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◆第十二話『特訓・狩猟生活①』

 陽が暮れかかっているのか。

 射し込む光は少し赤みがかっている。


 ナナトリア・ウィンデンスは森の中を歩いていた。


 訓練開始から3日目。

 いまだ食糧を調達できていない。


 近くに幾つも水場があるので、それで騙しだまし飢えを凌いでいる状態だ。


 正直に言ってもう限界に近い。

 頭はずっとくらくらするし、全身にも力が入りにくい。


 それでも不思議と足は動いた。

 理由は明白だ。


 ──そうしなければ死んでしまうからだ。


「あ、二尾兎(ツインテールラビット)……」


 二尾兎はその名の通り尾が2本ある兎だ。

 外的から身を隠すためか、その毛は土と同じ色をしている。


 食べ物でも探しているのか。

 地面に鼻をこすりつけながら進んでいる。


 そのたびにぴょこぴょこと動く長い耳。

 愛らしいことこのうえない。


「いける……かな」


 そう口に出した瞬間、ぞっとした。


 二尾兎の肉を食べたことはある。


 ただ、いま二尾兎の肉を食べるということは、あの〝可愛い生き物〟を自らの手で始末しなければならない、ということだ。


「そんな可哀想なこと……できるわけ……あっ」


 どうやら気取られてしまったらしい。

 二尾兎がそそくさと逃げていってしまった。


 そのさまを自然と目で追ってしまう。

 いまの自分を鏡で見たくなかった。

 きっといままでにないほど物欲し気な顔をしているからだ。


「もう、ここから出ちゃおうかな……」


 そばの樹に寄り掛かりながら呟いた。

 直後、はっとなってぶんぶんと首を振る。


「頑張るって決めたのに……わたし、また……っ」


 家の再興のために──。

 いや、違う。


 戦姫になって活躍してお金を稼ぐ。

 そのために強くならなければならない。

 苦しいのも辛いのも、いまは堪えるしかない。


「たしか先生が教えてくれた場所って……この辺りだよね」


 少し起伏のある場所に移動した。


 3日目とあってか、ロアから斑猪の棲み処や通る場所を幾つか教えてもらっていた。この場所はそのうちの1つだ。


 ──いた。

 少しくぼんだ場所だ。

 鼻先を押しつけてはあちこちの土を掘り返している。


 遠くから見ると丸まるとしてとても可愛い。

 ただ、稀に見える顔面が個人的には直視するのが難しかった。


 二尾兎とは違って斬りかかれる。


 毎晩、目の前でロアが旨そうな肉をかぶりつくさまを見せつけられていた。そのたびに羨ましい。ずるい、と。あさましい気持ちが湧いた。


 ただ、あれはロアが見つけてきたものだ。

 同じく肉を食べたいのなら方法は1つ。


 動物を倒すしかない。

 ……いや、殺すしかない。


 息を潜めながら限界まで近づく。

 心臓がばくばくと音をたてている。


 相手に聞こえるはずがない。

 それでも静かにしてと言い聞かせながら、さらに接近する。


 彼我の距離は大股4歩程度。

 もうこれ以上はきっと気づかれる。

 勝負に出るしかない。


 声をあげたい気持ちを抑えながら、一気に飛び出した。大剣を高くかざしながら飛び掛かる。


 斑猪がこちらに気づいたようだ。

 ぴくりと一瞬震え、動き出そうとしている。

 ただ、こちらの大剣ももう振り下ろしている。


 ──いけるっ!


 どすっと音が響いた。


 土を叩いた音だった。

 直前で斑猪が素早く動いて回避したのだ。


 まだ終わっていないと追撃しようとする。

 が、大剣が思ったより深く突き刺さってしまって抜けなかった。


「ん~~~っ! ま、待ってっ」


 その間に斑猪は逃げ去ってしまった。

 思った以上にすばしっこいようだ。

 もう追いつけそうにない。


「またダメだった……」


 どすんとその場に尻をついてしまう。

 学園でははしたないうちに入る行動だ。


 ただ、あちこちが汚れまくっているせいか。

 いまやまったく気にしなくなってしまっていた。


「でも、いままでで1番お腹すいてるのに……1番速く動けた……」


 落胆もしたが、それ以上に手応えを感じていた。


 どうしてだろうか、と。


 疑問に感じる中、あることを思い出した。

 それはロアから教えてもらったものだ。


 感情を昂ぶらせることで使える技。

 ──闘気。


 いま、とても空腹で、その問題を解決するには〝相手〟を殺すしかなかった。


 飢えから繋がった殺意が結果的に感情を昂揚。闘気を自然と発動させるに至ったのかもしれない。


「こんな物騒なこと、考えたことなかった……でも、やらないと死んじゃうから……っ」


 いまは正当化するしかなかった。

 でなければ間違いなく死んでしまう。


 その後、ロアから教わった斑猪の通り道を幾つも回った。


 体力はとうに限界を超えている。

 それでも動けている理由は1つ。


 いま掴みかけている感覚を逃したくない。

 そんな気持ちが背中を押してくれているからだ。


「……気づかれたっ! もっとぎりぎりまで抑えないと」

「またっ。これじゃだめだ。だめなんだ。もっと、一瞬で使えないとっ」


 気づけば、拙いながら闘気を発動できるようになっていた。


 だが、発動までの時間や使う機会。

 発動したあとの動き方など慣れずに失敗が続いてしまった。


 ただ、もう少しで闘気のことを掴めそうな気がしていた。


 そんな中、幾度目かの機会が訪れた。

 大きな樹の根周辺の土を掘り返す斑猪を見つけたのだ。


「……これが最後かも」



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