表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
6/55

【6】相思相愛(浅野憂)

 放課後、生徒会長の言葉を胸に、学校から逃げるように家へ帰る。

「ハァ、ハッ、フゥ···」

 いつも以上に疲れるのが早い、これも市花が全く食事をとっていないからかもしれない。

 憂のことが頭から離れない。

***

 家の前に立つと、このまま家に入っていいのか悩む。家に入ると1日が終わる、そんな気がするからだ。部屋に入ってベッドに潜る、それが何もない1日の終わりなのだ。

「明日は、きっと良いことあるよね」

 そう呟き家に入る、その後ろ姿はまるで、希望を失い、自分が分からなくなったものだった。

***

 以前は帰るとリビングに行き、始めにテレビの電源を入れ、夏なら扇風機を付け、冬ならこたつに入る。そんな毎日だったのだが、最近は家に入ると、すぐに2階の自分の部屋へ行く。

 こんな毎日だとダメだ、心の中でそう叫ぶのだが、自分を愛してくれていた憂のことや、呪詛者のこと、何もかもが市花を悲しみの海に沈める。

「ごめんね、憂ちゃん、不知火さん···」

 そう呟いた後、部屋のドアを開ける。その光景は直ぐに目に入った、憂が、市花の部屋にいたのだ。

「あ···」

「あ···」

「ゆ、憂ちゃん!?」

 市花は一瞬にして驚き、左足を引いた。が、驚いたのは、市花だけではなく憂もだ。両者が同時に足を引く光景、少し面白かったが、笑える状況ではなかった。

「憂ちゃん?なんで?どうして、ここに?」

「···」

 憂は答えようとしない、表情から推測すると、言いたくない、言うのが恥ずかしい、といった感じだろうか。

「···フゥ···」

 憂は一度深呼吸をし、ゆっくりと口を動かした。

「ゴメン、どうしても市花に会いたかったんだ。何でかな、自分でも良く分からないの、もう市花のことは忘れようと思ってるのに、忘れたく、ないの」

 その目に浮かぶ少しの涙は、以前屋上で見た涙よりも、一際輝いていた。

「···バカ」

 市花が小さな声で言う。

「え···?」

 思いがけない言葉に、憂は何と返せばいいのか分からなくなった。

「忘れようとしたから、私とキスしたの?」

「それは···」

「キスなんてしたら、もっと恋しくなっちゃうじゃんか!」

 その曖昧な言葉は、人の心を小さくち突っつくような浅いものなのだが、憂は違った、なぜ市花のことを忘れられないのか、それは自分があの時キスしたからだ、そうと確信した。

「···」

 何を言えばいいのか分からない、何ができるのかも分からない。そんなことが憂の頭を過る。

「私は憂ちゃんのこと、大好きだよ?」

 ずっと好きだった人に「大好き」と言われると、胸が苦しくなる。この感情は市花に言われたからこそ、感じるものなのだろう。

「ッ···。抱きしめて···」

「抱きし···はい?」

 いきなり憂が喋った言葉、「抱きしめて」その軽く動いた口とは釣り合わないほどだ。

「え?いや···どうして?」

「どうしてってその、す、好き、だから···かな?」

「ぎ、疑問文!?」

 久しぶりにバカ気た会話をできた気がする、もう二度と、呪詛者である限り、絶対にこのような会話をする機会はないと思っていたからだ。

「市花は、イヤ?私を抱きしめるの」

 こんな質問、なんて返せばいいのか分かるわけがない。イヤとかそんなんじゃない、恥ずかしいから、迷っているのは、憂も分かっているだろう。

「え、いや、その···イヤじゃ、ない。むしろ、その方が安心とかするかも、だし」

 市花の言葉で、部屋は瞬間にして静まり返った。憂が1歩市花に近付き、市花は困惑しつつも、後ろに引いたりしない。憂の足は少しずつ市花に近付いて、数秒後には2人の距離は50cmまで狭まっていた。

「憂ちゃん、や、やっぱ緊張するよ」

「···」

 憂は市花の言葉を無視した訳ではない、早く、市花に触れたいだけだ。勿論、憂だって緊張している、胸や手首、首に手を当てなくても、身体中にドクドクと鼓動が響いている。

 次第に距離は互いに抱き合える距離になり、市花と憂は抱き合っていた。

「···」

 鼓動が相手に伝わっている、市花には憂の、憂には市花の、高く、胸に響く鼓動だ。

 2人は20分ほど抱き合っていた、日向が帰ってきて慌てて手を離したあと、「さよなら」とだけ言い憂は帰った。

そして、今日が終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ