◆第九話『実戦の結果』
「セ~ンセっ」
「こ、こんばんは……っ」
「どうした、こんなところまで来て」
その日の夜。
明日の訓練内容についての打ち合わせを終え、自室に戻ってきたときだった。
部屋前の廊下で待っていたナナトリアとシャルミンに迎えられた。
「センセーの部屋がどんなかな~って気になって来ちゃった。場所は兵士さんに教えてもらって」
悪戯っ子のように舌をちろりと出すシャルミン。
傍らでは、ナナトリアが困ったようにまなじりを下げている。
「わたしはやめようって言ったんですけど……シャルちゃんが行くって聞かなくて」
「そんなこと言って本当は気になってるくせに~」
「そ、それは……そうだけど」
予想どおりだが、シャルミンが押し切ったらしい。
それにしても、いつの間にかナナトリアがシャルミンのことを愛称で呼んでいた。おそらく今回の実地訓練で同じ班になったことが2人の距離を縮めたのだろう。
「ま、べつに構わないが。なんもないぞ」
言いながら、ロアは扉を開いた。
早速とばかりにシャルミンが中を覗き込む。
「うわ、本当になにもない。ってか、あたしらとあんま変わらないじゃん。普通、こういうのっていい部屋用意してもらうんじゃないの?」
「俺はこっちのほうが落ちつくんだよ。なんなら野宿でもいいぐらいだ」
「さっすが野生児」
「子どもじゃないけどな」
ナナトリアも中を覗き込んでいたが、目をひくものがなかったらしい。
2人とも興味をなくしてこれで帰るだろう。
そう思っていたところ、「あ、そうだ!」とシャルミンがいきなり声をあげた。
「センセーはもう食事は済ませたの?」
「まだだ。さっきまで明日の予定を決めてたからな」
「じゃ、じゃあ一緒に行きませんかっ!?」
ぐいと前のめりで誘ってくるナナトリア。
食事に誘うだけとは思えないほど真剣な目だ。
思わず目を瞬かせてしまったが……。
もともと少し腹が減っていたので断る理由もなかった。
「そうだな。じゃあ、行くか」
ということで食堂へ向かうことになった。
構造上、どうしても長い通路が多くなる。
道すがら昼間の訓練結果が話題にあがった。
「そういやお前らの班の討伐数、かなり良かったな。13体だったか」
「いやー、でも2番だしね。1番はリシス様んとこが持ってっちゃったし」
言いながら、悔しそうな顔を見せるシャルミン。
ちなみにリシスの班は22体とぶっちぎりだった。
成績だけを見ればもっとも優秀だが、大きな問題があった。
「あの班のことは少し見ていたが、ほとんどリシスが倒しちまってたからな。あれは俺が求めていたものとは違った。訓練の内容だけを見れば、お前らが1番の出来だ」
「本当!? やったね、ナナっち」
「う、うん……っ」
シャルミンが出した掌に、ナナトリアが遠慮がちに合わせる。ぱちんっと音が鳴る中、2人が程度の差はあれど嬉しそうに笑みを浮かべた。
「にしてもナナ、よく闘気を使わなかったな」
「えと、あれを使うような場面じゃないかなって思って……」
「それでいい。あれは必要なとき、必要な相手に使えばいい」
「んっ……先生、またっ」
優秀な生徒はたくさん褒められて然るべきだ。
そう思いながら、ナナトリアの髪を荒々しく撫でる。
「センセ?」
なにやらそばでシャルミンが得意気な顔を向けてきた。
さらに目を瞑りながら自身の頭を指差している。どうやら〝あたしも褒めていいよ〟ということらしい。その図々しさは称賛に値するが……。
ロアはシャルミンの額を手の甲で軽く小突いた。
「あいたっ。なんでよ~!? あたしだって頑張ったじゃんー」
「お前はまだ合格じゃないからな」
この合格の基準は戦士かどうかだ。
シャルミンが額を押さえながら抗議の目を向けてくる。
「ぐぬぬ……センセー、ナナっちにだけ甘いよね」
「当然だろ。こいつは俺と2人っきりの楽しい森生活を過ごしたんだからな。特別だ」
「と、特別……っ」
「うわ、ナナっち顔真っ赤っか」
「え、うそっ!?」
両手で自身の顔を触るナナトリアに、「うっそ~!」と言いながら笑うシャルミン。からかわれたと気づいたか、ナナトリアが今度こそ顔を真っ赤にした。
「もう、シャルちゃんひどいよ~!」
「あははっ! だってナナっち可愛いんだもん~っ」
追いかけっこをはじめる2人。
「賑やかな奴らだな」
久しく見ていなかった光景だ。
ただ、悪くはないな、と。
そう思いながら、ロアはふっと笑みをこぼした。
直後、通路先の広間──。
食堂からガシャンと破砕音が聞こえてきた。




