◆第二話『学園一の愉快な美少女①』
王立戦姫学園は全寮制だ。
利便性を考慮し、食堂は校舎と寄宿舎の間に位置している。
全生徒の数は約600人。
その数もあって食堂はとてつもなく広い。
また天井高で、そこかしこに太い支柱が聳えている。
「な、なんですか、あれ……」
「あれって……脚ですよね。なんの動物でしょうか」
「なんて生々しいんですの。うっ、気持ち悪い……っ」
ロアは周囲の注目を一身に集めていた。
原因は、いまも手に持っている大皿の上だ。
調理場の一画を借りて、森で獲ってきた処理済みの斑猪をさらに解体。簡素に焼いたものだが、まさかこれほど注目されるとは思いもしなかった。
歩くたびに生徒たちが大げさに離れていく。
混んでいる中でもぶつかる危険がないのでありがたい配慮だ。
空いた席ににどかっと座り込むと、案の定、周囲の生徒たちが蜘蛛の子を散らすように離れていった。やはりまだまだ警戒されているようだ。
とはいえ、悲観する気はいっさいない。
注目されている分には、少なからず興味があるということ。いい機会だし、むしろ存分に観察してもらいたいところだ。
そう思いながら、堂々と肉を貪りはじめる。
と、1人の生徒がテーブルに近寄ってきた。
ナナトリアだ。
「先生、ご一緒してもいいですか?」
「ん、ああ。構わないが」
許可を得るなり、ナナトリアがトレイを置いた。
食事の内容は基本的に好きなように選べる仕組みだ。
彼女の場合は野菜多めに肉少々といったところ。
量的には少な目な印象だ。
「いいのか、お前」
「なにがですか?」
「いや、どう考えても目立つだろ」
いまだに注目されている状況だ。
ほかの生徒たちからしてみれば、〝あんな野蛮人と食事するなんて考えられない〟といった感じだろう。
実際、そんな視線を感じるし、会話も聞こえてくる。
「大丈夫です。もともと1人で食べていましたから」
「……その、なんだ。俺が悪かった」
「あ、あはは……悲しくなるので謝らないでください」
もっと孤立するかもだろうと言おうとしたが、思いとどまった。そんなことも考慮したうえだとばかりにナナトリアの表情が達観していたからだ。
「あ、先生。わたしにも少しわけてくれませんか?」
「いいぞ。ここの美味いところをやる」
「やった。そんなに経ってないのに少し恋しくなっちゃって。ありがとう、先生」
無邪気な笑みを向けてくるナナトリア。
やけに肉料理が少ないと思ったが、初めからもらう気だったらしい。
彼女は受け取った肉を骨から削ぐようにしてナイフを滑らせていく。やがて薄く切り分けられた肉を、そのまま上品に口へと運んだ。
ぎっしりと詰まった旨味を堪能しているのか。
ん~っ、と恍惚の笑みを浮かべている。
「あんときみたいにかっ食らってもいいんだぞ」
「い、いやです。みんなが見てる前でなんて恥ずかしいじゃないですか……っ」
「なんだ、まだ羞恥心を消せてないのか?」
「うっ……と、ときと場合によります。森ではちゃんとしますから」
正直、日常からも羞恥心を排除すべきだとも思う。
戦闘時には邪魔になるだけだからだ。
しかし、彼女たちには貴族としての生活もある。
上手く切り替えられるのであれば、それに越したことはない。
「苦労してますね」
ナナトリアが急にそんな言葉で切り出してきた。
教師としての仕事に対して言っているのだろう。
「まあな。皆がお前みたいに素直だと楽なんだけどな」
「それは喜んでいいんでしょうか?」
「おー、喜べ喜べ。褒めてるんだからな」
「だったら喜んじゃいます……っ」
えへへ、と柔らかな笑みをこぼすナナトリア。
出会ったときからほんわかした雰囲気はあった。
だが、いまはそれに加えて明るさが増した格好だ。
「でも、先生ならきっと大丈夫だって……そう思います」
「俺の教えを唯一受けたナナが言うなら間違いないな」
「はい、間違いないですっ」
べつに落ち込んでいたわけではない。
ただ、悩んでいたこともあって頭の中に圧迫感を覚えていた。
それが幾分か楽になったような気がする。
間違いなくナナトリアのおかげだ。
「よし、もう1本やる」
「え、あんまり食べ過ぎると太っちゃいますっ。わたし、ただでさえみんなよりちょっと……その、重くて……」
「むしろもっと肉をつけたほうがいいぐらいだ。ほら、食え食え」
「うあ、うぅ~、先生がそう言うなら……っ」
言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をするナナトリア。
どうやら食欲のほうはあり余っているようだ。
ちなみに彼女はまったく太っていない。
重いのは間違いなく胸のせいだろう。
むしろほかの肉つきに関しては少ないと言える。
彼女の戦い方を考慮すれば筋力増強のためにももっと食べるべきだ。
そんなことを考えながら、ナナトリアに肉を与え続けていたときだった。
1人の小柄な生徒が近づいてきた。
「なになに~、なんか2人ともいい雰囲気じゃん~」
この学園に来て以来、初めて聞くほどの砕けた喋り方だ。
彼女は「あ、お邪魔しまーす」と軽い挨拶をしながら同じテーブルについた。かと思うや、さも気心の知れた友人のように溶け込み、自身で運んできた料理を口にしはじめる。
あまりに自然で突っ込みどころを失ってしまった。
だが、このまま放置するわけにもいかない。
「誰だお前」
「ひどっ! 自分の生徒の顔忘れるとか、それ教師としてどうなのっ」
身を乗りだして抗議をしてくる生徒。
ただ、くりんとした大きな目が愛らしく、まるで迫力がない。まただんごを載せたような愉快な髪型が気になって仕方なかった。思わず掴みたくなるような手頃なサイズだ。
「たしかにそのとおりだが、お前らとはまだまともに話してないからな」
「それもそっか。じゃあ、我らが担任教師様に自己紹介といきますか」
こほんと咳払いをしたのち、彼女は勿体ぶるように胸を張った。
ちなみに体をそらしても胸には膨らみがほとんどない。どうやら小柄な体型に相応しく胸も控えめなようだ。
「あたしの名前はシャルミン・フリード。学園一の美少女ってことで通ってます!」




