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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
55/55

ゆうえんち(京奈千冬、アリス)

 数日前。

 

「こっ···れが『遊園地』···なの?」

「昔、お姉ちゃんとしか来たことないからよく分からないけど···いま見てみると結構凄いね」

 広い!凄い!――煩い!

 千冬とアリスは約束通り遊園地に来ているのだ。

「見て見て!あれ!変なレールの上でオープンカーが走ってるよ!」

「ん?あぁー『ジェットコースター』ね。名前、聞いたことないの?」

「え···『ジェットコースター』って空を飛ぶ戦闘機じゃないの?こんなお子様でも入れる場所に設置していい乗り物なの?」

 ――はい?

 アリスがバカになった?いや、元々バカだが···更に、バカ度が増したのか?

「見たことないの?」

「いま見たよ」

「···あぁーうん。そうだね」

 らちが明かない。千冬は話題を終わらするため、アリスの手を引いてアトラクションを目指した。


 千冬とアリスが最初に向かったのは、話題に出ていた『ジェットコースター』だ。

「大丈夫なの?死なない?宇宙服とか着ないの?結構ヤバいやつ?」

 ジェットコースターとは、人をここまで不安にさせるものなのか?

「そんなに物騒なものじゃないよ。運が悪けりゃ事故って死んじゃう···ってくらいかな」

「やっぱ戦闘機と同じじゃんか!」

「いや戦わないんだよ···はぁ、アリスは歳上のクセに、私より頭悪いんだね」

 悪口を言われたのかとアリスが千冬を見ると、なぜだか千冬は『笑っていた』。

「···ねぇ、千冬――」

「あっ、くるよ!」

 次の瞬間、ジェットコースターは動き出した。

「えっ、えっ、ちょっ!千冬!死ぬ!これ死んじゃうやつ!」

「大丈夫だよ。これは死と隣り合わせの状況を『楽しむ』乗り物だから」

 ガコン。という音と共に、ジェットコースターは上へ昇って行く。

「上に行ってるよぉ!離陸するの!?ヤバいってぇ!」

「アリス、煩い。他の人に迷惑がかかってるよ」

「そんなこと言ったってぇ!ヤバいよ、これ、絶対ヤバいやつだよぉ!」

 いくらアリスが喚いたところで、ジェットコースターが止まるわけではない。だったら、アリスを黙らせる方法は――1つ。

「アリス、『手握ろうか』?」

「···え?···いいの?レアリー?」

 ポカンと千冬を見つめるアリスは、あと数秒後の恐怖を知らなかった。

「早く。死んじゃうよ?」

「で、でも···本当にいいのかな···って···」

 ジェットコースターは、レールの頂上に到達した。そして向かうは――『地獄(ジ・エンド)

「あ、あ、あれ、体が···浮いて――」

 理解する暇も与えられず、ジェットコースターは急降下する。

「ビギャアアアアアアアアアアアアアッッ!死んだああああ!千とおおおおおうッ!私ぃ、死んじゃったよおおおおおおおおおっ!!!」

「アリスーッ!死んだ人は喋らないよぉ!?」

 アリスがいくら騒いでも、ジェットコースターは加速し続ける。やっと坂を下り終えたと思うと、数メートル前に上り坂が見える。

「う···ぶぁ···千冬ぉ···」

「えっ、ちょっ、吐いちゃうのぉ!?」

 その時、千冬の手は握られた。アリスだった。極限状態を迎えたアリスが咄嗟に手に取ったのが、千冬の手だったのだ。

「···お、おお、おおおお、お願い千冬ぉ···これ、終わるまで手握っててぇ、離さないでぇ」

「あ···アリス···――」

 体が上を向いた。上り坂を登り始めたのだろう。千冬の手を握る力が強くなる。


「···痛かった」

「ごめん!怖かったの!」

 千冬の手には、アリスの手形が残っている。そんなに強く握っていたのかと思うと、アリスは自分の力を疑う。

「···次、どこいく?」

 そう言った千冬は、自分の手を押さえている。

「そんなに痛かったの?手···ほんとゴメン」

「別に。痛いってわけじゃないけど···なんかね、千冬の手形が気になるんだ···」

 意味不明なことを言う千冬に、アリスは首を傾げる。

「どういうこと?」

「···どういうことって···その···なんか、『いいなぁ』って···」

 やはり意味不明だ。――アリスからすれば、意味不明なのだ。

「···次、どこいく?」

「えっとね···怖くないところ?ゆっくりできるとこ···」

 アリスが答えると、千冬は少し遠くを指差した。指の先にあるのは、人が3人ほど座れるベンチだ。

「···休むね」

 そう言うなり、アリスは呆れたような、そうでもないような、曖昧な顔をしながら歩き、ベンチへと向かった。

 ベンチに腰をかけると、落ち着けたのかアリスは眠たくなった。

「遊園地に来て寝る?普通?」

「え?でも···なんか眠たいよ?なんだろ···ボーッとして······」

 微かに上がったアリスの顔は、なぜだか赤くなっていた。アリスの顔を見ると、千冬は何が起こっているのかを理解した。

「ちょっ···アリス、『風邪』!?」

「え···そうかな?なんだろ···はぁ···あれ、千冬···が···3人いる···?」

 パタン。アリスは千冬へ倒れた。千冬が揺さぶっても、アリスは目を開けようとしない。荒い息、熱い額、アリスから流れる涙。千冬はすぐにアリスを抱えて走る。

「···ごめん···」

「病人はあまり喋らない方がいい」

「···千冬は最近、私に冷たいね」

「···?」

 ポツリと呟かれた一言に、千冬は足を止めそうになった。

「私ね、千冬が好きだから···笑ってほしいなって思ったから···遊園地に行こうって言ったんだ···」

「···?···?何が言いたいの?」

「···なんでもないよ」

 なんでもないハズはない。分かってるが、千冬は何も言わず走り続けた。


 夕方。カラスは鳴いていない。

「今日はごめんね、楽しみだったから···『夜更かし』しちゃった···へへ」

 千冬の背中で、アリスは微笑む。無理しているわけではないが、心の底から笑っているものではない。

「ホント、もっと謝るべきだよ。アリス重いし、走り疲れたよ···あと、心配しちゃったじゃんか」

「···ごめん」

 アリスは黄昏たように、小さく言った。悔しいとか悲しいとか、色々な『感情』が伝わってくる気がする。

「もう謝らなくていいよ。今日は···別に、楽しくなかったとか、台無しになったとか、そんなの思ってないから」

「···でも···あんまり遊べなかったよ?」

「······『遊ぶだけが』楽しさじゃないよ」

 ――え?と声を漏らしたアリスの顔を思い浮かべると、あまりにも酷くて笑いそうになった。

「···『アリスと入れて良かった』···とか、そんな···の···だよ」

「·········え!?ち、千冬、あ、ああ、あの···その···」

 あたふたと千冬の背中で暴れるアリスは、別の意味で顔が赤くなっていた。 

「···『ありがと』」

 アリスはより千冬に抱きつくように、千冬はそれを平然と受け入れるように、無言で家まで向かった。

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