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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
50/55

【50】伝えられないこの虚構。プリンという『ん』が付くもの(京奈千冬、アリス)

【京奈千冬】

 『大切なもの離れてから気付く』って、そうかもしれない。

 京奈千冬には思い残しがあった。『お姉ちゃんに会いたい』。たったそれだけで、自分の足りないものが満たされる気がする。

 いつからだろう。アリスでは、私を満たせなくなった。好きなことは『好き』だ。独りだった自分を、愛してくれたのだから。でも···『違う』。


 昼食を食べ終わると、夕食の時間まで長く時間が空く。その間、アリスは千冬に甘える。膝枕やキスなんて、もう当たり前だ。

「···アリス、今日は膝枕しなくていいの?」

 別にしたいわけではないけど、アリスが喜ぶなら――誰かが喜んでくれることをしたいから、自分にできることなら何だってやるつもりだ。

「え、あ、膝枕?あぁー···『もういいよ』」

 ――もういい?

「え、もういいって、どういうこと?」

 今日はいい。じゃなくて、もういい。一生やらなくていい、ってことだよね?

「···ねぇ千冬。千冬の『望み』って、何?」

 今日のアリスは、いつもより冷たいと思う。いつもはベタベタくっついてくるのに、やけに大人しい。変な食べ物でも食べたのか?

「『望み』?···は···『ない』。私、何か欲しいものとか、必要なものなんてないから···『望み』は『ない』」

 求めるものはあるけれど、それが必要かと問われれば否定する。そんなもの。

「あ···明日、外に出掛けない?思いきって遊園地とかどうかな?」

「別にいいけど···いきなりどうしたの?」

 千冬が問うと、アリスはキュッと下唇を噛み締めた。

 微かに見えたアリスの歯と、落ち込んでいると悟れる目に、千冬は『罪悪感』を感じてしまった。

「···私は千冬のことが好きだから!明日、遊園地に行く!一緒に!絶対!服は半袖の服ね!もう私寝るから!」

 アリスはそう謎な発言をすると、扉を開けて走っていった。

「な、なに···今日のアリス、結構変···。しかも『私は』って···私がアリスのことを···『嫌い』みたいに言わないでよ···」

 意味が分からなかった。思い当たる節がない。数日前までは積極的だったアリスが、これほどまでに静かになるなんて···気持ち悪い。


【アリス】

 『好き』だ。『好き』だけど、『好き』だった。過去形。

 やっと一途になれる人を見つけたんだ。ずっと一緒にいれるって···思ってたんだ。でも、この恋は『嘘』だから。『偽り』から始まった恋だから···私も、彼女も、お互いを愛することはできない。

 今更、悲しいだとか辛いだとか、嘆くことはしない。私は『嘘』を通す。いずれ『虚構』になればいい。欲をいえば···『実現』できればいいのに。


 昼食を食べ終わると、夕食の時間まで長く時間が空く。その間、アリスは千冬に甘える。膝枕キスなんて、もう当たり前だ。

「···アリス、今日は膝枕しなくていいの?」

 今日は何事もなくやり通そうと思っていたのに、いきなり千冬に言われてしまった。

「え、あ、膝枕?あぁー···『もういいよ』」

 ――言ってしまった。『もういい』なんて、過剰だった。少しだけ『後悔』した。

「え、もういいって、どういうこと?」

 今更言い直しても、私が言ったことは変わらない。でも、このままでは···私も、千冬も、前の『孤独』に返ってしまう。

「···ねぇ千冬。千冬の『望み』って、何?」

 強引でもいい、話を変えなくてはいけなかった。疑問を抱かれたっていい、『自分自身の為』だから。これでいい。

「『望み』?···は···『ない』。私、何か欲しいものとか、必要なものなんてないから···『望み』は『ない』」

 は、話を変えて場の雰囲気を整えようと思ったのに、何か逆に下がっちゃった!?

「あ···明日、外に出掛けない?思いきって遊園地とかどうかな?」

「別にいいけど···いきなりどうしたの?」

 千冬が問うと、アリスはキュッと下唇を噛み締めた。

 なぜ自分は千冬と話すことを避けているのか、そう考えると、アリスは『罪悪感』を感じてしまった。

「···私は千冬のことが好きだから!明日、遊園地に行く!一緒に!絶対!服は半袖の服ね!もう私寝るから!」

 アリスはそう謎な発言をすると、扉を開けて走っていった。

「···酷いことしちゃった。私にとって、世界で一番大切な千冬を···『避けちゃった』···」

 千冬の表情から察するに、不思議がっていたのは確かだ。アリス自身、自分の抱くこの『感情』が何なのか、よくわからない。


 アリスの『望み』――『千冬と生涯一緒にいられること』。でもこの『望み』は叶えられない。千冬も『呪詛者』だから。『ノロイアイ』に勝つには、『呪詛者を殺さなければならない』、『千冬を殺さなければならない』。――無理だ。


***

 市花たちはただ時計や壁、机を眺めている。

「いちご」

「ご、ご···ゴマは言ったか···ゴンドラ」

「落雷」

「い···医学」

「く、ってもう全部言ったんじゃない?えっと···あっ、クラス!」

「スカイ」

「い······淋ちゃんさっきから『い』ばっかり回してくるよね?」

「戦略よ。『しりとり』だろうと、これは食後のプリンが懸かっているのだから!」

 ――これは戦い。これは本気。これは賭け。この勝負で勝った者1人が、夕食の後プリンを食べられる。つまり、これは人間の『欲望』をさらけ出す『決闘(しりとり)』。

「イギリス」

「す···スルメ···は言ってないよね」

「面会」

「···咽喉」

「う、ずら···の卵」

「誤解」

 ――このしりとり、夕食までに決着が着くのか?というか、収拾さえつかない気がしてきた。

「···イベント」

「と···都会」

「『い』で振られちゃった···インターハイ」

「え、ちゃんと『い』で返すの!?え、えぇっと···偉業」

「浮き輪」

「災い」

 ――これはアレだ。らちって言うか何て言うか、これ、ダメだ。

「いい加減だし、そろそろやめない?」

 市花は堪えられなくなり、そう提案した。――が、2人は何も言わない。

「······インベントリ」

「立体」

「···あぁー、私もう一階降りるねー」

 市花はそう言いながら、部屋のドアへと向かった。ドアノブを握る。

「あっ、ちょっ、市花!夕食後のプリンはいらないと言うのッ!?」

 淋がそう尋ねてくる。

「···『3当分』したらいいだけじゃない?」

 淋の質問に対して、市花はそうとだけ言った。

「『3当分』···あっ、その手があったか···」

「で、でも『プリンを3当分』って難しくない?」

「···たしかに!」

 アレ、話が、まったく、ほんと、その、進まないよ?どうすればこの話は終わるのか?しりとりで決める他ないのか?

 そう市花が考えていると、部屋のドアがゆっくりと開いた。

「あの···3人とも···ごめん。なんかプリンのことでもめてるみたいだけど···このプリン、食べちゃった···」

 日向が、空になったプリンカップを3人の前に出した。

「あ、あぁー···」

 この結末はハッピーエンドなのか。それは分からない。それでも、3人の『友情』が破綻しなかったことは、実に喜ばしいことだ。

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