してからってのが条件だ」


 相手は世間知らずなお嬢様ばかり。食べられる山菜を知っている者などそうはいないはずだ。悪戯に希望を与えるだけだが、まんまと乗せられた幾人かの生徒がわずかに笑みを浮かべていた。


「あの、先生。わたし、お料理をしたことがないのですけれど」

「わ、わたしはしたことあるけど……さすがに解体からは……」


 彼女ら以外にも同じ点を不安に思っていた生徒は多いようだ。あちこちで、こくこくと頷いている。


「そういうのは訓練の目的外だから教えてやる。火の熾し方もな」

「良かったですわ。わたくし、実はお料理なんてしたことなかったから……」

「わたしもです。初めてのお料理、楽しみですねっ」


 なんて浮かれた会話だろうか。


 獲物を仕留めてから解体までの血にまみれた時間。彼女たちはいったいどんな反応を見せてくれるのか。いまから楽しみでしかたない。


 ひとまず1度は全員に獲物を狩ってもらうことが大前提。その後は、闘気の習得具合に応じて獲物を狩るのは必要最低限にさせる予定だ。


 生徒たち全員が毎日動物を狩っていたら生態系が完全に変わってしまうからだ。


「ふふん、動物を狩るなんて簡単なこと。このルヴィ・クリステリアには造作もないですわ。いいですこと、おふたりとも。今夜は誰よりも豪勢な食事にしてみせますわよ」

「もちろんですわ、ルヴィ様っ」

「ええ、わたしたちの連携を見せて差し上げましょうっ」


 ルヴィとその取り巻き2人が結託する気満々の会話をしていた。賢い選択ではあるが、今回に限っては許すわけにはいかない。


 ロアは彼女らによく聞こえるよう、全員を見回しながら叫ぶ。


「いいか、訓練の目的をよく考えて行動しろ! 神聖魔装の使用は禁止! 誰かと協力して狩ることも、狩れなかった奴に恵んでやるのも禁止だ! いいな!?」

「んなっ!」


 ルヴィがおかしな声をあげるや、睨んできた。

 眉尻を吊り上げ、ぷくっと頬を膨らませている。

 抗議のつもりのようだが、笑わせにきているとしか思えない。


 ロアはふっと笑みを零しつつ、再び生徒全員へ向けて声を張り上げた。


「そんじゃ開始だ!」



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