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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
44/55

【44】訃報(天野日向、天野永梨、河東霙)

「はぁ、はぁ、はっ···は、はぁ···」

 嫌な気はしていた。美悠と美恋の関係が上手くいくだなんて、思っていなかった。全て、私が描いた『世界』だった。

 もし、ノロイアイなんて元からなくて、みんな『普通の中学生』だったら、どれだけ良いのだろう。不知火芽吹が死ななくて、河東霙が生きていて。――小泉が『大切なもの』を失わなかったら、どれだけ良かっただろう。

 霙が向かう場所は、天野家だ。あそこには、呪詛者が3人もいて、元呪詛者だっている。それに···『家族』のように温かい場所なのだ。

「あれ、霙さん?」

 その声に気付いたのは、声が聞こえてから約2秒後だった。曲がり角から日向が歩いて出てきた。

「日向さん···あ、いえ。私、急いでるんです!まぁでも『お姉ちゃん』の所に行くだけですが···」

「お姉ちゃん?あー、母さんなら買い物に行ってるから···そんなに急いで、何の用事があるんですか?」

 急がなくてはいけない。だけど、進めない。何も知らない人というのは、本当に面倒だ。

 ――そういえば、私の知人には、この人とこの人の後輩だけ、事情を知らない。言ったことはないし、言えるハズもない。元とはいえ、人間そう簡単に大切だったものを忘れる生き物じゃない。天野市花はこの人の妹だ、大切な妹が『人間でなくなる』ことに、この人は堪えれるハズがない。

「あの···もう、色々と教えてくれませんか?」

「···え?」

 何を教えれば――それ以前に、唐突!

「何というか···私の周りで、何か起こってるんですか?いま、母さんを探してるのも謎だし、それに···『3人』のことも···何もかも謎だし···」

 ――これだから、嫌なんだ。自分から物事を望んで、過ちに気付いて堕落していく『人間』を、もう見たくないのに。

 人間は進化しすぎた生き物だ。ずっと爬虫類のままでも良かったらのに。『言葉』なんていらない。さらに言うと『考える脳』や『思いやる心』でさえ、邪魔なのだ。

「ぷふ···あはは···」

「ッ!?霙さん?いきなり笑って···どうしたの?」

 何だか、人間って、よく見ると、可愛いかもしれない。

「日向さん、もし。もしですよ?市花さんが『人間じゃなくなっていた』ら、どうしますか?」

「人間じゃなくなって···いたら?え、え、え?市花、は。人間じゃ、ない···って、こと···なの?」

 ――やっぱり、失望するんだ。だから、言いたくない。

 天野日向は『普通の人間』で、神からの穢れを受けない存在で――

「『市花の味方のままでいる』。いたい。だって、私は市花の『姉』だから。血が繋がっている家族だから」

「そんな···ッ!そう···ですか。でも、これだけは···教えることができません」

 霙がショッピングモールのある方角を面を向ける。

「···日向さんは『日向さん』のままでいるのが、一番だと思います」

 吐き捨てるような言葉は、日向の胸奥まで響いた。

 ――これだから、嫌なのだ。周りと違う『自分』が、私は嫌なのだ。『劣等感』···とは少し違うけど、『孤独に生ける人間』は皆『仲間』を求めるように、孤独に生きたくないし、仲間がほしい。だから『仲間外れ』が嫌なのだ。

「···嘘だよ。母さんが買い物に行ってるっていうの。家にいるから。――霙さんを止める為の『嘘』だから」

「···ありがとうございます」

 霙はそうと呟いてから、体を天野家の方向へ向ける。

「あ、あと···日向さん、ひろさんとのこと···」

 あと少し、だけど、その『少し』が大きくて、言葉が出ない。

「いや、いいです」

 それでは、とだけ言って霙は走った。

 日向との会話で疲れが吹き飛んだかもしれない。走るのが楽で、気持ちがいい。長いと思っていた道のりも、10分足らずで目的地に到着できた。

「霙ちゃん···どうしたの?」

 玄関前で、永梨が花壇に水をやっていた。その顔を見るなり、霙がここに来て、報せなくてはいけない『訃報(ふほう)』を告げることができなくなってしまう。

「お姉ちゃっ···ん。あのね···」

 周りに人がいないかを確認する。『呪詛』や『殺し合い』なんて他人に言って良いことではない。『中学生が強制的に殺し合いをさせられ、死ぬかもしれない恐怖に怯えている。』なんてこと、言えるハズがない。

 ――それに、死んだのだ。『坂上美悠』が、ついさっき『殺された』のだ。

「···呪詛者が···死んじゃった」

「え···死んじゃったって···誰が?」

 永梨は如雨露(じょうろ)を地面に置いて、霙へと向かってくる。

「『坂上···美悠』という、市花さんと同じ中学校に通っている···三年生···」

 初の『脱落者』は、永梨の知らない子供だった。でも1つ、その子の『苗字』。『坂上』という苗字は、どこか聞き覚え――いや、『見覚え』がある。

「···その子の『死体』って、どこにあるの?」

「死体···坂上美悠の自宅の小屋に···でも、いまは···行かない方がいいですよ···」

「どうして?」

 ――そう返されるのは予想できていた。人間は『疑問を抱ける生き物』だから。

「まだ、現場には坂上美悠を殺した呪詛者がいます。その子にあったところで···永梨さんがおかしくなるだけですから···」

 それに、本人だって同じ。美恋-新崎綾香は、元々『人殺し』なんて望んでいない。ずっと『美悠といたい』と願っていた。この『ノロイアイ』さえなければ、美恋-新崎綾香は『幸福側の人間』だった···ハズだ。

「そぅ···か···」

 永梨は手に持った如雨露を、水をやった花壇の横に置いた。そして、玄関扉を開けて、霙に手招きをする。

「もう少しでご飯食べるから、一緒に食べない?」

「···あの、今日は···無理――···いえ。今日は『泊まり』でも···いいですか?」

 永梨はにかりと笑い、霙は照れくさくなり、目を逸らす。霙が家に入ると、2階から市花が降りてきた。

「霙さん···浮かない顔してますね」

 ――顔で分かるのか。霙が顔を拭うと、拭った手が微かに濡れている。

「···え?」

 涙だ。泣いているのだ。

 そうと解った瞬間、なだれのように涙が溢れ落ちてくる。

「···市花、あのね···『訃報』って、分かる?」

「『ふほう』···?知らない···まだ教わってない···から」

「そう。この『報せ』はね、市花と憂ちゃん、琳ちゃんに『関係』のあることなの···」

 永梨が唾を呑むと、霙が永梨の服を軽く摘まんだ。言うべきかを、躊躇ってしまう。でも、言わなくてはならない。これは『ノロイアイの通知』なのだから。

「···『呪詛者』が、死んだの」

「え···呪詛···者って、どうして···」

 やはり、困惑するのだ。永梨だってそう、初めての『脱落者』を知らされた時は、酷く驚いたものだ。そして、涙を流したものだ。

「どうして···なんで···『お母さんが呪詛者を知ってるの?』」

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