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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
43/55

【43】2人の想い(美悠、美恋)

 美悠の家から少し離れた所に小屋がある。誰も使う人がいなくなり、数年間ずっと放置されていた小屋。いまは、そこが『美恋の家』だ。

 ――雨は嫌いだ。自慢の髪が濡れてしまう。

 私の髪は『正しさのシンボル』。穢れてはいけない、大切な物。

「···美恋のバカ」

 直接的に美恋が悪いわけじゃない。間接的に、美恋が悪い。美恋が帰ってこないのが悪い。

「···美恋にとって、私は···何なのだろう···」

 美悠にとって、美恋は『助けたい人』だ。彼女と初めて出会った日、彼女は私を求めた。――正確には、私の『正しさ』だろうか。

 私は、彼女を見て思ったのだ。『彼女を助けよう』と。そう、思えたのだ。

 元々、私は無愛想な人間だった。お母様は、私に言う「どうして笑わないのか」と。笑わないのは『お互い様』じゃないか、そう思うのだけれど、言えない。

「···美恋に会えたなら···私は···笑う···ハズ」

 昔、美恋が私に言った、「美悠がいないと笑えない」と。美恋が笑ってくれるなら、私は何だってする。だから『私は美恋といたい』。

 美恋がおかしくなったのは、私たちが呪詛者に選ばれた頃からだった。私だってそう、正しさでありたかったから、人殺しなんてしたくない。それでもこれは『義務』だから、世界を握った『神の命令』だから、抗うことは許されない。

「···美恋さえいれば、それでいい。私の体なんて、いらない。『美恋がほしい』」

 美恋の家の中には、これぞといった物は何一つない。部屋の四隅に置かれた籠の中には、美悠が着れなくなった服が、シワ1つなく、畳まれている。

 宰はこのことを知らない。美悠は、宰に美恋のことを話さないようにしている。

「···これ、美恋の日記···かな?」

 勝手に読むのは正しくないこと、そう分かっているのだけれど、手と目が動いてしまう。

《2015年5月4日 美悠が旅行から帰ってきた。お土産と言って、私に沢山の物をプレゼントしてくれた。美悠は優しい。》


《2015年10月20日 今日から3日間、美悠と会える時間が減るらしい。》


《2016年2月6日 私の誕生日だ。美悠と一緒にケーキを食べた。美悠が、ケーキを食べさせてくれた。》

 日記は、美恋と美悠が初めて会った『2015年1月26日』から、美恋が呪詛者になる『2016年4月16日』まで、1日足りとも絶やさず、『美悠とのこと』が書かれていた。

「···嘘でしょ――」

 その時、外から砂利を踏んだ音が聞こえた。誰かが、くる。美悠は隠れようとしたが、ここに、身を隠せるような物は一切ない。扉が開いて――中に入ってきたのは――『美恋』だった。

「み、美恋!?」

 雨に打たれ、髪型が潰れた美恋が、ただポツリと立っていた。

「···ただいま」

 微かに、髪の間から美恋の口が見える。上唇を噛み、雨だろうか、透明の液体が滴り落ちている。

「···その『日記』、読んだんだね」

「あ、いや···ごめん、読んじゃった···」

 やはり、勝手に読むのはまずかった。そう思えるのだけど、素直に、後悔できない。

「だったら話が早いよ。『2015年11月23日』のとこ、見た?」

「いや···適当に捲っただけだから見てない···けど」

 美恋の一字一句が怖い。次は何を言うのかと内心震えていると、美恋は「見て」とだけ言って、話さなくなった。

《2015年11月23日 美悠のことが好きだ。》

 ――書かれてあるのは、たったそれだけだった。

「美恋っ!これって――」

「次は『2016年6月5日』」

 また、美恋は黙り込んだ。

《2016年6月5日 美悠が会いにこなかった。美悠と出会ってからの日の中で、今日ほど悲しい日はない。》

 美悠が顔をあげたときには、美恋が、美悠の背後に立っていた。たった数秒でこの距離を進んだのか?物音を一切立てずに?

「···ずっと、言えなかった。私ね···ずっと前から···『美悠のことが好き』なの···」

 美恋が、美悠の背中に頭をあてた。声から察するに、泣いている。

「···本当···なの?嘘じゃない?」

「···うん。本当だよ。私、美悠のことが大好き···」

 美悠の全身が、小刻みに震える。体が冷えたから?そんなわけない。――美恋が、自分の背後にいることが『嬉しすぎる』から。

「···美恋、あのね···私も···ね、『美恋のことが好き』なの···ずっと前から」

 ついさっきまで耳障りだった雨音が、聞こえなくなった。雨漏りしているのを見る限り、雨が止んだわけではなさそうだ。時間が止まったのかもしれない。

「···私、美恋に「家族にならない?」って、提案したよね。あれは『撤回』する」

 いつからか、美恋の右腕が、美悠をしっかりと挟んでいた。いつの間に挟んだのだろうか?まるで『美恋が人間ではない』みたい···。

「···でもね、でも···『違う』の」

「――え?」

 グジャリ。鈍い音が鳴った。どうして?どうして――私、背中に痛みを感じるの?

「『違う』って···何が?」

 美恋が、美悠の背後から離れたことで、美悠は立つことができず、倒れ込んだ。地面を見ると、見たことのない、赤黒い血が広がっていた。

「美悠は···『正義』だからぁ···私じゃ、ダメなの!」

 背中に当てた手を見ると、血液が付着していた。この血が誰の物なのかは、美悠自身が体感している『痛み』で分かる。

「美恋···これって···」

 美恋の左手に握られたナイフ。ナイフの刃と美恋の左手首の血液。何もかもが、絶望を物語っている。

「ごめん···私は、悪い『妹』だね。でもね、美悠。1つだけ、たった1つだけ···『美悠が好きってことに偽りはない』から···」

 痛みに耐えるため力をいれ、荒い息をはいていると、美恋の言葉が頭に入ってこない。

「私、決めたの。『家族はいらない』。でも、『美悠がほしい』。だから···『こんな残酷なゲームのない世界を創って、美悠と一緒に過ごす』こと、それが私の望み」

 『世界を創る』とか、意味がわからない。それでも、涙を流す美恋は、本気なのだろう。

「ねぇ···美恋。泣かないで、『笑って』よ···」

 美悠の、美恋へと伸ばす手が、美悠にはかすんでみえる。

 そろそろ、ヤバイかもしれない。

「それが···私の···『最···期の望み』···だよ」

 美悠の手が、美恋の足元に触れた時、美悠は――目を閉じた。今までに感じたことのない感覚が全身を伝い、美悠は『動かなくなった』。

「···もう『迷わない』よ。私は『正しくない』って、自分自身が1番理解してる。だから、私は『私の欲望の為』に、『このゲームで勝利する』」

 血の海とはこれなのだろう。心まで赤黒くなりそうだ。

 美恋――新崎綾香は誓う。自分の望みを。そして、その望みを叶える『神』を、この手で、『殺してやる』ことを。綾香はいま、誓った。


【坂上美悠-死亡】

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