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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
46/55

【46】2人の在り方(不知火琳、天野日向)

 ――思いきって、場に流されて。後で後悔するって、よくあることよね。

 『後戻りできなくなる』って、さ。

 住処を失った動物はどうすると思う?新しく作るか『諦めて自身の死を選ぶ』か、なんだよね。


 天野家から少し離れた公園。

 不知火琳は後悔をしている。どうしてあの場でカッとなってしまったのか、天野永梨は居場所をくれた恩人なのに。でも、許せなかったのだ。自分が愛した『家族』を滅茶苦茶にした――人物は――天野永梨···じゃない···。『呪詛者』を生んだのは『神』···ならば、家族を崩壊へと導いたのは···『神』···だ。

「随分と···落ち込んでいますね」

 琳の耳元で、誰かがそう囁いた。

「誰···?」

「あなたのこと、よぉーく解ります」

「···1人にしてよ」

「人はね、独りを嫌い、独りでは生きれない生き物なのです。私やあなた、あなたの友達だってそう。『大人が2人』いるから『生命』が生まれたのだから」

 琳の言葉を無視して、その『誰か』は話を進める。声から察するに、その誰かが『少女』ということは分かる。

「答えて。あなたは誰なの?」

「···私は···美恋。···であり『新崎綾香』です。分かりますよね?『新崎綾香』。数時間前にあなたが聴いた名前です。···そう『坂上美恋を殺した』···『呪詛者』です」

 琳が振り向いた時には遅かった。『新崎綾香』が、琳に目掛けてナイフを降り下ろしたのだ。

(坂上美悠を刺したナイフとは別の物だよ♪)

 ――降り下ろされたナイフは、確かに琳の『顔』を目掛けていた。

「琳さん!」

 間一髪のところで、息を切らした日向が叫んだ。すると琳の背後にいたものが、気化されたかのように消えた。

「日向さん···」

「こんなところで何してるの?みんな···かは分からないけど『心配』してるんだから!」

 日向が琳の座るベンチに駆け寄る。

「···私、永梨さんに酷いことを言っちゃった···から、帰っていいのか···分からない」

 『後戻りできなくなる』というのは、人間をも壊してしまう。琳の場合、『生きる希望』を失ったも同然だ。

「···後悔してるでしょ?」

「······よく、分かりました」

 にひっと日向が笑う。その笑顔がおかしくて、琳も釣られて笑いそうになった。

「私もそんな経験あるよ。中3の冬にね、友達と喧嘩したんだ。趣味だったかの話題でもめて、許せなくてその子の顔を何発も殴っちゃった」

「···不良ですね」

「ふふっ、そうだね。私は不良だよ」

 俯いていた琳が顔をあげた。この調子だと悟り、日向は話を続ける。

「――で、その時はスッゴく後悔した。その子、目を怪我してさ、罪悪感のあまり···その子と顔向けできなくなっちゃった」

 琳にはない経験だから、琳が理解するのは難しい。

 人を殴ったことがないし、友達ができたこともなかった。そんな琳が日向の『体験談』を聴いたところで、どうなる?唯一思うことは、市花と憂、『いまの友達』を大切にしなくてはいけない、という教訓。

「――それからその子とは高校が別れてサヨナラ。一言も話せなかった。···謝れなかった。別に一番仲が良かったとか、そんなんじゃないんだけどね。――···でも···もう一度会えたら···「ごめん」って、言える確信がある」

 よくよく聴いていると、話の意図が分からなくなる。

「···琳さんも『やりたいという思い』があっても、体が動いてくれない。そんな感じでしょ?」

 軽く頷いた琳を見て、日向はまた笑う。図星だったという笑みというより、仲間がいて良かったという笑みだ。

 日向は琳の横に座る。近すぎて肘が当たっているにも関わらず、日向は避けようとしない。琳も、なのだが。

「···でも琳さんは···『ひろさんがいる』じゃないですか」

「えっ!あ、ひろ?あー。いや、ひろは···部活の後輩なだけだから···」

 首と手を横に大きく振る日向見て、琳は図星だったときの笑みを浮かべた。

「で、でも琳さんは――」

「あ、日向さん。その『琳さん』っていうの···何だか違和感があって『いや』です。呼び捨てで『琳』と読んでください」

 何かがおかしくて、日向は1人で笑った。「そうだね」と言い、琳の髪をくしゃくしゃにする。

「『琳』はさ、『市花が好き』なの?」

「ブフォッ···かはっ、かはっ···い、いきなり何ですか!」

 むせた。というより···何かと傷付いた。

「あはは。ごめんごめん。で、どうなの?」

 夜、他愛もない話をして笑うのが、まるで本当に『家族』のようで、それが『面白くて』また笑う。

「···前も言いましたけど、私は市花が好きです。でも···」

「――でも?」

「···『無理かも』って、思えてきました」

 日向が静寂し、琳は不思議に思う。すると、日向が「諦めるの?」とか細く尋ねてきた。

「『諦めるのか』···ですか。諦めたくありませんし、ずっと市花のことは好きでいたいと思います。でも、『無理かも』なんです。だって、だっ···て···『憂がいる』から···」

 時間が止まった、時空が歪んだ、世界が崩壊した。そんな感覚と『恐怖』が日向を襲った。

「···『友情』って···怖いね。まるで『心の鎖』だよ」

 友達なんてろくにできたことがない。友達ができても失ってしまう、アタックする『勇気』がない、独りでも生きていけると自己暗示して――今までずっと『逃げて』きた。

「――母さん、多分後悔してるよ。琳を怒らせちゃったって、さ」

「···」

 琳は何も言えなくなり、ただ頭を前に倒すことしかしなかった。

「···帰ろっか」

「···はい」

 ――天野日向の人生は、宮辺ひろに出会ったその時、その瞬間に変化していた。天野日向の『希望』は『宮辺ひろ』だ。

 ――不知火琳が閉ざした心は、天野市花と浅野憂の想いに触れたその時、その瞬間2人によって開かれた。不知火琳の『生きる理由』は『天野市花』と『浅野憂』だ。

 『不知火琳』と『天野日向』は、年齢や環境が違う。だが2人は『似た者同士』なのかもしれない。『孤独』が解るのは『孤独を知るもの』。『互い』を知るのは『互い』なのだ。

「···琳に大事なのは『信念を貫く想い』だよ」


 2人は自転車に乗り、天野家を目指して走る。日向がこぎ、琳は後ろに座る。

「『夜』って暗いだけど『綺麗』だよね。なんか『大切な人』とか思い浮かべちゃうよ」

「それってひろさんですか?」

「違ッ···いや···『そうかも』ね」

 月や星が見えない空。『黒』だから何かを映せてしまう。大切な人や失った人、自分に関わった者なら何でも、見える気がする。

「帰ったら、すぐに寝なよ。母さんとの話はまた明日。母さんも心の準備が――あれ?」

 日向は疑問を浮かべ、自転車を止める。――琳が、座りながら寝ていたのだ。

「あ、危ないじゃんか···」

 ――その日は自転車を置いて、日向は琳をおぶりながら帰った。家に着いたとき、永梨が寝ている琳の頭を撫でたのが、忘れられなかった。

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