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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
54/55

惹かれ合う2人(坂上美恋、坂上宰)

 目を覚ますと、私のすぐ隣でぐっすりと寝ているその人は、私の小さな手を握ってくれていた。決して、その人の手は温かいわけではない。どちらかと言うと、その人の手は冷えている。

 時計を確認すると、まだ5時だった。特に意味もなく、早起きをしたのだ。

 いま私のいるこの空間には、私と時計以外に動くものがない。そこで、私は空虚な妄想を抱いた。『世界を崩壊したい。この人のいるこの世界を、私の手で壊したい』。

 『壊す』という行為は、何かをなくすことではない。『そこに在った証』を創るのだ。

 私のいるこの『空間』にあるもの、全てを壊せば、私は『孤独でない』ということになる。

「···宰、起きて」

 私とは『坂上美恋』のことだ。この世界の人間であり、世界の陰で行われている、『ノロイアイ』の参加者だ。

 美恋は――坂上宰の、義理の娘になった。

「ねぇ···私、独りだよ?」

 いくら揺すっても、寝返りを打つくらいで起きやしない。

「···私ね、今までずっと『孤独』だった。でも、美悠に会えて、宰に会えて、私は···『孤独が嫌い』になった」

 体が重い。いや、空気が重い。『何もない』というのは、これほど退屈なものだったのか。

「まだ5時だよ?」

 美恋の体を引っ張ったのは宰だ。そのまま、美恋は宰の上に倒れた。

「···起きてたの?」

「うん。3時くらいから···ずっと。美恋が心配だったから···」

 宰の『一言余計』なところが、美恋にとっての宰の特徴だ。

「···やめて。照れるから···」

「うん。じゃあ止める···まだ寝たいから自分の部屋で寝てくる···」

 白い布団から体を出しても、宰の体は白かった。宰曰く、もう治らないだとか。

「···バカ」

 起き上がろうとする宰の冷えた手を美恋が引いた。宰はにこりと笑い、もう一度布団に潜った。

「···私は宰が嫌い。···美悠と同じ···多分、それ以上に、宰は『優しすぎる』···宰は知らないんだ、『優しすぎる凶器』を···」

「知ってるわよ。何年も前···私の『正しい』は『他人に優しくすること』だったのだから···」

 美恋が目を閉じた時、宰は美恋を上から抱き締めた。数秒間抱かれ、離れると、宰の顔の包帯の隙間から見える目には、くっきりと美恋が映っていた。

 ······『見られている』。自分を見てくれていると思うと、美恋は――『ドキドキ』する。

「···この『全身の傷』はね···『1人の見知らぬ女の子』を助けた時に負った傷なの。私の『(ただ)しさで···私が傷付いた』のよ」

 美恋の瞼が濡れた。宰の目から流れ出ているものはよく見えないが、『何か』は分かる。

「どうして、泣くの?」

「――私は自分に誓ったの。『もう誰も助けない』『困っている人がいたら見捨てる』···って。でも、おかしいと思わない?『私は美恋を助けたのよ』」

 宰の涙が、美恋の目に入った。美恋は目を瞑る。

「私は『優しさ』を捨てられなかったのッ!私は『正しさ』を優先したのよッ!···どうしてかな···?」

 ――「宰!」

 美恋の声に、宰は目を大きく開けた。

「『違う』···私には、『私たちには』···宰が優しさを捨てたかったとか、そんなの関係ない!――宰は『ただの宰』でいてくれたらいいの!『優しさ』や『正しさ』を純粋に思う···宰が···ぁ···」

 次の言葉が出てこない。ただ一言···美恋の伝えたいその気持ちが、いまは言えない。

「···『ただの私』って、何もない私が『ただの』だったら、美恋に何もしてあげられない···美恋を···『美悠』だってそう···『愛したい』のよ」

 宰から吐き捨てられる一字一句に美悠は腹を立てた。自分を助けてくれた『宰』が、自分の前で自虐的な発言をするのが嫌だ。だから――美恋は宰の頬を叩いた。

「本気で···そう思ってるの?」

「え?」

「『愛される』ってのはさ、『自己満足』のためにあるんだよ···自分は愛されているから独りじゃないって、自分自身に言い聞かせるんだよ!だって···『私がそう』だもん···」

 ガラッ。と、隣の家の窓が開いた音がした。大声を出しすぎたか?美恋と宰は互いに見つめ合う。

「···私は『宰に愛されてる』。だから、もう『これ以上愛さないで』」

「······」

 宰は何も答えない。

 もしこれが『約束』になるのなら、宰はこんな『約束』は受け入れない。もっと、もっともっともっと、『美恋を愛したい』のだ。

「···私、もう起きるね。美恋は···もう少し寝てて」

 宰はそう言って、美恋の肩まで布団を被せる。それは小さな『別れ』で、胸が痛くなる。

「分かるよ···このあとこっそり泣くんでしょ?」

 だって、顔をこちら向けないもの。斜め上を向いて、何も喋らずに、涙が溢れないようにしてるんだ。分かりやすすぎる。

「···『泣く』?そんなわけないじゃない。どうして···泣かなければいけないの?」

「私を愛したいからだよね?美悠を愛していたからだよね?···『悩んでいる』からだよね?」

 その時、宰はその場に伏せた。顔を隠している。

「···堪えられなかった。···何年ぶりかな?私が、『誰かの前で涙を流したのは』···――」

 今から12年前、美悠が生まれてから2年が経ったある日、宰はこの『全身の火傷』を負った。このズタボロの体ではもう誰も愛せないと思い、宰は夫と離婚する。――その時、宰は夫の前で泣いた。夫はまだまだ『宰を愛すつもり』だったのだが、宰は一緒にいたくないと、迷惑をかけると『理解していた』のだ。

「······ごめんね。宰。『私が宰を愛さない』のにはね、ちゃんと『ワケ』があるんだよ?···『愛し、愛された人を···宰は失いたくないでしょ?』」

 ――美悠と、宰と、『一緒に』いると、息が詰まる。

「···私は宰に『生かされてる』んだよ。宰が『死んでと言えば死ぬ』し、そう···私は······『宰の物』なんだよ」

 後は···『なんといえばいい?』なんと言えば···宰は喜ぶ?宰が喜べば···自分はどうなる?

 ――やはり、宰といると息が詰まる。

「美恋の存在に気付いた次の日に、私は『美恋に家族がいないこと』を知ったわ。私から会いに行くのは···美悠のためじゃないから、私はただ···『美恋を家族にしたい』と、『美恋と打ち解けたい』って、思っていたわ」

 ――。

「でも、もう『違う』。『美恋は家族』よ。私の愛すべき家族なの。···だから捨てない。一緒に、そばにいる。美恋を退屈させない。美悠同等に美恋を愛す。美悠のためにね」

 ――やっぱり···宰は優しさを捨てていない。この『優しさ』が『無意識』なら、宰はただの変態だ。そして、そんな宰に『憧れた』私は···もっと変態だ。

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