表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
47/55

【47】心の夜(天野永梨、河東霙、京奈千冬)

 時計の針が1秒を正確に刻む。静かな空間で時計の音を聞いていると、自分は夜遅くまで起きていて、周りとは違う時間や空間に生きていると思える。

「···お姉ちゃん···あの、大丈夫?」

「『大丈夫』······じゃない···か」

 日向が琳を連れて帰ってきてくれたのは嬉しかった。それも強引ではなく、琳の意思があってのことだ。だが、『自分の秘密を告白』してしまった以上、明日からどう接すればいい?

「···お姉ちゃんのとった行動は『間違っていない』と思う···でも、いまじゃなくても良かったんじゃないの?この『ノロイアイ』はまだまだ長引く見込みがあるのに、どうして···」

「――『罪滅ぼし』とか、そんなのじゃないけどね。『私の大切な人たち』が、自分だって理解している『恐怖』に怯えているのが『許せなくて』···『悔しくて』。『ノロイアイ』に関する情報が出たから、『今』なら言えるって、『今』しかないって思えたの」

「そう···ですね。いまの私は『神の代理』ですが、その気持ちは···解ります」

 『悲しみ』が解るのは『悲しみを知る者』だけ。永梨は『第一回目のノロイアイ』で悲しみを味わった。大切な人を失った。それと同じ、琳だって大切な人を失った。『大切な人』を奪ったのが、身近な人物なのだ。

「···お姉ちゃん。私ね···――」

 霙の吐息や永梨の唾を呑み込む音が、自分たちが会話をしているのだと知らせてくれる。――世界が変化したように思えて仕方がない。

「――『第一回目のノロイアイの···呪詛者の1人だった』の···ずっと黙ってた」

「『呪詛者』って···霙ちゃんが?」

 永梨は自分の記憶が曖昧なのかと疑った。自身の記憶に『河東霙』という人物はいるが、『河東霙は呪詛者』だなんてものはない。

「でも、私は私を含む7人の呪詛者を···見てき···て···ない」

 自分、不知火さん、メアリーさん、ミシャルちゃん、エリーゼットさん、結城さん――『6人』だ。

「――じゃ、じゃあ!本当に霙ちゃんは『元呪詛者』なのッ!?」

「···はい。紛れもなく、『私』は神の代理になる前は···『呪詛者』でした」

「···ッ」

 永梨が言葉を失ったのは、内容だけではなく、あまりにも霙が平然とした表情だったからだ。

「ケルベリタが爆発した時、お姉ちゃんを救った頃の河東霙は既に『呪詛者になっていました』。ケルベリタの爆発に呑まれ、河東霙は死に、『河東霙は神の代理へと慣れ果てた』」

 ――時計の音が指揮となり、霙の言葉が唄のようにマッチしていた。夏なのに、なんだか寒い。夜なのに、なんだか明るい。永梨の気持ちがそう錯覚させる。

「···話が逸れた気がします。――河東霙は『呪詛者』でした。そして、河東霙には『願い』があったのです。永梨さんもご存知の通り、河東霙の背中には焼き傷があります。河東霙の『願い』は『河東霙の背中にある焼き傷を消すこと』でした」

「あ···でも霙ちゃんは私を助けるために自ら···」

「そう。河東霙は『自殺』でした。あなたを、『あなただけを』守るために、河東霙は『願い』を捨てました」

 酷いことをしたのではないか、改まってそう思える。

 河東霙の背中の焼き傷は見覚えがある。ケルベリタで先輩に焼いた鉄を何本も当てられたと、河東霙本人が話してくれたのだ。――思い出すだけで吐き気がしてならない。

「悪いことをしちゃった···のかな?」

「いいえ。お姉ちゃんは悪くない。そして河東霙は『後悔しなかった』。信じている人の為なら、自分の命や証、名誉なんて棄ててやる、それが『河東霙』でした」

 イーズランドで永梨が感じた霙の印象とは大きく違った。絶体絶命な場面に直面したのが少なかったからか。

「···強いね。霙ちゃんは」

「――お姉ちゃんが大好きだから、です」

 時計の針が0時を回った。そろそろ寝なくては、と永梨が椅子から立ち上がる。

「···あ、そうだ。今度『坂上美悠』ちゃんのお宅へ訪問に行きたいんだけど···着いてきてくれる?」

 返事は決まって「はい」だ。永梨は分かっていて質問をしたのだ。ありがとう、と霙の頭を軽く撫でる。

***

 棚上に置かれた時計の針が、カチ、カチと音を立てながら回っている。千冬は――眠れない。

「···あ、あのさぁアリス。···離れて」

「離れないよー。千冬が暑いって言うから半袖の服にしたんだもん!だから夏の間は思う存分くっつくからね」

 ――服を買ってから毎日こうだ。

 たしかに『くっつかれたら暑い』という理由で半袖を買ったのだが、これほどベタベタされるとは···しかも全然涼しくない!暑い!汗で服と布団がびしょびしょなんだけど!――後悔した。

「···暑い」

「それは私の『愛の熱』だね」

「···ごめん、冗談抜きで『暑い』から」

 この暑さを夏の間ずっと味わうのは無理だ。気力が持たない。とはいえ頑固なアリスを言葉で説得できるハズがなく、行動でどうにかしようとも何をするといいのか分からない。つまり千冬は『アリスの檻』にいる。

「···あっ!肝心なこと忘れてた!」

 アリスはベッドからおりて、ペタペタと棚の方へと小走りで向かった。棚の下から二段目を開けて、中から小さい棒状の物を取り出す。

 ――ピッ。

 音がなると、上から起動音が聞こえてくる。

「これって···もしかして···」

「『エアコン』だよ!もう『夏』だからね、すっかり忘れてたよ」

 ――『忘れてた』のか?エアコンのことを?今までの『暑さとの死闘』は何だったのやら、千冬は繰り出す言葉を失った。

「ふっふっふ。これで千冬に抱き付いて寝ても大丈夫だよね!」

 アリスはたいへん満足そうだ。

「···は、はぁ······で、でも···あの···くっつかれたら『寝れない』からさ···」

「『今夜は寝かせないぜ』ってやつだよ」

 なんというか···『呆れた』。アリスの『愛』?が重すぎて···よく分からなくなる。

「···ねぇ、アリス···『寝ない』のは別にいいんだけどさ···明日やることないし。でも···寝るときにも一緒っておかしくない?」

 アリスは、エアコンを弄っていた。

「え?何て言ったの?エアコンの音でよく聞こえなかった···」

 聞こえていなかった。それは安心するようようで、その言葉の意味を考えれば『とても嫌になる』ことだ。

「···『何も言わなかった』よ···何も、ないから」

「···?」

 アリスが布団の中に入ってくる。躊躇いもせず千冬の腕に抱き付いてくる。

「千冬、涼しい?」

「···涼しいよ。汗かいてたから逆に寒くなってきたけど」

 ――気のせいだろうか。エアコンをつける前よりアリスの力が弱く感じる。···『落ち込んでいる』?なぜ?『遠慮している』みたいではないか。

 その日は、もう何も話さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ