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◆第十七話『最弱対最強①』

 息を呑む間もなかった。


 開始と同時にリシスが飛翔。

 地を這うように翔け、瞬く間に距離を詰めた。


 対するナナトリアは完全に虚を突かれた格好だ。

 慌てて自身を守るように大剣を構える。


 ほぼ同時、リシスから伸ばされた剣の切っ先が大剣の腹に激突した。


 ガンッと響く衝撃音。


 あまりの威力からか、周囲へと放たれる衝撃波。巻き起こった突風に観客が悲鳴をあげる中、ナナトリアが後方へと弾き飛ばされる。


「うぐっ……!」


 ただ、体勢は崩れていない。

 地に足をつけたままの格好だ。


 その勢いは舞台の縁ぎりぎりでようやく止まる。だが、彼女に息つく間は与えられなかった。すでにリシスが肉迫し、薙ぎを繰り出してきている。


 舞台端であとがないと判断したか、たまらず空へと飛び上がるナナトリア。びゅんっと鋭い音を鳴らしてリシスの剣が虚空を斬る。


 開始早々、仕留めにきているようだ。


 リシスは舞台を思いきり蹴り、飛翔。

 一瞬にしてナナトリアの頭上に到達するや、ほぼ無造作に剣を振り下ろす。


「きゃっ」


 またも大剣での防御に成功したナナトリア。

 だが、勢いまでは殺しきれなかった。


 そのまま一気に落下し、舞台へと叩きつけられた。

 背中を強く打ち、大きく跳ねる。


「くぁ……ッ!」


 肺に衝撃が届いたか、ナナトリアがむせかえる。


 その瞬間を逃がすまいとリシスが急降下し、逆手に持った剣を突き立てるように押し込んでくる。


 このままでは勝負を決められかねない。

 ロアは観客の声援に負けないよう大声で叫ぶ。


「ナナッ!」

「だ、大丈夫……ですっ」


 どうやら声をかけずとも意識を保てていたようだ。


 ナナトリアが半ばまろぶようにして逃れた。

 直後、先ほどナナトリアが背を打ちつけた舞台にリシスが激突。まるで大穴のごとく舞台を穿ってみせた。


 だが、リシスの攻撃はまだ終わらない。


 舞台すれすれの飛空を続けるナナトリアへと、急降下からの突き込みを何度も繰り出しはじめた。そのたびに雷鳴のごとく轟音が響き、舞台が抉れる。


 細腕の少女たちによる戦闘とは思えないほど苛烈な光景だ。


 もちろん神聖魔装の力あってのものだが……。

 アスフィール王国が戦姫を重要戦力として数えるのも大いに理解できる。


 ただ、それだけに惜しい。

 神聖魔装の力に頼りきった現状が──。


「リシス様……なんて勇ましいお姿なのでしょうっ」

「ですが、あのリシス様がまだ勝負を決められないなんて……」

「そもそもナナトリアさんって、あんなに動けましたっけ」

「それに、あんなに重そうな大剣で……」


 観客から動揺と困惑の声が聞こえはじめていた。


 たしかにリシスの一方的な展開だ。

 だが、ナナトリアは1度も直撃を受けていない。


 その事実は当然リシスも理解しているはずだ。

 しかし、彼女に焦った様子はなかった。

 勝利への絶対的な自信があるのだろう。


「──たしかに以前のあなたより動けるようですね。ですが、それだけです! 強くなったわけではありませんっ!」


 リシスの一撃がナナトリアをみたび吹き飛ばした。

 これも大剣で防いだため、直撃とはならなかったが、2人の距離が大きく離れた。


 そこからまたリシスが無慈悲な連撃を始めるのかと思いきや、違った。彼女は足を止め、舞台外──こちらに目を向けてくる。


「あなたは、わたくしの実力を見誤りました。それが敗因です」

「そういうセリフは勝ってから言え」

「……そうですね。そのとおりです。では早々に決着をつけ、今度こそあなたを断罪して差し上げます」


 いつの間に学園追放だけでなく、罰せられる話になったのか。反論したいところだが、いまはほかに優先すべきことがある。


 それはナナトリアの意識を切り替えることだ。


 ロアはあえて怒気交じりに「ナナッ!」と叫んだ。びくっとなったナナトリアがこちらに視線を向けたのを機に、再び声を張り上げる。


「なに手を抜いてんだッ! そんな腑抜けた動きじゃ勝てるわけないだろッ!」


 開始からずっと防戦一方だった。

 たしかに相手の実力は世代でも頭抜けている。


 だが、いまのナナトリアであれば勝てない相手ではない。むしろ勝って当然の相手だ。にもかかわらず劣勢なうえ、攻撃もしかけないとはいったいどういうことか。


 これはナナトリアの実力を知っているからこその叱咤だ。だが、それがほかの者たちには滑稽に映ったらしい。


「優勢なのはリシス様なのに……」

「なにを仰っているのかしら、あの野蛮人」

「もしかして落ちているものを食べ過ぎて、頭がおかしくなってしまったのではなくて?」

「そう考えると、お可哀想な動物に見えてきましたわ……」


 なにやら憐れまれていた。

 この学園に来てわかったことがある。

 言葉が丁寧なだけで口の悪さは一級品ということだ。


 観客席でどよめきが起こる中、リシスが動かずに突っ立っていた。なにやら「手加減ですって……?」と、呟きながら憤まんを爆発させている。


 どうやら彼女の矜持を最大限に傷つける一言だったらしい。


「で、でも……本気で闘ったら……その、殺しちゃうかもしれないから」

「俺が止めてやるから心配するな」


 ひどく不安そうなナナトリアへと、ロアは力強く言い切る。


 冗談でもなく真剣なやり取りだった。

 それがまたリシスの怒りを大きくしたようだ。


「……このような屈辱を受けたのは初めてです」


 リシスが剣の柄をみちりと音が鳴るほど握りしめた。そのまま怒りを吐きだすように剣を振り、鋭い眼をナナトリアへと向ける。


「決闘は真剣勝負の場です。もしいまの話が本当だとするなら本気で闘いなさい! 戦姫を志す者であれば知っていて当然のことでしょう!」

「ご、ごめんなさい。そうですよね。わたしってばすごく失礼なことをしていました」


 ぺこぺこと頭を下げるナナトリア。

 緊張感がまったく見られない姿だ。


 それがまたリシスの怒りを買っていたが、いまの覚悟を決めたナナトリアには気にする要素ではなくなっていた。


「じゃ、じゃあ……行きます、ね?」



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