【7】2人の呪詛者・壱(京奈千冬、アリス)
静まり返った夜の森、聞こえてくるのは梟の鳴き声か風で揺れる木の音だけ。
「ハァ、ハァ、助けて、誰か、助けてよぉ」
だが、今日は違った、いつもとは違う、異様な空気がただよっている。異様な森の中に1人の中学生、京奈千冬は何かから逃げる。
「誰か、助けて···ッ!」
暗闇に道など存在しない、全ては己の直感と運だけだ。千冬は必死に走っていたせいか、道を把握できず、崖から落ちた。千冬は崖からみるみると落ちていく、その時の千冬は、逃げることに必死で何が起こったかが理解できなかった。
「ハァ、ハァ···ッ!」
早く立って逃げないといけないと思い、立ち上がろうとすると、腹部に、太い木の枝が刺さっていることに気がついた。
「ッ!い、痛いよ、助けてよ、誰か···」
抜けない、抜くのが怖い、でも痛い。千冬は何をしたらいいのか分からなくなった。
「ハハ···ずっとこう、誰も私を助けてくれない、ずっと、独り」
千冬は死を覚悟したわけではない、独りの人生がイヤで、逃げたくなったからだ。次第に千冬の体はだんだんと麻痺をしてきた、駄目だと確信した千冬は、目を閉じる。
瞬間にして、いつもの梟の鳴き声や風で揺れる木の音で森は賑わいだ。
「···あなたは私と同じ?」
「え?」
千冬が目を閉じていると、誰かが問いかけてきた。目を微かに開けて確認すると、そこには見知らぬ長い銀髪の千冬と同じ身長くらいの少女が立っていた。答える前に衰弱し、千冬は目を閉じた。
***
「ねぇ、起きて。朝だよ」
誰かが千冬の体を揺する、力が強く、千冬は目を少し開ける。
「誰?···綺麗な髪、蒼い目、···凄く、可愛い」
寝ぼけていて、千冬自身何を言ってるんだと言いたくなったが、眠さのあまり気力がない。
「起きないの、じゃあいいわ」
誰かがそう言い立ち上がる。何をする気だ、と思った矢先に、千冬の唇に柔らかい何かが当たった。温もりがあり、形が異様だ。まるで唇のよう、いや、唇だ。
「え?」
おかしな感触で目を開くと、そこには長い銀髪の少女が、千冬の唇にキスをしていた。
「あ、やっと起きたね。おはよ」
「おはよ、って違う違う違う、え?いや、はい?なんで、キスを?」
キスなんてしたことないのに、見ず知らずの人が初めてなんてショックだ。
「格好いい男性とキスしたいじゃん?女性なんて、そんなものでしょ?」
千冬は速攻で理由を考える、ただ、疑問点が残る。
「格好いい男性?あなたにそんな人、いるハズないし、できるハズない。そうでしょ?」
「それは···」
誰にも相手されない、そうと言いたいのだろうか。反論ができない、千冬自身分かっている、自分は独りなのだと。
「···でも、もう大丈夫だよ」
「大丈夫って、どうして?」
何が大丈夫なのか分からない、それより、長い銀髪の少女の方が気になる。
「あなたが寝ている間に 愛の呪詛符「アムール・リューゲ」を唱えておいたから」
「愛の、呪詛符?···!あなた、もしかして呪詛者なの!?」
呪詛符は、エルスから呪詛者に渡されるアイテム、つまり、目の前の少女は呪詛者だ。
「ッ!近寄らないでッ!」
千冬は咄嗟に近くの大きな柱の陰に隠れる、その時に気付いた、ここはどこだ?少女のことで頭がいっぱいになっており、周りが見れていなかったようだ。
「別に、君を殺したりはしないよ、君、陽中の生徒でしょ?」
陽中、千冬の通う中学校は『陽成中学校』で、よく略して「陽中」と呼ばれている。
「私もなんだ、私は3年のアリス、アリス・フィリア、あなたは?」
「あ、えっとその···」
突然に始まった自己紹介で、千冬は困惑する、千冬の脳内を疑問だけが回る。
「京奈千冬、陽成中学1年、でいい、のかな?」
おどおどとした自己紹介は味気なく、なんだか冷たい空気をその空間に生んだ気がしたが、互いを分かり合えた機会だ。
「千冬、千冬だね、これから宜しくね!」
「え?これからって、どういうこと?」
何だか、逃してくれているような口振りと、その片原に何かを見逃しているような気がした。
「だって、千冬は呪詛符で私の恋人になったんだよ?私たちはこれから一生一緒だよ。ね、そうでしょ?」
言い返す言葉を探したが、呪詛は呪い、呪いが解けるまで、千冬はアリスの恋人なのだ。
「そ、そんなぁぁ!!」




