ゆうえんち(京奈千冬、アリス)
数日前。
「こっ···れが『遊園地』···なの?」
「昔、お姉ちゃんとしか来たことないからよく分からないけど···いま見てみると結構凄いね」
広い!凄い!――煩い!
千冬とアリスは約束通り遊園地に来ているのだ。
「見て見て!あれ!変なレールの上でオープンカーが走ってるよ!」
「ん?あぁー『ジェットコースター』ね。名前、聞いたことないの?」
「え···『ジェットコースター』って空を飛ぶ戦闘機じゃないの?こんなお子様でも入れる場所に設置していい乗り物なの?」
――はい?
アリスがバカになった?いや、元々バカだが···更に、バカ度が増したのか?
「見たことないの?」
「いま見たよ」
「···あぁーうん。そうだね」
らちが明かない。千冬は話題を終わらするため、アリスの手を引いてアトラクションを目指した。
千冬とアリスが最初に向かったのは、話題に出ていた『ジェットコースター』だ。
「大丈夫なの?死なない?宇宙服とか着ないの?結構ヤバいやつ?」
ジェットコースターとは、人をここまで不安にさせるものなのか?
「そんなに物騒なものじゃないよ。運が悪けりゃ事故って死んじゃう···ってくらいかな」
「やっぱ戦闘機と同じじゃんか!」
「いや戦わないんだよ···はぁ、アリスは歳上のクセに、私より頭悪いんだね」
悪口を言われたのかとアリスが千冬を見ると、なぜだか千冬は『笑っていた』。
「···ねぇ、千冬――」
「あっ、くるよ!」
次の瞬間、ジェットコースターは動き出した。
「えっ、えっ、ちょっ!千冬!死ぬ!これ死んじゃうやつ!」
「大丈夫だよ。これは死と隣り合わせの状況を『楽しむ』乗り物だから」
ガコン。という音と共に、ジェットコースターは上へ昇って行く。
「上に行ってるよぉ!離陸するの!?ヤバいってぇ!」
「アリス、煩い。他の人に迷惑がかかってるよ」
「そんなこと言ったってぇ!ヤバいよ、これ、絶対ヤバいやつだよぉ!」
いくらアリスが喚いたところで、ジェットコースターが止まるわけではない。だったら、アリスを黙らせる方法は――1つ。
「アリス、『手握ろうか』?」
「···え?···いいの?レアリー?」
ポカンと千冬を見つめるアリスは、あと数秒後の恐怖を知らなかった。
「早く。死んじゃうよ?」
「で、でも···本当にいいのかな···って···」
ジェットコースターは、レールの頂上に到達した。そして向かうは――『地獄』
「あ、あ、あれ、体が···浮いて――」
理解する暇も与えられず、ジェットコースターは急降下する。
「ビギャアアアアアアアアアアアアアッッ!死んだああああ!千とおおおおおうッ!私ぃ、死んじゃったよおおおおおおおおおっ!!!」
「アリスーッ!死んだ人は喋らないよぉ!?」
アリスがいくら騒いでも、ジェットコースターは加速し続ける。やっと坂を下り終えたと思うと、数メートル前に上り坂が見える。
「う···ぶぁ···千冬ぉ···」
「えっ、ちょっ、吐いちゃうのぉ!?」
その時、千冬の手は握られた。アリスだった。極限状態を迎えたアリスが咄嗟に手に取ったのが、千冬の手だったのだ。
「···お、おお、おおおお、お願い千冬ぉ···これ、終わるまで手握っててぇ、離さないでぇ」
「あ···アリス···――」
体が上を向いた。上り坂を登り始めたのだろう。千冬の手を握る力が強くなる。
「···痛かった」
「ごめん!怖かったの!」
千冬の手には、アリスの手形が残っている。そんなに強く握っていたのかと思うと、アリスは自分の力を疑う。
「···次、どこいく?」
そう言った千冬は、自分の手を押さえている。
「そんなに痛かったの?手···ほんとゴメン」
「別に。痛いってわけじゃないけど···なんかね、千冬の手形が気になるんだ···」
意味不明なことを言う千冬に、アリスは首を傾げる。
「どういうこと?」
「···どういうことって···その···なんか、『いいなぁ』って···」
やはり意味不明だ。――アリスからすれば、意味不明なのだ。
「···次、どこいく?」
「えっとね···怖くないところ?ゆっくりできるとこ···」
アリスが答えると、千冬は少し遠くを指差した。指の先にあるのは、人が3人ほど座れるベンチだ。
「···休むね」
そう言うなり、アリスは呆れたような、そうでもないような、曖昧な顔をしながら歩き、ベンチへと向かった。
ベンチに腰をかけると、落ち着けたのかアリスは眠たくなった。
「遊園地に来て寝る?普通?」
「え?でも···なんか眠たいよ?なんだろ···ボーッとして······」
微かに上がったアリスの顔は、なぜだか赤くなっていた。アリスの顔を見ると、千冬は何が起こっているのかを理解した。
「ちょっ···アリス、『風邪』!?」
「え···そうかな?なんだろ···はぁ···あれ、千冬···が···3人いる···?」
パタン。アリスは千冬へ倒れた。千冬が揺さぶっても、アリスは目を開けようとしない。荒い息、熱い額、アリスから流れる涙。千冬はすぐにアリスを抱えて走る。
「···ごめん···」
「病人はあまり喋らない方がいい」
「···千冬は最近、私に冷たいね」
「···?」
ポツリと呟かれた一言に、千冬は足を止めそうになった。
「私ね、千冬が好きだから···笑ってほしいなって思ったから···遊園地に行こうって言ったんだ···」
「···?···?何が言いたいの?」
「···なんでもないよ」
なんでもないハズはない。分かってるが、千冬は何も言わず走り続けた。
夕方。カラスは鳴いていない。
「今日はごめんね、楽しみだったから···『夜更かし』しちゃった···へへ」
千冬の背中で、アリスは微笑む。無理しているわけではないが、心の底から笑っているものではない。
「ホント、もっと謝るべきだよ。アリス重いし、走り疲れたよ···あと、心配しちゃったじゃんか」
「···ごめん」
アリスは黄昏たように、小さく言った。悔しいとか悲しいとか、色々な『感情』が伝わってくる気がする。
「もう謝らなくていいよ。今日は···別に、楽しくなかったとか、台無しになったとか、そんなの思ってないから」
「···でも···あんまり遊べなかったよ?」
「······『遊ぶだけが』楽しさじゃないよ」
――え?と声を漏らしたアリスの顔を思い浮かべると、あまりにも酷くて笑いそうになった。
「···『アリスと入れて良かった』···とか、そんな···の···だよ」
「·········え!?ち、千冬、あ、ああ、あの···その···」
あたふたと千冬の背中で暴れるアリスは、別の意味で顔が赤くなっていた。
「···『ありがと』」
アリスはより千冬に抱きつくように、千冬はそれを平然と受け入れるように、無言で家まで向かった。




