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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
5/55

【5】始まったノロイアイ(呪詛者)

 憂は学校に来なくなった。

 前の席が空き、市花の心は息をしていないようになった。学校では一言も喋らず、給食の時間も給食に手をつけない。家でも同じ、母と姉に心配されるほど市花は弱りきっていた。琳は心配気に市花を見つめるだけ。ただ1つ、憂の事を考えると涙が出てしまう。

 放課後、市花はいつもより早く帰った。特に意味はないが、学校にいても何もないからだ。

「憂ちゃん、会いたいよ」

 学校を出て何歩目のことだろう、市花は憂のことで頭がいっぱいだった。

 忘れたいなんて思わない、忘れたくないと心から願っている。ただそう願う分、胸が苦しくなる。

***

 家に帰ると、ポストに手紙が入っていることに気付いた。市花はすぐに、家に入って手紙を読む。

〈呪詛者-天野 市花様- 本日、午後13時からノロイアイが開幕しました。呪詛符は使用可能になっているため、後先考え、的確に使用下さい。呪い合い実行&取締役-エルス-〉

 その手紙は、ノロイアイの開幕通知だった。市花は即座に家全ての鍵を閉め、2階へ走る。自分の部屋に行き、その手紙を何度も読み返す。

 そうこうしていると、いきなりインターホンが鳴った。市花は直ぐに窓から外を見る、そこにいたのは、琳だった。

 出ていいのか分からない。琳は呪詛者、つまり不意を付いて殺しにかかってくる可能性もじゅうぶんある。市花は疑心暗鬼になり、その日は何もできなかった。

*** 

 次の日。

「昨日、市花の自宅へ行ったのだけど、留守だったの?」

 いつか問われると思っていたが、目が合うといきなり訊いてくるのは予想外だった。

「あ、いや···昨日、手紙が届いて怖かった、不知火さんが、私を殺しに来たのかと思ったから···」

「···そう」

 反応は以外と冷静で、元からどうでもよかったかのようだ。

「疑心暗鬼になる気持ちは分かる、だから私はあなたに誓う。私はあなたを守る、他の呪詛者から、市花を守ってみせる」

 その言葉で少し警戒心が揺らいだが、完全に信じれた訳ではなかった。

「どうして、不知火さんは私の味方なの?呪詛者には、呪詛者を殺す使命が――」

 市花が問いただそうとした時、琳は市花の口に軽く手を添えて言った。

「憂が市花の事を好きなように、私も市花が好きなの、ただ違う点はLOVEじゃなく、LIKEってだけ。私が市花を殺さない理由、言ったわよ?」

 表せないような感情、その中に恐怖は入っているだろうか。怒りは入っているだろうか。自分自身を失うような、そんな感覚だった。

「あ、あとね――あれ?」

 気が付くと、そこに琳はいなかった。

***

 次の時間は音楽で、音楽室に行かないといけないのに、市花は完全に忘れていた。

 いつもは憂が「一緒に行こう」と、誘ってくれていたからだ。改めて、それは多分、憂が一緒にいたいと思っていたからだろう。

「会いたいけど、憂ちゃんからして私は殺し合う相手···」

 悲しくなる程の不安を抱いて、市花が廊下を走っていると、誰かにぶつかった。

「あらあら、廊下は走っちゃダメじゃない。正しさがあるかぎり、ね」

 生徒会長だった。市花は生徒会長に釘付けで、地面に散らばった教科書や筆箱には眼もくれなかった。

「ッ!」

 市花は全身の震えを確信した。体が震え、後ろに引く事もできない。

「こ、こな···いで。やめて、やめ、て」

 マトモに声が出せない、動けない。そんな震える体を眺めたあと、生徒会長は言った。

「他の生徒がいる場所で堂々とあなたたちを襲ったりはしないよ。周りからの評価もあるけど、こんなゲーム、世間に知れ渡ってはいけないもの。それに、それが正しさだと思ってるから」

 そう言い生徒会長は散らばった市花の教科書や筆箱を拾って市花に渡した。

「えっ?」

 市花は困惑し、何を言えば良いのか分からなくなった。数日前の生徒会長とは大きく違っているからだ。これが表と裏の人間なのだろうか。

「あ···ありがとう、ございます···」

 怖い、怖い、怖かった。どこか不思議な雰囲気でこちらを見られ、表の顔で対応された。市花にとって、琳の存在は謎だが、生徒会長の存在は『不思議』である。

「市花、早く行かないと遅れるぞ」

 後ろから、数学の先生が声を大にした、市花は我に返る。

「え、あ、はーい」

 今日は、不思議と胸が揺らいだ日だった。

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