【45】今と昔の死者(不知火琳、天野永梨)
夕食を食べ終えて、日向だけ二階へ行った後。
「···要件は『2つ』あるの。まず1つは···『訃報』からだね」
テーブルを囲み、5人が椅子に腰をかけている。
「君たちの通ってる中学校のね、えっと···『坂上美悠』って子が···亡くなったの」
知り合いの先輩が死んだ。これだけなら、それほど大事にはならない。その『先輩』が『呪詛者』の1人だから、大事なのだ。
「『坂上美悠』って···『生徒会長』の名前だよね」
「生徒会長って···『呪詛者』だったよね···」
「え?生徒会長って呪詛者だったの?」
3人の声を聞きながら、永梨は小さく笑った。
「まぁ、私は会ったことない子だけどね。坂上美悠ちゃんって生徒会長だった···ごほん。生徒会長なんだ?」
「···でも『亡くなった』って···それって···」
市花が小さな声で呟いた。隣に座っている琳は下を向き、憂が琳の背中をさすっている。
「お姉ちゃん。後は私が説明する···」
「――オブラートに包んでよね」
わかってる。と霙が言うと、永梨は霙の手を握りしめた。
「···坂上美悠は紛れもなく『呪詛者』です。市花さんと琳さんは本人から聴いてますよね。そして、彼女は『呪詛者に殺害』されました。坂上美悠を殺したのは、坂上美悠の『親友』である、『新崎綾香』という人物です」
――酷い話だ。
生徒会長を殺したのが『生徒会長の親友』?『新崎綾香』という名に見覚えがなければ聞き覚えすらない。
「あの···その『新崎綾香』ちゃん?って···誰なんですか?」
「新崎綾香さんは···陽成中学の一年生···でも学校には行っていません。行ける心情でなければ、本人が進んで行こうとしないのです」
――何か理由があってのことだろう。その『理由』を知りたいのだが、市花たちは訊けず、霙は話せずにいる。
「···3人に知ってほしいのは『坂上美悠が死んだ』こと。『坂上美悠が呪詛者だった』こと。『残る呪詛者は6人』だということ···です」
霙の言葉で、その話題は終了した。永梨の手が、霙の手からするりと抜けて、永梨は3人の目を見つめる。
「もう1つはね···まぁ、どうして私が『ノロイアイ』に関係する話に参加しているのか。を考えると見えてくるんかもだけど···私ね、『第一回目のノロイアイの呪詛者』だったの」
――その『話題』に、どう答えるべきなのだ?一同はそう思った。言葉を考えようとするが浮かばない。『沈黙』というのは、こういう場で、こういう感情が生み出すのだろう。
「···あ、そういや霙さんが『これは第二回目のノロイアイ』って言ってた···よね?」
「――でも、どうしてそんなことをいきなり?」
母親が『第一回目のノロイアイの呪詛者』だった。そう、知ったのだけど···なぜ?いま明かす?
「でね、その『第一回目のノロイアイ』の呪詛者に···私以外に、もう1人···『私の親友』のね···『不知火芽吹』···琳ちゃんの、お母さんがいたの」
「ッ!おかッ、お母さんが!いや、お母さんは!『飛行機が墜落して亡くなった』って···そう、知らされていて――」
琳が椅子から立ち上がり、大きな声をあげた。すぐに、何かを察したように俯く。
「『嘘』だったんだよ。『ノロイアイ』なんて、世間に知れてはならないもの。知った関係者以外の人は『排除』されるかも···ね」
嘘だということは分かった。でも、すると1つの『謎』が生まれる。
「じゃあどうしてお母さんは死んだんですか?」
これは、永梨が話す前に察することができた。『天野永梨』が呪詛者の中の『生き残り』にして『ノロイアイの勝者』ならば――『不知火芽吹』は···『敗者』?
敗者――敗者――敗者って···『呪詛者に殺された』ということ?
「···解るでしょ?私自身、不知火さんのことは話したくないの···」
やはり、そうなのか。
琳は『ノロイアイの恐ろしさ』を改めて知った。そして――
「お母さんは『殺されるべき人』だったのですか?――お母さんは!どうして『呪詛者』に選ばれてッ!殺されなくちゃいけなかったのですか!?」
琳がここまで怒鳴る姿は初めてだ。『会ってから日が浅い』とかそんなのじゃなくて、琳本人も初めてかもしれない。
「琳さん!···違う。不知火芽吹は···――」
「···私だよ」
――その声で、その場にいた全員が、目線を『永梨』に向けた。永梨が発したのだ。
「え···お母さん?何が···?」
「···『私』が···『不知火芽吹を殺した』んだよ···」
それこそ不知火芽吹は飛行機が墜落して死んだとか、そんなことよりも『嘘』だと思える。『嘘』だと、そう『信じたい』。
整理ができず、困惑しながらも『悪』が頭を過る。
――ドンッ
琳が机を力強く叩いた。市花は驚く。琳に、琳の行動に。琳に···『恐怖心』を抱いてしまった。
「···なんで。どうして。どうして···。私は···『あなたを許さない』から···」
琳は数秒間静止した後、とぼとぼと歩き出した。
「琳ちゃん!待ってっ!」
「市花!···行ったら···ダメ···」
永梨の声で、脚が怯んだ。追いかけなくてはいけないという『思い』と琳激怒させた本人の『命令』。どちらが正しいのかが分からない。
何秒経ったのか数える余裕も、気もない内に、玄関扉が開いて、すぐに閉まった。琳が出ていったのだろう。
「行っちゃった···ね」
「追わなくて良かったの?」
話題に関係のない市花や憂でさえ、なぜか『罪悪感』を抱いてしまう。それは『追いかけなかった罪悪』なのだろうか。
「市花、憂ちゃん。今日はもう遅いから寝なさい」
「でも琳ちゃんが――」
「琳ちゃんのことは『私たち』がなんとかするから···2人は···心配しなくて大丈夫だから」
永梨の言葉で、2人は言い返せなくなり、黙り込んだ。
――「いいや、違うね」
誰かが、そう言った。そう言った人物はすぐに正体を明かした――が、ひどく怒っているようだった。
「お、お姉ちゃん···」
「琳さんは『泣いてた』のに、どうして『追わない』のさ?琳さんは···『家族』なんじゃないの?琳さんは『大切な人』でしょ?」
日向は、そう言った後「私が探してくる」と言い、家を出た。
「···日向に···聴かれてた···のかな?」
数分間、沈黙が続いた。
取り敢えず、永梨は市花と憂を床につかせる。――それから、泣いた。
どうして自分はこんなにも『弱い』のだろう。『不知火芽吹』の時だってそうだ、私には『人を守る資格』や『義務』なんてない。ただ人を堕落させるだけ。
永梨は酷く『後悔』した。




