【50】伝えられないこの虚構。プリンという『ん』が付くもの(京奈千冬、アリス)
【京奈千冬】
『大切なもの離れてから気付く』って、そうかもしれない。
京奈千冬には思い残しがあった。『お姉ちゃんに会いたい』。たったそれだけで、自分の足りないものが満たされる気がする。
いつからだろう。アリスでは、私を満たせなくなった。好きなことは『好き』だ。独りだった自分を、愛してくれたのだから。でも···『違う』。
昼食を食べ終わると、夕食の時間まで長く時間が空く。その間、アリスは千冬に甘える。膝枕やキスなんて、もう当たり前だ。
「···アリス、今日は膝枕しなくていいの?」
別にしたいわけではないけど、アリスが喜ぶなら――誰かが喜んでくれることをしたいから、自分にできることなら何だってやるつもりだ。
「え、あ、膝枕?あぁー···『もういいよ』」
――もういい?
「え、もういいって、どういうこと?」
今日はいい。じゃなくて、もういい。一生やらなくていい、ってことだよね?
「···ねぇ千冬。千冬の『望み』って、何?」
今日のアリスは、いつもより冷たいと思う。いつもはベタベタくっついてくるのに、やけに大人しい。変な食べ物でも食べたのか?
「『望み』?···は···『ない』。私、何か欲しいものとか、必要なものなんてないから···『望み』は『ない』」
求めるものはあるけれど、それが必要かと問われれば否定する。そんなもの。
「あ···明日、外に出掛けない?思いきって遊園地とかどうかな?」
「別にいいけど···いきなりどうしたの?」
千冬が問うと、アリスはキュッと下唇を噛み締めた。
微かに見えたアリスの歯と、落ち込んでいると悟れる目に、千冬は『罪悪感』を感じてしまった。
「···私は千冬のことが好きだから!明日、遊園地に行く!一緒に!絶対!服は半袖の服ね!もう私寝るから!」
アリスはそう謎な発言をすると、扉を開けて走っていった。
「な、なに···今日のアリス、結構変···。しかも『私は』って···私がアリスのことを···『嫌い』みたいに言わないでよ···」
意味が分からなかった。思い当たる節がない。数日前までは積極的だったアリスが、これほどまでに静かになるなんて···気持ち悪い。
【アリス】
『好き』だ。『好き』だけど、『好き』だった。過去形。
やっと一途になれる人を見つけたんだ。ずっと一緒にいれるって···思ってたんだ。でも、この恋は『嘘』だから。『偽り』から始まった恋だから···私も、彼女も、お互いを愛することはできない。
今更、悲しいだとか辛いだとか、嘆くことはしない。私は『嘘』を通す。いずれ『虚構』になればいい。欲をいえば···『実現』できればいいのに。
昼食を食べ終わると、夕食の時間まで長く時間が空く。その間、アリスは千冬に甘える。膝枕キスなんて、もう当たり前だ。
「···アリス、今日は膝枕しなくていいの?」
今日は何事もなくやり通そうと思っていたのに、いきなり千冬に言われてしまった。
「え、あ、膝枕?あぁー···『もういいよ』」
――言ってしまった。『もういい』なんて、過剰だった。少しだけ『後悔』した。
「え、もういいって、どういうこと?」
今更言い直しても、私が言ったことは変わらない。でも、このままでは···私も、千冬も、前の『孤独』に返ってしまう。
「···ねぇ千冬。千冬の『望み』って、何?」
強引でもいい、話を変えなくてはいけなかった。疑問を抱かれたっていい、『自分自身の為』だから。これでいい。
「『望み』?···は···『ない』。私、何か欲しいものとか、必要なものなんてないから···『望み』は『ない』」
は、話を変えて場の雰囲気を整えようと思ったのに、何か逆に下がっちゃった!?
「あ···明日、外に出掛けない?思いきって遊園地とかどうかな?」
「別にいいけど···いきなりどうしたの?」
千冬が問うと、アリスはキュッと下唇を噛み締めた。
なぜ自分は千冬と話すことを避けているのか、そう考えると、アリスは『罪悪感』を感じてしまった。
「···私は千冬のことが好きだから!明日、遊園地に行く!一緒に!絶対!服は半袖の服ね!もう私寝るから!」
アリスはそう謎な発言をすると、扉を開けて走っていった。
「···酷いことしちゃった。私にとって、世界で一番大切な千冬を···『避けちゃった』···」
千冬の表情から察するに、不思議がっていたのは確かだ。アリス自身、自分の抱くこの『感情』が何なのか、よくわからない。
アリスの『望み』――『千冬と生涯一緒にいられること』。でもこの『望み』は叶えられない。千冬も『呪詛者』だから。『ノロイアイ』に勝つには、『呪詛者を殺さなければならない』、『千冬を殺さなければならない』。――無理だ。
***
市花たちはただ時計や壁、机を眺めている。
「いちご」
「ご、ご···ゴマは言ったか···ゴンドラ」
「落雷」
「い···医学」
「く、ってもう全部言ったんじゃない?えっと···あっ、クラス!」
「スカイ」
「い······淋ちゃんさっきから『い』ばっかり回してくるよね?」
「戦略よ。『しりとり』だろうと、これは食後のプリンが懸かっているのだから!」
――これは戦い。これは本気。これは賭け。この勝負で勝った者1人が、夕食の後プリンを食べられる。つまり、これは人間の『欲望』をさらけ出す『決闘』。
「イギリス」
「す···スルメ···は言ってないよね」
「面会」
「···咽喉」
「う、ずら···の卵」
「誤解」
――このしりとり、夕食までに決着が着くのか?というか、収拾さえつかない気がしてきた。
「···イベント」
「と···都会」
「『い』で振られちゃった···インターハイ」
「え、ちゃんと『い』で返すの!?え、えぇっと···偉業」
「浮き輪」
「災い」
――これはアレだ。らちって言うか何て言うか、これ、ダメだ。
「いい加減だし、そろそろやめない?」
市花は堪えられなくなり、そう提案した。――が、2人は何も言わない。
「······インベントリ」
「立体」
「···あぁー、私もう一階降りるねー」
市花はそう言いながら、部屋のドアへと向かった。ドアノブを握る。
「あっ、ちょっ、市花!夕食後のプリンはいらないと言うのッ!?」
淋がそう尋ねてくる。
「···『3当分』したらいいだけじゃない?」
淋の質問に対して、市花はそうとだけ言った。
「『3当分』···あっ、その手があったか···」
「で、でも『プリンを3当分』って難しくない?」
「···たしかに!」
アレ、話が、まったく、ほんと、その、進まないよ?どうすればこの話は終わるのか?しりとりで決める他ないのか?
そう市花が考えていると、部屋のドアがゆっくりと開いた。
「あの···3人とも···ごめん。なんかプリンのことでもめてるみたいだけど···このプリン、食べちゃった···」
日向が、空になったプリンカップを3人の前に出した。
「あ、あぁー···」
この結末はハッピーエンドなのか。それは分からない。それでも、3人の『友情』が破綻しなかったことは、実に喜ばしいことだ。




